現在絶好調の日本センチュリー交響楽
団~コンサートマスター松浦奈々に話
を聞いた

満員札止めのザ・シンフォニーホールに、カーチュン・ウォン指揮、日本センチュリー交響楽団の奏でるシェヘラザードが鳴り響いた。
第4楽章のラスト、コンサートマスター 松浦奈々が「シェヘラザード」の主題を演奏後、フラジオレット(弦を指で軽く触れる程度で弾き、倍音を鳴らす奏法)で音を伸ばす裏で、低弦がシャハリヤール王の主題を静かに演奏。最後には両者が分かり合った事を暗示するように静かに曲は終了。つかの間の静寂の後、大きな拍手がホールに鳴り響いた。
満員札止めのザ・シンフォニーホールの客席は壮観!  s.yamamoto
この日(2022年6月24日)、会場のザ・シンフォニーホールは補助席も含めて満杯。コロナ禍にあってホール使用に制限が有り、座席を市松模様に間引いていた時期も長く、こんなに人が入ったザ・シンフォニーホールを見るのは随分久し振りだ。「これはひとえにピアニストの牛田智大の人気によるところが大きいのでは⁈」「いやいや、カーチュン・ウォンの指揮を楽しみにしていたファンも多かったはず!」 など、開演前のホワイエではいろんな意見が飛び交っていたが、終演後、聴衆は口を揃えて、「今日のセンチュリーは凄かった!」と熱く語る姿が多く見られた。(掲載しているオーケストラ写真はすべて、この日の公演のモノを使用。カメラマン山本成雄氏による撮影。)
コンサートマスターとして、素晴らしいヴァイオリンソロを聴かせてくれた、松浦奈々に話を聞いた。

日本センチュリー交響楽団コンサートマスター松浦奈々  (c)H.isojima

―― 定期演奏会、お疲れさまでした。補助席まで満杯のザ・シンフォニーホールは如何でしたか?

今回は、カーチュン・ウォンさんと牛田智大さんの人気に助けられました。お二人には感謝しかありません。ザ・シンフォニーホールのステージから見る満杯の客席は格別。お客様の拍手が嬉しかったです。

カーチュン・ウォンと牛田智大の人気は絶大  s.yamamoto
―― カーチュン・ウォンさんは、昨年6月、コロナで来日出来ないジョセフ・ウォルフの代役でセンチュリーの定期デビューを果たされています。瑞々しいブラームスの響きが、コロナ禍にあって、気持ちを癒してくれるように感じました。あの定期は降り番だったのですか。

そうです。コンサートマスターは荒井英治さんでした。カーチュンさんとメンバーの相性が抜群に良かったと聞いていたので、今回ご一緒できるのを楽しみにしていました。

カーチュン・ウォンと日本センチュリ交響楽団の相性は抜群  s.yamamoto
―― お客さまはきっと、松浦さんがコンマスを務める「シェヘラザード」を楽しみにされていたのでしょうね。

実は「シェヘラザード」を弾く機会が多く、ここ1年の間で、今回が3回目です。昨年2021年9月の三重特別演奏会は、飯森範親さんの指揮で、今年の3月の豊中名曲コンサートは、秋山和慶さんの指揮で弾きました。ヴァイオリンに限らず、管楽器のソロも多い曲ですが、私自身はコンチェルト的に弾くのではなく、アンサンブルを重視して、よりコンサートマスターに徹して弾くようにしています。
「アンサンブルを重視して、よりコンサートマスターに徹して弾きました。」   s.yamamoto
楽しそうにヴァイオリンを弾く姿が印象的なコンサートマスター松浦奈々  s.yamamoto
―― 素晴らしかったです。外に向かって、バーンと「私の話を聞いて!」という感じじゃないので、逆に「なんだって?」と耳をそばだてて聴こうとするそんな「シェヘラザード」の語り口でした。
カーチュンさんは話に聴いていた通り、素晴らしかったです。何と言っても頭の良い方で発想がとってもユニーク!常にオケの良いところを引き出しながら、自分のアイディアと照らし合わせてオケを鳴らそうとしている印象でした。これからが益々楽しみですし、またご一緒したいです。

演奏終了後、カーチュン・ウォンとグータッチするコンサートマスター松浦奈々  s.yamamoto
カーチュン・ウォンとメンバーから称賛されるコンサートマスター松浦奈々  s.yamamoto

