乃木坂46のSF(少し不思議)少女・西野
七瀬 2度目のセンターは必然でしか
ない

 しかし本人の予測とは違って、5月11日に放送された『乃木坂って、どこ?』の9thシングル選抜発表で、2曲連続のセンターを務めることが決まった。6thシングル以降は白石麻衣、堀未央奈と1曲ごとにセンターが替わっていたことから、センターが常に変動することが「乃木坂の色」と考えていた人にとっては意外な結果だったかもしれない。だが、西野がセンターを務めることは今の乃木坂46にとって必然なのだ。




『気づいたら片想い』の特典映像『乃木坂の4人』では、松村沙友理、伊藤万理華、樋口日奈とともに、毎日の目標と反省を自撮り(映像)してくるように言われた時、即答した他の3人と違って西野だけは渋々了解する。しかし、その日に自撮りを送ってきたのは西野だけだった。

『乃木坂って、どこ?』でマカオタワー(233m)からバンジージャンプを決行したことでも明らかなように、西野は表面的には奥ゆかしいが心の内に意志の強さを秘めた女性なのだ。その強い気持ちは乃木坂46に加入してから、少しずつ表に出るようになってきた。

 子供の頃から「コミュニケーションをとるのが苦手で、友達を作るのが苦手だった」という西野。中学時代は「女の子同士特有の付き合いとか、面倒くさい関係が嫌やった」という理由でバスケ部をやめている。西野が自分を表現できるのは、授業中に落書きしている時や、家で絵を描いている時だった。頭の中で彼女だけのワンダーが広がっていった。
 
 高校に入学してすぐ、いつものように落書きしている時、ふと思いついて描いたキャラクターをクラスメイトに見せた。最初こそ「気持ち悪い」と言われていたキャラへの反応は、しだいに「かわいい!」に変わっていく。気づけば他のクラスにまで浸透するほどの人気者になっていたキャラが“どいやさん”だ。

 西野はどいやさんのことを「彼にはがんばってほしい」と、自分の手を離れた独立したキャラクターのように話すことがあるが、「口がないどいやさん」と「人前で話すことが苦手な西野」とはどこか似ている。西野はどいやさんを描きながら、自分自身と対話しているのかもしれない。

また、高校時代に入ったダンス部は「女の子同士特有の付き合い」がなく、居心地のいい場所だったという。どいやさんとダンス部で自分を表現できるようになった西野に、さらなる転機が訪れる。母が応募した乃木坂46オーディションだ。受かる自信はなかったものの、審査が進むうちに「ここまできたら落ちて大阪に帰るのは嫌やな」と思うようになって見事に合格する。

 ただ、乃木坂46に加入はしたものの、人見知りな西野は自分から前に出ようとはせず、しばらく目立つ存在になることはなかった。3rdシングル『走れ!Bicycle』で七福神に入ったものの、西野は「自分はここにおってもいいんかな」と場違いのように感じていたという。

 しかし、4thシングル『制服のマネキン』で七福神ではなくなって「入れ替わったのが自分だけだ」と気づいた時、西野の心の中で変化が起きた。悔しさで頭の中がグチャグチャになったことで、『制服のマネキン』ではいい意味で気持ちが表に出るようになったのだ。

 5thシングル『君の名は希望』では八福神には入れなかったが、西野は曲の世界観を理解したパフォーマンスができるようになっていた。MV『君の名は希望 DANCE&LIP ver.』の最後にタイトルが出て、西野のナチュラルな笑顔が映し出された時、乃木坂46に新たな希望が生まれたと感じた人も多かったはずだ。

6thシングル『ガールズルール』では再び福神入り。常に遠慮がちな姿勢は乃木坂46に入る前と変わっていないが、ライブでは自信をもったパフォーマンスができるようになっていた。「ライブでは一番目立ちたいと思うし、『なーちゃんの声がわかったよ』と言われたい」とも話している。

 7thシングル『バレッタ』ではフロントに、そして、最新シングル『気づいたら片想い』で初センターに抜擢。現在、西野は時折自信のない発言をしながらも、センターとしての役目を十分に果たしている。『気づいたら片想い』での、切なさの中に優しさと強さを覗かせるパフォーマンスは、人一倍繊細な西野にしか表現できないだろう。

 デビュー時から注目されていた生駒里奈や白石麻衣とは異なり、西野は乃木坂46の活動の中でパフォーマンス的にも精神的にも成長を遂げて少しずつ前に出てきたメンバー。西野は乃木坂46の歴史を体現したよう存在であり、観ている側の共感を喚起するアイドルなのだ。センターに立つことは必然といえるだろう。

 普段は弱気だけれど、いざという時はヒーローになる。藤子・F・不二雄が描く漫画の主人公のような西野が、9thシングルで乃木坂46を新たなフェイズに導いてくれるはず。今から期待せずにいられない。

大貫真之介 アイドルとお笑いを中心に執筆。乃木坂46写真集『乃木坂派』、『EX大衆』、『TopYell』、『日経エンタテインメント』、『an an』アイドル特集号、などで乃木坂46のインタビュー記事を担当した。

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