大阪交響楽団、クラウドファンディン
グに挑戦中!その先に見える41年目の
シーズンとは~楽団長の二宮光由に聞

2020年に楽団創立40周年を迎えた大阪交響楽団。
華やかなはずのアニバーサリーイヤーは、新型コロナの影響で完全に水を差された感じに。ナマの音楽が消えてしまうという前代未聞の局面を経て、漸くここまで戻っては来たが、中止や延期により1年間の事業規模のおよそ25%にのぼる1億2000万円もの減収を被り、大変厳しい経営を余儀なくされている
そんなシーズンにあって、過去のシェフが登場する「大阪交響楽団40年の軌跡メモリアルシリーズ」は、中止や延期も無く、何よりも出演を予定していたシェフの誰一人欠けることなく行われた。
音楽が出来ることが当たり前では無いことに気付いた音楽家は強い。創立者・敷島博子が語る「聴くものも、演奏するものも満足できる音楽を!」を胸に、音楽出来る喜びを全身で表現する彼らの演奏も、喜びに溢れていて熱い。
そんな大阪交響楽団が現在、演奏と同様に全力で取り組んでいるのが、クラウドファンディングだ。
楽団として初の取り組みとなったクラウドファンディングについて、そして、41年目のシーズンについて、楽団長・インテンダント二宮光由に、あんなコトやこんなコトを聞いた。
大阪交響楽団の楽団長・インテンダント 二宮光由     (c)H.isojima
―― さんざんな40周年でしたね。
本当に。とんだ40周年になりました。
―― 少しでも損失分の補填に当てようと、クラウドファンディングを行われています。
はい、今年の1月12日から2月27日までの期間で実施しています。多くの方にご協力を頂いていますが、ちょっとタイミングが悪かったかもしれませんね。大阪の4つのオーケストラのうち、関西フィルハーモニー管弦楽団さんと日本センチュリー交響楽団さんは、昨年中に受付を終了していますし、大阪フィルハーモニー交響楽団さんは現在、同時進行中…。ただ、リターンの商品には工夫を重ね、メンバーのCDなども出品しています。2000円から参加いただけますので、特設サイトを覗くだけでも、ぜひお願いします。正直、まだまだ目標金額には程遠いといった感じです。どうぞ引き続きご協力をお願い致します。
この写真が目印。大阪交響楽団のクラウドファンディングは現在実施中!     (c)飯島隆
―― では来シーズンの主催公演について教えて頂けますでしょうか。
定期演奏会が8回に、名曲コンサートが5回、こちらは昼と夜の2回公演となっています。
―― その主催公演について詳しくお話をうかがいします。シーズンのスタート、4月の第247回定期は、オーラ・ルードナーから始まります。
オーラ・ルードナー
はい、大阪交響楽団のファンの方なら、オーラ・ルードナーのことはよくご存知だと思います。本当は、昨年5月の定期演奏会で、歴代のシェフに交じってシーズン最初の定期演奏会を指揮して頂くはずだったのですが、コロナで延期になりました。延期となった演奏会自体は、今月18日に開催します。本人はまだ来日できる状態ではなく、指揮者は矢崎彦太郎さんに変更となっています。4月の「4オケの4大シンフォニー2021」も彼に指揮してもらう予定です。ソリストのパヴェル・ゴムツィアコフは、関西フィルの定期演奏会にデュメイがソリストとして指名したチェリストなので、聴かれた方もいらっしゃるかもしれませんね。難曲のショスタコーヴィチの1番をお願いしました。それに合わせるように、メインはチャイコフスキーの交響曲第5番。昨年リリースした外山雄三さんのCDと比較してお聴き頂くと面白いと思いますよ。
パヴェル・ゴムツィアコフ(チェロ)
―― 7月の第248回定期は、正指揮者の太田弦さんの指揮で、ウィーンフィルの人気奏者との共演が楽しみです。
はい、クラリネットのダニエル・オッテンザマーとファゴットのソフィー・デルヴォーとの共演です。ウィーンフィルは昨年、コロナ禍の来日で話題を集めましたが、今回はソリストとしての来日。お二人にはそれぞれ、モーツァルトの協奏曲を演奏して頂いた後、リヒャルト・シュトラウスの二重コンチェルティーノを演奏して頂きます。この企画、1994年にウィーンフィルのフルート奏者シュルツとベルリンフィルのオーボエ奏者シェレンベルガーが、それぞれモーツァルトの協奏曲を吹き、あの時はチマローザのオーボエとフルートの協奏曲をやったのを聴いて、すごく格好良かったので、いつかやってみたいと温めていた企画でした。
ダニエル・オッテンザマー(クラリネット) (c)julia stix

