トニー賞10冠の話題のミュージカル『
バンズ・ヴィジット』日本初演に挑む
、風間杜夫&濱田めぐみ対談インタビ
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2018年のトニー賞で10冠を手にし、これまでにない型破りなミュージカルとして話題になった『バンズ・ヴィジット』が、森新太郎演出で2023年2月に東京・日生劇場にていよいよ上演される。
本作は映画『迷子の警察音楽隊』(2007年)を原作に、デヴィッド・ヤズベックが作詞・作曲を手掛けたミュージカル作品。エジプトの警察音楽隊が演奏旅行先のイスラエルで辺境の街に迷い込み、そこで暮らすイスラエル人たちと一晩を過ごすという、人と人との心の交流を優しく描いた物語だ。
本作のビジュアル撮影の合間に、警察音楽隊の隊長トゥフィーク役の風間杜夫と食堂の女主人ディナ役の濱田めぐみに話を聞いた。全く異なるキャリアを持つ二人は、舞台上で一体どんな化学反応を起こすのだろうか。『バンズ・ヴィジット』が持つ摩訶不思議な魅力について、じっくりと語ってもらった。
――お二人は本日のビジュアル撮影が初対面だとうかがいました。
濱田:そうなんです。私にとっては昔から拝見させてもらっていたスターさんなので緊張していたんですけど、気さくにお話ししてくださったのでお稽古が楽しみになりました!
風間:僕にとっての第一印象はとにかく頼れる人! それは目を見たらわかります。私はミュージカルの幼子でまだ2歳児みたいなものですから(笑)、母や姉のように慕わせてもらえたらなと。今回は濱田さんが側にいてくださるということなので心強いです。
濱田:はい、それはもうしっかりと!
風間:よろしくお願いします!
濱田:風間さんのことは語らずとも日本国民のみなさまご承知ですから、舞台で共演させていただくのがすごく不思議でもあり、すごく楽しみでもあります。一緒にお芝居させていただくことが私にとってどういう冒険になるのかなと、ワクワクしているんです。私も頼りにしていますし、自分の中のいいものを引っ張り出していただけたら嬉しいです。
――笑いが絶えない楽しげな撮影でしたが、撮影中はどんなことを意識されていましたか?
風間:演じながら撮りました。原作の映画を観たのですが、僕が演じるトゥフィークはすごく厳格で規律を重んじる人。そんな彼がディナと出会い、家族の話や自分の内面を打ち明けるシーンが印象に残っています。孤独な彼は妖艶な彼女に心惹かれるところもありつつ、ちょっと踏ん張っているというキャラクターなんです。役者ですから、そのときの気持ちってどうなんだろうと考えていましたね。
濱田:街の風景、空気感、砂漠の砂っぽい感じ……そういう雰囲気が自分に纏ってるといいなあと思いながら撮影していました。でも、楽しかったのでたくさん笑ってしまいましたね(笑)。
――出演のお話を最初に聞いたときのことを覚えていますか?
風間:僕はさほど躊躇せずにやろうと決めましたね。いわゆる歌って踊るミュージカルではなく、お芝居をとても大切にしたミュージカルということでしたので。おかしいでしょう、チラシに僕と濱田さんの名前が並んでいるって(笑)。演出の森新太郎さんともどこかで出会ってみたかった方なので、いい機会だなと思ったんです。
濱田:まず思ったのは「あの世界観を日本でやるんだなあ」ということ。私はトニー賞で『バンズ・ヴィジット』のことを知ったんです。お話をいただいてから改めて詳しく資料を見てみたのですが、特に驚いたのはやっぱり曲ですね。この不思議なラビリンスの世界に入り込んでみたいなと思ったのが、一番の印象でした。
――濱田さんはエジプト絡みのミュージカル作品(『アイーダ』『王家の紋章』)の出演はこれまでにもありましたが、イスラエルが舞台の作品は初めてですよね。
濱田:エジプトという土地に関連した演目はやりましたが、音楽はロックですとか、あくまで現代のミュージカルの曲だったんです。でも今回の『バンズ・ヴィジット』は曲自体が中東の音楽でしょう。それがこの作品のすごく興味深いところ。ここ数日の間に楽曲を聴いていたのですが、今までいろいろやらせてもらった中でも全く毛色が違う、聴いたことのないようなアラブ系の音楽なんです。この摩訶不思議な音楽にみんなはどういう風に取り組んでいくんだろうなあと、そこも楽しみですね。
>(NEXT)ミュージカルは“封印”していた?!
