吉澤嘉代子 “青春”をテーマに掲げ
、みずみずしさと成熟とを感じさせる
最新EP『若草』の充実ぶりを紐解く

吉澤嘉代子の新しいEP『若草』がいい。“青春”というテーマを高々と掲げ、青春時代の喜びと切なさとわけのわからなさを、色鮮やかな風景と感情に託して歌う全6曲。それはデビュー当時を思い起こさせるみずみずしさと、来年にデビュー10周年を控えた成熟と、どちらも感じさせる充実の一枚。君島大空、Mom、ハマ・オカモトをはじめ同年代ミュージシャンの起用もばっちりハマった。楽曲について、青春について、そして2024年のお楽しみについて、走り続ける吉澤嘉代子の“今”を確かめてみよう。
■デビュー前にいっぱい背負ったものを、少しずつ荷下ろしして、肩が楽になってる感覚がすごくあるんです。
――お久しぶりです。個人的に、数年ぶりにお話しできるのがとても嬉しいんですけど。あの頃(2014年~2018年頃)の嘉代子さんは“少女期”がテーマだったりして、あれからいくつかの物語を経て今になって、ここまでどういうふうに歩んできたという実感がありますか。
作品としては、本当に好きなようにさせてもらったなという気持ちはすごくありますね。やりたいことを毎作存分に、ご一緒したい方々とパッケージにすることができたなというふうに思っています。
――そして、今回のテーマが“青春”ということで。テーマ的には、デビュー当初の嘉代子さんの世界観にも近いのかな?という第一印象がありました。
9年前の『変身少女』が、少女時代をテーマに作ったアルバムで、主人公の年齢的にはそう変わらないんですけど、自分の中で少女時代というものへのまなざしが、10年で変化していることをすごく感じているんですね。
――それは、単純に10年経ったことによる、時間がもたらしたものでもあるというか。
それもあると思いますし、あとは、自分の作りたいテーマを毎回アルバムに設けて、それを一つずつ……なんて言うんですかね、成敗?
――成敗(笑)。なんて言うんだろう、成仏ですかね。
成仏のほうがいいですね(笑)。自分の中にずっとあるものも、商品として世に出すと、自分はもうそれを忘れていいんだという感覚になって。手放せるので。デビュー前にいっぱい背負ったものを、少しずつ荷下ろしして、肩が楽になってる感覚がすごくあるんですよね。なので、リリースを経て自分の青春感が変わっていったということを、制作を完了したあとに、インタビューとかでお話しさせていただいているうちに、自分で気づいたんですけど。
――そこはすごく面白いですね。活動を重ねると、逆にどんどん背負っていく人が多いと思うけれど、むしろ軽くなっていってる。
そうですね。なんか、すごい背負ってました。
――僕が最初にお会いした『変身少女』の頃とか、めっちゃ重かったんですね。肩が。
めちゃめちゃ重くて、やりたいこともすごくある中で、時間をかけて一つずつ作ってきて……今もまだやりたいことは何作ぶんも、構想としてはあるんですけど。まずは初期衝動みたいなものも含めて、形に残しておきたかったものが残せているので、安心できるというか、だいぶ楽になってます。
――よかった。じゃあ今回は、ずっと背負ってきた“青春”というテーマの曲たちを荷下ろししようということで、わりとすいすい生まれてきた感じですか。
すいすい生まれるかなって想像してたんですけど、作ろうと思うと、やっぱり壁にぶち当たりますね。気楽な気持ちで作るというのを、自分の中で目標にしていたんですけど、いつも突き詰めすぎちゃうので。今回も、結局は追いつめられてましたね。自分で追い詰めてるんですけど、“結局変わらないな”と思いました。
――そこはやっぱり、アーティストの性ですかね。
“ここまででいいや”というふうに絶対思えないので。自分を納得させるのが、本当に毎回大変です。
――たとえば1曲目「氷菓子」は、映画(『アイスクリームフィーバー』)の主題歌ですけど。これはお話があってから作ったんですか。それとも、元々あったもの?
