indigo/ゲス極のキーマン川谷絵音登
場「バンドシーンを通過して、唯一の
存在になりたい」

・「indigo la Endは、一度バンドシーンに入る必要があると感じた」

――indigo la Endの『あの街レコード』とゲスの極み乙女。の『みんなノーマル』は、同時に録っていたのでしょうか。

川谷:時期はズレていましたね。indigoは3月にインディーズで出すつもりで、先に作っていて、完パケしてからゲスの方を作っていきました。indigoとしては、1年間リリースをしていなかったので今回が勝負作のつもりで。それでindigoとゲスのレコーディングの狭間の12月あたりに「一緒に出したら、面白いんじゃない?」という話になったんですよね。

――同時にかなり方向性の違う作品を出すところが面白いのですが、まずはindigo la Endの勝負作『あの街レコード』について。この作品は普遍性のあるポップソングを志向していて、粒ぞろいの楽曲が揃った印象です。

川谷:indigoでは前作のフルアルバムの『夜に魔法をかけられて』で、自分たちの中でやりたいことが出せたと感じていたんですけど、複雑なこともやっていたからか、あまり理解されなかったように思っていて。で、そのフラストレーションを感じつつ、この1年間ゲス(の極み乙女。)でたくさんCDを出しました。その中でいろいろと考えて、歌を伝える作品を作って、バンドシーンに一度しっかり入りたいと思ったんですよね。indigoは今のシーンから少し距離を置いた作品が多かったので、一度バンドシーンを通過する意味で、開けた作品を作るために歌を中心にしました。だからポピュラリティがあるんだと思います。

――「バンドシーンに入っていく」というのは、具体的にはどういうイメージですか?

川谷:僕が思うindigoの最終目標はくるりやクラムボンのように、ポップだけれど自分たちのやりたいことをやって唯一の位置づけになることです。彼らは一度、ライブ中心のバンドシーンを通過した上でそこにいると思うので、自分たちにもそれが必要だと思ったんです。それで押し出したindigoの強みは歌とギターでした。特に長田くんのここまで歌っているギターは、他であまりないと思うんです。その違いはわかってほしいですね。歌に関しては、1年間ゲスをやって、少し主観的な視点で自分を出したいと思って。明確に歌いたいものがあったわけではないですけど、そういう意味でストレートに伝わるものを作りました。indigoはゲスよりも歌を大事にしていて、言葉の伝わり方が疎かになるのは嫌だったんです。

・「大学に入ってバンドを始めてから自分の人生がスタートした」

――ゲスが打ち出している言葉の方向性は、散文的な批評性やユーモアではないかと思います。一方indigoの場合はもっとロマンチックな心象風景であったりしますよね。この2つの方向性がご自身の中で共存していることをどう捉えていますか?

川谷:最初は特に歌詞を書き分けている意識はなかったですね。ゲスは「ゲスの極み乙女。」というバンド名に引っ張られてそういう歌詞を書いていた、というのが結論です(笑)。indigoの場合は、ストレートなものより情景描写のような歌詞が好き、という元々の僕の性格や好みが出ています。それで方向性が分かれた、ということだと思いますね。

――『あの街レコード』にあるどこかノスタルジックな風景描写は非常に魅力的ですが、あれはご自身の中に常にある風景ですか。

川谷:原点回帰という意味も含めて、出身地の長崎を思い浮かべながら書きました。でも高校までを過ごした長崎での生活は何もなかったというか。大学に入ってバンドを始めてから自分の人生がスタートしたようなものなので、あまりにも何もなかった自分への後悔もあって、10代までの風景が思い浮かぶのかもしれませんね。

――なるほど。10代の頃も音楽は自分の身近にありましたか。

川谷:聴いてはいましたけど、オリコンに出てくるようなJ-POPしか聴いていませんでしたね。小学校の頃は、モーニング娘。やTM Revolutionとか。そこから大学で軽音部に入って、いろいろな音楽を知って音楽欲求のようなものが出てきたんです。例えば大学の時に聴いたのは、ゆらゆら帝国ですね。で、坂本(慎太郎)さんが聴いている音楽を聴いたりして、そこからはノイズ系や暗いものばかり聴いていました。日本人のまったく知られていないノイズ系の人とか、ですね。

――ノイズは、ギターの音への興味から?

川谷:はい。坂本さんのギターがすごく好きで、そこからギターの音のかっこよさに惹かれて。ザ・ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトのギターも好きでした。で、ある時、ジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)の「別にギターじゃなくてもいい」という発言に感銘を受けてしまって、段々ギターから離れていってノイズ系を聴くようになったんです。

・「ゲスの極み乙女。は、バンドシーンから抜け出す時期だと考えた」

――当時、ダンスミュージックへの興味は?

