たかはしほのか「バンドを始めようと
思った場所がこの会場です」 リーガ
ルリリー、“始まりの場所”日比谷野
音ワンマンをレポート


2023.7.2 日比谷野外大音楽堂
7月2日(日)、東京・日比谷野外大音楽堂で行われた『リーガルリリー YAON 2023』。同会場で開催された『閃光ライオット』を高校2年生の頃にたかはしほのか (Vo/Gt)が観に行き、「いつかここでライブをやりたい」と思ってバンド結成を決意した旨が、様々なインタビューなどで語られていた。「始まりの場所」である特別な空間で繰り広げられたライブの模様をレポートする。
リーガルリリー
開演時間は17時半。7月初頭のこの時間帯は、日差しがまだかなり強い。眩しい自然光に包まれたステージからSEが流れ始めると、元気いっぱいに現われたたかはしほのか、海(Ba)、ゆきやま(Dr)。最初に披露されたのは「ジョニー」だった。3人が交わす楽器のサウンド、歌声が融け合い、空高く響き渡る様が心地よい。2曲目「たたかわないらいおん」に至る頃には、ますます熱を帯び始めていたバンドアンサンブル。海が銅鑼を打ち鳴らしたのを合図にスタートした「ハイキ」。薄い雲が流れる水色の空が喜んでいるような気がした「トランジスタラジオ」……開放的な屋外でリーガルリリーを体感する喜びを目一杯に噛み締められた序盤だった。
リーガルリリー
「僕のリリー」「地球でつかまえて」「overture」「教室のドアの向こう」……多彩なサウンドを奏でるステージ上の3人が、とても嬉しそう。時折吹いてくる風が徐々に涼しさを帯び始めて、日没が近づきつつあるのがわかる。雨が降らなかったことをメンバーたちを喜び合ったMCタイムを経て、「とっておきの曲を作ってきました」と言ったたかはし。野音でやることをイメージして作ったのだという「管制塔の退屈」は、メンバーたちが思い描いていたものが、まさに具現化されていたのだと思う。曲中で〈ラララ ラララ〉と歌う部分に差し掛かった瞬間、客席全体から沸き起こったたくさんの歌声。大合唱や手拍子を観客に求めることがない彼女たちのライブで、このような風景が生まれるのは初めてなのかもしれない。客席にいる各々の心から生まれた自然な心の声が共鳴し合っているかのようだったあの響きは、この曲を一際魅力的なものにしていた。
たかはしほのか
ゆきやま
ライブ本編の中盤に披露された「ライナー」の頃には徐々に日差しが和らぎ、様々な色彩のライティングで染め上げられたステージ。床の上を這う白いスモークが幻想的なムードを醸し出していた。そんなステージを眺めながら体感した「アルケミラ」「若者たち」「GOLD TRAIN」「東京」「the tokyo tower」は、各曲に刻まれた物語を浮き彫りにする3人の表現力にワクワクさせられた。ロックバンドとしての最小限の編成とも言うべきギター、ベース、ドラムで構成されているリーガルリリーだが、届けてくれるサウンドは豊か極まりない。遠慮し合うことなく各々が熱いサウンドを響かせつつも、絶妙なコンビネーションを発揮し続けていた3人が、本当にかっこよかった。
リーガルリリー
「ぶらんこ」のエンディングで、ステージの背景に投影された満月のような円形の光。たかはしのポエトリーリーディングを経てスタートした「ハナヒカリ」は、耳を傾ける観客が一心に受け止めている様子が、周囲の空気を通じて伝わってきた。続いて「ノーワー」も届けられた後、落ち着いたトーンで語り始めたたかはし。「1997年12月10日。私はこの世界の空白を1つ奪いました。そしていつかまたこの空白を返すまでのお話です」という言葉が添えられた「1997」は、自分にしか歩むことができない人生について、いつも考えさせてくれる。懸命に生きる中で憧れのステージに辿り着けているリーガルリリーにふさわしいテーマソングのようにも聞こえたのは、今回のライブならではの感覚だった。
リーガルリリー

リーガルリリー

観客が一斉に掲げた掌が揺れる様が壮観だった「リッケンバッカー」。全力でビートを躍動させながら演奏する彼女たちの姿が素敵だった「はしるこども」で本編は締め括られたが、アンコールを求める手拍子に応えてステージに戻ってきた3人。「思ってた10分の1の時間で終わりそうなんだけど」――ゆきやまがふと漏らした言葉には、実感がこもっていた。「毎日これを当たり前にしたいです。バンドを始めようと思った場所がこの会場です。このステージに立つことを当たり前にしたいなあと10年くらい前に思って、ここに来ることができて、本当にありがとうございます。扉があったとしても、それはたかが扉であって、ノックするのを恐れちゃいけなくて。ノックを自分の好きな音で鳴らせば、すごく安心して扉を開くことができるのかなって思います。みなさんもそれぞれの音で扉を開けてくれてありがとうございます」――たかはしのMCも胸を打つものがあった。
たかはしほのか
ゆきやま
2021年から毎年実施している対バン企画『cell,core』が、たかはしの誕生日である12月10日にZepp Shinjukuで開催される旨が発表されて、観客は大喜び。今日が海の誕生日であることが明かされると、「おめでとう!」というたくさんの声が客席から届けられた。「人生でこんなにたくさんの人に“おめでとう!”って言われたのは初めて。ありがとうございます」という海の言葉は、会場内のムードを和やかなものにしていた。そして「バンドを始めたての時の曲を久しぶりにやりたいと思います」とたかはしが言い、スタートした「魔⼥」。疾走感に溢れたサウンドが駆け抜け、ステージの背景に3人の影が揺れる。日没を過ぎてすっかり暗くなっていたが、会場の周囲の官庁、オフィスビルの窓のところどころで明かりが灯っているのは、なんだか不思議な美しさがあった。ラストを飾った「蛍狩り」も印象的だった曲の1つとしてありありと思い出される。ポエトリーリーディングを交えた展開の中で、サウンドの熱量を3人で高めていく様に息を呑まされた。2016年にリリースされた1stミニアルバム『the Post』の1曲目「ジョニー」からスタートし、シークレットトラックだった「蛍狩り」でアンコールが締められたことが、長年のファンは感慨深く受け止めていたのではないだろうか。
​リーガルリリー
リーガルリリー
ステージの中央で深々とお辞儀をした彼女たちを拍手と歓声が包んで迎えた終演。様々な時期の曲がたっぷりと披露されたこのライブは、ひたむきに積み重ねてきたバンド活動の軌跡を存分に感じさせてくれた。先述の通り12月10日にZepp Shinjukuで対バン企画『cell,core』が開催されるが、その前には全国ツアーがある。9月30日の仙台CLUB JUNKBOX公演を皮切り各地を巡りながら、3人はさらに輝きを増していくのだろう。充実した日々の中から、今後どのような曲が生まれていくのか? そんな期待も高めてくれた『リーガルリリー YAON 2023』だった。
リーガルリリー

文=田中大
撮影=藤井拓

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