【Uniolla インタビュー】
リアルな日常に触れながら
光と影の両面が
シャープに描かれている
当たり前だと感じているものの価値を
もう一度ちゃんと噛み締めたい
2曲目のモータウンビートに乗せたネアオコ風の軽やかなナンバー「嘘はないはず」から、より視界が開けていく感じがあります。
深沼
林くんのベースとヒデくんのドラムから始まるこの感じも、Uniollaらしくてシンプルですよね。
KUMI
「Leap」もベースとドラムで始まるし、ライヴを意識して作った曲なのが伝わるアレンジだと思います。
「The 1st chapter」に続いて「嘘はないはず」でもチェロの音をメロトロンで出しているのが印象的です。このアルバムはメロトロンが大活躍してませんか?
KUMI
そうだね。前作はここまでフィーチャーされてなかったけど、もはやメロトロンの音はUniollaには欠かせないね。
深沼
チェロだけじゃなくて、いわゆるキーボードっぽい音もそうだし、ストリングス、ビブラフォン、フルートも全部メロトロンで出していますからね。「The 1st chapter」のMVに映っているんですけど、最初にUniollaのサウンドコンセプトを考えていた頃に、バンドの機材として買ったんですよ。
そのコンセプトというのは?
深沼
鍵盤をある程度はフィーチャーするんだけど、そこでなるべくメロトロンとピアノだけを使うアレンジ。今やパソコンすらいらないような、iPhoneやiPadでも多彩な音色が出せる時代において、あえて限定していくスタイルは面白いんじゃないかなと。僕自身かなりメロトロンを使い込んできましたから、ほぼこのままの音でライヴもできるんです。ピッチが安定しなかったりと、ちょっと歪な感じになるのも好きで。
KUMI
メロトロンのいいところだよね。生々しさがじんわり出る。
ピアノの音も使いつつ、KUMIさんのリズミカルな歌唱、林さんのメロディアスなベースラインなど、4人の個性がうまく混ざり合った3曲目の「It's just the time」も素晴らしいです。
深沼
特に楽しくレコーディングできました。イントロはサザンロックっぽいんだけど、Bメロは70年代のR&Bっぽいんです。そこを行ったりきたりする面白さがある。
「嘘はないはず」「It's just the time」ではハンドクラップからもバンドの楽しそうな雰囲気が伝わってきました。
深沼
ハンドクラップは生で入れていて、「It's just the time」だと曲の頭から終わりまでずっとみんなで叩いているんですよ。手が痛いので、だんだん音が小さくなってますけど(笑)。
楽しいバンドサウンドの一方で、人生の長い道のりを俯瞰して見るような、前作とはまた異なる儚さと清々しさを湛えた歌詞も全体的に立っている印象です。Uniollaのキーワードのひとつにあった青春感に加えて、よりビタースウィートな味わい=決意や哀愁みたいなものが曲の主人公に出てきた気がしませんか?
KUMI
少し大人な面があるかもしれないですね。これまでの主人公はまだいろいろよく分からない中で、感じたことや見たことを気ままに歌っていたけれど、もうちょっと日常を俯瞰でとらえようとしていて。
深沼
変わりたい、前に進んでいきたい主人公がいて、“その歩みは全て間違いじゃないんだよ”という感じで主人公を見つめる視点がある。僕自身がそうやって肯定されたいのかもしれないですね。自分の想いと創作したキャラクターがすごく溶け合っているイメージ。あと、歌詞に関して言えば、僕はデビュー以来ダメ出しをされたことがほぼなかったんだけど、今作はそこがいつもと違いました。
というと?
深沼
出来上がった歌詞を“こんな感じなんだけど”ってKUMIに見せると、“歌詞はまだ完成してないんだね”みたいなことをサラッと言われたりするんです。
深沼
“も、もちろん! ここからブラッシュアップするよ”とか“これは仮のやつだから”とか言いつつ、内心たじたじになる感じでね(笑)。でも、そういう目があってくれるのは大きかったです。レトリックでなんとかしちゃいがちなところを、時にズバッと指摘してくれたので。
KUMI
“このシチュエーションの描写をもう少し濃くしたら?”というようなことをたまに言うくらいでしたけどね。深沼くんの曲って日常のふとした気持ちや風景を描いていることが多いでしょ? それがさりげなさすぎると伝わりにくいこともあるから。
序盤の曲にいくつか触れましたが、アルバム全体でおふたりが新鮮に思うポイントはどのあたりでしょう?