ソフィー・デルヴォー(ファゴット) (c)Benjamin Brinckmann
この公演を指揮する、正指揮者の太田弦さんからメッセージを預かって来ました。

「クラリネットコンチェルト以外は初めての曲ばかりです。世界を代表するクラリネットとファゴットのスーパースター二人と、一生振ることはないくらい珍しいドッペルコンチェルトを共演出来るまたと無い機会で、楽しみです。モーツァルトは天才的すぎる印象があり、デビュー当時は苦手意識がありましたが、ある事がきっかけで、今はとても好きになりました。気楽に構えずに取り組めると思います。シュトラウスは演奏機会が多くはなく、どのような演奏になるか楽しみです。」
大阪交響楽団正指揮者 太田弦     (c)飯島隆
―― コロナ禍の中、何とか無事の来日を願うばかりですね。7月の第249回定期は、こちらもお馴染みガブリエル・フェルツです。
フェルツも大阪交響楽団のファンの皆さまには、大変馴染みのある指揮者だと思います。一昨年のブルックナー交響曲第4番「ロマンティック」が素晴らしかったので、今回はブルックナーの交響曲第5番を依頼したところ、「おお、いいね!」と二つ返事をもらいました。大阪フィルの朝比奈隆さんが亡くなった後、いち早く関西のオーケストラで禁断のブルックナーを取り上げて来たのは大阪交響楽団です。児玉宏さんの指揮でとても良い評価も頂きました。5番はとても大きな曲ですが、フェルツとなら皆さまをアッと言わせる演奏になるはず。ご期待ください。
ガブリエル・フェルツ
―― ブルックナー交響曲第5番、1曲プログラムですか。これは楽しみです。そして9月の第250回はグイード・マリア・グイーダの指揮。このところ、関西二期会のオペラでご一緒されています。
グィード・マリア・グィーダ
はい。関西二期会のプロダクションでご一緒して、イタリア物が素晴らしいのはもちろんなのですが、ご本人曰く、ドイツ物も得意だそうで。そりゃそうですね、長くジュゼッペ・シノーポリのバイロイト音楽祭でアシスタントをやられていたぐらいですから。リヒャルト・シュトラウスの交響的幻想曲「イタリアより」もブラームスのピアノ協奏曲第2番も、共に作曲家自身のイタリア旅行からの創作意欲によるもので、イタリア人ながらドイツ物も得意とするグイーダの真骨頂ともいえるプログラムです。
―― ブラームスのピアノ協奏曲第2番のソリストが気になります。
キム・ヒョンジュンは、2016年の仙台国際音楽コンクールの覇者です。コンクールでブラームス2番のコンチェルトを弾いています。テクニックは申し分なく、打鍵力もあるのでこの大曲のソリストに抜擢しました。皆さまご自身の目と耳で確認なさってください。
キム・ヒョンジュン(ピアノ)
―― 10月の第251回定期は、2020年に名誉指揮者に就任された外山雄三マエストロの指揮ですね。
名誉指揮者 外山雄三     (c)飯島隆
ブラームスの交響曲第2番と第4番をお届けいたします。ミュージック・アドバイザーの期間中から「オーソドックスな作品を取り上げたい!」と意欲的でしたが、この2作品を演奏すればベートーヴェンに次いでブラームスの交響曲も全曲演奏を達成。今年卒寿を迎える熟練のタクトが紡ぎ出すブラームスの調べをお楽しみください。
―― 12月の第252回定期は、先日のびわ湖ホールオペラ「魔笛」でご一緒されていた阪哲朗さんが指揮をされます。
阪さんに定期演奏会を指揮していただくのは、2015年の4月以来となります。阪さんが是非にとリクエストされたのが、ドイツの作曲家クルト・ヴァイルの交響曲第2番。ベルトルト・ブレヒトの「三文オペラ」の音楽をはじめ、劇音楽の作曲家と知られていますが、日本ではあまり馴染みがありません。交響曲第2番は彼の作品の中でも、比較的演奏される機会の多いメランコリックな作品です。ソリストはピアニスト菊池洋子さん。先日、名曲コンサートでモーツァルトの協奏曲の弾き振りをされましたが、これが大変好評でした。中止となった昨年6月の第240回定期に出演予定でしたが、仕切り直しで再度お願いをし、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番を演奏して頂きます。
阪哲朗   (c)Florian Hammerich

