KERAと古田新太に4年ぶりの企みを聞
く 最新作『欲望のみ』は“新企画”
のブラック・コメディ

この二人にしかできない笑いを徹底的に追求してきたのが、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)と古田新太がタッグを組んで2007年にスタートした、KERA✕古田企画。第1弾の『犯さん哉』に始まり、2011年『奥様お尻をどうぞ』、2016年『ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~』と4~5年に1度のペースで上演してきた“ナンセンス三部作”に続く、今回の最新作ではこれまでとは少々味わいの違う“ブラック・コメディ”に挑戦するという。
キャストは小池栄子、秋山菜津子、大東駿介、近藤公園、尾上寛之、板垣雄亮、小柳心、福地桃子というこの企画に初参加の面々に加え、お馴染みのメンバー、大倉孝二、八十田勇一、入江雅人、犬山イヌコ、山西惇も健在だ。まだ台本もこれから書くという段階のなか、KERAと古田に今回はどんなことを企んでいるのか、語ってもらった。
ーー“KERA✕古田”としてはナンセンス三部作が終わり、今回は新企画だということですが。
KERA:新シリーズを始めるわけではなくて、とりあえず一本、違う路線のコメディをやろうということです。だけど、またナンセンスものがやりたくなるんじゃないかなという気配が既にあって。その場合は「ナンセンス三部作第4弾」として再開してもいいんだけど(笑)。
古田:ハハハ、いいですね。
KERA:ナンセンスって、台本を書くにしても出たとこ勝負みたいなところがあるんです。別にこの先どうなるかを考えなくても書けるものなので。でもその代わり、ナンセンスとしての……。
ケラリーノ・サンドロヴィッチ
古田:努力が必要になってくる。
KERA:そう、たゆまぬ血と汗の結晶から出来上がるものなので。他の芝居だったら不必要な圧倒的な努力が必要なんです。でももっと上、もっと上と思うと、どうしてもネタも尽きてくるので、とりあえず今回は小休止。ふるちん(古田)とは、しばらく演劇らしい演劇を作ってきていなかったので、ここでいったん演劇的なコメディをやっておこうかと。
古田:ちゃんと、ストーリーのあるやつをね。ということになると、『SLAPSTICKS(スラップスティックス)』(2003年)以来になるのかな。あの作品のあとに「ナンセンスなものをやりたいね、ちょっと演劇っぽいのが続いちゃったしね」と言って始めたのが、まさにこの企画ですから。
KERA:それで今回は最初、ブラックなんだけどきっちりとしたシチュエーションコメディ、ざっくり言うと“悪い三谷さん”みたいな作品もいいなと考えていたんだけど。昨今の状況に身をさらされてみると、もちろんストーリーのある演劇にはしたいんだけど、緻密な、よくできたコメディを作ってる場合でもないんじゃないかなという気持ちにもなってきているんです。
ーー現状を考えると。
KERA:だって世の中が今、非常にデタラメじゃないですか。そんなこともあって、タイトルは『欲望のみ』にしました。このタイトルだったら、どんなストーリーにもできるでしょ。
古田:そうですね。なんなら、欲望がなくてもいいわけだし。
KERA:欲望のみ、ないのかもしれないし(笑)。
(左から)ケラリーノ・サンドロヴィッチ、古田新太
ーー古田さんはKERAさんとお芝居を作るにあたって、どんなところに面白さを感じていますか。
古田:KERAさんの作るお芝居自体が好きだし、そもそも劇団健康の頃のナンセンスも大好きでしたから。この企画では特に、大倉(孝二)がこのカンパニーにいる時ならではのとてもイキイキしている姿がまた見られることも、オイラとしてはすごく嬉しいです。
KERA:それは誰もが思うことだね。大倉はこの企画に出演している時が、最もイキイキしている。昔、『噂の男』(2006年)という芝居をやったんだけど、今回はああいう感じのものになるかもしれないとも思っているんだ。あの舞台を観に来た池田成志が「なんでこんなにイヤな人物ばかり出てくるの?」って言っていたくらい、イヤな雰囲気の芝居だったんです。そう考えると、出演者の方々の心がしんどくならないかなという心配もなくはない。その点、ふるちんは全然平気だと思うけど。
古田:オイラは成志さんが嫌がる芝居が大好きだから(笑)。あの人、露悪な芝居が嫌いなんです。
