小谷嘉一、増田有華、大久保祥太郎に
ロングインタビュー オフブロードウ
ェイ・ミュージカル『bare』が約4年
ぶりに再演

オフブロードウェイ・ミュージカル『bare』が2020年1月30日(木)から草月ホール(東京都港区)で上演される。

 
青少年の性とアイデンティティへの葛藤、ドラッグへの誘惑を衝撃的に描いた本作は、2000年10月にロサンゼルスにて初演され、ロサンゼルス最優秀ミュージカル賞、最優秀作曲賞を受賞。ニューヨークのオフブロードウェイへ進出するにとどまらず、カナダ、オーストラリア、イギリス、ベルギー、韓国で上演。日本では、原田優一の演出で、2014年に中野ザ・ポケットで初演、16年に新宿シアターサンモールで再演され、今回で3度目の上演となる。
今回は、ジェイソン役の小谷嘉一、ピーター役の大久保祥太郎、アイヴィ役の増田有華に本作への意気込みや見どころを語ってもらった。
【あらすじ】
舞台は、カトリックの全寮制寄宿舎高校であるセント・セシリア高校。卒業式を目前に控えた生徒たちは校長である神父のミサで祈りを捧げている。
スポーツ万能で成績も常にトップ、女子生徒からも男子生徒からも絶大な人気と信頼を得ている高校のヒーロー・ジェイソンもその一人。ただ、彼には他人にはいえない秘密があった。それはルームメイトのピーターと同性愛関係にあること。入学当時からそのことは2人だけの秘密であった。カトリックの教えが絶対的に強い学校、地域だ。この秘密が明らかになった瞬間、彼らの居場所は無くなる。
しかし、生徒たちが盛り上がるレイヴパーティーの中でピーターは2人の関係を公にしたいと言い出す。必死に止めるジェイソンと納得できないピーター。そこからジェイソンとピーターは各々のアイデンティティに苦悩し、気づき、それぞれの決断をくだす。

宗教、同性愛など踏み込んだ題材を、丁寧に慎重に「bare=さらけ出す」
ーー本格的な立ち稽古はこれからということですが、まずは意気込みをお願いします。
小谷:僕自身はちゃんとしたミュージカルに出演するのは初めてなので、本当に緊張しています。キャストの皆さん、スタッフの皆さんがとにかくプロで、すごくて。何度も上演されている作品ですし、すごい緊張とプレッシャーの中やっています。足を引っ張ってしまうとは思うんですけども、この作品が今年最初の作品なので、精一杯できるように頑張りたいと思います。
小谷嘉一
増田:私は、再演、そして今回の再再演と2度目の出演なのですが、これだけコニーさん(※小谷嘉一のこと)も先ほど仰っていたんですが、プレッシャーがすごくて。この『bare』という作品が私にとってもすごく特別なんです。宗教的なものや同性愛といった踏み込んだ題材を扱っていますし、そもそもbareというのは「さらけ出す」という意味で、色々とさらけ出した作品になっているので、すごく慎重に丁寧に作っていかなくてはいけないなという部分があったりして。再演から3年経って、私も大人になったので、また違ったアイヴィを演じられたらいいなと思います。
 
大久保:初演、再演、そして今回と3回目。回数を重ねてきた分、作品が支持される理由があるじゃないですか。そこにプレッシャーがありますけれど、僕は6歳からこういう芸能の仕事をしていて、普通の中学・高校生活を送ってこなかったので、これを機に青春を……(笑)。それにしては切ないですけれど、青春を送れるように、フレッシュな気持ちで頑張りたいと思います。
ーーそれぞれジェイソン、ピーター、アイヴィを演じられます。この3人の関係性が物語の一つの軸になりますが、それぞれの役の印象や、今後どのように役づくりをしていきたいか、教えてください。
小谷:僕が演じるジェイソンは、クラスでも学校でも人気者。芸能活動をしている人から見ると共有してもらえることが多いのではないかなと思います。「人からこういう風に見られなくてはいけない」とか「本当の自分はこういう性格なのだけれど、世間一般的にはこういう姿である」という理想や憧れ、カリスマ的な存在を常に背負っている人間だと思っていて。
 