――風間さんは2018年の『リトル・ナイト・ミュージック』にご出演するまでは、ミュージカルを封印していらっしゃったそうですね。
風間:封印も何も、僕の恩師であるつかこうへいさんに「日本で一番踊っちゃいけない役者」と言われていたんですよ(笑)。歌うほうは、上手い下手は別として、カラオケで吠えていた経験があるのでね。ただ、大竹しのぶさん主演の『リトル・ナイト・ミュージック』という作品はミュージカル界でも一番難曲と言われるスティーブン・ソンドハイムの楽曲だったので、まあ手こずりました。家に帰って一人で特訓しましたよ。酒飲みながら特訓していると、段々上手くなっていくように錯覚していくんですよね(笑)。そんな毎日だったので、命を縮めるようなことはもう二度とやるまいと決めていたんです。そうしたら今回は歌わなくていい、踊らなくていいと。そういう約束で出演を決めました。だから絶対に歌いません(笑)。
濱田:今の時点での私の勘ですが、これまでのミュージカルとはちょっと違ったアプローチをした方がこの作品にはフィットするのかな、と思っているんですよね。ミュージカルって心の叫びを歌い上げるみたいなイメージがありますが、この作品では「思っていることが口から出たらたまたまメロディーになっていた」というイメージの方がいいのではないかと思って。具体的にはまだわからないんですけれど、今までの感じとは違う方向性で攻めてみるのもありかなと思っています。
――そういう歌ということですし、風間さんのトゥフィーク隊長も1曲は語るような歌があったかと思うのですが……。
風間:う〜ん、そうですねえ。さっきは「ない」と言い切りましたけど、ないとなると私も寂しいですから(笑)。掛け合いでもいいので、ちょこっとは歌えたらなと。語るような歌というのは浪曲みたいな感じですか? 三波春夫の長編歌謡浪曲なら得意なんですけど(笑)。
濱田:本当に喋っているような感じだったと思います。
風間:そうですか。じゃあやりましょう!
濱田:よかった〜(笑)。
――本作は2018年にトニー賞10部門受賞という快挙を遂げた作品でもあります。トニー賞でのパフォーマンス「Omar Sharif」をご覧になった感想を聞かせてください。
濱田:多分「なぜこの曲を?」ってみんなが思ったと思うんですけど、観たら「なるほど〜」と思わされましたよね。
風間:ほほう、どんなパフォーマンスでしたか?
濱田:すごくノスタルジックな感じなんです。ディナが隊長さんとバーで語らっていて、彼女自身の昔話をしている場面。ディナがまるで子守唄のような曲を歌うんです。聴いていると力が抜けていってホッとして、中東独特のニュアンスの摩訶不思議な世界観が広がっているんですよね。「ラーララーララーラーララ〜♪」という耳に残るメロディが延々と続くという。この曲をトニー賞のパフォーマンスに選んだということにびっくりしました! でもみんな魅了されていましたよねえ。私も「この曲何だろう」って調べて『バンズ・ヴィジット』という作品に辿り着いたんです。そんな不思議な曲があるので、楽しみにしていてくださいね。
>(NEXT)異国文化、人々の交流
――風間さんは原作となった映画を観たそうですが、どんな魅力を感じましたか?
