竹原ピストル、1曲1曲の物語を“弾き
語る”音像 初の弾き語りライブアル
バム『One for the show』完成への道
のりとライブ観を訊く

竹原ピストルが、弾き語りライブアルバム『One for the show』を2023年9月13日(水)にリリースした。野狐禅で2003年にメジャーデビューしてから今年で20年、ソロアーティストとしては自身初となるライブ音源となる今作は、全57曲、CD3枚組(LPは4枚組)、収録時間は4時間近くに及ぶ大ボリュームとなった。とてつもない熱量で目の前に迫って来るように1曲1曲の物語を文字通りに“弾き語る”音像は、まさに竹原ピストルそのものだ。この作品と相棒のギター2本を引っ提げて、『弾き語り全国ツアー “One for the show 2023~2024”』へと向かう竹原に話を訊いた。
――意外なことに今回が初のライブアルバムということですが、このタイミングでリリースすることになった理由から教えてください。
“よし、ライブ盤を出そう!”みたいな感じじゃなくて、結構ぬるっと決まった感じなんですよね。まず一つは、“そういえば出したことがなかったな”という気付きと、もう一つは以前やっていたユニット・野狐禅で2003年にメジャーデビューしてから切り良く20周年ということで、ライブアルバムを出してみてもいいんじゃないかなと。それで、2022年~2023年で回った全国ツアーを録音して回ろうかという話から始まった感じです。
――となると、ライブアルバム化を想定してツアーを回っていたということですね。それはステージに立つときに影響がありましたか?
やっぱり、録っているということをあんまり意識しちゃうと置きに行っちゃうときもあるから、なるべく録音していることは意識しないようにしました。あとは、その日のライブをその日のうちに聴き返さないようにしたんです。聴いちゃうと、“あ、ここはこうだな”って気にしちゃって次のライブでがんじがらめになってしまうので。なので、ライブテイクの選択や絞り込みはレコード会社の信頼するディレクターさんに任せて、自分はなるべくひたすらライブをやってるだけにしようという感じでやってました。でもそう思っている時点で意識しちゃってるわけですから、むずかしいんですけど(笑)。“ああ、こういうむずかしさがあるんだ”って思いながら回ったツアーでしたね。
――普段のツアーでも、日々のライブを録音して聴き返したりしないですか? 毎回録音・録画するアーティストも多いですよね。
たぶんそうした方が良いとは思うんですけど、僕はないですね。とはいえ、過去に自分のライブを観たり聴いたりすることがあったんですけど、“今日は非の打ち所がない、とんでもないライブをやったな!”と思ったら、そうでもなかったりすることがあったので(笑)。そもそも、あんまり振り返らないようにしてました。
――たまに、観る側が“最高のライブだった”と思っていても、アーティスト側は意外と“う~ん”って納得がいってないときってあると思うんです。竹原さんは、ご自分の中で、ライブの良し悪しってどんなところで決まるのでしょうか。
なんでしょうね!? 歌詞がぶっ飛んだとか演奏を間違えたとかだったらわかりやすいですけど、何を以って“今日のライブは良かった”と思うかというとまあまあ曖昧で。だけどやっぱり、ライブをやってるときの、“これいいでしょ?”っていうこっちの気持ちと、“めちゃくちゃいいじゃん!”っていうお客さんの気持ちが合致している空気感みたいなものがあるような気がしていて。雰囲気であったりとか、いただく拍手の質だったりとか。これは良い時間を2人で……いや、お互いが過ごせてるなっていう感覚的なものを実感したときは、“今日は良いライブだったな”って思います。それでさっきの話にあったように、録音した音だけを後で聴いてみると“粗いなあ”とか思ったりするんですけど、それはそれで良いライブだったと思うんですよね。そこがむずかしいから、ずっとライブをやっちゃうのかなって思うことはありますね。
――今、ポロっと“2人で”とおっしゃって言い直しましたけど、お客さんが多くても少なくても、1対1で歌っている感覚ってあるんですか。
はい、そういうつもりではあります。人それぞれ目指しているライブのスタイルがあると思うんですけど、自分の場合は、例えば恋人と一緒に来ていようが、友だちと来ていようが、1人でいらっしゃってるならもちろんのこと、“安心してひとりぼっちになってほしい”みたいなところがあるんですよね。ときにワーって楽しい一体感とかが起こる一面もありますけど、あくまでも一面であって、基本的には“ポツンと1人で安心して聴いて行ってね”っていうのが自分の正直な気持ちなので。まわりが歌ってるから歌わなきゃいけないとかはないから、“楽しくなったら歌ってくれよ”みたいなところは大事にしているつもりです。
――そう言ってくれると、観ている側としてはすごく居心地が良いです。
ああ、そうだったらいいです。居心地が良いのが一番良いと思うので。
“ライブには自信がある”みたいな気持ちになっていたけど、自分がやっていることをあんまりコントロールできてないんだなっていう気付きはありました。
――『One for the show』は全57曲、3時間43分CD3枚組またはLP4枚組と、ものすごいボリュームですね。
当初はここまでのボリュームになると思っていなかったんですけど、ツアーを録音しているっていうこと、そしてそれを作品化するという大前提があると、“せっかくだからこいつも入れてやりたい”ってどんどんセットリストに加わってきて、“こんなんなっちゃった”みたいな感じですね。
――普段はあまり聴き返さないこれだけの曲数のライブテイクを、作品化するにあたって聴いてみて改めて気付いたことは何かありましたか?