背負っているからこそ、ピーターとの愛も、ピーターは隠さずにいたいと言っているんですけど、ジェイソンはなかなか周りにカミングアウトができない。葛藤している人間なんです。その中でも、所々で選択肢をミスしてしまう、不器用なところがあるとも思っていて。本当はピーターが好きなのに、アイヴィのところに行ってしまったり、またピーターに戻ってきたりとか、そういった葛藤の嵐だと思うんですけど、最後、その葛藤が見えたら、この作品はもっと深まるのではないかなと思っています。
 
僕は今その葛藤に向き合おうとしていて、稽古はまだこれからなのですが、すごい難しいなとは思っています。だからこそ、チャレンジはしたいなと思います。
増田:アイヴィは役自体がものすごく高飛車に見られて、勘違いされやすいんです。学校のマドンナという役だし、それに若さもプラスされて自分の自己表現がなかなか上手くできない。劇中に『この子は』という曲があって、自分が描いてきた絵を自らを投影して、この子は本当はこうではないけれど、さらけ出せずにいろんな色を塗り重ねてしまって、偽りの形になってしまうという曲なんです。そのことに本人も気づいているけれど、なかなか若さゆえに素直になれない、自己表現ができない。ある意味素直な子だとは思うんですよね。蓋を開けてみると、繊細な部分がある。そういう部分をできるだけ今回は表現できたらいいなと思います。
ーー前回のアイヴィ役で心残りだった点などはあるのですか?
増田:3年前は私自身も少し荒ぶっていたので(笑)。
小谷・大久保:(笑)。
 
増田:まだ若かったから、すごく表現がストレートだった。嫌だったら嫌だし、好きだったら好きと白黒はっきり型だったんですけど、ようやくいま28歳になって、白黒はっきりつけないことの素晴らしさに最近気がついたんです。そういうオセロじゃない部分も出せるようになりたいなと思います!
増田有華
 
ーー大久保さんは、演じられるピーターに関して、いかがですか?
大久保:前回の舞台映像を見て、本も読んで、言い方を恐れずにいうと、ピーターは「弱い子」。そう表面的には見られがちなんですけれど、結構実は芯が通っていて、強いんですよ。
増田:うん、強いと思う。
大久保:というのも、自分が同性愛者というのを周囲になかなか言えないし、言おうと思わないんじゃないかなと。自発的には。でも、それをピーターはジェイソンに周りに言おうと言う。それはなかなかできることではないから、反面もろさも持ち合わせているんですけど、そこの強さともろさのバランスをうまいことに出せていければ、ピーターという役が厚くなるんじゃないかなと思っています。
 
