劇団papercraft 主宰・海路に聞く~
第5回公演『殻』は「初めて不条理を
意識して書いた作品」

2022年2月16日(水)~2月20日(日)浅草九劇にて、劇団papercraft第5回公演『殻』が上演される。
劇団papercraftは2020年の旗揚げ公演が新型コロナウイルス感染症の影響により延期となったが、その後オンライン公演などで着実に公演を重ねて、独特な世界観の物語で話題を呼んできた。
男女4人でルームシェアをして暮らす主人公が、無意識でものを捨ててしまう「ぽいほい病」という病気になってしまうという今作について、作・演出で劇団の主宰でもある海路に話を聞いた。

■ドラマを書きたくて通ったシナリオライター講座で“師匠”との出会い
ーー海路さんは2020年、20歳でご自身が主宰の劇団を立ち上げました。演劇をやるにあたり、影響を受けた作品はありますか。
演劇では、劇団た組の加藤拓也さんの作品です。まだ演劇を全然やっていなかったときに加藤さんの作品を初めて見て、「こういう演劇があるんだ」と衝撃を受けて、こういう演劇だったら自分もやってみたいと思いました。あと、僕は『ごくせん』などを書かれた脚本家の江頭美智留さんのことを勝手に師匠と思っているんですけど、先日江頭さんが脚本を書かれた舞台を見に行ったときに、本当にびっくりするぐらい僕のホンの作り方が江頭さんの作り方とそっくりなんだということに気が付かされたんです。江頭さんから脚本のことをいろいろ教えてもらってきたし、江頭さんの作品もたくさん見てきたので、影響を受けているのは確かなんですけど、でも改めて僕のベースは江頭さんなんだな、ということを思い知りましたね。
ーー海路さんは劇団を立ち上げる前、18歳のときにシナリオライター講座に通われています。
元々、ドラマを書きたいと思って通い始めた講座で、江頭さんとの出会いもそこでした。江頭さんが舞台のお仕事も結構されていて、脚本のアイディアを募集していたときに提出してみたら「いいね」と言ってもらえて、江頭さんがプロデューサーで僕が脚本家という形でそのアイディアを脚本にするためにしごかれたことで、本当に多くのことを教えていただきました。
劇団papercraft第5回公演『殻』さいとうなり

■作品を見た後で2日3日くらいは引きずってもらいたい
ーー海路さんの作品は、設定がかなり特殊なことが多くて毎回驚かされます。脚本を書くときは、どういうところから着想を得るのでしょうか。
そうですね……目に入ったものとか、 パッと頭に浮かんだものがあったとして、それに何を足したら面白いのかな、という足し算、時によっては掛け算の組み合わせをひたすら考えていく、というイメージですかね。今回上演する『殻』という作品の場合は、「物を捨てる」という一個のアイディアだけがまず浮かんで、そのアイディアを生かす面白い設定がないかなと考えるところから始めました。「物を捨てる」と言うと例えば「ゴミ箱」とかが連想で出てくるけれど、そういう関連づいたものとは全然違うところ、正反対のところから組み合わせるものを引っ張って来たい、ということはいつも意識しています。
ーー驚きの設定で理解するのに時間がかかる部分はありますが、でも話が進むにつれていつの間にかその世界に引き込まれて、ただの絵空事ではなくてリアルに感じられる瞬間があるところが面白さだと感じました。
そうですね、公演を見てくれたお客さんからは「本当にこういう世界があるんじゃないか」と思わされた、と言われることがあります。自分としてもそういうふうに作りたいという気持ちはあります。特にここ1年くらいは、個人的な問題とか思っていることを設定に隠して紛れ込ませていて、自分により近い作品を書くようになっています。逆に、個人的すぎる問題だからこそ意外と汎用性が高かったりするのかな、という気もしました。
劇団papercraft第5回公演『殻』今川宇宙
ーー海路さんが感じている等身大の思いが反映されているからこそ、見ている人も設定に入り込みやすいのかもしれませんね。あとは、描かれているテーマが現代社会に生きる人間の矛盾点を鋭く突いていてはっとさせられます。
作品を作るうえで、以前まではメッセージとかテーマがあって「こうだよね」って提示するみたいな感じで作っていたんですけど、ここ最近、去年の作品は特にそうなんですが、自分が抱えている今の悩みだったり矛盾だったり、自分では答えが出せなくてどうにもならなくて身動きが取れなくなってしまっていることを、お客さんも一緒に同じ気持ちになって欲しい、ぐらいの気持ちで書いてるところはありますね。答えの出ないことをテーマにしてしまうことが多くて、でもそっちのほうがお客さんも見終わった後に引きずってくれるかな、という気もしていて。
ーー海路さんの作品を見終えたとき、普段使っていない思考を混ぜ返されたような感覚で、頭が軽く混乱しているような状態になりました。まさに今おっしゃったようにしばらく作品の内容を引きずってしまいますが、そこが海路さんの作品の魅力にも繋がっていると思います。
舞台を見終えて「面白かった」って言ってもらえるだけでももちろん嬉しいけれど、作品を作るまで時間も労力もすごくかかっているわけで、それをせっかく見てもらえたのに見終えた10分後には忘れられてしまったらちょっと嫌だな、って個人的には思っていて。だからせめて2日3日くらいは引きずってもらいたいな、って(笑)。
劇団papercraft第5回公演『殻』神田聖司

■「見世物」じゃなくて「出来事」として作品をお客さんに提示したい
ーー今作もそうですし、2020年12月に劇団の番外公演として上演された『たかがバス停、されど待つ時』もそうでしたが、役者が客席に語りかけて舞台上と客席、虚構と現実の境界線を曖昧にするような演出も印象的です。
お客さんと演者の間を「見る」と「見せる」の関係じゃなくて、お客さんが目の前で起きていることを目撃するという形で作りたいなということはいつも考えています。「見世物」じゃなくて「出来事」として、目の前で作品を立体化させたいんです。
劇団papercraft第4回公演『椅子に恋した娘』舞台写真
今作に関しては、不条理劇をやりたくて書きました。でも、いつも一緒にやっているスタッフさんに「今回初めて不条理を書いてみました」って言ったら、「海路さんの作品はいつも不条理だと思ってました」って言われました(笑)。これまでの作品も不条理だったのかもしれないけれども、今回が初めて不条理を意識して書いた作品です。
ーー今作はこれまでの作品とどこか漂っている空気感が違う気がしたのは、海路さんが不条理をはっきり意識して書いたという、そのあたりが影響しているのかもしれませんね。
平田オリザさんとか岩井秀人さんとか加藤拓也さんとか、あとは宮藤官九郎さんとかもそうですけど、作品を見ていても、独自のコアな「面白い」の物差しを持っているイメージがあります。人間のこういう瞬間が面白い、みたいな。僕独自のコアな「面白い」の物差しは「不条理」なんじゃないかな、と思って今回意識して書いてみたら、やっぱり自分の好きな世界観だと思いました。今回キャストの方たちも、本当に素敵なメンバーが集まってくれましたし、見に来てくださる方がどんな思いを引きずって劇場を後にしてくださるのか、僕自身も楽しみにしています。
劇団papercraft第5回公演『殻』野島健矢
取材・文=久田絢子

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