お話をいただいてからです。もともと、何年か前に千原徹也監督からお話をいただいていて、私のアートワークを作ってくださっているアートディレクターなので、撮影の合間とかに“いつか映画作りたいから、主題歌を書いてほしい”と言ってくださっていたので。タイアップの商品として作るというよりは、千原さんに向けたお手紙というような感覚でした。
――じゃあ、ちょっと特別な曲ですね、これは。
そうですね。最初は、映画の登場人物の視点とか、物語に沿ってとか思っていたんですけど。そうやって作っていたら筆が進まないというか、制作が滞ってしまって。根本的な部分から見直そうと思って、自分が喜んでもらいたいと思ってる人に対して矢印を向けることに、途中で変えました。
――この曲にも“青春”というワードが出てきますし、最初から青春というテーマは、同時進行していたということですか。
そうですね。“次のアルバムは青春をテーマに”と決めていたので。自分の人生も、アルバムごとにモードがどんどん変わっていって、この曲を作っている時は常に“青春”というワードが頭にあったので、曲もそっちに寄せていきました。
――個人的に《僕は魔法使いなんかじゃない》というフレーズが、妙に染みております。魔法というワードは、嘉代子さんにとってずっと大事なワードだったから、ここでもう一回出てきて、なんかドキッとしましたけども。
監督と対談させていただく機会があって、その時に“千原さんってどんな存在ですか?”と聞かれて、私のビジュアル面をいろいろ変身させてくださっているので、“魔法使いみたいな人です”って答えたんですけど。そのあとに千原さんの本(『これはデザインじゃない。』)が出版されて、それを読んだら“僕は魔法使いなんかじゃない”と書いてあって。これは私のあの時の言葉に対しての答えだと思って、それでこの言葉を入れたんです。自分からはなかなか出てこない言葉というか、魔女修行をしていた自分の人生の中からは絶対出てこない言葉で、そういう出会いによって引き出された言葉なので、すごく面白いなと思います。
――面白いですね。「氷菓子」は、サウンドの壮大さと切なさみたいのものも含めて、とてもぐっとくる曲です。それと今回のEPでは“ナインティーズ”名義のバンドが活躍していますよね。彼らの存在も、嘉代子さんの中ではすごく大きいのかなと思います。
大きいですね。アルバムを作る時に、 同世代のミュージシャンと一緒にレコーディングしたいというものはあって、真っ先に、自分の音楽人生に欠かせないハマくん(ハマ・オカモト/OKAMOTO’ S)にお願いして。どんなミュージシャンとご一緒しようか?という話をしているうちに、SANABAGUN.の一平ちゃん(澤村一平)とユウダイくん(大樋祐大)と、あとは私が一番初めに出会った音楽のお友達であるTAIKINGくん(Suchmos)と、すごく気のいいミュージシャンが集まって、楽しいレコーディングになりました。
――ナインティーズが演奏している「セブンティーン」と「夢はアパート」は、本当に楽しいですね。“行くよ!”とか、録音中の会話も入っていたりして。すごく楽しそう。
あれはエンジニアの方がそうしてくださって、話し合いの結果、残すことになりました(笑)。恥ずかしかったんですけど、“これは残すべきだ”と言われたので。
――これを聴きながら、スタジオの中を想像すると、違う意味で“青春”というワードが浮かんできますね。みんな、バンドキッズに戻ったような感じで。
みんなでリハーサルにも入って、練習して本番に臨んだので、いつものレコーディングの方法とはまったく違いました。当日もみんなで向き合って、“せーの”でやっています。クリックもないので、“行くよ”って私が言わないと始まらないんですよ。すごく楽しかったし、あの瞬間は青春でした。
――そうかと思えば、「ギャルになりたい」をアレンジしたMomさんみたいに、打ち込みと生演奏の融合みたいな、ああいうサウンドも面白いですね。
面白いですね。Momくんはいつもガレージバンド(音楽ソフト)で作っているみたいで、Momくんだけのワンルームミュージックみたいな味わいがすごくあって、「ギャルになりたい」という独白のような曲にぴったりかなと思って、“アコースティック・パラパラソング”というテーマでお願いしました。アコースティックで踊れるみたいな、とても可愛い、切ないサウンドになりました。
――アコギとパラパラの組み合わせは、史上初じゃないですか(笑)。そういうアイディアって、衣装を着せ替える感じなんですかね。曲によって。
そうですね。“自分がこういう音楽をやりたい”というものはなくて、ただ“曲の主人公の世界をどう切り取れるか”だけをいつも考えているので、毎回そうですね。着せ替えです。
■今までずっと、様々な人が“17歳”というものを題材に曲を書いていて、日本人の中の“17歳”ってすごく特別だと思っていた。
――リード曲になっている「青春なんて」は、カントリーっぽいフォークソングというか。あれはああいう衣装が似合ったということなんですよね。