増田:なんか、中を掘っていったら、ジェイソンが弱くて、ピーターが強い感じする。
大久保:最近、周囲にばらされて、亡くなってしまう事件もあるじゃないですか。いわゆる、アウティングというやつですよね。そういうことを思うと、浅はかな部分もピーターにもあるにはあるんですけど、勇気がある子だなと、強い子だなと思います。
36曲もの楽曲。難曲揃いだけれど、素晴らしい! 
ーーもう歌稽古はされているということでしたが、どうでしたか?
全員:難しいです……(笑)
増田:必死とはこういうこと、という感じ!
大久保:楽曲が36曲あるので、それでまず心が折れかける……。
小谷:本当に時間が足りない感じがします。1曲に費やしている時間が短くて、これをやったらあれもやらなくてはいけない……時間との戦いになると思います。とにかく曲が、本当に難しいんです。ロックだし、うまく歌えたら格好いいんですけど……頑張ります。
大久保:ジョン・ハートミアさん(脚本・作詞)とデーモン・イントラバルトーロさん(脚本・作曲)はともに22歳でこの作品を創り上げているそうなんです。信じられないと思って。楽曲が本当に素晴らしい。
増田:うん、メロディを聴いただけでその情景が浮かんでくるような感じがします。一つに縛られていない、いろんなジャンルの曲があるので、やっていても楽しいんですけど、歌い方もリズムも難しいですね。Wキャストですし、この人はこういう歌い方だけど、別の人はこう歌うんだと違いがある。ハモりの部分は何回も重ねて練習しなくてはいけないですね。
ーーWキャストに関してはみなさん経験あると思うのですが、その点、いかがですか?
小谷:僕、Wキャストが初めてなんですよ。僕と安井くん(※Wキャストの安井一真)は年も離れているし、僕はこうしたオフブロードウェイミュージカルが初めて。本当に二人で初心に戻って、よろしくお願いしますという感じですね。いい意味の緊張感と、お互いに上手くなっているなという成長を感じられて、すごく仲良くしてもらえる。それはお互いに同じものを背負っているから、助け合えるし、Wキャストっていいなと感じています。
(左から)小谷嘉一、増田有華、大久保祥太郎
増田:前回もWキャストで、今回もWキャスト。お相手の方がどちらも違ったんですけど、本当に真逆なアイヴィだったんですね、前回。今回は、ヒミタス(※Wキャストの茜屋日海夏)とはまだ一緒に歌っただけで、単体で歌を聞いたことがないんです。舞台に立ったアイヴィがどういう風に違うかというのを客観的に見られるのも楽しみですし、お互いライバル視するのではなく、助け合って、尊重しあって、役自体を膨らませていただけたらなと思います。
 
大久保:Wキャストね……めっちゃ比べられるわけじゃないですか。でも、(Wキャストの田村良太とは)タイプが全然違うので、そこは気負わずにできるなぁと思うんですけど、歌がうまいから。
小谷:いやいや、(大久保さんも)うまいじゃないですか。
大久保:そこは頑張らなくてはいけないところではあるんですが、盗めるところは盗んでいこうと思います。稽古場で自分の役をもう一人の人がやっているというのは、なかなか見ることができないから、客観的に見られるのが嬉しいです。シングルキャストだと、見られるのは、自分が出ていないシーン。でもダブルキャストだと、例えば、舞台上に自分が出ているシーンで、メインで喋っていない“オフ”のシーンの全体像を見ることで、「あぁここはそんなに大きい芝居をしない方がいいな」とか分かるわけですよ。それがいいですね。
俳優として活躍するからこそ、俳優に寄り添う「演出」
ーー演出の原田優一さんについてはどのような印象ですか。どんなことを期待したり、どんなことをお話しされたりしていますか。
小谷:僕は、初めてお会いしたのがオーディションの時だったんです。課題曲と課題のセリフを渡されたんですけど、初めてお会いした時に、この舞台の世界観と作品について、すごく熱く、細かくお話ししてくださったんです。そこまで丁寧に教えてくださる方があまりいないので、作品に対する熱量を非常に感じました。また、歌稽古の時も、みなさんを笑わせてくれたりして、稽古場づくりが本当に上手な方だなと思いました。僕もたまに演出などをやっているんですが、いやぁ、上手い! と思って。見習うところばかりですね。
 
増田:前回の稽古でもそうですが、私は共演したこともあって。場の主役力がものすごい方ですよね。稽古場でも常にピンでスポットライトを浴びているような、華やかな方。初めてお会いした時にキメキメで演出されるのかなぁと思っていたんですが、基本的には役者を尊重してくれるんです。「あなたが生み出したものが、演出に生きるから、まず出してください」という方で、ダメ出しもあるんですが、それも周りに聞こえないように、近くに来てくれて、一緒にお話しするような、ディスカッションという形でやってくださるんです。
やはり最初は誰でもナーバスになるじゃないですか。でも、原田さん自身が役者さんであるので、そういう役者の面と演出の面をすごく理解されているし、優しい方だなという印象があります。安心して任せてやれるなという感じです。今回も楽しみですね。型にはまらず、暴れたいですね(笑)
 
