【BUCK-TICK リコメンド】
キャリア35年のBUCK-TICKが挑む
“逸脱した音楽”とは
昨年末のツアー『THE DAY IN QUESTION 2019』で披露されたニューシングル「堕天使」。ストレートなロックで会場を盛り上げたが、そこには次のアルバムへとつながる実験的アプローチが散りばめられていた。そんな今作を今井 寿(Gu)が語ったキーワードをもとに紐解こう。
次作への序章となる
「堕天使」の実験的アプローチ
まず紐解くための材料として、前アルバムの『No.0』がどういう作品だったのか少し振り返ってみたい。このアルバム自体、特にコンセプトを設けず制作されたものだったが、生命の誕生を想起させる「零式13型「愛」」から始まり、終焉を歌う「胎内回帰」で締め括ることで輪廻する宇宙を作り上げた。そのサウンドメイクは、強いヴォーカルを前面に押し出し、バンドの生音と融合する同期音、そしてその隙間をノイズ音が埋め尽くすというとても緻密なものだった。
では、今回の「堕天使」はどうだろうか。一聴すると2019年に発表した「獣たちの夜」に通ずる、エッジの効いたストレートなロックナンバーだ。しかし、じっくりと聴いてみると実験的アプローチがそこここに仕掛けられているのが分かる。裏打ちのリズムが櫻井敦司(Vo)の粘りを付けたヴォーカルを効果的に聴かせるAメロBメロから、サビになると一転して表拍のリズムで疾走感を煽る。昨年開催されたツアー『THE DAY IN QUESTION 2019』で披露済みのこの曲は、櫻井が“カッコ良いロックです。ノリノリでお願いします”(12月19日大阪公演にて)と紹介していたが、初聴きでこのリズムを掴むのはなかなか難易度が高かったのではないだろうか。
また、この曲が面白いのは、イントロのギターリフも力強く、全体的にエッジが効いているのに、独特の浮遊感があるところ。“逸脱”のキーワードについてもう少し尋ねたところ、“意識して音数を減らした”と今井は語ってくれた。ところどころ入っていないベース音もそのひとつと言っていたが、それがこの浮遊感につながっているのかもしれない。
そして、もうひとつ、今回のレコーディングから新しいエフェクターがいくつか投入された。イントロから入ってくるシンセのサイン波のような音も、実はギターの音なのだそう。それらのエフェクターは『THE DAY IN QUESTION 2019』のステージ上でも駆使されていたはずで、そこで自ら体感した音は次作の制作に影響を与えるのではないかと期待している。
シャガールの絵を想起する
「Luna Park」の輝きと哀愁
次に櫻井の歌詞について。楽曲の軽快さとは裏腹に、破滅へのリビドーが凄まじい「堕天使」は《堕ちてゆくんだろう》と全体的に受動的なところも気になるところ。この歌詞は“自分の中に沸々とわく怒り”を言葉にしたと言う。その怒りも自分自身に向けたもので、“一番手っ取り早く傷付けられるから”だと語る。その表現手段は彼の持って生まれた性そのもので、歌い続ける核なる部分なのだろう。それを甘美なロックへと昇華させる手腕はさすがだ。
そして、「Luna Park」の歌詞だが、《ティーカップ》や《メリーゴーラウンド》、《CLOWN》とタイトル通り、遊園地やサーカスをイメージするワードが並ぶ。この楽曲を聴いた時に“シャガールの絵がイメージとして浮かんだ”と教えてくれた。シャガールは何度となくインスピレーションの源であるサーカスをモチーフに描いていて、夢や幻想だけでなく、哀愁や不穏な世相までもその中に落とし込んだ。まさに「Luna Park」もキラキラとした瞬間を切り取りながら、その裏に漂う寂寥感を感じることができる歌だ。エンディングにだけ入ってくるマイナーコードもその効果を増長させているのだろう。
こうして新たな手触りをもって生まれたこれらの最新楽曲たちが、次なるアルバムへどうつながっていくのか、楽しみでならない。
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