帝国喫茶、「奇跡のような時間が続い
た」初ワンマンツアー『世界中の街に
ロマンスを』ファイナルでみせた未来
の景色

帝国喫茶 初ワンマンツアー『世界中の街にロマンスを』2023.12.9(SAT)東京・渋谷CLUB QUATTRO
帝国喫茶のツアーファイナル公演、12月9日(土)の渋谷CLUB QUATTROを観た。初ワンマンツアーが充実したものであったことは、この日のステージからも伝わってきた。バンドが成長し続けているその瞬間を、音として刻みつけている印象を受けたからだ。本公演は、2023年10月に2ndアルバム『帝国喫茶II 季節と君のレコード』のリリースツアーのファイナル公演となる。
映画『エンパイアレコード』のサウンドトラック収録曲でもあるGin Blossomsの「Til I Hear It From You」が流れる中で、メンバーが登場。オープニングナンバーは「夜をえて」だ。杉浦祐輝(Gt.Vo)の歌とギターで始まり、「帝国喫茶です。よろしく!」という挨拶を挟み、疋田耀(Ba)、杉崎拓斗(Dr)、アクリ(Gt)も加わって、フレンドリーな空気が広がっていく。この曲の<世界中の街にロマンスを>というフレーズは、ツアータイトルにもなっている。ライブの始まりにふさわしい曲だろう。みずみずしさと人懐こさが共存する歌と演奏が気持ちいい。<声を聴かせて>という歌詞に呼応するように、観客も一緒に歌っている。「マフラー」「夏の夢は」「季節すら追い抜いて」など、疾走感あふれるエネルギッシュなバンドサウンドでありながら、独特の叙情がにじむところも魅力的だ。1曲演奏するごとに大きな歓声と拍手。ヒューマンなバンドサウンドに導かれて、メンバーだけでなく、観客も“集っている”と感じた。
「最高! 今日のMCは『最高』だけでいけるな。本当に楽しいです。出会えて良かったです。楽しんで帰ってください」(杉浦)
「いろいろあったんですが、しっかり盛り上がってきたいです」(疋田)
「ワンマンツアーは初めてなんですが、それぞれの良さがあって、今日もめっちゃ楽しみにしてます」(杉崎)
「初めてのツアー、経験してパワーアップしました」(アクリ)
そんなメンバーのコメントからも、今回のツアーがバンドのさらなる成長を促していることがわかる。印象的なコーラスで始まる「貴方日和」、オールディーズ・テイストのにじむ「心の窓辺」、開放感と爽快感と疾走感とが混在する「blue star carnival」など、個性的な曲調の曲が並んでいる。セットリストがバラエティーに富んでいるのは、杉浦、疋田、杉崎という3人のソングライターが楽曲を書いているからだろう。
「一瞬一瞬がかけがえのない時間だと思っています」という杉浦の言葉に続いて、スローバラードの「and u」が演奏された。杉浦の歌声は優しくて温かい。そして、その歌声に寄り添うように、アクリの繊細なギター、疋田の指弾きのベース、杉崎のニュアンス豊かなドラムが鳴っている。疋田と杉崎のコーラスも印象的だった。緩急自在の「and i」、会場内も一体となった「ラブソング」と、人間味あふれる歌と演奏が披露された。
「夜中に自転車に乗って好きな曲をイヤホンで大音量で聴いて、泣きながら家に帰ってきて書いた曲です。僕にとっての音楽は、どうしても必要な時に聴くものです。みんなにとって、僕らがそんな音楽、そんなバンドであれたらいいなと思っています」という杉浦の言葉に続いて演奏されたのは「星のマーチ」だった。悲しみを抱えている人をそっと見守るような、さりげない優しさを備えた歌声と、星のきらめきのようなロマンティックな演奏が染みてきた。この曲の<遠く離れた街から歌うのさ>といったフレーズも、『世界中の街にロマンスを』というツアータイトルとつながるところがありそうだ。星に続いてのモチーフは月。「君が月」の“星になって君という月を見守りたい”という発想はロマンティックであると同時に、どこかもの悲しい。杉浦のせつない歌声がやけに染みる。
