果てない”お歌”を追いかけるピルグ
リム―― ReoNa 初の武道館ワンマン
公演と、5年の道のりと、「その先」
を語る

ReoNa初の武道館公演となった『ReoNa ONE-MAN Concert 2023「ピルグリム」at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~』が8月30日に発売された。前日である8月29日にはデビュー5周年を迎えた彼女が、この記念すべき武道館を今振り返って何を思うのか、あの日何を思っていたのか。そして来たる5周年とその先の未来の話を聞いてみた。

――今回は今年の3月6日に行われた『ReoNa ONE-MAN Concert 2023「ピルグリム」at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~』がblu-ray& DVDになり、改めてインタビューをさせていただくわけですが、ちょうど5ヶ月前ぐらいの出来事になってしまいました。
早いですね……あっという間。
――今振り返ってみると、あの武道館はどういうものでしたか?
やっぱりReoNaとしてアーティスト活動を続けてきた中でも、改めて凄く大きい場所だったんだなって思います。この「ピルグリム」という公演があってくれたから、『HUMAN』ツアーもあったと思いますし、四年半の活動の中でも特別なものでした。
――その武道館の発表から当日まで、約10ヶ月間ありました。その間に『De:TOUR』というツアーもあり、当日に至るまではまるでロードムービーのようでした。終わってみてぽっかり穴が空いたような感じにはならなかったですか?
武道館直後はそんなに感じなかったです。終わった二日後に『HUMAN』のアルバムリリースがあったので。本当に「ピルグリム」が終わったのって、アルバムリリースも終わって、ツアーも終わった今、という感じがしています。
――なかなか体験できないスケジュールですよね。初武道館の二日後に2ndアルバム発売というのは。
そう思います。武道館の翌日にはAbemaの生放送にも出演しましたし、続いてる感じはありました。
――そういう意味ではちゃんと武道館を振り返れるのは、このBlu-rayでということになるのかもしれないですね。
そうかもしれません。映像が出来上がってきた時に初めて俯瞰で見ることができたので。
――改めて映像を見て、気づいたことなどありますか?
当たり前なんですけど、自分のライブを自分で見られる機会って本当に無いので。今回は音の収録に関しては原盤制作のチームが入ってくださってますし、映像も表現したいことや細やかなステージ上の表現も凄く拾い集めて作ってくださっていたので、改めて自分のライブを初めてお客さんとして見れたような気分でした。
■武道館のステージは「忘れてはいけない瞬間」だった
――なるほど。では改めてご自身が見たReoNaのライブ、いかがでしたか?
まず武道館という場所でしたが、ちゃんとReoNaのライブが出来ていたんじゃないかなと思いました。あの大きなステージだけど、一対一が嘘になっていなければいいなと思っていたので。ReoNaのライブをお届けできたような気はしています。
――僕も改めて拝見させていただきましたが、当日は分からなかったReoNaさんの表情が確認できたのが印象的でした。こんな表情していたんだなって。
それはそうかもしれませんね。
――凄く嬉しそうな瞬間が多いなと思ったんです。最近のReoNaさんのライブはデビューの頃と比べると表情がでてきたとは思っていたんですけど。
確かにデビューの頃は緊張もあっていっぱいいっぱいだった、っていうのもあると思います。
――武道館では歌っているのが嬉しそうだったんですよね、後は本当にお客さん一人一人を見てるんだなと。
それはすごくあると思います。 やっぱり笑顔の人がいると、こっちもつられて笑顔になっちゃいますね。あとは最初の頃と大きく変わった部分として、ステージ上の信頼みたいなものも前よりも生まれてきてるなと思っていて。
――バンドメンバーとの関係性みたいなものですか。
はい、私は元々長くバンドとかをやってたわけでもないですし、ステージ上でみんなで一緒に演奏すること自体も手探りのところからスタートしたんです。でもReoNaバンドとの歩んできた今までの信頼もあって、ステージ上での自由度を広げさせて頂いてる感じはあります。
――それこそ『Animelo Summer Live(アニサマ)』や『リスアニ!LIVE』などの大型イベントにも多数出ていらっしゃいますけど、ご自身の武道館というのはまた違いましたか?