川谷:ダンスミュージックはあまり興味がなかったです。アンダーワールドも別に好きじゃなかったし、テクノなんて大嫌いでしたし。ノイズとか聴いてるくせに、テクノに「人間味がない」とか言ってて(笑)。今ではテクノも聴きますが、基本は人力の方が好きですね。

――ではゲスでやっているような音楽性の追求は、ゲスを始めてからですか。

川谷:エレクトロとかは好きで聴いてましたけど、基本的には自分がやりたいことだけをやっているような感覚です。例えば、ファンクに影響を受けたバンドの黒いノリはすごく好きなんですけど、「どファンク」というような泥臭いものは嫌いなんですよね。だからゲスはメロウな部分、リスニングミュージック的な要素も持たせて泥臭くならないように気をつけました。

――今度のゲスのアルバムでは、確かにメロウな要素が増えていますね。 一方で、ライブの盛り上がりを見ると、リスナーはテンポの早い曲を求めている面もありそうです。そのあたりのバランスはどう考えましたか。

川谷:前作が売れたこともあって、テンポが早いほうが受けるだろうな、ということは考えました。でも、indigoとは対照的にゲスはバンドシーンにもう入っているので、逆に言えば、必要なのは(バンドシーンから)抜け出す作業かな、と。早いテンポで売れるのはバンドシーンだけで、J-POPには全然関係ない。ここでより多くの人に聴いてもらうためには、テンポは落としたほうがいいんです。ここに居続けるとずっとバンドシーンの中のバンドにしかならないので「抜け出すなら今だ!」と考えて全体的にテンポを落としました。バンドシーンを変えたくて前作を作りましたけど、今考えてみるとそれも間違い。変える必要もないし、変わらないものは変えられないから、興味のないものには手を出さなければいいんです。

――バンドシーンの中で支持を広げつつも、現状に危機感があると。

川谷:そうですね。CDが売れなくなっていることはしかたがないけれど、売れなくなっているからこそウェイトが大きくなっているライブで、画一的になってしまったら、これで大丈夫なのか? と。でもそれを変えることはできないことがわかったので、ゲスは抜け出す方向にいこうと思っています。

・「この1年間によって今後が決まる、と考えている」

――indigo la Endに関しては「バンドシーンに入っていく時期」、ゲスの極み乙女。に関しては「抜けだす時期」であると。どちらも最終的には、より広い意味でのポップミュージック、音楽シーンで自由にやる、ということでしょうか。

川谷:どちらも唯一無二の存在になりたいと思ってやっていますね。この1年間によって今後が決まる、というくらい今年は重要な年だと考えています。メジャーという状況で売れることに一喜一憂したり、浮わついたりしないで、しっかりと考えて地に足をつけて活動したいです。今までは、バンドが広がって伸びていくことに対していろいろ考えなければ、という感じでしたが、今はそれよりも、自分の中の音楽をしっかり考えなければ、と。

――その点で言うと、『あの街レコード』は現時点でのご自身の方向性が反映されたものですか?

川谷:そうですね。とは言いつつも反応は気になります。次の作品にも向かっていますが、まだ方向性が見えない部分は多いです。

――今のindigoの音楽は90年代後半のスピッツを思い起こさせる部分があります。

川谷:スピッツはindigo la Endのバンド名も『インディゴ地平線』から取っているくらい好きです。元々はスピッツが一番の理想なのかもしれません。

――バンドという形態で、普遍性のあるポップスを作るという点で共通しているのかなと感じます。テレビでかかっても全然不思議ではないというか。

川谷:むしろこの作品はそういう風に聴かれるべきだと思います。インディーズで出すつもりではいましたけど、勝負をかけた作品なので、メジャーとして出すことにも全く抵抗はありません。今のシーンでは、「J-POPか、バンドか」という感じになってしまっていますね。それこそ、くるりやクラムボンはその中間にいると思う。今のくるりをロックバンドという人はいないと思うんです。そういうものがいいですね。まぁでも、特にindigoに関してはJ-POPと言われても別にかまわないので、そういう方向性もありだと思います。いい歌は届くので、それが何のカテゴリーでも伝わればかまいません。

――今後は2つのバンドのスポークスマンとして発言する機会も増えると思います。SNSなども積極的に使っていますが、今後のメディア展開はどうお考えですか?

川谷:Twitterは割りとおちゃらけて、自分が見えないようにやっていますかね。でも今回のようにメディアでは自分が考えていることをちゃんと話そうと思っています。でもその結果、たまに言っちゃいけないこともけっこう言っちゃっているという。原稿チェックが大変になることに最近気が付きました(笑)。

(取材=神谷弘一)

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