河原雅彦、岡﨑彪太郎出演の朗読劇『
一富士茄子牛焦げルギー』は「いかに
いい設計図=脚本があるかが大事。こ
の作品はばっちりです」

2021年初演の『一富士茄子牛焦げルギー』が再々演。12月21日(木)から24日(日)まで大阪・松下IMPホール、12月26日(火)から28日(木)まで東京・草月ホールで上演される。画家・絵本作家のたなかしんが『第53回日本児童文学者協会新人賞』を受賞した同名小説を原作に、3人の俳優による朗読と、たなかしんの絵、オリジナル音楽を融合した新しい「リーディングアクト」というスタイルで届ける感動作だ。

元旦の朝、「おとん」が夢で富士山に「餅が焦げへんようにしてください」と頼んだ願いがい、日本中の餅が焦げない事態に陥っていることに気づいた息子の「ぼく」。富士山はあとひとつ願いを叶えてくれると知り、「ぼく」は行動を起こす――。
昨年の再演に続き「おとん」役に橋本さとし、「おかん」役に羽野晶紀を迎え、「ぼく」役には新たにLil かんさいの岡﨑彪太郎が挑む。初演から演出を務めるのは、近年も『室温~夜の音楽~』『ロッキー・ホラー・ショー』『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』など、精力的に作品を手掛ける河原雅彦。このたび大阪で河原雅彦と岡﨑彪太郎が取材会を開催。その模様と、河原への単独インタビューをお届けする。
岡﨑彪太郎(Lil かんさい)、河原雅彦 撮影=須佐一心
初演、再演と「ぼく」を演じた小柴陸から役を引き継ぎ、所属事務所以外の公演に初めて臨むという岡﨑彪太郎は、「すごく緊張すると同時に、得られるものも大きいのかなとワクワクした気持ちでいっぱいです。この役は、親がいなくなる、友達の作り方が分からないといった、僕自身経験したことのないことが多く、どう演じればいいのか難しさも感じますが、15歳だった思春期の自分を思い出し、河原さんの言葉を聞きながら頑張っていきたいです」と話す。
取材会の日の朝に初めて岡﨑と対面し、「おとん」・「おかん」役の代役をたてて台本の読み合わせをしたという河原。「12月にいきなり「初めまして」というのも……と思ったので、どんなお芝居をするのか軽く見させてもらいました。短い時間でしたが、彪太郎くんに役や物語についても伝えられたので、12月にはさらに見違えて来てくれるはず」と笑う。
岡﨑彪太郎(Lil かんさい)
岡﨑は昨年の舞台映像を観たり、原作本を読んだりとすでに準備を進めていて、この日の読み合わせでさらに発見があったという。「すごくいろんな気持ちにさせられる物語だなと思いました。河原さんからは「バックストーリーを考えよう」というアドバイスをいただいて。次のシーンまで期間が空いているとき、その間に「ぼく」は何をしていたのかということも考えると、それが演技にも出るというお話があり、ぜひ実践していきたいです」と明かす。
河原は本作で朗読劇を初演出。「朗読劇をこれまで何回か観たことがあるのですが、場内に独特な緊張感もあって、観劇中、起きれていたためしがないんですよね(笑)。「ちゃんと朗読聞かなきゃ」的な雰囲気になんかすごく疲れちゃって。だからリラックスして観てもらいたいというのが自分の中のテーマ。この企画は「リーディングアクト」と銘打たれていますから。朗読劇の自由度を高めようと思い、役者さんが話している相手を見たり、本を持って動いたりと、芝居と朗読の中間というのかな、とにかく飽きさせないあんばいを考えながら作っていきました」と、柔軟に作品に向かった。再々演にあたり「演出上の見せ方はたぶんそのままですが、やはり俳優が代わることで、自然に昨年とは違うものになると思います」と、岡﨑へ大きな期待を寄せる河原。さらに単独インタビューでは、物語の魅力や演出のスタンスなどについても話を聞いた。
●原作は「朗読劇にぴったりの本」

河原雅彦
――初演は拝見できなかったのですが再演を拝見して、やはり評判通りの笑いと涙に満ちた素敵な作品だなと思いました。河原さんが最初にこの原作に触れたときはいかがでしたか?