違いました。フェスの時って心のどこかでこう、挑むような感じと言うか。全員が私目当てで足を運んでくれてるわけではないので、初めましての人たちにどうやってReoNaという存在を伝えようかなって思ってステージに立っているんです。でも今回の「ピルグリム」は不思議でした。
――不思議ですか。
ここにいる一人一人が、みんなReoNaっていう存在を知っていて、今日この場に来ることを選んでチケットを手に入れてくれて。本当に遠い道のりを超えて九段下に来てくれた人もいるだろうし、すごい時間を割いてくれて……そういう人がいるって言うのは、イメージはしていたんですけど、でも実際にステージに立って目に入った瞬間に「これは人生の中でいくつか訪れる、忘れちゃいけない光景だな」って素直に思いました。
――発売に先行して「ANIMA」の映像も公開されましたが、バンドメンバーのテンションも見れて面白かったです。この日のご自身の“お歌”はどうでしたか。
どうだったんだろう……自分のことなので、どうしても粗探しから最初に始めちゃうんですけど、呑まれなくてよかったな、みたいなものはあったかもしれないです。
――武道館という場に、ですか。
はい、そこもステージ上の信頼に通じてくるのかなと思うんですけど、私は出る直前までちぎれそうなくらい緊張しちゃうことが多くて、そういう時ってステージに出ちゃったら腹が決まるんです。今回は一曲目が「ピルグリム」だったんですけど、神崎エルザの頃から一番一緒に居続けてくれた楽曲から始められたので、腹が決まるのは早かった気がします。
――印象的な「こえにっき」の映像から始まるあの感じはとても緊張するんじゃないかなと思いましたが。
見返すと、珍しくバンドの緊張感みたいなものもあったのかなと思いました。本人たちに聞いたら「そんな事ない!」って言われると思うんですけど(笑)。スタッフチームの皆さんは、私の弾き語りから歌い始める部分はドキドキハラハラして見てたんじゃないかなと思います。
■見どころは「お客さんの表情」
――個人的な見どころはありますか?
全部がハイライトだとは思うんですけど、個人的には今回は編集で、当日のお客さんの表情も映っているんですけど、初めてその映像を見た時に一番グッときてしまいました。普段ステージ上からお客さんの顔は見えてるとはいえ、ここまでどう受け取ってくれているのかを見る機会ってあまりないので。
――「ないない」「シャル・ウィ・ダンス?」のスペシャル感や、後半の「HUMAN」の映像をバックに歌ったエモーショナルな感じも印象的でした。
そうですね、ReoNaとしてデビューしてからの四年半は「出会い、別れ、それでも生きていく」という言葉をすごく身に染みた時期でもありました。この武道館は集大成ではありつつも、私は「ここで終わりじゃない、ここがゴールじゃない、ここが新たなスタート地点」ってずっと言い続けてきて、中身もそう感じてもらえるものにしたかったので、新曲である「HUMAN」、そして「VITA」がこれだけ大事な位置にいてくれたことで、未来も作れたんじゃないかなって思います。
――「ピルグリム」で始まって、「Rea(s)oN」でライブが終わるのは、そうだろうなと思いつつも、本当に良かったと思っています。セットリストに関しては結構ミーティングを重ねたと伺っていますが、今だから話せるセットリストに関するお話などあったりしますか?
そもそもシングルの表題曲がまず全部入れられないということはあって。「unknown」だったり、「ライフ・イズ・ビューティフォー」もそうですし、それ以外にもReoNaを形作ってきた曲たち、例えば「カナリア」だったりとかも苦渋の決断でカットしました。
――確かにその辺も入れたくなりますよね。
でもなにか一つ合言葉というか、「HUMAN」ツアーのために取っておいた部分みたいなのも、今振り返るとあったのかなと思います。セットリストを決める時、どこの部分だったかは覚えてないんですけど、「それだと「HUMAN」ツアーになっちゃうよね」って意見が出たこともあって。あくまでこの「ピルグリム」として、武道館で何を伝えたいか? というところで、このセットリストになったというのはあります。
■今始めて自分を知り始めている気がする
――客席も満員でした。ReoNaさんがそれだけ求心力のあるアーティストになれたということなんだと思うんですが、実感はありますか?