風間:作品の内容に大変惹かれるものがありました。今はこういう世界情勢ですが、異国の文化の人が触れ合って交流するという心温まるお話なんです。それと、実は私の孫がいよいよじいじの芝居を初めて観ることになるかもしれなくて。僕としても、元気なうちに孫にじいさんの芝居を見せたいなと。僕が普段やる芝居はちょっと子どもには観せられないようなものなのですが、この作品なら安心して孫を呼べるというわけです(笑)。
――濱田さんは作品の内容としてはどんなところに惹かれますか?
濱田:舞台版の映像を拝見したのですが、この作品ってシチュエーションが変わっていかないんですね。エジプトの楽隊の人々が間違ってイスラエルのとある町に辿り着き、そこで一夜を過ごすという物語。だからどこにも行きようがないんです。ミュージカルの舞台って舞台セットがバンバン転換されていくことが多いんですけれど、それがほぼなくて、人間の交流だけで見せる芝居。それをミュージカルと言ってしまっていいんだろうかと思うくらい。いろんな冒険やチャレンジが含まれている作品なので、「日本カンパニーがどういう風に作っていくのだろう」とすごく興味があるんです。今はまだこうして扮装しただけの段階なので、お稽古が始まったらどうなっていくのかとても興味深いですね。
――お二人とも森新太郎さんの演出作品は初めてということですが、どんなことが楽しみですか?
濱田:初めての演出家の方って、まずフィーリングや肌勘が合うかというのがやっぱり重要ですよね。どんな方なんだろうと楽しみです。自分でも見たことのない部分を引き出していただきたいなという想いもありますし、そんな森さんが作る『バンズ・ヴィジット』の世界観がどういうものなのか、ものすごく興味があります。それぞれが妄想している作品世界を具現化して舞台上に乗せていく経過も、きっと楽しいと思うんです。私はお稽古期間も大好きなので、どういうお稽古を組んでどういう風に本番まで持って行ってくださるのかな、とワクワクしています。
風間:僕は森さんがどんな顔をしている人なのかも、年齢も、何も知らないんです。ただ「すごい演出家だ」という評判は聞いているんですよ。だからお会いするのが楽しみですね。初めての演出家の方とやるときは、何も企まずにこのままいくんです。長塚圭史くんと会ったときも、岩松了さんから声を掛けられたときも、赤堀雅秋さんのときもそうでした。俺が俺がっていうものは僕にはないですから。その演出家が作りたい世界にどう自分が溶け込んでいけるか。それを第一にやりたいですね。
――本作は旅のお話でもあります。行き当たりばったりの旅や、旅先で異国の文化に触れた思い出があれば教えてください。
濱田:私、劇団四季時代に浅利(慶太)先生が中国の北京で『蝶々夫人』(2002年)を上演したことがあったので、それを何人かで観に行ったことがあるんですね。そのとき、公演後に一人残って2日間ほど北京の街をウロチョロしたんです。でも、広くて広くてどうしようもできなくて(笑)。そこで、紫禁城に行ってみようと思い立ったんです。歩けど歩けど入り口に辿り着かないんですよ。どんだけ広いんだろうと思ったら、40分くらい堀の外側を歩いていたことに気付いたんです! 慌てて40分かけて歩いて戻って、やっと入れたのが4時45分。でも5時閉門という(笑)。結局ちゃんと紫禁城に行けないまま北京を飛び立つことになったんですけど、あれは悔しかったですね〜。やっぱり私、一人じゃ何もできないんだなあって。迷って迷って終わったという残念な2日間でした(笑)。いつかリベンジしたいです!