深沼
印象的なところだと、最初の「The 1st chapter」と最後の「No wrong answers」ですかね。どっちも2ndアルバムを強く意識して作ったっていうのと、音の作り方にしてもかなりタイプが異なるのが面白いなって。
KUMI
いろんな曲があるよね。収録曲を改めて聴くと、よく共存できたなって思うもの。「No wrong answers」は最後にできたんですけど、これでまた新しい地平が見えた気がして。“いっそ2ndに入れないで、3rdをこの感じでハードロックなアルバムにしようよ”というイメージも浮かんだり(笑)。アウトロの速弾きも最高。こうやってギューン!って終わるのも。
深沼
あれは家族が寝静まったあと、自宅のスタジオで弾いたんですよ。そんなふうには思えない突き抜けっぷりですよね。
確かに、「The 1st chapter」の始まり方と「No wrong answers」の終わり方は差がすごい。
KUMI
「容赦なく美しい朝」も新鮮だね。私はこの方向性でもアルバムを作ってみたいと思ったな。
「容赦なく美しい朝」はどんな点が気に入っていますか?
KUMI
私は日本の歌謡曲も大好きなんだけど、そういう血が騒ぐの。昭和の歌姫が歌い上げているような画が浮かぶ。
深沼
歌詞の内容を細部までは理解しないまま、ステージに凛と立っている感じね。
それなのに、なぜか聴き手を惹きつけるものがあるっていう?
KUMI
そう。有名な作家さんが作ってくれた曲、重たい感じの世界観を、20歳そこそこの可愛いらしい少女が一生懸命に歌うみたいな。なおかつ、「容赦なく美しい朝」はメロトロンも入っていてロックのサイケな要素もあって、ちょっと狂っている。その組み合わせが絶妙なんですよね。日本語もすごく美しくて、まさに作家の先生が書いたような素敵な歌詞だなって思う。
深沼
例えば、昭和のアイドルシンガー本人がこういう歌詞を自分で書いて、内容を100パーセント理解した上で歌ったとしたら、なんか曲のスケールが小さくなる気がしない? パーソナルな部分との距離が近すぎちゃうよね。そうじゃなくて、あえてフワッと響く表現をしたかったんですよ。
「Leap」もサウンドありきで作ったわけではなさそうですね。
深沼
意外とサウンド先行ではなかったりする。煮詰まった時にやる方法なんですけど、カポタストをかなり高い位置に付けて作曲しました。ギターの響きを大きく変えることで閃きが生まれたりするんですよ。マンドリンが入ったすごく器楽的なリフを思いついたので、ヴォーカルもそれをなぞる手法を取っています。
ニューウェイヴっぽいベースラインとかは、そのあとに出てきた感じですか?
深沼
そうです。時代としては89年とか90年。エフェクティブなベースで目立つけど、さほど低音は支えてないみたいな。ハイポジションで弾きまくるNew Orderのピーター・フックのイメージですね。
表題曲の「Love me tender」についても聞かせてください。終わらない痛みを綴ったようなやるせなさと、未来を生きていくことの希望が歌われていると感じました。
深沼
東日本大震災やコロナ禍を経て、僕らの中で“日常”という単語の意味がすごく変わったと思うんです。以前は“退屈”“同じことの繰り返し”みたいなイメージが強かったのが、今はその大切さをひしひしと感じている。大なり小なり、みんな今そうした気持ちがたぶんありますよね。それぞれに起こった出来事はもちろん違うだろうけど。
はい。
深沼
日常というものは決して簡単に手に入るものではないし、当たり前と感じているものにはひとつひとつ輝きがある。それを自覚することで、明日が変わってくるんじゃないのかなって。
深沼
ありがたみをネガティブな出来事でしか思い知れないのが人間なんだろうけどね。とはいえ、思い知れたのは幸運なことだから、思い知ったまま生きようっていうのがこの曲のテーマ。僕のそんな考え方はアルバム全体に大きな影響を与えている気もします。
“Love me tender”はエルヴィス・プレスリーの曲名などで馴染みのあるワードですね。
深沼
自然と出てきたんだけど、こういうありふれた言葉が逆にフィットすると思ったんですよ。当たり前だと感じているものの価値を、もう一度ちゃんと噛み締めようという意味においても。アルバムのタイトルに推してくれたのはKUMIです。
KUMI
このアルバムにテーマがあるとしたら、私も“日常”だと思います。前作に比べて曲の表情の線が濃くて、リアリティーが増したことを踏まえてもね。素敵な気持ちになったり、落ち込んだりもするけれど、日常はどっちもあっていい。煌めきも切なさも等しく受け入れた時に、本当の意味で人は前に進めるんじゃないか。そういう想いをもっともシンプルに歌ったのが「Love me tender」で、普遍的なことの本質を見つめたい今、とてもしっくりくる言葉だったんです。
傷心をやさしく照らすようなカラフルなオルガンが絶妙です。
深沼
ライヴのサポートメンバーでもある野崎泰弘くんが、素晴らしいプレイをしてくれました。
KUMI
ともすればシビアな想いに寄ってしまいそうな曲なんだけど、“思い知ったことはつらいことじゃなくて、同時にすごく幸せなことなんだよ”というメッセージをちゃんと音で表現してくれているよね。包み込むように。
この曲を中心に、深いやさしさが全体的に漂うアルバムになりましたよね。
KUMI
リアルな日常に触れながら光と影の両面がシャープに描かれている。そこが2ndアルバムの特徴なんだろうね。
ちなみに、NAOKIさんのアルバムに対しての反応は?