本当に凄いことなんだな、っていうのは分かってるつもりなんですけど、この「ピルグリム」を経て私が変わった部分というのは、まだ見つけられてないです。もう少し時が経ってみたら成長の実感が見つけられるかもしれないとは思っていますけど。
――なるほど。
でもだからといって、今までのライブと同じ場所だったわけでは決してなくって。絶対自分の心の中や経験として、種のようなものは残っているとは思っています。
――デビューから見させていただいていますが、凄く成長されていると思います。
ありがたいことにそう言っていただけることはあるので、もしかしたらこれから自分自身に成長を見出せるようになっていくのかもしれないです。
――歌に関しては確実にレベルアップされていると思いますし。
それはあると思います。それこそ「HUMAN」もレコーディングの最初の方は、どうやって歌ったらいいんだろう? と思うくらい難しい曲を貰ったと思っていたんですけど、やっぱりレコーディングを経て、ツアーを得て、変化してきてるし、進化も絶対してると思います。
――自分の中の成長した部分、と聞かれると、感じているものはありつつも、まだ即答できないという感じですかね。
パッとは答えられないかもしれないです。デビュー当初は本当に何もわからなかったので。バンドと一緒に演奏したこともそんなになかったし、イヤモニなんかつけたことなかったし、神崎エルザとしてレコーディングしたときも、楽曲がどうやって出来てくるかも分からなくて。でもこの5年間プロの人たちに囲まれて、本当に環境に恵まれたと思っています。そういう人たちから少しずつ吸収して、自分が良いパフォーマンスをするための型みたいなものを見つけ出そうとしてる所です。
――これだけの楽曲数を歌っていれば、ご自身の中でルーティーンが出来てこないとこなせない気はしますね。
今始めて自分を知り始めている気がします。
――知らなかったものが少しずつ形になってきているんですね。そういうことに楽しさを感じられている。
知らないことを自覚させられるのは苦しい時もあります。私これ得意だと思ってたのに、いざシンガーとして改めてちゃんとやろうと思うと、こんなにできないんだなってこととか。
――例えばどんな部分でしょうか。
自分の荷物の預け方というか、どこまでを人に頼んだ方が良くて、どこまでを自分の領分としてやるのか、みたいなところがデビュー当初は本当に分からなくて。全部自分で出来なきゃいけないと思っていたんです。
――全部、ですか。
どこまでがプロとして突き詰めなきゃいけない部分なのか、といいますか。モニターの音一つとっても、どんな環境であろうと、100%のパフォーマンスが出来るのが一番なんです。そのために自分でなんとかしないといけないと思っていたんですけど、今私はプロの人達に囲まれていて、私が楽に歌えるように調整してくれるのが皆さんの仕事で。一番良いパフォーマンスができるように調整してもらうのは、良いステージを見せるためには必要なことで、それは決して甘えじゃない。そういう考え方も学んでる最中だと思っています。
――ちょっと前ならそれも自分の責任みたい思っていた。
そう思っていました。
■これから私はどこに行きたいんだろうと思うときもある
――そういう意味では武道館は非常にテクニカルが良かったと思います。 とにかく音が素晴らしいという印象でしたが、それは映像で見ても変わりませんでした。
武道館という場所でレコーディングをした、くらいの環境で歌わせていただきました。
――映像を見て改めて、テクニカル、バンド、ステージパフォーマーの皆さん、お客さんもみんな含めて、あの武道館には、ReoNaというアーティストを押し上げようという上昇気流があった気がするんですよね。
それって、武道館でやる「ピルグリム」だからあの人にオファーしよう、せっかくだからこんな人とやってみよう。とかではなく、今までアーティストReoNaと一緒に歩んでくれた人たちと作ったステージだったからこそなんじゃないかなと思います。
――今まで関わってきた人が集まったステージでしたもんね。
本当に5年間で、凄いパワーやエネルギーのある方々と出会って、紡いできたからだと思ってます。
――こういう5年目を迎えられると思っていましたか?
いえ、全く。なんなら2周年とかですら怖かったですし。何か小さい頃に大人になったら、こういうことが出来るようになってるんだろうなとか、もっと優しくて何でもできて……みたいなちっちゃい頃に思い描いた大人像に今なれてるかって言ったらそうじゃないのと同じように、まだデビュー前に思い描いてた5周年のアーティスト像に、追いついてる感じがしてなくって。
――理想は遠い。
一つできることが増えると一つ出来ない事が目について、なんかそのイタチごっこですね。まだまだできるようになりたい事をいっぱい抱えてます。5周年を迎えても、尚こんなに理想ってほど遠いんだって実感しています。
――ずっと未完成なのかもしれませんね、アーティストって。
そうかもしれませんね。
――そして今回はドキュメント映像も収録されています。思ったより武道館の裏を撮っている、しっかりとしたドキュメンタリー映像でした。
どちらかと言うと、このドキュメンタリーの方が俯瞰であの日を振り返れました。カメラがある事を、全く頭に入れないように当日は振る舞っていたので。
――ドキュメントの撮影があるのは分かっていても、気にしなかった?
