『オワリカラ・タカハシヒョウリのサ
ブカル風来坊!!』ワンフェスで感じ
る、それぞれの「贅沢」。ワンフェス
2023冬探報記エッセイ

ロックバンド『オワリカラ』のタカハシヒョウリによる連載企画『オワリカラ・タカハシヒョウリのサブカル風来坊!!』。毎回タカハシ氏が風来坊のごとく、カルチャーにまつわる様々な場所へ行き、人に会っていきます。
30回目は2023年2月12日、幕張メッセ国際展示場1~8ホールで開催された『WONDER FESTIVAL 2023 WINTER(以下ワンフェス)』にまろび出たタカハシがワンフェスを振り返る。

贅沢って、なんだろうか。
先日、1人前で9万円する寿司を食べる機会があった。最高級の食材と、細部までショーアップされた調理、間違いなく「贅沢の極み」である。
だが、「人生で二度とないかもしれない…」と緊張しながら味わうこの贅沢が、自分にとっての本当の贅沢なのか、と聞かれるとちょっとわからなくなった。
人によって、「贅沢」の基準はまったく違う。
自由にお金を使うことを贅沢と感じる人もいれば、自由に使える時間に贅沢を見出す人もいるし、場所に囚われぬ自由気ままな旅人であることを贅沢だと考える人もいる。
贅沢に共通するのは「自由さ」だが、その自由さを何に向けるかは人によって驚くほど違うのだ。
少し前のことになるが、「WONDER FESTIVAL 2023 WINTER」に行ってきた。
ワンダーフェスティバル、通称『ワンフェス』は、ガレージキットなどの造形物を展示、販売する即売イベントとしては日本最大級の催しだ。1984年にスタートし、30年近い歴史を持つイベントだが、ここ数年は新型ウイルス感染症拡大の影響を大きく受け、2020秋、2020冬は開催中止となってしまった。
その後、オンライン開催、定員を縮小しての開催と段階を経て、ついにこの2023冬で3年ぶりの通常開催の実現に辿り着いた。
帰ってきたワンダーフェスティバル。
僕はこの空間に、「贅沢」を感じる。
ワンフェスの最大の特徴は、イベント内限定で版権作品の商品化を許諾する「当日版権」と呼ばれるシステムにある。
このシステムによって、アマチュアであっても版権ものの作品を展示、販売することが可能となり、それがプロアマの垣根を超えて様々な作品が乱舞するワンフェスの「祭り」感を作り上げている。
「欲しいものがないから自分で作った」「企業では商品化されなかった欠番を補完する」「自分なりのアレンジでキャラクターをアレンジする」作品に対する愛情や、造形に対するこだわり、そして尽きぬ欲望と表現を自由に発揮できる空間がワンフェスである。
大量生産では難しい特大サイズの造形物はワンフェスの華型だ。こちらは、東宝特撮映画『ヤマトタケル』に登場する八岐大蛇。会場でも圧倒的な存在感を放っていた。
写真左の『機動戦艦ナデシコ』エステバリスと『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』エヴァ仮設5号機は、まるで90年代に売っていたSD玩具風のパッケージだが、実際には存在しない商品。写真右の『ゾイド』に登場するキングゴジュラスは、なんと手のひらサイズ。めちゃ可愛い。
版権ものだけでなく、もちろんオリジナルの造形物も多数。フィギュア以外にもアンティークやモデルガン、コスプレ用品と、ジャンルは多岐に渡る。

例えば、この板。

レジンという素材で鋳造された、ただの「トタンの板」のミニチュアである。何に使うのかというと、この前に怪獣のフィギュアを置く。
初期の『ウルトラマン』などに登場する怪獣には、資料用として撮影された三面写真が存在するのだが、撮影現場の片隅などで撮影されたこれらの写真は、背景がキャベツ畑だったり薄汚れたトタンの壁だったりする。
「怪獣」という巨大で非現実的なはずのキャラクターが、突如として生活感あふれるミニマルな風景に出現するミスマッチが、意図せぬ妙な味を醸し出しているのだ。
このトタンは、そうした「怪獣資料写真」をフィギュアで再現することができるアイデア商品だ。
興味のない人からすれば「誰が欲しいの?」と聞きたくなるだろうし、大企業が多大なコストを払って商品化するような代物でもない。だが、たしかに「おぉ、これが欲しかった!!」と胸を打たれ、この商品との一期一会を喜んでいる人もいるのだ。
針に糸を通すような細い需要と供給が結びついた瞬間。これもまた「贅沢」の一つの形だ。
ワンフェスでは、コスプレも「自由」な空気がある。
規模感やレギュレーションの違いもあり、コスプレの方向性もコミケとは少し違う方向を向いているように感じる。造形物の祭典に相応しく、大型の武器や巨大なロボなど、造形技術をふんだんに盛り込んだコスプレが目立つのも特徴だ。
『機動武闘伝Gガンダム』に登場するシャイニングガンダムの本格的なコスプレに興奮して写真を撮ってもらっていたら、そこに現れたのは「リアルSD」なZガンダムくん。
意図せず交流が始まった大小のガンダムコスプレに、その場の空気も和んだものに。
そして個人的に最も感動したのは、こちらの『マジンガーZ』に登場するDr.ヘル、あしゅら男爵、ブロッケン伯爵の「悪役合わせ」の皆さんだ。
それぞれのクオリティもさることながら、このキャラクターを合わせられる仲間が集まったという状況にも熱いものがある。
これもまた「贅沢」ではないだろうか。一緒に写真を撮っていただいて、ブロッケン伯爵の首を持たせてもらった。これも「贅沢」。
と、ややマニアックな側面ばかり振り返っているような気がしてきたが、広大な企業ブースでは今をときめく最新コンテンツのフィギュアやイベントが目白押しである。
また、今年から場内のフードコートも充実したとのことで、歩きっぱなしの足を休められる空間が増えたのは、ちょっと嬉しい改善点である。
ちなみに、僕はいわゆる生粋のフィギュアコレクターではない。一部を除いては限定品のソフビ争奪戦にもそこまで興味がないので、ワンフェスの回り方もかなりまったりとしたものだ。
なのに、気づけば足が棒になっているのは、自由と欲望が渾然一体となって巨大な幕張メッセを覆い尽くすこの空間をほっつき歩くのに、他では味わえぬ「贅沢」を感じるからだ。
次回開催の2023夏は、7月30日。避けられぬ中止を経験した今となっては、こうして巡るように「次回」がやってくることもまた「贅沢」である。
文=タカハシヒョウリ 撮影=林信行

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