【前Qの「いいアニメを見にいこう」
】第51回 「キボウノチカラ オトナ
プリキュア ‘23」 IPの「オトナ」
展開についての雑感

(c) 2023 キボウノチカラ オトナプリキュア製作委員会 いまさら何をという話ですが、やはり「プリキュア」ってのは偉大な存在ですな。「映画プリキュアオールスターズF」(「オレたちのタナカリオン」こと、田中裕太監督の手がけたオールスター映画の快作! 属性と特技でキャラクターを振り分けて見せ場を作るのがとても巧みだった)を劇場で鑑賞しながら、しみじみと感じましたよ。

 マンガやゲームなどの別メディアの原作をもたず、アニメの企画としてゼロベースから立ち上がり、ほぼ毎年キャラクターと世界設定を一新しながら20年近く継続的に新作を展開し、作品の質でもビジネスとしての面でも、常に一定以上の成果をあげ続けている。それも子ども向けで。2000年以降に出てきた新規IPでこれほどの偉業を達成したものって、他にないはず。戦隊だって仮面ライダーだって昭和の生まれだもの。同じアニメというカテゴリーに目を向けても、「ガンダム」だって昭和の子だし、展開の仕方がちょっと違うじゃないすか。
 偉い。とにかく偉いよ、「プリキュア」は。
 そんな「プリキュア」がこの秋、これまでとは違う展開をしてる。ひとつは舞台。でも、アニメをあつかうこのコラム連載の趣旨とは違うし、ややこしくなるので割愛。そしてもうひとつが、「キボウノチカラ オトナプリキュア ‘23」。「Yes!プリキュア5」「Yes!プリキュア5GoGo!」に登場したキャラクターたち(+α)が社会人になってからの姿を描く、タイトルどおりオトナ向けのプリキュアですわ。これの話を、今日はちょっとしたい。
 変身しないと予想してたんですよ。「おジャ魔女どれみ」に対する「魔女見習いをさがして」みたいな方向性で、元になった作品のファンタジックな要素を弱めるんだろうと。でも、そうじゃなかったんですなあ。放送がはじまって、まんまとおどろかされました。20代の女性が、10代のあの頃の姿に戻って、バンクシーンもほぼそのままに変身するわけです。描かれるストーリー展開も、主人公たちの暮らす街に不思議な敵があらわれ、敵の起こす事件に主人公たちの抱えたプライベートの悩みがリンクする。そして変身し、戦うことで、悩みが解消されたり、解決はしないまでも少しだけ明るい兆しが見えたりする。ようするに基本フォーマットはほぼ「プリキュア」。その器に乗る中身が、子どもや学生の問題ではなく、社会人あるあるになっている……という感じなんです。仕事の壁にぶつかったり、恋愛や結婚の問題を考えたりね。
 東映アニメーションのIR資料「PERO'S REPORT 2023」では、「プリキュア」シリーズの初代プロデューサー・鷲尾天氏(東映アニメーション 執行役員 エグゼクティブプロデューサー)のこんなコメントが載ってます。
<「キボウノチカラ オトナプリキュア ‘23」は、約20年前にプリキュアを見ていた人に、もう一度思い出してほしいという気持ちから生まれた企画です。子どもの頃に見ていた作品はしっかり記憶に残っているはず。今は20代半ばくらいになっている当時のファンに、自身の成長と重ね合わせて見てもらえればうれしいです>
https://corp.toei-anim.co.jp/ja/ir/library/PEROS_REPORT/main/07/teaserItems1/0/linkList/00/link/PEROS%20REPORT%202023_r.pdf から引用】
 端的ですなぁ。まさにこのまま。
 そうやって、盛りつける料理のバリエーションは広げているけれど、6話まで見るかぎり下世話な展開は避けているみたいですな。たとえば、登場する元プリキュアたちの中にストレス社会で肝臓の数値が危なくなるくらいの度を越した酒飲みになっている子がいるとか、優しいエリートと結婚したと思ったら実はそいつがドギツいモラハラ男だった子がいるとか、ハラスメントを告発したら閑職に追いやられてしまった子がいるとか、そういう「夢も希望もありゃしない! 現代社会の生々しい闇……!」みたいなざわつく展開はやってない。安心。よかった。タイトルどおり、目指すところは「大人」ではなく「オトナ」なんだな、と。
 今作の企画のときにタイトルに関してどういうやりとりがあったか、そこにどんな思いが込められているかは不勉強にしてわからんのですが、一般的にカタカナで「オトナ」と書くと、漢字よりも軽やかな雰囲気があると思うわけです。ひらがなの「おとな」よりは硬いけど、「大人」ほどにはしゃっちょこばってない、みたいな。
 この「大人」と「オトナ」のバランスどりを、ここ最近の東映アニメーションは模索しているように感じるんすよね。「デジモンアドベンチャー tri.」全6章の流れを踏まえての「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」「デジモンアドベンチャー 02 THE BEGINNING」。はたまたNetflixの「悪魔くん」新作であったり、映画の「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」。どれもキッズやハイティーンだけではない、より高い年齢層にも届けようとしているけれども、「大人」路線のさじ加減が違う。令和の時代を生きるその層の感覚とはいかなるものか、いろいろな球種を投げてみているんでしょうな。
 20年も前の感覚なら、まだ「いつまでもマンガやアニメといったサブカルチャーに耽溺して、現実に向き合おうとしないバーチャル世代」とかいっていればよかったのかもしれないけれど、今となってはVRの世界がVtuberだやれなんだで巨万の富を生む時代。ゲーミフィケーションなんて言葉もひところはやりましたが、あれってもう死語なんですか? わかんないけど。ともあれ、現実と虚構の境界はゆらいでいるし、それでなくても、別にサブカルチャーの子どもっぽい(と、あえていうけど)魅力を愛し続けながら、同時にハードな現実を生きている人は世間に大勢いる。というか、今どきのオタクって、もはやそんな人の方が多数派なんじゃないか。「宇宙戦艦ヤマト」世代が還暦超えですよ。SFファンにはもっと上の年代もいる。辻真先先生のSNSでの瑞々しいご発言の数々を見よ。かくありたい。
 いや、つーか、そもそも「大人」という存在のイメージが定まらなくなったなんて、私が生まれた1980年代の頃ですらいろんな識者からいわれていて、それから40年以上の時が……って、おや? なんか文章がケッタイな方向に流れて、話題がデカくなりすぎているぞ。いかん、いかん。
 というわけで、ワタクシとしましてもまだあれこれ考えているところなのですが、ひとまずのまとめを。少子化の時代であり、日本国内は将来的に人口減を迎えることは確定であるなかで、従来とは違った層に深く刺さる、届く企画をいかにしてつくるか。そうした取り組みのなかで、従来の「既存IPを活用することで、親子ないしは3世代で愛される作品」みたいなアプローチから、より目の細かい、多様な方向性の作品展開が検討されている気配を、ここ最近の東映アニメーションの企画からうっすら感じております。「キボウノチカラ オトナプリキュア ‘23」はその過渡期にあらわれたユニークな立ち位置の1作で、作品はもとより、その周辺も含めて状況を見渡すと、実に興味深い。「プリキュア」はまたアニメの世界に新しい道を切り開くのかしら、それとも……なーんて、リアルタイムで体験している身ならではの漠然とした感触を、こうして書きとどめておきたいと考えた次第でしたとさ。まる。
 では、こんなところで、また次回。

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