やっぱり、自分がやっているときの感覚と、後から聴く感覚は違うものだなっていうことは思いました。“今日のあの曲、速くなっちゃったな”と思っていたのが、意外とビタッときていたりとか、その逆もあって。自分自身が自分のやっていることをあんまりコントロールできてないんだなっていう気付きはありました。その上で、選んでいただいたものを聴いたときは、“このテイクだろうな”って納得はできましたけど。散々ライブをやってきて、なんなら“ライブにだけは自信がある”みたいな気持ちになっていましたけど、自分がやっていることをあんまり自分で把握できてない、コントロールできてないんだなっていうことが、今回のレコーディングしながらのツアーで思ったことですね。
――この曲は衝動に任せてガーっといってるな、とか?
衝動もそうかもしれませんし、気持ちの込め方もそうかもしれませんし、やっぱりライブの序盤か中盤か終盤かは聴いてなんとなくわかるというか。自分は“緊張しい”で序盤が弱くて、立ち上がりにすごく力む奴なので、“ああ、この力み方はたぶん3曲目ぐらいにやってるな”とかは聴いてわかります(笑)。
――そうなんですね!? それを踏まえて改めて聴いてみます(笑)。そうした曲を57曲、どういう順番で並べたのでしょうか。
57曲のリストの中から、“3daysワンマンライブ”を“同じ会場”でやって、“同じお客さんが3日間続けて聴きにくる”という想定で、それを3days分に振り分けてセットリストを考えました。
――なるほど、こちらもそのつもりで1日分ずつ聴いていくとより楽しめそうです。
そうですね、1枚ずつが限界だと思うのでちょうど良いと思います(笑)。
――ただ、3枚続けて聴いても飽きることなく、最後まで聴くことができました。続けて聴けるのはなんでかな?って考えたんですけど、1曲ごとに物語を聴くような気持ちで違う風景が浮かんでくるからだと思ったんです。そういう意味で、曲順にもとても意味があるように思えるのですが、そこはどう考えていましたか。
このセットリスト(曲順)を考えるにあたっては、そこまで流れは考えなかったです。スローが続き過ぎだからテンポの速い曲を入れようとかは考えましたけど、所謂ライブのセットリストに於いては、“この曲の前にこの曲があったらどちらも活きるかな”みたいに、なんとなく繋がりや流れ、メッセージ性が似通った曲を離すこともあれば、わざとドンッとくっつけてそこを強化するっていうことは考えたりしますね。
――メッセージ性が似た曲をくっつけるというと、「ママさんそう言った」「狼煙」は、ひと際激しくド迫力な曲が続いています。
おっしゃる通りで、これは同じようなメッセージ性の曲をガチっとくっつけて1曲扱いのセットで聴かせた感じですね。これは実際のライブでも同じようなくっつけ方をしています。
――「狼煙」では、《アンダーグラウンドからのし上がるぞ》と、ハングリーな精神を歌っていますが、こちらから見ると、今の竹原さんはオーバーグラウンドにのし上がった人にも思えるのですが、それでもまだまだずっと狼煙を上げ続けているように見えます。それは何故なんでしょう?
