京都で開催中の陶芸展『走泥社再考』
は現代にどんなメッセージを投げかけ
るのか、陶芸家・林康夫が考える「前
衛」の捉え方とその背景

京都国立近代美術館の開館60周年を記念して9月24日(日)まで開催されている陶芸展『走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代』。
青年作陶家集団
同展は、1948年に八木一夫、哲夫、山田光、松井美介、鈴木治の5人で結成され、以降は会員が入れ替わりながら50年にわたって日本の陶芸界を牽引した走泥社(そうでいしゃ)の結成前夜から、1973年までにスポットライトをあてたもの。走泥社だけではなく、当時の陶芸界に多大な影響を与えた、パブロ・ピカソ、イサム・ノグチの作品、さらに同時期に前衛陶芸運動を展開していた四耕会の作家らの一部作品もまじえ、当時の陶芸界が放った熱を伝えている。
器としての機能を持たない八木一夫「ザムザ氏の散歩」(1954年)京都国立近代美術館蔵
展示作は、世界的に知られる八木一夫の「ザムザ氏の散歩」(1954年)、ピカソに影響を受けて陶芸をキャンバスとして認識した鈴木治の「白釉黒絵ピエロ文広口瓶」(1949年)など、鑑賞者の想像力をかきたてながら、陶芸の可能性の広さをあらためて感じさせるものばかりだ。
音声ガイドは声優の梅原裕一郎が担当
京都国立近代美術館の福永治館長は走泥社について「京都で大きな役割を果たした美術運動」とし、その活動の前半期を取り上げることについて「ものすごく重要なもの。今、できる限りの作品を網羅した。イサム・ノグチ、パブロ・ピカソなどの作品を含めて、総合的に走泥社を見つめた」と力を込める。
数字を作品に取り入れ始めた鈴木治「土偶」(1963年)京都国立近代美術館蔵、「数の土面」(1963年)福島県立美術館蔵
また同展を担当した京都国立近代美術館の大長智広主任研究員は、「走泥社を、(その周辺を含めて)全体として捉えたのは初めての試み」とその意義をあらためて語り、「走泥社を再考するということは、時代を見直すということ。今の現実を見ていくキッカケになる」と社会性につながっているという。
林康夫
そんな同展に作品を出展しているのが、四耕会創設メンバーである陶芸家の林康夫。「私らの四耕会は、土俵の外から土俵を見ながら、焼物を使って表現してきました」と、走泥社とは違った立ち位置や方向性で陶芸に取り組んでいたという林。今回の展示作は1950年前後に作られたものが多く並ぶが、各作品の根底にあるのは「人間」だという。
林康夫「無題」(1950年)京都国立近代美術館蔵
学生時代に戦争を経験し、「身を粉にして国のために一生を捧げるのが国民の勤め、という形で教育されてきました。頭の先から足の先まで軍国主義。もちろんそれに対して批判など起こることはない時代。ただ、やはりいろいろと大変な時代でもあり、それがバックボーンになりました」と振り返り、「初めは直接(作品として)それを表現していたわけではありませんでした。しかし、私のまわりには特攻へ行く前に命を落とす仲間もたくさんいました。つまり、一人前の特攻兵になるための作業のなかで亡くなっていくんです。もちろんそんなことは表に出ない。しかしそういうものは私の背中にある。焼物でなにをするかと考えたとき、「戦争で人命が軽視されていた。人間をもっと大事にしなあかん」ということが浮かんだんです」と作品のテーマを説明する。
人の顔をかたどった森里忠男の作品群
『走泥社再考』では「前衛」という表現も大きなテーマとなっている。戦禍の混乱、そして敗戦を経験した日本にとって「前衛」は未来を問いかけるキーワードであった。1964年の『東京オリンピック』、1970年の『大阪万博』。高度経済成長期を迎え、急速に世界との距離を縮める日本のなかでも、アートにおける前衛表現はその社会の一番の象徴だった。一方、果たして今の日本に「前衛」は存在しているのか。林さんは「私自身にはある。そして個人、個人にはあると思う」という。
三輪龍作「LOVE」(1969年)高松市美術館蔵
「大きな世代、そして時代の流れでいうと前衛というのはいつの頃からかワケが分からなくなったと言えます。走泥社も1998年に解散しましたし。ただ、だからこそ四耕会、走泥社など私らがなにを表現してきたのか、どんなところが評価されたのか、なによりその違いを展覧会で気づいてほしいです」
ふわふわの生地を陶芸で表現した林康夫「ホットケーキ」(1971年)和歌山県立美術館蔵
取材・文=田辺ユウキ 撮影=SPICE編集(川井美波)

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