深沼
“「The 1st chapter」が突出してすごい。この曲が最初にあることでアルバム全体がさらに良く聴こえる”と言ってくれましたね。
KUMI
確かに。光と影の話が出たけれど、「The 1st chapter」で始まっていなかったら光の部分ばかりが目立つようなアルバムになっていたかもしれない。この曲が冒頭にあることで、ちゃんと影の部分を対等に感じられるんだと思います。
深沼
最高のアルバムができました。“Uniollaは断トツで2ndがいいよね”とこの先ずっと言われてしまいそうな作品ができちゃったので、正直言って“これを超えるのがめちゃくちゃ大変だな”と思っているくらいです。
深沼さんの全キャリアから見ても上位に入りそうなアルバムじゃないですか?
深沼
全キャリアにおける最高傑作ですよ! 僕の中で頭5つほどは抜けてます。
深沼
禍福は糾える縄の如しじゃないですけど、ここまでのアルバムができてしまったのでいろいろと心配してたんですよ。そんな中、ちょっと前に受けた健康診断の結果がすごい良くてホッとしました(笑)。
取材:田山雄士
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アルバム『Love me tender』2023年7月5日発売
SPEEDSTAR RECORDS
- 【CD】
- VICL-65838
- ¥3,520(税込)
- 【アナログ】
- VIJL-60295
- ¥4,851(税込)
『Uniolla Tour 2023 "Love me tender"』
7/25(火) 大阪・Music Club JANUS
7/26(水) 愛知・新栄シャングリラ
8/01(火) 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
ユニオラ:KUMI(Vo/LOVE PSYCHEDELICO)、深沼元昭(Gu/PLAGUES、Mellowhead)、林 幸治(Ba/TRICERATOPS)、岩中英明(Dr)の4人によるロックバンド。深沼が過去に多くのヴォーカリストとの共演を実現してきたソロプロジェクトであるMellowheadに、KUMIをゲストヴォーカルとしてフィーチャーしたいと考えたことを発端に誕生。そこに、深沼と多く活動の場をともにする相棒であり、理解者でもある林 幸治と、深沼がプロデュースを手がけたこともあるJake stone garage(活動休止中)の岩中英明が参加。サポートミュージシャンとしては佐野元春&ザ・コヨーテバンドで活動をともにする渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)がレコーディングに加わった、いわばプロミュージシャンが集まった“大人のガレージバンド”。レコーディングはLOVE PSYCHEDELICOのプライベートスタジオ『Golden Grapefruit Recording Studio』にて行なわれ、LOVE PSYCHEDELICOのNAOKIもレコーディングエンジニアとして全面的にバックアップしている。等身大でのびのびと歌うKUMIのやさしく穏やかな声、そしてメンバーの顔が見えるようなオーガニックで風通しの良いバンドアンサンブル、全曲の作曲を手がけた深沼のポップスセンスが作品に息づいており、耳馴染みの良いメロディー、エヴァーグリーンでタイムレスな響き、そして同時にオルタナティブな匂いを感じとることができる。2021年11月に1stアルバム『Uniolla』を、23年7月に2ndアルバム『Love me tender』をリリース。Uniolla レーベル オフィシャルHP
「The 1st chapter」MV