一番デカいのは、自分で自分を認められないからでしょうね。“これじゃあダメだ”と思えるライブはナンボでもあるし、“いや、こうじゃねえんだけどな、俺が目指してるのは”みたいな思いをすることもたくさんあるし、あと何よりもバケモンみたいにすごい人たちがまわりにうようよしているし、とてもじゃないけど“自分が上に行った”という実感がまったくないですね。
――まったくない?
まったくないですね、はい。
――称えられることも多いと思うんですけど、“いや、自分はまだまだだ”と思うわけですか。
そう思います。もちろん称えられたらうれしいですけど、あんまり自分で自分を認めたことはないですね。
――ライブが終わったあとに“今日はダメだったなあ”と思ったりすることも結構ありますか?
ありますよ。“引退しろ、この野郎”って思うこともあります。(ライブでそう感じるのは)感覚的なことですけどね。曲間の間の取り方とかが下手だったりすると、“何年やってんだよおめえ……”みたいな気持ちにもなるし、上手く歌うとかギターを上手く弾くっていうこと以外の部分がライブには絶対に必要だと思うから、“なんであそこであんな余計な間を取ったんだろう”とか、そういう小さいことを入れたら、もうキリがないんですけどね。
――それは全編、アコースティックギターでの弾き語りだからこそ、すべてご自分に返って来るということだと思うんですが、スタジオレコーディング作品ではピアノが入っていたり色んなアレンジの曲もある中で、ギター1本で弾き語りライブをするこだわりというのは、どんなところにあるんですか。
一定のテンポでギターのビートを刻むとか、誰かのテンポに合わせてギターを弾いて歌うということが、苦手な方ではあるんですよ。苦手だし、窮屈に思ってしまうというか。俺は今ここをもっと走りたいとか、もっとモタりたいとか思っても、バンドでそれをやっちゃうとただの勝手な野郎になっちゃうじゃないですか? 弾き語りは、そのときその瞬間でニュアンスを変えても全然構わないっていう自由度にすごく魅力があるんですよね。そこが、自分が一番弾き語りっていうのが好きな理由だと思います。
過去に自信作だと思って出した曲たちを粗末にしてはいけないということにも、気付いたツアーでした。
――竹原さんの弾き語りの特徴の一つとして、「ギラギラなやつをまだ持ってる」のようなギターを弾きながらラップを織り交ぜる曲がありますが、こういう作風はどういうバックボーンから生まれているのか訊かせてもらえますか。
もうそのまんまですけど、ジャパニーズ・ヒップホップがすごく好きなんです。高校・大学と部活でボクシングをやっていたんですけど、大学生のある日、自分と同い年のチームメイトが、練習中のBGMにジャパニーズ・ヒップホップのレジェンド、BUDDHA BRANDの曲をかけていて、“なにこれ!? めちゃくちゃカッコイイじゃねえか!”って思ってからずっと聴き続けているので、リスナーとしてはすごく長いんです。そういうのは憧れているものなので真似したくなりますし、リリックっぽいのを書き出して、いつからか韻を踏みだした感じですね。
――なるほど、昔ボクシングジムに通ったことがあるんですけど、確かにテレビ画面からヒップホップのMVがずっと流れてました。
そうなんですよ。ジムで流れているのはだいたいヒップホップかユーロビートなんですけど、自分はリズム的にヒップホップの方が好きなんですよ。やっぱり、ボクサーとヒップホップって密接なものなんじゃないですかね?
――そこが竹原さんの音楽性にもダイレクトに反映されているんですね。
そうですね。最初は“なんかこれ、どうなんだろう?”って思っていたんですけど、カッコイイなと思うものはやってみたくなるから、いつからかそういう曲を書くようになりました。
――「ギラギラなやつをまだ持ってる」には《ディスにも感謝。それが俺のアンサー。》というパンチラインもありますし、他の曲でも歌い終わりに“あったかい拍手ありがとうございます”とか、“手拍子、心強かったです”という一言を客席に返しているのが印象的でした。そういう言葉が出てくるのって、かつてはお客さんからそういう好意的な反応を得られないような経験があるからなのでしょうか。
ああ~、そうかそうか……。う~ん、いやでも、お客さんはずっとあったかかったですよ。優しかったですね、ずっと。なんていうか、その《より色濃く俺を俺に染め上げるチャンスだ。 ディスにも感謝。それが俺のアンサー。》っていうのも、捻くれ者なのでダメ出しとか叩かれたりすると、“じゃあそれを止めよう”と思うんじゃなくて、言われたところをより強調して、“勝ってやっから!”って思っちゃう方なんですよ。言われたことの逆をやろうとするのって、本当に昔からなんです。歌を始めたばかりの頃に、たむろしていたフォーク小屋のマスターとかに、“おまえもうちょっとこうしろよ”って言われても、“知らねえよそんなの!”って全部逆をやってたので(笑)。それは愛着を込めての反抗だったんですけどね。
――そこと繋がるのかわからないですけど、例えば「たった二種類の金魚鉢」に出てくる歌詞《お魚はいいね 水の中では涙にきづかれずにすむだろう お魚はかなしいね 水の中では涙にきづいてもらえないだろう》とか、「東京1年生」の《私の長所は過去は すべて汚点だと思えるところ 私の短所は 過去はすべて汚点だと思ってしまうところ》っていう、一方から歌った後に反対側の視点から歌う曲って多いですよね?