大久保:僕も4、5年前に一緒に共演して、優一さんの出ている作品を見たりして、何度かお会いしたんですが、演出を受けるのは初めてです。やはりプレーヤーとして舞台に出ている人が演出をすると、役者に寄り添ってくれることが多い。無茶な要求をするのではないし……きっと優一さんも、もし自分がこの舞台にでていたらどうなのかを考えるのかなと思います。
ーーちなみに大久保さんは、これまで交流もあって、今回初めて演出を受けるということでどんなことを最初にお話しされたんですか?
大久保:僕はとにかく歌が不安だったので「高い音が苦手です〜」と言ったら「大丈夫だよ!」と言ってくれました。
大久保祥太郎
増田:こういう中性的な役は初めてですか?
大久保:初めてですね。
小谷:僕は何度かあります。
大久保:優一さんが歌うまいじゃないですか(笑)その人の前で歌うのは緊張します。これからですけどね……。
いろんな人生が散りばめられた舞台、一度だけではなくぜひ何度でも!
ーーでは、最後に、改めて作品の魅力と、どんな方に見てほしいかを教えてください!
小谷:僕も38歳になるんですが、学生服を着て、若者たちと一緒にやらせていただく……。
増田・大久保:若者って!(笑)
 
小谷:すみません(笑)。若さゆえの悩みや葛藤をさらけ出すという素敵な作品です。歌に言葉を乗せて伝えていくのは、本当に素敵なこと。僕は初めてで精一杯やるだけなんですが、とにかく足掻いて、その足掻いている姿を見ていただきたいです。宗教だったり、同性愛だったり、いろいろな要素がある作品なんですが、とにかく素敵な作品にするので、いろんな方に見ていただけたらなと思います。
 
増田:「bare=さらけ出す」ということで、演者もさらけ出すんですけど、観客も終演後にはさらけ出して、メイクも落ちてボロボロになって帰ると思います。初演を観た時、私がそうでした。ステージ上だけではなく客席までもさらけ出した状態で、ぽっかり何かがなくなったような感じがするんですけど、そのなくなった穴に、これからいろんなものを取り入れることができるような舞台だと思う。
 
舞台を観て人生が変わることってあると思うんです。だから同性愛者だけではなくて、いろんなことに迷っている人たち……アンサンブルの人たちにも人生があって、ものすごくいろんな形の人生が散りばめられている舞台なので、いろんなところを汲み取って、見ていただけるかなと思います。なので、観に行こうかなと迷っている方は、まず観に来ていただけたら! 一度観たら、あともう3回観たいと思うと思います(笑)
初演や再演を観た方でも楽しめますし、もしかしたら、そちらの方が楽しいかもしれませんね。ペアも何組もあってカラーが違うから、是非是非そこも注目して欲しいです。
 
大久保:宗教とか同性愛とかドラッグとか、他人事のようで他人事ではない。ふらっとミュージカルを観にきた方が、気づかぬうちにグサグサに刺されているような作品です。しかも、そういう世界に無理やりではなくふわっと入り込める。僕もまだ映像で見ただけですが、劇場に来たら、もっと入り込めると思います。
 
そして、とにかく楽曲がすごくいいので、やる側としては楽曲の良さ、メロディの良さに頼りきっちゃうこともできるんですが、それに頼り切らずに自分の役と向き合い、気持ちとセリフと言葉を大切にして、やりたいなぁと思います。
増田:なんか、サウンドトラック聞いてから来て欲しいかも。海外版のサウンドトラックを聞いて予習するとまた違った感じになると思います。生バンドだしね。
大久保:そうだ、生バンドです! それも見どころだと思います。
(左から)小谷嘉一、増田有華、大久保祥太郎
取材・文=五月女菜穂 撮影=福岡諒祠

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