そうですね。ノスタルジーでありつつ、でもさわやかな、昔を振り返るような曲にしたかったので、カントリーっぽいものが似合うのかな? って。
――タイトルが吉田拓郎さんっぽいし《青春なんてすり抜けてから気づく》という歌詞も、「青春時代」という曲を思い出したりしますね。僕ら世代には。EPの中でこの曲が一番、ノスタルジーを歌っているような気もします。
青春を、現時点から振り返る曲ですね。《青春なんてすり抜けてから気づく》というのは、渦中にいる時には気づかないけれど、通り過ぎてから、ヒリヒリとした痛みを伴って懐かしむものかな?という、自分の中の青春観があって。とすると、今の自分がぼんやりと、だけどがむしゃらに生きている感覚というのも、未来の自分からしたら“あの頃青春だったな”と思うのかな?と思って、この曲が生まれました。
――青春は常に過去の中にあるというのは確かにそうだと思います。現実には気付きづらいという、厄介なものですよね。今気付きたいですよね(笑)。
確かに(笑)。おいしいもの食べてる時とか、“あーおいしいな”って思えるけど、“あー青春してるな”とか、青春をしてる時ほど、そんな冷静にいられないというのが青春だと思います。渦の中にいるっていう。
――《青春なんてすり抜けてから気づく》のあとの、《ただ風にさわっただけ》というフレーズ、素敵ですよね。大好きです。どこからやってきたんですか、これは。
どこからですかね? でも今回、青春をテーマにアルバムを作っていて、次は『六花』というEPを来年リリースするんですけど、『六花』の中にも“風”という言葉はすごくいっぱい入っていて、自分の中で“青春”と“風”はリンクしているのかな?と思います。
――どんな“風”ですか。そよ風なのか、強風なのか。
熱風ですね。熱風が通りすぎて、あとでちょっと火傷しているような感覚ですかね。
――ああ、それで「氷菓子」に“火傷”というワードが出てくるのか。全部つながりますね。面白いです。逆に、「セブンティーン」はもう青春ど真ん中なんですよね。振り返る視点ではなく。
あ、そうですね。これは17歳の頃に書いた曲です。なのでけっこう言葉も尖っていて、《飛べない豚》とか、今は歌詞として使わないだろうなっていう言葉もあります。尖ってましたね、今思うと。
――渦中にいる人ならではの感じはしますね。《甘くもないな、辛くもないな》とか、肯定も否定もしていなくて、そういうものというか。
今までずっと、様々な人が“17歳”というものを題材に曲を書いていて、日本人の中の“17歳”ってすごく特別だと思っていたので。子供の頃から“17歳になったらどうなっちゃうんだろう私は”と思っていたんですけど、なってみたらもちろん何にもなってなくて、ただ年を重ねただけだったので。その時に“甘くない、辛くもないな、セブンティーン”っていう川柳を作って、授業で。そこから曲になりました。
――川柳(笑)。そんな歴史がこの曲にあったとは。
大人になった時に、17歳はまったくキラキラしていなかったことを覚えていてほしいと思って、自分にあてて曲を作ったんですけど。振り返ると、「セブンティーン」の最初の二行はあまりにも稚拙すぎたので、最近書き直したんですけど、どうしてもキラキラさせて書き直しちゃうというか、当時の感覚で書きたいのに全然書けなくて。それがちょっと、過去の自分への裏切りです(笑)。
――それはしょうがないですよ。でも「セブンティーン」が、まさに17歳の時に書いた曲だったとは。
そうなんです。高校でバンドを組んでいたんですけど、この曲を文化祭でやったりしました。
――この中で一番古い曲ですね。逆に言うと、なんで今まで表に出さなかったんでしょう。
すごく気に入っていて、修正してリリースしたいなと思ったんですけど、“青春”をテーマにするのはまだ早いと思っていたので。一枚ずつ出したい順番があって、こうなりました。
――そういえば、デビュー当時のインタビューで“ストックが130曲くらいある”と言ってましたけど、その中に「セブンティーン」もいたわけですね。じゃあ、まだまだ出し切れてないですよね。
出し切れてないんです。まだ出したい曲が他にもいっぱいあります。テーマもいくつかあるので、ずっと整理してます。“この曲は何枚先のアルバムに入れよう”とか。
――すごいなあ。みんな並んでるわけですね。番号札持って、呼び出されるのを。
そうですね(笑)。「セブンティーン」は、16年待ってくれました。
――すごい。よく頑張った、「セブンティーン」。
よく待ってくれました。他にももっと待ってる子が控えているので、アルバムをどんどこ出したいんですよね。成仏させないと。
■10周年というのもあって、いろいろご用意しようと思っているので、私も楽しみです。まだ言えないんですけど、どんどんどん!といろいろあります。
――あとは「ギャルになりたい」もめちゃめちゃインパクトの強い曲ですけど、これは?