だいぶ、そういう曲は多いと思います。
――それが、今おっしゃった “逆をやろうとする”っていうところと共通しているのかなって思いました。
ああ~、そうかもしれない(笑)。
――そこは歌詞を書くときにかなり意識的なんじゃないですか?
単純に、綺麗に韻が踏めたとき、綺麗に逆さにできたときって、言語感覚として気持ち良いんですよね。だから、ギターの手グセならぬ歌詞の書きグセというか、半ば癖のようなものじゃないですかね。“こう言った後に逆からこう言わないと気持ち悪い”ぐらいの感じではあります。それと、特徴が欲しかったんですよね。“それをやったら竹原ピストルっぽい”っていうものが何か欲しかったので、昔からわりと多用していました。単純に気持ち良いっていうのが先ですけど、“竹原ピストルっぽいね”っていう特徴を作りたかったという気持ちもありましたね。何かオリジナリティみたいなものがないと、人に覚えてもらえないかなみたいなところから、そういう表現を多用するところはあります。
――アルバムを通して聴けるのは、そういう耳に残る言葉があるからだと思います。《救いようのない人間にしか救いようのない人間もいるだろうよ》(「せいぜい胸を張ってやるさ。」)とか、良いこと言うなあって。
ははははは(笑)。いやいや、ありがとうございます。
――歌詞とメロディってどちらが先にできるんですか?
僕は90%、歌詞から先にできます。それ以外は同時に出てきたりします。「カモメ」なんかは同時でした。でも大概、詞を書いている途中からなんとなく曲調とかサビのメロディだけはくっついてくることが多いんですけどね。
――それは言葉の語感、リズムがメロディになるようなところもあるんですかね。
そういうこともあると思います。“これはたぶん、譜面に合う文字数じゃねえな”と思ったら朗読になるし、ラップになるのかもしれないしっていうところで絞られてくるというか。“これは語呂が良いからメロディがくっつくな”っていう予感めいたもので作ったり。
――「カモメ」の話が出ましたが、この曲は野狐禅のセルフカバーですね。元のリリースは2004年ですが(セルフカバーも2014年リリースの『BEST BOUT』に収録されている)、時を経てライブではどんなお気持ちで歌っている曲ですか。
ちょっと身も蓋もないドライな言い方になっちゃうかもしれませんけども、自分の感覚としては、曲は書けば書くほど、どんどん良くなっていると思ってるんですよ。“最新作が最高傑作”みたいな感じで、“またすげえの書いたぜ”とか思いながら書いているわけです。それで曲数もどんどん増えていく中で、いまだに色褪せずに“ああ、いいなこの曲”と思っているからいまだにやってる感じですね。「カモメ」も、“いいだろ、この曲!”って思いながらやってます。
――“いいだろ、この曲!”という自慢の曲だからやっている、という意味では野狐禅の曲でもソロになってからの曲でも違いがない?