僕自身、血なまぐさい芝居を手掛けることが多いんですけど(笑)、この小説を初めて読んだとき、こんな僕でも心が洗われました。老若男女、世代に関係なくスッと入ってくる物語で、絵本作家のたなかしんさんが持っている自由な感性によって幅広い人が楽しめますよね。関西を舞台にした、楽しい掛け合いの多い家族愛に溢れたお話だけど、楽しいだけではなく、実は重さを内包しているから、明るさが逆に切なく感じられます。
――ユニークな展開にも驚きますし、比べるものがないような世界観ですね。
シビアな現実の話をしていると思ったら、面白い夢の世界に行ったりと、途中でファンタジーが入ってきてね。僕も最初、たぶんお客さんがこの作品に触れたときと同じような気持ちの揺れ動きがあったのを覚えています。
――舞台は3人の俳優しか登場せず、「ぼく」の心の内を他の俳優が述べるなど、舞台ならではの台本(脚本:野上絹代)による没入感もありました。
そうですね。舞台だと基本的に台詞のやり取りがメインになるけど、この小説はト書きの部分が軽妙で、想像力をかき立てられる。だから「これは朗読劇にぴったりの本だな」と思いました。堅苦しくなく、むしろナレーションの部分まで楽しかったり、胸が苦しくなったりする文章になっていて、そこが良いですよね。
河原雅彦
――初演では「おとん」を生瀬勝久さん、「おかん」を沢口靖子さん、「ぼく」を小柴陸さんが演じられましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で初日1回のみの公演となってしまいました。
今振り返ると、稽古期間が短くて小柴くんも役をつかむのに一生懸命だったけど、無事初日が開き「間に合った!」と思ったのと同時に、お客さんの反応も良くてホッとしていたらホテルに連絡がきて……。初演の3人で作る空気感がすごく良かったし、生瀬さんと沢口さんがとても素敵な「おとん」「おかん」だったから、1回きりとなり残念でした。形はどうであれ、この作品をまたやりたいなと思いましたね。
――2022年に再演が決まり、小柴さんが「ぼく」役を続投することに。
小柴くんは初演で1回しかできなかった悔しさがあったはず。2年続けての出演で役を深める時間もあって、再演の稽古では最初から「うわ! 相当準備をしてきたな」という深まり方がありました。
――橋本さとしさん、羽野晶紀さんも自然体で演じてらっしゃって、素敵な「おとん」と「おかん」でしたね。
ステキステキ! お二人は劇団☆新感線で若いときから一緒でしょ。劇団は自分もやってましたけど、ファミリーみたいなものだからすでにお二人の関係、空気感が出来上がっている感じがありました。やっぱり生瀬さん、沢口さんとはまた全然雰囲気が違い、演じる人が代わればこれだけ作品の印象も変わるんだなと改めて思いました。
――特にどんな違いを感じましたか?
さとしさんは天性のエンターテイナー気質があるから、生瀬さんとはまた違う楽しませ方で、芝居へのアプローチの違いが如実に出ていました。でもちゃんと「おとん」であるという芯はぶれず、自然と見え方が変わる良さがありました。羽野さんは前々から素晴らしい女優さんだなと思っていたけど、お仕事をご一緒するのは初めて。朗らかでカジュアルな中にも、そこかしこに家族を想う​「おかん」の温もりが詰まっていて、改めて​素敵な女優さんだなと思いました。
河原雅彦
――今回はそのお二人と一緒に、岡﨑彪太郎さんが「ぼく」役として初めて参加されます。先ほどの取材会でご自身のことを「反抗期がなくて穏やかだった」と岡﨑さんは仰っていましたが、どんな印象がありますか?
まだ全然分からないですけど、しっかりしている部分もある子だなと思いました。今日の読み合わせは、この本をどう解釈して読むのか、初見の印象を知りたいというのが目的でした。最初からうまくやってほしいとかは思わずに。やっぱり家でひとりで読んでもうまくいかないんですよね。「おとん」と「おかん」と会話しながら読むことで発見できることも多い。彪太郎くんもそういうことを感じたと言っていました。この舞台はお稽古期間が5日くらいあり、朗読劇としては十分なのかもしれないけどやっぱり短い。「リーディングアクト」という、役者さんは本を持ったままですけど、動いてお芝居する段取りが多いので。
――本を離して演技している印象も強かったですが、ずっと本を持っていましたか?
持っていました! たまにあえて離す。やはり朗読劇だから本は命綱です。とはいえ、役者さんとしては朗読劇だと頭では分かっていても、ついつい相手の顔を見てしゃべりたくなったり、動きたくなってしまう。そのへんを朗読劇のフォーマットの中でどう活かすかがこの公演の鍵というか。あと本の問題に関して言えば、文字の大きさですかね(笑)。ベテラン俳優さんたちからすると、大きめの文字じゃないと単純に「読めん!」ってなるわけですよ。
――そうなのですね(笑)。
生瀬さんのときから「(字を)大きくしてくれ」と。さとしさんは「最初から大きいと助かるわー」と。ただ本が大きいと読み手の顔が隠れちゃって。文字を大きくした分、稽古開始当初は『タウンページ』くらいのサイズになっちゃいましたから。本のサイズ調整にはまあまあ気を配りましたね(笑)。​
河原雅彦 9723
――演出のお仕事は幅広いですね。河原さんはこれまで数々の作品の演出をされて、「初めまして」のキャストの方も多かったと思うのですが、そういうとき俳優さんについて前もってリサーチされるのですか?
それはもう。映像畑の人、舞台畑の人……なかには元タカラヅカの方がいたり、アイドルの子がいたりと、ジャンルがバラバラの人たちが集まるので、稽古場でも自然と観察から始めています。それぞれ育ってきた場所が違うから、同じ言い方をしても伝わる人がいれば、伝わらない人もいる。やっぱりその人たちがどういう出身なのかということから性格まで、いろんなことを観察し、どう演出するのがそのカンパニーで効果的か考えます。
――やはりいい演技をしてもらうため、いい作品になるために、と。
もちろん演者も大事ですけど、結局僕の中で一番大事だと思っているのは脚本です。脚本は設計図なんですよね。まず脚本があって、それを立体化し演劇にしていくとき、スタッフを含め、その公演に関わる​全員に同じ方向を向いてもらうことが最重要なのですが、演出家としては​いい設計図があることでみんなをまとめていける。そしてアンサンブルの人たちも含め、その場面に出ている人みんなに脚本の意図することを深めてもらいつつ​演出していく、ということを基本に心掛けています。
――そういう意味で今回「設計図」は――。
もうばっちりです! どんな世代の人が観ても分かりやすく、強度がある。設計図がしっかりしているから、役者さんが代わることで作品の幅も広げられるし、毎年上演する強度のあるイベントになり得ます。今回3年目ですが、「どうして東京や大阪でしかやらないの?」とすら思っています。全国どこでやっても、この関西を舞台にしたお話はお客さんに楽しんでいただけると思っています。
取材・文=小野寺亜紀 撮影=福家信哉(単独インタビュー)、須佐一心(取材会)

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