菊池洋子(ピアノ)    (c)Yuji Hori
―― 来年2月の第253回定期は、熱狂的なファンを持つ吹奏楽の巨匠・汐澤安彦さんが大阪交響楽団の指揮台に初登場です。

2年前に初めて広島交響楽団を指揮される姿を拝見したのですが、凄かった!外山さんと方向性は似ていますが、アプローチの仕方は違う印象を持ちました。実は、この演奏会の2週間前に、オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラを指揮されます。せっかくなので、シオンさんと相談して、コラボしましょうという事で、ボロディンの「イーゴリ公」より“だったん人の踊り”を共に演奏する事にしました。“だったん人の踊り”を管弦楽版と吹奏楽版で聴き比べる絶好の機会。こちらはチャイコフスキーの交響曲第4番をメインにした、オールロシアプログラムですが。
汐澤安彦
―― シーズン最後、2月の第254回定期演奏会は、2度目の登場となるジョナサン・ヘイワードです。
前回は2018年10月ですが、前半がバーンスタインの交響曲第2番「不安の時代」ほか、後半がショスタコーヴィチの交響曲第5番という、彼の長所が活きたヘビー級のプログラムで、とても評判が良かったです。今年の1月から北西ドイツフィルの首席指揮者に就任。ネルソンスや上岡敏之が務めたポストだけにとても注目されています。今回のプログラムはシューマン交響曲第2番とプロコフィエフのバレエ音楽「ロメオとジュリエット」より抜粋。メインは得意な派手目な音楽ですが、前半のシューマンはドイツのオーケストラのシェフとしては、避けては通れない作品だけに楽しみです。
ジョナサン・ヘイワード
―― 定期演奏会は年8回のラインナップとしては、とてもバラエティに富んだプログラムですね。大巨匠から新進気鋭の音楽家まで、聴き応えのある音楽が並びました。
もう一つの主催公演「名曲コンサート」はどんなラインナップでしょうか。
「名曲コンサート」は来シーズンも年に5回、1日2公演を行います。リーズナブルな料金で上質な名曲を堪能していただくコンサートを意識して、プログラムを作っています。
大阪交響楽団     (c)飯島隆
まず、シーズン最初の第116回名曲コンサートは、正指揮者太田弦さんの登場から始まります。こちらも太田さんのメッセージを預かっています。
大阪交響楽団正指揮者 太田弦     (c)飯島隆
「髙木凜々子氏は大阪交響楽団で何回か共演回数があり、また藝大の後輩でもあり、身近に感じるヴァイオリニストです。ベートーヴェンのコンチェルトは初めて取り組む曲で、資料を買い漁って研究を始めている途中です。指揮者よりヴァイオリニストの力量が試される曲だと感じています。ハイドンは、とても演奏してみたかった大好きな作曲家です。彼の作品には聴衆を飽きさせない凝った工夫がされており、エンターテインメントを感じます。もっと演奏されるべきだと個人的には思っています。交響曲第104番「ロンドン」は大学1年生のときにオーケストラを使ったレッスンがあり、あみだくじで私が選ばれ、指揮することになった思い出の曲です。どうぞご期待ください。」
ハイドンは太田さんからの強い希望で実現しました。そして、ベートーヴェンをお願いした高木凛々子さんは、2018年の東京音楽コンクール第2位の実力者。彼女の実力を引き出して、どんな演奏を聴かせてくれるのか、まさに正指揮者の真価が問われるプログラムだと思います。
高木凛々子(ヴァイオリン)   (c)Naoya Yamaguchi
―― 太田さんも正指揮者就任3年目のシーズンです。真価が問われる!とは、まさにですね。楽しみです。他はどのような感じでしょうか。
7月の第117回は、ガブリエル・フェルツです。定期演奏会ではブルックナーの交響曲第5番ですが、こちらでは、モーツァルトの後期シンフォニーをお届けします。第39番は2019年に、ブルックナーの「ロマンティック」と一緒に演奏していますので第40番、第41番「ジュピター」と、第38番「プラハ」を組み合わせました。
8月の第118回名曲コンサートは、第18回東京国際音楽コンクール〈指揮〉で第2位と聴衆賞を受賞した横山奏さんの登場です。2016年シドニー国際コンクールの覇者アンドレイ・ググニンをソリストに迎え、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番と、ドヴォルザーク交響曲第8番をお聴きいただきます。
横山奏