風間:僕にとっての旅はほとんどが旅公演ですね。一人芝居ではそれこそ日本中を、海外では韓国、中国、アメリカ、ルーマニア、ハンガリー。あとはスキューバダイビングをやっていたので、海にまつわる旅は好きですね。強烈な思い出は、旅公演で行った中国の杭州。一人芝居をやったんですけど、地元のテレビ局が取材したいと言うんです。そうしたらなんと、本番中の舞台の上にカメラを持った取材陣が上がってきたんですよ! 本番中ですよ? 「夕方のニュースに流すから」って(笑)。20年前のことですけど、あれは面白かったですね(笑)。
>(NEXT)濱田めぐみは“野性味”を出したい
――濱田さんは翻訳ミュージカルの際は稽古前の段階から作品研究に取り組むそうですが、具体的にどのように研究されるのでしょうか?
濱田:翻訳作品って、例えば元の台本が英語だとすると、英語を日本語に直訳した第1段階の台本というものが存在しているんですね。それを日本語の舞台にするために書き直して、第2稿、第3稿と出来てくるんです。私はその第1段階の台本をなるべく見るようにしています。というのは、書き直していく段階でいろいろ削られていくので、その分の情報が入っていないことがあるんですよ。そうすると最初の台本に戻って、この台詞は元々どんなことを言っているんだろうと確認します。その上で最終的な台本の台詞を言うと、裏付けられたものが頭に入っているので自分にとってもわかりやすくなるんです。元の言葉と全然違っていることって本当にあるんですよ。本来の台詞と違う意味になってしまっていたら怖いなと思うので、元の台本を確認しちゃいますね。
――風間さんはいかがでしょう?
風間:僕の場合、現代演劇のときは稽古初日に半分も台本ができていないことも多いんですよ。稽古をやりながら台本が出来てくるんですね。ただ、新宿梁山泊で唐十郎の戯曲をやるというような、繰り返し上演されてきた難解な戯曲の場合は演出家に聞くのが一番。すると演出家は「誤読でいいじゃないか。どんどん誤読してやっていこう」と言うんです。そんなジャンルの芝居の現場に慣れているので、濱田さんのように新作の翻訳ミュージカルで、最初の荒削りの台本を引っ張り出して吟味していくような作業は僕には経験がないんですね。すごいことだなあと思いますよ。そういえば、『リトル・ナイト・ミュージック』のときに大竹しのぶさんは似たようなことをやっていましたね。イギリスの演出家のマリア・フリードマンと「この台詞はおかしい」とかなんとか。でもねえ、レベルが違うんですよ。僕が直面しているのは台詞がおかしいじゃなくて、歌がおかしいんだから(笑)。
――上演に向けて、前もって準備しようと考えていることはありますか?
濱田:私、ちょっといろいろと仕込もうと思っているんですよ。イスラエルの女性ってまだ正直知らないことが多すぎて。私たちのような単一民族にとって、民族間の違いって全くわからないじゃないですか。だけどこの作品にはそれが絶対的に必要なんです。片田舎に住んでいて、土臭い、野生味溢れたポジティブな女性。それを今回研究させていただこうかなと思っています。舞台を観たときに「日本人だな」って思われるのもちょっとつまらないなと思うので。
風間:いやあ〜素晴らしい! あの野性味を出すんですね。絶対に大丈夫ですよ。今お話を聴いてきましたが、この役ピッタリじゃないですか。
濱田:よかった〜! 掘り下げて掘り下げて臨みたいと思います。
――『バンズ・ヴィジット』は2023年2月の上演になるので、きっとお二人にとっては来年1作目の舞台になりますね。
風間:正月休みも削って稽古に励むと思いますよ。この作品が2023年の私にとっての幕開けですから、お客様にとってもこのお芝居を観ることで1年の幸福に繋がればと思います。パンと決めたいですね。とにかく食らいついて頑張りたいと思います。
濱田:この作品が開ける頃にはいい加減コロナも収束していてほしいですね。これだけ長いとみんな心まで疲れてしまうでしょう。空気感や風向きを変えるという意味でも、この作品がいい形で動いてほしいなって思うんです。年明け1作目ですし、そういう意味も込めて風間さんと共に気合を入れて取り組みたいと思います。
取材・文=松村 蘭(らんねえ) 撮影=池上夢貢

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