香取慎吾の人間味溢れるステージ、“
この場所を大切にしたい”という想い
を感じたソロ初のアリーナライブ『B
lack Rabbit』東京公演を振り返る

香取慎吾LIVE「Black Rabbit

2023.1.22 有明アリーナ
香取慎吾のワンマンライブ『Black Rabbit』が1月21・22日、有明アリーナで開催された。明治座、京都劇場を経て、ソロとしては初のアリーナ公演。広い客席を見渡しながら「こんな大きな会場で一人でライブさせてもらう日が来るなんて感激です」と噛み締めるとともに、何度も「ありがとう」と伝えていた香取は、4階層の客席から降り注ぐ拍手に包まれながら「拍手で泣かすなよー」と笑った。スクリーンに大きく映された瞳は潤んでいるように見える。きらびやかな衣装を着て、大所帯のバンド&ダンサーを引き連れながら各日1万人の観客を前に歌い踊る姿は堂に入っていて、SMAP時代も含め彼のパフォーマンスを初めて生で観た身としては「スターには本当にオーラがあるんだな」と思う。ライブ終盤になれば普通は疲れるはずなのに、むしろ香取は、観客の拍手や熱気を受け取るほど、輝きを増していくから不思議だ。
この記事では1月22日公演を振り返るが、『Black Rabbit』は3月14・15日に神戸ワールド記念ホールでも開催されるため、一部の曲の言及のみに留めつつ、ライブの雰囲気やMCの内容を中心にお届けしたい。
この日は、草彅剛主演ドラマ『罠の戦争』の主題歌でSEVENTEENとコラボした新曲「BETTING」など様々な楽曲を披露した。2020年リリースの1stアルバム『20200101』でも、2022年リリースの2ndアルバム『東京SNG』でも様々なアーティストとコラボして楽曲を制作していた香取。幅広い楽曲群はパフォーマーに幅広いアプローチを求めるもので、からっと明るい香取の歌声は曲ごとに表情を変え、バンドやダンサーも都度異なるアプローチを繰り出した。そんななか、プロとしての演者の矜持で観客を魅了するショウ的な見せ方から、ミュージカルのように華やかでコンセプチュアルな見せ方、観客を巻き込みながら全員で楽しむライブ的な見せ方、そして来場者一人ひとりに大切なメッセージを手渡すラストへ――とパフォーマンスの在り方が変化していく様が見事。ソロやグルーブでの活動を通して様々なライブ表現を経験したことが活かされているように感じるし、観客からすると、これまでの香取の道程に想いを馳せたくもなる。
ライブ序盤は数曲を立て続けに披露するストイックな展開だったが、歓喜弾ける「10%」では観客とも一体となって盛り上がった。香取は自らも踊りながらダンサーと息の合ったパフォーマンスを繰り広げる。音のトメハネが効いていてリズム感のボーカルが、キレのあるダンスとよく噛み合っていて気持ちいい。ここで最初のMCに入るも、なかなか息が整わなかったからか、客席の空気を察して「なんで笑ってんの? 久々のスタンディングで、みんなだって同じ感じでしょ?」と香取。MCではジョークを交えながら飾らない温度感で観客とコミュニケーションをとった。また、ライブ中盤では、前日に観に来ていた稲垣吾郎が「よかったよ」と連絡をくれたことや、せっかく来てくれていたのにライブ中に紹介するのを忘れてしまったことを明かしながら、「吾郎ちゃんと出会ったのは小学5年生の頃。その頃からずっと一緒にいるの。本当に嫌になっちゃいますよね(笑)」と語る一幕も。草彅はドラマの撮影があり、残念ながら来られなかったそうだ。
ステージ後ろにあった巨大なスクリーンがせり上がり、バンドが姿を見せて以降は『東京SNG』収録曲を次々と披露。ブラスの音色が際立つジャズテイストの楽曲群を、ハンドマイクを手繰り寄せながら歌う姿が印象的だ。特に熱いパフォーマンスを見せたのは「シンゴペーション」で、香取はサックスのメロディとともにスキャットし、トロンボーンの隣で力強く声を張りロングトーンする。そうして曲数を重ねながら、あっという間にライブのクライマックスへ。本編ラストのMCでは、1月18・19日に新しい地図のファンミーティングで大阪城ホールを訪れた際、子どもの頃の思い出が蘇ってきたのだと語った。アリーナへと伸びる花道を渡った先のセンターステージに立ち、スポットライトを浴びながら話し始めた香取。先輩の後ろで踊りながら、「僕も先輩のようにスポットライトを浴びてみたい」と思っていたこと。小学生の頃、東京ドームでのマイケル・ジャクソンのライブに連れて行ってもらい、「目が合った!」と思ったこと、初めて東京ドームでライブができた時、ステージに手をつき「マイケル、やっとここまで来たよ」と言ったこと。その後もう一度ステージに手をつき「一回ステージから下りるね」と言ったこと。そのうえで香取は「昨日今日とこんなに大きなところで、大好きな歌とダンス、みんなの笑顔を見ることができて。本当に幸せです。ありがとう」と観客に感謝を伝えた。さらに「長らくコロナ禍が続いて、みんなと会える機会が減ってしまって、寂しい時間もあったけど、こうやって楽しい時間がやってきた」と実感を語るとともに、「一緒に明日を生きましょう。一緒に頑張りましょう」と続ける。
そんなメッセージとともに届けられたのが、リスナーの心に寄り添うバラード「ひとりきりのふたり」だ。キーボードの旋律とともに歌い始めた香取の声はいつになく穏やか。こんなに広い会場なのに、一人ひとりに手渡すように歌ってくれているのは、マイケル・ジャクソンと目が合ったと思えたあの瞬間の喜びが、彼の中でいつまでも生き続けているからだろう。希望の灯は、時に時代を越えながら、人から人へと手渡される。場内を照らしていた光が少しずつ広がり、暗かった会場が次第に明るくなっていく。
今は寂しい想いをしていても、きっと楽しいことがやってくる。香取がその人生を以って実感したことはリスナーの人生にも通ずることであり、今ここにいる一人ひとりを人間としてリスペクトする気持ち、今日ここまで生きてきたことに対する祝福が根底にあるライブだったように思う。そう考えれば、メンバー紹介を兼ねたバンドメンバーやダンサーのソロパートで、彼ら彼女らがどんな人なのか、少しでも観客に知ってもらうための演出が施されていたことにも合点がいく。香取だけではなく、観客にも、ステージを共に創るメンバーにも、今日に至るストーリーがあったということだ。ライブとは、演者と観客の人生の交差点。だからこそこの場所を大切にしたいという香取の想いが感じられた、人間味の溢れるステージだった。
取材・文=蜂須賀ちなみ

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