はい、とにかく気にせずステージに上がることに集中していたので。だからこそ自分の自然体を改めて振り返ることに、ちょっと恥ずかしさもあり。包み隠すことなく2023年3月6日の裏側の映像になっています。生々しい空気を感じられるからこそ、意味のある映像になってくれてるんじゃないかなと思います。
――ファンの人が見たい物が入っていると思いました。ライブCDも含めて、とにかく武道館をパッケージングしたぞっていう感じですね。
ライブCDに関しては、エンジニアさんが音にもこだわっています。Blu-ray、DVDと少し違うミックスをしてくれていて、映像には映像の、CDにはCDの楽しみ方があるという作りにしてくれたので。どちらでも楽しんでもらえると思います。
――そしてお話にも沢山出てきましたが、ReoNaさんはデビュー5周年を迎えられます。その先の5年を今語るのは野暮かもしれませんが、10周年というものもおぼろげに見えてきたと思います。ReoNaさん個人の10周年のビジョンみたいなものってうっすらとでもあるんでしょうか?
すごく拙いものならいっぱいあります。今よりギターを弾けるようになっていたらいいなとか。制作の中でも作詞っていう部分でも担える部分が増えてきたからこそ、これで終わりにしないでもっと深く入れるようになっていきたいですし。
――やはり見据えているものはあるんですね。
はい、そういうものはポツポツとある中で、アーティスト5周年になって、今すごく自問自答しなきゃいけないなって思ってる所でもあります。これから私は何やりたいんだろう、私は何ができるようになりたいだろう、私はどこに行きたいんだろう……とか。
――そこまでの自問自答ってここまでする余裕はなかった。
考えなきゃとは思っていたけど。見つからないなら見つからないままでもいいかなって思っていたかもしれませんね。決めちゃったらそこまでしか行けないんじゃないか、そこまでで燃え尽きちゃうんじゃないかというのが心のどこかにあって。目指してるアーティストはいますか、とか、目標にしてるホールはありますか、とか。
――デビューしたときとか、よく聞かれそうな質問ではありますね。
それに明確に答えられない自分がいて。それでもいいのかなと思ってた所もあった5年間だったんですけど、でも考えるのをやめたらいけないっていうのを、最近改めて感じていて。自分が歌い続ける意味というか……5年経って、自分の芯を見つめ直すようなことを、ちゃんと自分に聞かなきゃいけないな、自分の中で答えなきゃいけないなって今まさに思ってる最中です。
――それは成長ですね、大人になったとも言うのかもしれませんけど。
大人になれてるんですかね……。
――デビューの時は10代でしたから、それと比べれば勿論(笑)。
大人にはなりたくないと思うこともありますけど、大人になりたくないって言わせてもらえない歳になってきてるので。
――たとえ18歳の時に今よりも遥かに上手い歌が歌えていたとしても、18歳のReoNaには「HUMAN」は歌えないと思いますね。
きっと音楽ってそういうもなんでしょうね。私では一生かかってもたどり着けないかもしれない果てしないものだと思います。
――でも、武道館の映像を見て、ReoNaさんの届けたい“お歌”は確実に届いていると思いましたし、その空気感もしっかりパッケージングされていると思いました。
それはすごくすごく思いました。こんなに受け取ってもらえてたんだなって。
――オフィシャルファンクラブ「ふあんくらぶ」会員限定ツアー『ReoNa Acoustic Live Tour “ふあんぷらぐど2023”』も10月から4都市で開催されます。まだまだReoNaさんの旅は続きますね。
『ふあんぷらぐど』自体が2年以上、期間が空いてるので、日本武道館も「HUMAN」ツアーも経て、改めて「ふあんくらぶ」にいてくれる、ReoNaの歌を受け取ってくれてるあなたに会いにいくツアーになります。『ふあんぷらぐど』でしか出来ない事って確実にあるので。空いてしまった2年間で歩んできた道のりだったり、アコースティックになって初めて見える曲の表情とかを全国にお届けできたらいいなと思います。
――楽しみですね、このBlu-rayを見てから会場に向かってもらいたいですね。この場所でReoNaさんが変わった部分ってってすごくあると思うし。
そうですね、ReoNaにとってまだ2作目の映像作品なので、「unknown」の時から比べると、色々変化してることもありますし。当時とはまた違ったReoNaのライブも見ていただけるかなと思っています。
インタビュー・文=加東岳史

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