点々の階、囲碁に着想を得た『点転』
上演。初の首都圏公演も

大阪在住の作家・演出家の久野那美による演劇ユニット「階」。公演ごとに新しいユニット名を付けるのが、一つの特徴となっているが、今回は「点々(てんてん)の階」名義で、2017年初演の『・・・(てんてんてん)』を改訂した『点転』を上演。しかもこの作品で初めて、首都圏での公演を実現する。
『・・・』は、囲碁と小説とSFをミックスした、一風変わった会話劇。知人の葬儀にやって来た小説家は、以前作品の中で書いた、囲碁に似た架空の競技「点転」が、その知人の力で、今現実の競技として存在することを知る。一つの場所に点を打ち合い、名人級になると盤の大きさが海を超えるというその競技の話と、「ピンポイントの読者にしか意味のない」SF小説の話が重なり、思わぬ真実が明らかになっていく……。
前回公演(「蛸の階」名義)『行き止まりの遁走曲(フーガ)』(2020年)より。 [撮影]竹崎博人
フィクションが現実を飲み込んでいく緊張感ただよう内容と、元は小学校の講堂という空間を利用したシアトリカルなラストシーンが好評を呼び、関西の一般観客たちが選ぶ「関西Best Act」で、2017年上半期の作品部門の第二位に選ばれている。
この評価の高さに加え、初演は大雪で会場まで来られなかった観客が続出したため、早めに再演を実現したという。初演からバージョンアップした『点転』は、『・・・』ではそれほど深く掘り下げなかった「SF小説」のパートと、二人の登場人物(黒靴の女と白靴下の男)の関係性がより詳しく描かれているそうだ。
久野からは、このようなコメントが届いた。
今回、階の公演史上初めて、出演者の中に初参加の俳優がいない公演です。
いつもは、「こんな風に創作したい」という方法を共有したり、「このメンバーだとどんなことができるか」を探るのに数ヶ月かけるのですが、今回はその作業をとばせるので、今このメンバーだからこそ創れる作品をなんとしても創りたいと思いました。
こんな風に創作できる機会を次にいつ持てるかわかりませんから。
ですので、再演版は、初演にくらべて圧倒的に俳優の仕事が重要かつハードな作品になっています。ストーリーの改編や台詞の大きな修正は行っていませんが、同じ時間の中で5人の登場人物それぞれにとっての別の物語が展開していること、つまり、同じ時間と空間と言葉を共有した別々の物語が舞台の上に存在していることが、客席からよりはっきりと認識できる作品になっていると思います。俳優は、自分の演じる登場人物を他人の物語の中に脇役的に存在させながら、かつ、自分中心の自分の物語の主役として70分を生きます。
まだまだ今も全員で摸索中ですが、公演当日には、5人の登場人物そして彼らの物語が、より魅力的に見える作品になっていると私は思っています。
点の階『・・・』(2017年) より。 [撮影]beni taeko
また、初演では公演協力に名を連ねていた、関西の囲碁棋士の所属団体「関西棋院」が、今回は「後援」と、これまたバージョンアップ。関西棋院のリモート囲碁教室に俳優たちがゲスト出演するほか、田村千明三段が劇中アナウンスを担当する。完全に変化球とはいえ、囲碁を題材にした物語は、演劇に限らずレア。とはいえ囲碁に詳しくなるのではなく「囲碁からこんな世界が広がるのか!」という驚きを味わうための舞台になるのは、この再演でも間違いはないはずだ。

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