はい、まったく違いはないです。「カモメ」もそうですし、最近全然やってなかったけど“こんな曲あったな”って掘り起こしてきて、たまにやったら“やっぱりいいじゃん!”と思って収録した曲たちもいっぱいあるし。“最新作が最高傑作”と思うことは悪いことじゃないけれども、だからと言って過去に自信作だと思って出した曲たちを粗末にしてはいけないということにも、気付いたツアーでしたね。
――一般的によく知られている代表曲といえば、ライブでもすごく盛り上がる「よー、そこの若いの」だと思います。だいぶ前の話ですけど、新宿LOFTの対バンイベント(2017年10月5日(木)『LOFT 41TH ANNIVERSARY宮川企画「マイセルフ,ユアセルフ」』での阿部真央、椎木知仁(My Hair is Bad)との3マンライブ)のアンコールでこの曲を歌う前に、“あれ歌ってるの俺だからな!”と言っていたので驚いたんですよ。こういうアピールするんだ!?って。
言いますよ、俺は。そういうこと言わない奴だって思われがちですけど、“すげえだろ!”って自慢したくてしょうがない人間なんで(笑)。
――「よー、そこの若いの」は、誇りに思っている曲ですか。
今までしたことがない経験をさせてもらうきっかけになった曲ですからね。“「よー、そこの若いの」こそが一番好きだ”っていう方がいらっしゃったら申し訳ないですけど、あの曲より全然良い曲はナンボでもあると思ってます。でもあの曲のおかげでできたことって、山ほどあるので。すごく感謝してる曲ですね。
――「Float Like a Butterfly, Sting Like a Bee !!」は、エフェクトがかかったボーカルがサイケデリックで、異色な印象です。これはどうやって生まれた曲なんですか?
「ドサ回り数え歌」や「せいぜい胸を張ってやるさ。」もそうなんですけど、旅芸人が主人公の歌っていくつかあって、その中の一つだと思っています。サビの《Float Like a Butterfly, Sting Like a Bee !! 流浪の旅 歌はさすらい Sing Like me!!》というのは、単純に韻を踏めないかなっていう言葉遊びをしていて、“ああ、これサビに持ってこれるじゃん”みたいな書き方だったと思います。
――この曲が入っているDisc3は、 “アンチヒーロー”を集めた1枚だと思って聴きました。「Float Like a Butterfly, Sting Like a Bee !!」(“蝶のように舞い、蜂のように刺す”)がキャッチフレーズだったモハメド・アリ、長渕剛「カラス」、ビートたけし「浅草キッド」のカバーが入っていて最後が「アンチヒーロー(朗読)」で終わるっていう。
それはもう、ラッキーパンチです。あんまり考えてなかったです(笑)。うれしいです、そう言っていただけると。
何も迷いなく1曲目からバーンっといけるようになりたいんですけど、変な動揺を感じずに集中して歌いたいから、スローな曲をやって“なるほどね”ってやってから先に進んだりします。
――よかった(笑)。アルバムの最後はどう考えて曲を並べましたか。
“まだここからだから” みたいなことを宣言して終わりたいなっていうことで、「アンチヒーロー(朗読)」を最後にしようというのは、他の曲を並べる前から早い段階で決まっていた気がします。あとは曲調的なバランスだと思います。スローばっかりにならないようにとか、メッセージ性や、描いた景色が似たり寄ったりしている曲はそれぞれディスクを分けて、わりと作業的な感じで組みました。
――一番最初の「ドサ回り数え歌」もすぐに1曲目に決まりました?
すぐに決まりました。それは「ドサ回り数え歌」の内容というよりは、スローな曲だからです。僕はライブがスローで始まることが圧倒的に多いんですよ。Disc2の「Amazing Grace」、Disc3「Forever Young」もそうなんですけど、こういう組みグセなんですよね。ギターをマイクで拾っているということあって、最初は散々歌い慣れている曲で且つチクチクと爪弾くようなスローバラードを1曲目にやって、“お客さんが会場に入ってどれだけ音が変わったかな”とか、“ギターをどのぐらい強く弾いたらどのぐらい聴こえるかな”っていうことを全部計ってから2曲目に入るというのが、ず~っと昔からのやり方で。それが反映された形です。本当は、何も迷いなく1曲目からバーンっといけるようになりたいんですけど、自分でガクッと来たくないというか。お客さんが入ったら随分音が変わったなとか、変な動揺を感じずに集中して歌いたいから、“まあちょっと確かめとくか”ってやってます。用心深いときは、1、2曲続けてスローな曲をやって、“なるほどね”ってやってから先に進んだりしますね。
――「ドサ回り数え歌」はギターの弦をモチーフにした曲ですよね。人間関係の近さを弦の太さに投影している印象です。