―― 牛田さん人気は凄いですね。牛田さんのショパンのコンチェルト第1番は如何でしたか?
まず音色がとても美しかったですね。牛田さん独特のショパンの節回しも素敵だなと思いました。とっても真面目な方で、オケの音をよく聴きながら弾いてくださっていましたね。
ホール中に牛田智大の美しいサウンドが鳴り響いた  s.yamamoto 
―― 牛田さんとカーチュンさんのファンの方にも、センチュリーの実力をアピールできたのではないでしょうか。このところのセンチュリーは絶好調。先日の豊中名曲コンサート(2022年6月豊中市立文化芸術センター)もほぼ満杯だったと聞いています。2020年度に続き昨年度実施されたクラウドファンディングも連続達成。今年度から始められた送迎バスサービスも、学生年間パスポートも絶好調と聞いています。
ありがとうございます。そうですね、送迎バスのサービスは多くのお客様に喜んでご利用いただけているようです。学生年間パスポートも100名ほどのお申込があったと聞いています。若い方が安価に本物の音楽に触れてもらえるのは嬉しいですね。コロナ禍以降、楽団の状況は厳しいものでしたが、その中でも事務局、楽員も皆、なんとか楽団を盛り立てていきたい!という気持ちで、自分たちに出来ることを考え続けてきました。
―― 色々なアイデアが上手くハマっていますね。恒例の「星空ファミリーコンサート2022」、今年も開催されるのでしょうか。
はい、毎年続けているコンサートで、今年で27回目になります。年に一度のお祭りみたいなこの2日間は、豊中の夏の風物詩としてご家族連れや近隣の方々が楽しみに来てくださいます。解放感いっぱいの野外コンサートをどなたでも気軽にお越しいただける形で開催したいと、入場無料で開催を続けています。このコンサートを成功させるために、昨年同様に豊中市のふるさと納税の仕組みを使ったクラウドファンディングによるご支援を募っています。皆さま、どうぞ温かいご支援をよろしくお願いいたします。
星空ファミリーコンサート2021(2021.8 服部緑地野外音楽堂)  写真提供:日本センチュリー交響楽団
―― なるほど、これからもセンチュリーの動きから目が離せませんね。ところで松浦さんがヴァイオリンを始められたのはいくつの時ですか。
7歳、小学校2年生です。同級生がやっているのを見て羨ましくて親に頼みました。6年の時に工藤千博先生に習い始めて、ヴァイオリンを弾く楽しさに目覚めました。将来、ヴァイオリン弾きになりたいと思い始めたのはその頃からです。
しなやかな身のこなしと、素敵な笑顔が魅力のコンサートマスター松浦奈々  (c)H.isojima
―― 工藤千博門下には、優秀な門下生も多いですね。
現在、読売日本交響楽団のコンサートマスター長原幸太さんは、憧れのお兄ちゃんという感じでした。私がレッスンを受けているのを、奥様の小栗まち絵先生がご覧になられていることが多く、お二人から習ったことがある人は、関西出身のヴァイオリニストが多いと思います。
―― 高校は桐朋女子校に進まれました。
元東京カルテットの原田幸一郎さんに師事したことで、弦楽四重奏が楽しくなり、大学時代は本気で留学を考えたほどでした。今でも弦楽四重奏をベースに、仲間と室内楽は続けています。
首席奏者による弦楽四重奏、“センチュリー・ジャズ・ナイト”(2018.7 豊中市文化芸術センター小ホール) 写真提供:日本センチュリー交響楽団
―― センチュリーに入団されたのは2011年ですね。
フリーで活動していたのですが、仕事の基盤を持ちたいと思い、アシスタントコンサートマスターとして入団しました。そして2015年にコンサートマスターになりました。
―― 内部からコンサートマスターに昇格するのは珍しいケースだと思うのですが。
そうだと思います。センチュリーはメンバーの当事者意識がとても強い楽団。私がやりたいことを声高に叫ばずとも、皆で音楽を作っていこうという姿勢があります。私は空気となって、自然に音楽が出来るのをサポートする感じです。全体のバランスを考えて、この楽器がこうやりたいのなら、こっちで調整するか。といった具合に、楽器間の橋渡しをしています。コンサートマスターの役割は多く、もしも演奏中に事故があって、演奏が崩れた場合、どこで立て直すか、どの楽器のどの部分から?といったことを先読みしたり、緊張の連続なのですが、楽団での経験も長くなり、演奏中にはメンバーがワタシを見てくれているという絶対的な安心感が持てるようになり、随分気持ち的に余裕が出て来ました。
「演奏中にメンバーがワタシを見てくれているという絶対的な安心感があります。」  s.yamamoto
―― 松浦さんが感じるオーケストラの課題のようなものはありますか。
センチュリーは小編成のオーケストラですが、ブルックナーなんかも比較的演奏する機会が多いオーケストラです。ブルックナーのトレモロは、やはり大人数で弾くと立体感が違うので、センチュリーのような小編成のオーケストラなら、弦楽器特にヴァイオリンは、楽器の裏板まで鳴らせるようになると良いのになぁと思っています。あと、ハイドンマラソンなどは、演奏する曲が多いので、体力は大事ですね。
この日は満席のクワイア席に向かってもお辞儀。それにしても、この盛り上がりは…  s.yamamoto
―― お客さまにメッセージをお願いします。
いつも温かいご声援をありがとうございます。以前から応援し続けてくださる会員の皆様にも、そしてこれからセンチュリーのファンになってくださる方々にも喜んでいただけることを、今後も考えていきたいと思います。どうぞこれからも日本センチュリー交響楽団をよろしくお願いします。コンサート会場にもお越しください。お待ちしております。
カーチュン・ウォン指揮、日本センチュリー交響楽団  s.yamamoto
取材・文=磯島浩彰

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