KERA:「ひどすぎるよ、ひとりくらい、いい人がいてもいいのにさあ」って言ってた(笑)。
ーー古田さんからKERAさんにオーダーを出すこともあるんですか。
古田:いや、ない。なんにもない。
KERA:幸い、僕に対してはないね。他の人にはいろいろあるみたいだけど。僕には言っても無駄だと思われているのかも(笑)。
ーーどんなストーリーを考えているのか、少しヒントをいただけますか。
KERA:ストーリー案は何パターンかあって、そのどれでいくべきか、まだ考え中です。今回は出演者がいつもより若干多いこともあるし。
古田:この間、秋山なっちゃん(菜津子)に会ったら、「KERAさんと何をするわけ? ブラック・コメディって何なの? 黒い、面白い?」って言ってた(笑)。
KERA:秋山と一緒に芝居を作るのも久しぶりなんです。年齢を重ねるにつれて、秋山も求められる色がやや定着してきているようにも思うので、今回はそれとは違うものを演じてもらいたいんです。もちろん、得意だからこそ求められてるんだから、得意技も活かしてもらいつつ、別の面も見せられたらいいなと思っています。
ーー小池栄子さんも、この企画には初参加です。
KERA:小池とは、僕はあんまり久しぶりという感じはしないんだよな。『グッドバイ』(2015年)のあと『陥没』(2017年)にも出てもらったし。
古田:彼女は作品ごとにガンガンうまくなっていますから、今回も楽しみです。
(左から)ケラリーノ・サンドロヴィッチ、古田新太
ーー今回、古田さん自身はどのような感じで出てくるんでしょう。
古田:(KERA✕古田企画ではお馴染みの)ブリーフ姿では、ないんじゃないかな。
KERA:そうね。でもあれ、衣裳的にはすごくラクなんだよ(笑)。
古田:そうそう、いつもブリーフ一枚にコートをはおるだけだったから。
ーー古田さんが今回共演する中で、特に気になる方というと。
古田:近藤公園。舞台での共演はかなり久しぶりで、たぶん『キレイ』の初演以来なんじゃないかな。あの時のあまりのイケてなさが今ではもう、なくなっているんじゃないかなと思ってます。「イケてねえー」って言われるだけで、笑いが取れていた男だったのに。
KERA:そうだねえ。80年代から観てる人間としては、大人計画の人たちはみんな、嘘のようにきちんとしてきたからね。っていうか、昔がヒド過ぎたんだけど(笑)。
ーーイケてると今では思われているかも。
古田:自分でも、そう思ってたりして(笑)。
KERA:頼りにしてますよ、僕は。
ーー先ほどの大倉さんのほか、この企画にいつも出られている面々も多いですね。
KERA:いつもの人たちは、ナンセンスでもブラック・コメディでもなんでもできるから。だけどやっぱり、ナンセンスって特殊だよね。
古田:うん。だって山西(惇)さんとか、ナンセンスをやってても怖く見えちゃうんだから。この人、なんか裏があるんじゃないか? って。
ーー深読みしてしまいますね。
古田:そう。それで稽古場で何度も、怖っ! ってなってた。面白いことを言っているはずなのに(笑)。
ーーお二人は互いに、定期的に一緒にやりたくなる間柄なんですか。
KERA:そうですね。たとえばナイロン100℃でもナンセンス・コメディを作ることは可能なんです。それこそ昔はそればかりだったわけだから。だけど、古田ならではの身体性がここにはあるというか。これは動けるという意味での身体性というだけではなくて、この野蛮な感じというかさ(笑)。これって、ふるちんにしか出せないものなんです。同時に、なんかホッとするところもある。定期的に一緒にやることで、演劇ってなんでもアリなんだということを改めて提示してくれるから。「ああ、ここまでやっちゃっても全然大丈夫なんだ」って。だって振り返ると、ナンセンス三部作ってかなりヒドいことまでやれていましたから(笑)。
古田:逆にオイラも、KERAさんと一緒にやるとホッとするところがあるんです。自分の劇団(劇団☆新感線)では“押し芸”だけど、オイラは“引き芸”も好きなので。
古田新太
KERA:この“引き芸”というのが、なかなか認知されないものなんです。特段笑いにこだわりのない俳優が座組に多かったりすると大変。「ここはもう少し間があったほうが面白い」なんて言っても、わかってもらうのは難しい。多くの俳優がすぐセリフを言わないとテンポが悪くなるんじゃないかって不安になっちゃうみたいで。テンポが良いことだけが面白さじゃないのに。