確かにそうしてますね。細かい話をすると、弦の中で一番切れやすいのって、一番張りが強い3弦か4弦で、本当は1弦2弦はあんまり切れないんですよ。でも太くなればなるほど罪が重くなるっていう方がわかりやすいかなっていう描き方ですね(笑)。ひょっとしたら、ギターを弾いたことがない方は、6弦が一番太いから一番切れないと思う方もいるかもしれないですけど、僕の場合は逆に1弦が一番切れにくくて、太い弦をバツンッと弾いたときに切れることも多いから、じつは順序が逆なんです。
――カバー曲(「落陽」「春夏秋冬」「なごり雪」「カラス」「ファイト!」「浅草キッド」)も収録されていますが、ライブではその時々で歌いたい曲を取り上げているんですか。
カバーはもう長いことやっているんですけど、今回取り上げているカバー曲のほとんどは、野狐禅を始めたばかりの頃にたむろしていた小さいフォーク小屋で、マスターが自ら弾き語りで聴かせてくれていた曲たちなんですよ。“それってなんていう曲ですか?”って教えてもらってから、リクエストして聴かせてもらって、やがて自分でも歌うようになってライブでもやるようになったカバー曲たちばかりなんです。どちらかというと、フォーク小屋とかマスターへの思い入れ、愛着が籠っている曲たちです。
――「浅草キッド」はいかがですか? これはフォークソングではないですよね。
そうなんですよ。「浅草キッド」についてはフォーク小屋うんぬんは関係なくて。芸人さんがエピソードトークをして、終わったら歌うたいが歌う、っていうのを交互にやるというイベントに出たことがあったんですけど、そのときにコンビを組んだ爆烈Qの高見(つかさ)さんという芸人さんに、“この話の後に「浅草キッド」を歌ってほしい”ってリクエストされて、そこから聴いて練習したんです。この曲の歌詞は、《夢を語った》とか《夢をたくした》とか、“夢”という言葉がすごく多用されているんですよね。僕は歌詞を書く人間として、同じ言葉を、ましてや“夢”なんていう強いワードを1曲の中にあんまり散りばめないというか、使って1回だなって思うんです。でもビートたけしさん作詞の「浅草キッド」は“夢”という言葉が結構散りばめられていて、それがまた良いし、“ああ、そういう言葉の使い方もあるのか”って勉強にもなった曲なんですよ。自分は結構、同じ言葉は1曲につき1回って決めちゃっていたところあって、無理やり別の言い回しを探して迷いこんだりもしちゃってたから、そういう言葉が浮かんだんだったらナンボでも使っていいんだっていうことを教えてくれた名曲ですね。
――ちなみに「浅草キッド」の前に収録されている「みんな~、やってるか!」は、たけしさんの映画からタイトルを取ってるんですよね?(ビートたけし名義で監督した1995年公開の映画『みんな~やってるか!』(Getting Any?))。
そこから取ってます。あと「BROTHER」とか「キッズリターン」(野狐禅)とか、結構たけしさんの作品から曲名を取ってるんですよ。めちゃくちゃ好きですからね。
すごいライブをやる人たちって、うようよいるから、俺もあんな風になってみたいって自然に思うんです。
――11月6日(月) 北海道 札幌cube gardenから『弾き語り全国ツアー “One for the show 2023~2024”』がスタートします。初めてのライブアルバムを引っ提げてのツアーとなりますが、これまでのツアーと違う気持ちもありますか?
う~ん、同じかなあ……同じですね。でも、ライブ盤を持ってライブをやるわけですから、“こういう曲が入ってるから買ってくれ”って言いやすいですよね。だからツアーを回りやすいアイテムではありますけど(笑)。だけどもう、次のアルバムの構想みたいなものもできてるし、頭は先へ先へ行ってますけどね。楽しく回りながら新しいこともやるっていう、それもいつも通りやってきたことなので。
――アルバムタイトルとも繋がる「ぼくは限りない ~One for the show~」は、歌うたいとしてのライブへの想いをこの1曲で感じることができる名曲だと思います。今も竹原さんをライブに掻き立てるものはなんですか。
やっぱり、“のし上がるため”じゃないですかね? 良いところを見せて、もっとすげえ人と共演できるようになって、“どうだ、すげえだろう!? ”って言いたいんだと思います。繰り返しになっちゃいますけど、すごいライブをやる人たちって、うようよいるから、俺もあんな風になってみたいって自然に思うんです。でも、いつかそういう気持ちがなくなる日が来るかもしれない。なくなったらなくなったで、どういうライブをやるのかなって、自分で自分が楽しみだし、まあずっとやっていくだろうなって思いますけどね。
取材・文=岡本貴之 撮影=高田梓

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