Gilles de RaisがExtasy Recordsから
発表した『殺意』は
1990年代インディーズを代表する
傑作アルバムのひとつ

『殺意』('92)/Gilles de Rais

『殺意』('92)/Gilles de Rais

本文にも書いた通り、今週は先日ライヴを背景してきたGilles de Raisのアルバム『殺意』をピックアップする。現X JAPANが大ブレイクを果たし、LUNA SEAがメジャーデビューした1992年。彼らに追随するかたちでExtasy Recordsから『殺意』を発表し、その年の年間インディーズチャートで1位を獲得。翌年に発表した次作『BECAUSE』もまた年間インディーズチャート1位となって、1990年代前半において、Gilles de Raisは確実にシーンの頂点に昇り詰めていた。今なお脈々と続いているいわゆるヴィジュアル系の系譜における重要バンドであることは間違いない。

時を経ても瓦解しないメロディー

2023年12月2日、縁あって、高田馬場CLUB PHASEにて、Gilles de Raisのライヴ『理由なき反抗2023-THE LAST SERENADE』を拝見した。彼らには1992年と1993年に取材しており(つまりメジャーデビュー前と後)、その辺りでライヴも観ている(はずだ)が、Extasy Recordsからインディーズ盤が出ていたことや、ポニーキャニオンからメジャー盤がリリースされたこと、あと、漠然と当時のヴィジュアルは覚えていたものの、音源の内容はもちろん、彼らの音楽性がどんなものだったのか、さっぱり思い出せない。継続的に仕事させてもらっていればともかく、30年もブランクが空いているとそんなものだ。“だったら事前に予習くらいしておけよ!”という話だが、12月2日直前に急きょ別の取材が入ってしまい、予習のための時間はそちらの取材準備に費やされてしまったのであった(言い訳御免)。

そんなわけで、ほぼ予断を持たないまま、新人バンドを観るような感覚で当日に臨んだ。しかし、正直言ってちょっと驚いたことに、聴き覚えのあるナンバーがいくつもあった。前述の通り、音楽性も覚えていなかったくらいだから、どの曲を覚えていたのか、そのタイトルも分からないのだけれど、自分でも不思議なくらいに耳馴染みがあった。筆者の記憶力がいいわけではない。変な話、記憶のなさには自信がある。そうではなく、それはそれだけGilles de Rais楽曲のメロディーが強靭であるということだろう。今回、彼らのアルバムをピックアップした理由はそこにある。気になって調べてみたら、Extasy Recordsから発表されたGilles de Raisの2枚のアルバム、『殺意』(1992年)と『BECAUSE』(1993年)は、それぞれその年の年間インディーズチャートで1位となっていた。名盤として紹介する意義も十分にある。どちらを紹介するか迷ったが、今回は表ジャケットのイラストも裏のタイポグラフィ(?)も印象的な『殺意』を取り上げてみたい。

おおよそ30年振りに聴き直した『殺意』。やはり…と言うべきか。まずはメロディーの立ち方に注目した。全体的にロック的なキャッチーさにあふれている。全部が全部そうだと言うのではなく、無論インストのM7「SLOW LINE」はヴォーカルレスだし、3拍子のM10「巴里祭」は歌メロというよりも楽曲全体の雰囲気重視ではある。さらに、実験的な匂いもするM5「BRAIN FOR DELIRIUM」、ハードコア色強めのM12「#19」辺りは、あえてキャッチーさを排除しているのだろう。しかしながら、それ以外の楽曲は、タイプの違いこそあれ、概ねサビでの歌メロのリフレインが楽曲の中心となっている。M1「SUICIDE」、M2「MOONLIGHT LOVERS」、M3「UP TO DATE」などはそれが明白だし、パンキッシュなM4「殺意」、M6「K3 NOISE」、M8「CYBER PUNK」、M11「FOLLOW ME」辺りも抑揚が薄いなりにロック的リフレインに忠実で、そこに高揚感がある。M5にしても、キャッチーさを綺麗さっぱり排除しているのではなく、1割くらいは残している。この辺はオールドスクールなR&R──初期The Beatlesとか、The BeatlesがコピーしていたR&R辺りの影響があるのではないかと何の確証もなく想像したが、実際のところはどうなのだろう。今さらながら興味深く思ったところである。

さて、その歌のキャッチーさにおいて、本作の白眉に感じたのはM9「崩れ落ちる前に…」だ。これは誤解を恐れずに言えば、キャッチーを通り越してポップと言って良かろう。BOØWYから発祥して数多のバンドに受け継がれていった日本のロックの保守本流(?)であるような気がする。M9ほどではないけれど、M2のサビにもそのテイストはあるし、M1、M2、M3のAメロからも──この言い方が適切かどうか分からないけれど、歌心的なものを感じさせる。その点で言えば、M10もそうだし、アルバムのフィナーレを飾るM13「PEOPLE OR PEOPLE」などもその範疇に入ろう。『殺意』は歌のメロディーがキャッチーであり、ポップであり、メロディーアスである。これだけメロディーがしっかりしていれば、如何な記憶力の乏しい筆者だったとしても、ちゃんと脳裏に刻まれるものだと、今さらながらに感心させられた。

OKMusic編集部

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