【映画コラム】夫婦や結婚、創作活動
をシニカルかつコミカルに描いた『先
生、私の隣に座っていただけませんか
?』『ブライズ・スピリット 夫をシ
ェアしたくはありません!』
今回は、9月10日から公開される、夫婦や結婚、創作活動についてシニカルかつコミカルに描いた映画を2本紹介しよう。
夫婦の虚と実のやじろべえはどちらに傾くのか『先生、私の隣に座っていただけませんか?』
漫画家同士の佐和子(黒木華)と俊夫(柄本佑)の夫婦。だが俊夫は漫画が描けなくなり、佐和子のアシスタントをしながら、編集者の千佳(奈緒)と不倫をしていた。
そんな中、佐和子の新作漫画の原稿を盗み見た俊夫は、自分たちとそっくりな漫画家夫婦の姿に加えて、夫と編集者との不倫現場がリアルに描かれているのを知って驚く。そして、漫画には自動車教習所に通い始めた妻と自動車教習所の若い教官との恋も描かれていた…。
この漫画は現実の写しなのか、ただの妄想なのか、それとも俊夫に対する佐和子の復讐(ふくしゅう)なのか。漫画を読み進めていく中で、俊夫は恐怖と嫉妬におののき、現実と漫画との境界が曖昧になっていく。
監督・脚本は「TSUTAYA CREATORS’PROGRAM」で準グランプリとTSUTAYAプレミアム賞を受賞した堀江貴大。漫画家夫婦の虚実を交えた心理戦を描きながら、映像と漫画が交錯していくところが映画ならではの表現として面白い。
また、ラストのどんでん返し(ここでタイトルが生きる)に至るまで、夫婦の虚と実のやじろべえが一体左右のどちらに傾くのかといったような謎があって、これもまた面白い。何より、俊夫の姿が滑稽に映る。
さて、この映画を見ながら、逆パターンではあるが、酔った勢いで結婚した妻(ビルナ・リージ)の始末に困り果てた漫画家(ジャック・レモン)が、漫画の中で妻を殺してうっぷんを晴らしていたが、それを見た妻は自分が殺されると勘違いして…という、『女房の殺し方教えます』(64)のことを思い出した。
幽霊を交えた奇妙な三角関係の生活『ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません!』
1930年代、英国のベストセラー作家のチャールズ(ダン・スティーブンス)は、脚本を書いて映画界への進出を狙っていたが、スランプに陥っていた。というのも、彼の小説は事故死した最初の妻エルヴィラ(レスリー・マン)が語ったアイデアをまとめたものだったからだ。
そんな中、面白半分に行った降霊会で、霊媒師のマダム・アルカティ(ジュディ・デンチ)がエルヴィラの霊を呼び戻してしまう。
再びエルヴィラのアイデアを聞くことができて、チャールズはスランプを脱するが、新しい妻のルース(アイラ・フィッシャー)は面白くない。やがて彼らの奇妙な三角関係は意外な結末を迎える。
元祖マルチタレントとも呼ぶべきノエル・カワードの原作戯曲は、後に『アラビアのロレンス』(62)などで、スペクタクル映画の巨匠と呼ばれたデビッド・リーンが、若き日に監督した『陽気な幽霊』(45)をはじめ、何度も映画化やドラマ化がなされているが、今回は、テレビシリーズ「ダウントン・アビー」の監督の1人であるエドワード・ホールが映画化した。
もちろん、今の時代に昔の舞台劇をそのまま映画化しても能がないので、男女の力関係などに現代風のアレンジを施しながら、アールデコ調の大邸宅を舞台に、古典的な艶笑喜劇の再現を試みている。ただ、華麗なファッションなど、映像的にはこの映画の方が優れているのだが、粋なコメディーという点では、オリジナルの『陽気な幽霊』にはかなわなかったのが残念だ。(田中雄二)
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