藤井隆、約21年の時を経た1stアルバ
ム『ロミオ道行』再演ライブ 松本隆
、本間昭光らと繰り広げた名演とトー
クをレポート

藤井隆 meets 松本隆『ロミオ道行』~再演&外伝~

2023.5.27 I'M A SHOW
5月27日に東京、I'M A SHOWで行われた「藤井隆 meets 松本隆『ロミオ道行』~再演&外伝~」。伝説的名盤『ロミオ道行』の全曲再演ライブと松本隆をはじめとした『ロミオ道行』の制作に携わった面々によるトークパートの2部で構成されたこのイベントのレポートをお届けしたい。
『ロミオ道行』は、2002年に松本隆プロデュース&全曲作詞でリリースされた藤井隆の1stアルバム。今回のイベントは『ロミオ道行』リリースのタイミングで行われた1stライブツアーの再演というから、約21年ぶりのアルバム全曲披露である。よく考えていただきたいのだが、2002年といえばサッカー日韓ワールドカップの開催年である。あれから5回ものワールドカップを経た今日でも時の洗礼を乗り越え、聴き継がれる『ロミオ道行』。そんな伝説的な名盤のライブ再演となればファンならずとも垂涎ものである。
今回会場になったI'M A SHOWは、昨年末オープンした新劇場。映画館をリニューアルした劇場だけに、どの席からもステージの息遣いを感じ取ることのできる親密な空間だ。1stライブのツアーグッズを手にした根強いファンがちらほら目に入りながらも、昨今の藤井の多彩な音楽活動の影響もあってか幅広い年代のオーディエンスを迎え、満員御礼でライブが開演。「絶望グッドバイ」のイントロを出囃子にミントグリーンのタキシードに身を包んだ藤井がステージに登場すると「一緒に盛り上がってくださいますか? 最後までよろしくお願いします!」とコール&レスポンスを交えながら挨拶。拍手と歓声が止まぬうちにアルバムの1曲目にもあたる「未確認飛行体」でライブがスタートした。都会的なモチーフが散りばめられた歌詞と小気味よいギターカッティングは、まさにシティポップらしいサウンドだ。なにより“シティポップ”というジャンルが再定義されていなかった2002年に生まれたこのアルバムが、約21年の時を超えて受け入れられ、幅広い年代のオーディエンスに直接響いている光景を目にすると感慨深い気持ちにさせられる。
中村タイチ
nang-chang

「こうやって今もコンサートをさせていただけているのは、絶対に松本隆さんのおかげで、『ロミオ道行』というアルバムのおかげです」と感謝の言葉を口にすると観客からは大きな拍手が。そして、ハンドクラップとともに筒美京平作曲の「究極キュート」へ。丁寧に歌い上げる藤井の姿からは、松本と筒美への心からのリスペクトがにじみ出る。そして、ライブが進むに連れてあらためて気付かされるのは歌詞の強い存在感だ。今回の公演では、Lyric Sync Technologyによるリリックスピーカー用の技術を活用し、ステージ上のスクリーンに歌詞をモーショングラフィックで映し出す映像演出が施されている。最適なモーショングラフィックを生成するにあたり、歌詞の内容に基づいて印象空間やサビを自動推察するこのテクノロジーは、松本による歌詞世界への没入感をより高めてくれている。
「幸福インタビュー」では、ミュージカル『おとこたち』で藤井と共演したユースケ・サンタマリアが、藤井へのインタビュアーとなり声で参加し、オリジナルバージョンでこのセリフパートを担当したYOUも今回ライブのためにセリフを新録。そのセリフを受けて会場から笑いも生まれた。そんなアッパーチューンの「幸福インタビュー」を経由したMCパートでは「歌いながらリラックスはできないんですが、みなさまのお力をお借りして楽しく歌わせて頂きたいと思います」という紹介から「リラックス」を披露。ギターの中村タイチ、マニピュレーターのnang-chang、そしてこのライブの音楽監督とキーボードを担当する本間昭光を紹介すると、本間作曲の「素肌にセーター」「モスクワの夜」を立て続けに披露。2002年の1stライブツアーの音楽監督も務めた本間がこの“再演”のステージに立っていることのスペシャルさを噛みしめる瞬間である。つづく透明感のあるバラードナンバー「乱反射」を披露するにあたっては、作曲を担当したbiceへの想いを語り、レコーディング当時に想いを馳せた。そして、ライブの最後を飾るのは「絶望グッドバイ」。藤井の作品で松本と筒美が初めてタッグを組んだ、藤井の音楽活動にとって大きなターニングポイントとなる一曲だけあって、思いもひとしおである。名残惜しそうに最後の1小節までしっかり噛みしめるように歌い上げると、深いお辞儀で1部のライブパートを締めくくった。
2部のスペシャルトークセッションでは、藤井、本間に加えゲストとして松本が登壇。『ロミオ道行』を語るうえで欠かすことのできない証人たちである。さらに特別ゲストとして、サプライズ登場したのは『ロミオ道行』から「未確認飛行体」「代官山エレジー」の2曲を作曲したKIRINJI堀込高樹だ。『ロミオ道行』の制作秘話が語られるなかでことさらに印象的だったのは「絶望グッドバイ」と「代官山エレジー」の知られざる関係。もともとは現在の「代官山エレジー」の詞が「絶望グッドバイ」に乗っていたのだという。というのも藤井から松本に相談があり、歌詞を書き直すことで「絶望グッドバイ」が今の形に完成。そして、当初の「代官山エレジー」の詞には、KIRINJIの堀込高樹があらためて曲をつけることで、現在我々の知る「代官山エレジー」となったのだ。その他にも藤井が慣れないレコーディングに悪戦苦闘したエピソードや作曲を担当した筒美との制作の思い出話にも花が咲き、ここでしか聞くことのできない貴重なトークがくり広げられた。
松本隆
堀込高樹
このライブの来場者特典としてCDが配布された松本作詞、本間作曲の「負けるなハイジ」の話題になると、オーディエンスからの後押しもあり、急遽最後の1曲として同楽曲がライブ披露されることに。1stライブ用に書き下ろされた「負けるなハイジ」。これまでライブ映像でしか見ることのできなかったレアな楽曲ということもあり、総立ちになったオーディエンスの興奮は最高潮に達し、大団円のまま「『ロミオ道行』~再演&外伝~」の幕を下ろした。
取材・文=内田文明(Z11) 撮影=原口良太
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