「いろいろな面のあるバンドなのですが、このツアーを回って気づいたのは、どれも自分の一部だということです。僕たちはいろんな場面、いろんな季節を音楽にしていますし、いろんな思いを受け止められるバンドだと思っています」と杉浦。ここから後半はノンストップで、パンキッシュなナンバーをたたみかけていく展開で、ロックの初期衝動が炸裂。「clashtriker」では疋田が歌っている。いや、歌っているのではなく、吠えまくっている。会場内も一緒にシャウトし、こぶしを突き上げている。曲のエンディングになっても、曲は終わらない。「仙台に捧げます」「北海道に捧げます」「このツアーに来てくれたみんなに捧げます」と、何度も繰り返す展開となり、会場内にすさまじいエネルギーが渦巻いた。
仙台と札幌に捧げたのは、杉崎の体調不良で3本が延期(1本は日程を変更して開催、2本は来春公演へ振り替え)になっていたからだ。しかしハプニングも糧として、パワーに変換しているところが頼もしい。“捧げる気持ち”までも、衝動へと変換できるところがいい。会場全体も、それぞれの思いを完全燃焼していくような熱い盛り上がりとなった。だが、まだ終わりではない。「カレンダー」「ガソリンタンク」とたたみかけ、さらに本編ラストの「春風往来」へ。“歌いたい”“会いたい”などの衝動が炸裂する曲だ。観客もシンガロングで参加。最後は全員一緒に<春風往来>と叫んでのフィニッシュ。バンドと観客との再会を祈願する歌みたいに聴こえた。
アンコールでは、エモーショナルな歌とブルージーな演奏で「泥だらけの純粋」が演奏された。<ありのままいれたら>というフレーズが切実に響く。彼らの音楽がダイレクトに入ってくるのは、本音の言葉で歌われているからだろう。聴き手の共感を呼ぶ歌がたくさんあるのだ。アンコール最後の曲を演奏する前の杉浦のMCはこんな内容。
「バンドをやれて幸せだなと思えるツアーになっています。奇跡のような時間が続いた1か月でした。アルバムは究極を目指して作りました。次の曲は、もし自分が死ぬとしたら、最後にみんなに伝えたいことはなんだろうと考えて、みんなに向けて書いた曲です」
そんな杉浦の言葉に続いて「みんなへ」が演奏された。きらめくようなギターサウンドで始まり、ダイナミックでありつつ、包容力を備えたバンドサウンドが展開されていく。胸の内のすべてをさらけだすような歌声が印象的で、不思議な余韻の残る歌だ。演奏が終わった瞬間、大きな歓声と拍手が起こった。アンコールも含めて23曲。風が吹き抜けていくような爽快感を得たのは、バンドが日々成長し続けていることが伝わってくるステージだったから、そして思いのすべてを込めるような歌と演奏をしていたからだろう。荒削りではあるが、エネルギーやエモーションがむきだしになり、ダイレクトに伝わってきた。メンバー4人の人間性と音楽性とが混ざり合うことによって、熱さと優しさ、衝動と叙情など、相反する要素の共存するオリジナリティーのある音楽が生まれていた。
彼らのライブを観るのは4月30日の『ARABAKI ROCK FEST.23』のTSUGARUステージ以来、2度目だった。彼らにとって初の野外ライブだったが、強風が吹き荒れ、楽器や機材が激しく揺れ、アクリが飛ばされるのではないかと、観ている側が心配になるほどのとんでもないコンディションだった。だが、彼らは悪天候や機材トラブルをものともせず、気合いあふれるステージを行った。しかも最後には“風には風を”で「春風往来」で風を吹かせたのだ。今回のツアーでのハプニングもそうだが、彼らは困難をバネにして飛躍していけるタフさやたくましさを備えたバンドだろう。バンドの成長の早さを感じる。ファイナル公演でも、バンドと観客とが一緒に未来に向かって進んでいることが見えてくるようなステージとなった。未来の景色では、さらに大きな空間で春風が吹くことになるだろう。
取材・文=長谷川 誠 撮影=コンドウナナ

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