アンドレイ・ググニン(ピアノ) (c)Anna Shlykova
―― 11月の第119回名曲コンサートは、大井剛史さんの指揮で、オール・チャイコフスキープログラムですね。

第7回仙台国際音楽コンクールの覇者、韓国のチェ・ヒョンロクがコンクールの本選でも演奏したチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を演奏します。メイン曲は同じチャイコフスキーで、交響曲第6番「悲愴」です。
大井剛史    (c)K.Miura

チェ・ヒョンロク(ピアノ)
そして2022年の1月は、再び登場のオーラ・ルードナーの指揮で、ウィンナ・ワルツの数々をお楽しみいただきます。プログラムは、ルードナーが4月にやって来た時に話し合う予定です。

―― 大阪交響楽団の「名曲コンサート」は、始まった当初、大ブームになりました。名曲の数々をリーズナブルに楽しめる。しかも、オーケストラが同じ曲を1日に2回演奏する!というのもセンセーショナルな話題となりました。
5回のセット券がS席で15000円、A席12500円、B席7500円と、大変お求めやすくなっています。それでいて指揮者もソリスト超一流!これからクラシック音楽を聴こうと思われている方はには、うってつけのコンサートだと思います。
―― 大阪交響楽団というと、シェフ不在の期間が長いように思います。前音楽監督の児玉宏さんが楽団を離れたのが2016年3月。4月から外山雄三さんがミュージック・アドバイザーを4年間務められ、今年から名誉指揮者に就任されました。コロナの事もあるとは思いますが、どんな状況でしょうか。
ずっと誰か居ないか、この人はどうかなど、内部では話し合っていますが、なかなか決まりませんね。ただ、児玉さんの後の4年間は、外山さんがオーケストラの再構築をした頂いた期間だったので、シェフがいないという発想は有りませんでした。本当なら、今年は是非モンで動くところだったのが、コロナの影響で延期と中止の嵐で、そちらに手を取られていた感じです。何とか、来シーズン中に新しいシェフが発表できると良いのですが。今しばらく、お待ちください。
―― シェフの件もそうですが、二宮さんが楽団長をお辞めになるのではという噂を耳にしました。そんなハナシがあるのでしょうか。
大阪交響楽団の楽団長・インテンダント 二宮光由     (c)H.isojima
どこでそんな話を(笑)。そうですね、この機会だからいいでしょう。この6月に理事会と役員総会があり、今年は役員の改選期に当たります。そこで私は任期満了を以て再任はしないという事で、退任する予定です。2015年4月から楽団長・インテンダントに就任し、6年あまり。児玉さんから外山さんに体制が移って、改めて古典派などオーソドックスな作品を取り上げる事で、オーケストラの基礎固めが出来たと思います。来年度のシーズンは、まさにこのオーケストラのポテンシャルの高さを、皆さまに知っていただくシーズンです。スタッフも随分成長しましたし、私が抜けても良いのかと…。皆さまにはこれまで同様、大阪交響楽団をよろしくお願いします。
そして繰り返しになりますが、現在実施中のクラウドファンディングに、重ねてご支援をよろしくお願い申し上げます。その事がシェフ選びも、楽団の将来も、全てに直結しています。
――  二宮さん、ありがとうございました。大阪交響楽団の更なる飛躍と、二宮さんの今後のご活躍を祈っております。
大阪交響楽団をよろしくお願いします!     (c)飯島隆
取材・文=磯島浩彰

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