古田:集中して芝居をしなきゃ! みたいな空気もありますし。もっと気が散ってたほうが、よそ見をしていたほうが面白いこともある(笑)。演劇の人って、変に目の前のことだけに真面目に集中しようとするじゃない。
KERA:演劇の人、って(笑)。
古田:笑いを取るのに、一斉にコケたりとか。そこで、ひとりだけ一歩遅れたほうが面白いじゃないですか。
KERA:ハハハ。
ーーそれって余裕とか、才能がないとなかなかできないことなのでは、とも思いますが。
KERA:あと、センスだね。お客さんが入って笑い声を聞かないと、そのセリフ、そのシーンがおかしいんだということに気付かない役者さんだっていっぱいいますから。
ーーお二人の顔合わせだと、今回もナンセンス劇をやるのかと思っている方もいそうですが。
KERA:そうなんです。だから、今回はそうじゃないんだということはゴシック体で言っておいたほうがいいかも。
ーーイヤな感じのコメディだと。
KERA:イヤな感じのコメディって、昔はもっと多かったんだけど。
古田:そうなんですよね。
KERA:小劇場のコメディなんて、半々だったんじゃない? イヤな感じと、イイ感じが。
古田:だいたい、イイ感じのコメディなんて、オイラは笑ったことがないですよ。
KERA:僕は両方作るけどね。どうしてもイヤな感じの方がワクワクする(笑)。
ーーそういう笑いが、どんどん少なくなってきている。
古田:とにかく、いじわるしちゃダメという風潮だから。
KERA:ひどい話だよ、作りごとの世界の中でもダメだなんて言われたらね。
(左から)ケラリーノ・サンドロヴィッチ、古田新太
ーー現実のほうがよほどひどいことが多いのに。
KERA:なんかもう、笑っちゃいますよ。めちゃめちゃ過ぎて、何が起こってもおかしくないご時世だから。
古田:しかも結構、引っ張るじゃないですか。もうその話題にはみんな飽きているんだけど、全然終わらない。
KERA:三振しているのに打席から出ない。審判さえも、三振してもあたりまえに試合を続けさせるみたいな空気になっている。または、犯人に決定的な証拠を突き付けて、普通ならそこで諦めるのに「だからなんだ」って開き直ってるような。「決定的な証拠が出た」、「いや、その証拠は本物かどうかまだわからない」って、延々やっている感じでしょ。
古田:ハハハハ。まるで、モンティ・パイソンだ。
KERA:かたくなな犯人(笑)。
古田:絶対に諦めない(笑)。
ーーそういう現実の中で笑えるものを作るのも難しそうですが。
KERA:いや、そういう時だからこそのコメディなんじゃない? 自分の人生、これまでも笑い飛ばすことであらゆる難関を乗り越えてこれたわけだし。
ーーKERA✕古田企画では、2011年の『奥様お尻をどうぞ』の時に結構なタブーに関することでもモチーフに使って笑いにしていて、見事だなと思いましたが。
KERA:今だったら、国会を匂わせるものをやったらお客さんは笑うんじゃないかと思いますけどね。その反面、今って本当になんにでも文句を言われるからなぁ。ほっといてくれと思うんだけど。
古田:演劇の場合は、お客さんの側に選択肢があるわけですから。ザッピングしていて、たまたま見ちゃったなんてことはあり得ない。
KERA:そうそう。だから、危険かもと思う人はむしろ避けたほうが安全かもしれない。
ーーそういう危険な笑いを含むかもしれない舞台だということも踏まえて、お客さんに向けてメッセージをいただけますか。
KERA:繰り返すけど演劇というものは、そもそも何をやったっていいものだと思うんです。特にふるちんとやるものに関しては「何をやったっていい」の最北端、極北にあるようなものなので(笑)。「ナンセンス三部作」よりは破綻のないものにはなるでしょうけど、どこか極端なものにはなると思います。こうした試みが好き勝手にできるということが演劇の喜びだと僕は思っているので、ぜひ楽しみにしていてほしいなと思います。
古田:演劇をやっている若い人たちに「おまえらが思っているものだけが演劇じゃないからな!」というのが、オイラからのメッセージです。これはいつも言っていることで、今回もそんな舞台を目指します。楽しみにしてくれている人たちはもちろん、ちょっと不安に思っている人とか、どうせ今回もパンツ一丁にコートで出てくるんだろと思っている人にも、ぜひ観に来てほしいですね(笑)。
(左から)ケラリーノ・サンドロヴィッチ、古田新太
取材・文=田中里津子 撮影=荒川 潤

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