ギャルというか、埼玉だとヤンキーがいて、ジャスコ(現・AEON)のイートインのスペースとかに、スウェットでいるんですけど。中学生の頃に、私はお母さんと一緒にジャスコに来てて、弟と二人で遠巻きに見てるみたいな、怖いけど憧れるみたいな、そういうのがずっとあって。今はギャルという言葉の意味が変わってきていると思うので、私もはっきりとしたイメージがわからないまま書いていたんですけど、自分の記憶の中のギャル、理想化したステレオタイプなギャルというものを、ギャルになれなかった側から書いてみた曲です。
――憧れの対象なわけですね。青春という季節の中で。
そうですね。だし、最終的には《わたしになりたい》と言っているんですけど。
――ああそうか、そうですよね。それって何なんでしょうね。
何なんですかね。“そのままの自分を許したい”というような、6曲目に入っている「抱きしめたいの」という曲にも通ずるかなと思います。「ギャルになりたい」は最近書いた曲なんですけど、ここ数年の自分の理想として、“自分自身を許すこと”というのがあって、そこに執着することが多いのかなと思います。
――自分自身を許す。ありのままでいていいという、そういうこともちょっと違うのかな。君は君のままで、みたいなワードはJ-POPには多いけれど。
ありのままという言葉は、すごく嫌いで、自分の中では違うものですね。もっともっと後ろ向きなんですけど、“自分を抱きしめてあげられたらな”という、“このままでいいとは思ってないけど”って。
――そこはすごく大事なとこだと思いますね。“許す”というワードの意味として。歌詞の話をするときりがないので、このへんにしますけれども、みなさんぜひ、それぞれ深掘りしてください。たぶん頭に浮かぶ景色も違うと思うし、リスナーによって、世代によっても違うと思うので。それが歌のいいところですよね。誤解されてなんぼみたいな、いい意味で、ですけど。
確かに、「青春なんて」という曲も、ハッピーエンドなのかバットエンドなのか?は書かないでいたんですけど、その人の青春を重ねて聴いてくださることで、結末がみんな変わって聴こえるみたいで。
――素晴らしいですね。それが歌だと思います。そしてアコースティックギターのスリーフィンガーに乗せて優しく歌う「抱きしめたいの」でEPが終わる。大事な曲ですか、これは。
大事な曲ですね。久しぶりに自分のために書いた曲というか、それがリリースをすることによって、聴いいてくださる方のものになるのが嬉しいですし、やっぱり世に出すことはすごく大事だなと思います。作っただけだと成仏しないんだろうなと思うし、聴いてもらうことで、人のものになることで、自分の手から離れることで完結するというか、そんな気がします。
――ここに、さっき言った“許す”という言葉が出てきますね。短い詞、短い曲ですけど、ここ集約されているかもしれないですね。嘉代子さんの青春のイメージは。
ですね。はい。
――それこそデビュー当時の、少女期の楽曲とダブるイメージもありつつ、でもやっぱり10年近く経っているんだなっていう感じもするし、感慨深いです。吉澤嘉代子は本当に、ずっと聴き続けてこそわかるものがあると思います。連作ものですね。
連作ですね。シリーズです。
――そして『若草』のあとにもう1枚、2024年春には『六花』という、EP二部作のリリースもすでに発表されています。これ、なんで2枚に分けたんですか。
青春の光と影を書きたいなと思って、光の部分が『若草』、影の部分が『六花』です。今、制作中です。
――めっちゃ暗いですか。
いえ(笑)。暗いという感じとも違うんですけど、青春がはらむ切ない部分を書けたらなと思っています。
――楽しみです。2024年もいい年になりそうです。メジャーデビュー10周年ですね。
そうですね。10周年というのもあって、いろいろご用意しようと思っているので、私も楽しみです。
――まずは1月にライブハウスツアーですか。
はい。同世代のミュージシャンと回る、青春を追体験するようなツアーにできたらなというふうに思っています。そのあと『六花』のリリースがあって、その先はまだ言えないんですけど、どんどんどん!といろいろあります。ぜひ来てほしいです。お待ちしています。

取材・文=宮本英夫

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