パブロ学級×コンプソンズ開幕直前、
稽古場インタビュー『シブヤから遠く
離れない(シモキタ)』のタイトルに
込められた思いとは? 

パブロ学級とコンプソンズのコラボ公演『シブヤから遠く離れない(シモキタ)』。タイトルを聞いて「おや?」と思った人もいるだろう。9月25日から29日まで東京・下北沢のOFF・OFFシアターにて上演される本作は、脚本・演出を、パブロ学級の渋木のぼるとコンプソンズの金子鈴幸が共同で手がける。物語の舞台は、劇場と同じく下北沢だ。タイトルの誕生秘話や初の試みへの2人の意気込み、本番を1週間後に控えた稽古場の様子をレポートする。
舞台は下北沢、キーワードは、”ループ”。
下北沢の某カラオケ店から物語は始まる。“シモキタ”で生きる若者たちの群像劇とのことで、稽古も3グループに分かれてそれぞれのシーンの返しが重点的に行われた。
左から大宮二郎、能登屋ヒヒ丸
コンプソンズとパブロ学級どちらもに所属する大宮二郎と、コンプソンズへの出演歴を持つ能登屋ヒヒ丸(パブロ学級)のシーン。2劇団の毛色に馴染みながらも、笑いと物語を交互に渡り歩く自由な演技が魅力の大宮と、ダイナミックな動きと秒毎に変わりゆく豊かな表情で“おかしな人”を好演する能登屋。物語上の2人の関係性は未だ謎に包まれているが、言葉を取り違えたことをきっかけに話はどんどんちぐはぐになっていく。
左から渋木のぼる(パブロ学級)、金子鈴幸(コンプソンズ)
「流れちゃいそうだから、セリフの前に少し間を置いてみて」
ボケとツッコミのようなハイテンポのやり取りに、緩急をより極めるべく細やかな演出が入る。
「スムーズに行きすぎると、”繰り返し感”が出ない」
「“繰り返し”が見てる人にも伝わるように、すかしてる動きを大きめに」
この物語において、いかに”ループ”が重要な意味を持つかがうかがえる演出だ。
一方、男を間に挟み、街中で謎の三角関係を繰り広げる女たちもいる。コンプソンズの前作『ノーカントリーフォーヤングメン』でも、両者ベクトルは違えども”ぶっ飛んだ女”を演じた星野花菜里と宝保里実だ。女優の配役にそのセンスが抜群に光るのもコンプソンズの大きな魅力だろう。
宝保里実(コンプソンズ)
今年はMITAKA“Next”Selectionとしても注目された「第27班」の『潜狂』にも客演した宝保。特徴的な声色としなやかな身体性を以て独特の磁場を生み出す表現力は、短い稽古の間にも顕在だった。
左から星野花菜里(コンプソンズ)、渋木のぼる(パブロ学級)
時事ネタを多用した長ゼリフも、その合間に入るナンセンスギャグも完全に身体に落とし込み、劇団の色とも言えるそのセリフの妙を的確に伝える星野。渋木との合わせでは、思わず大爆笑する和やかな一面も。
左から江原パジャマ(パブロ学級)、鈴木啓佑(コンプソンズ)、金子鈴幸(コンプソンズ)
残る3人は「子どもの時の思い出」をテーマとする、とあるシーンを熱心に返す。金子の出演シーンでもあり、本人曰く「心配だからやっておきたいところ」とのこと。中央は、『ノーカントリーフォーヤングメン』で田舎ヒエラルキーに君臨するボスを恐演した鈴木啓佑(コンプソンズ)。ルックスのインパクトと細やかなセリフ使いの好ギャップがどう発揮されるのか、今回の配役も気になるところだ。
「団体には入らないと決めていたけど、入りたいと思わされてしまった」と入団の理由を記した、今年からパブロ学級に入団となった江原パジャマ。短い間にくるくると変わる表情が可笑しく切なく、思わず目で追ってしまう。
同世代で描く、“シモキタ”の若者の群像劇。それぞれのグループの返しが納得のいくものになったところで、ようやく笑顔が見られた。脚本・演出を共同で手がけることにおいての多くの苦悩は、決まった時の喜びの大きさと比例するのだろう。
1つのシーンに対して求める温度感が二者で一致し、そして、稽古場がその温度達した時にようやく納得がいくシーンになる。そんなコラボレートの醍醐味なるものを垣間見ながら、それらを積み重ねて最高温度に仕上がるのを劇場で待ちたいと思った。
■金子鈴幸(コンプソンズ)✕渋木のぼる(パブロ学級)稽古場インタビュー
アイデアの交換からのスタート。ボツにしたり、時にはゼロにしたり。
—今回のコラボに至るまでには、どういった経緯があったのでしょうか?
金子 最初の出会いは、「地蔵中毒」っていう劇団によく出ている女優さん主催のイベントで出会ったんです。闇鍋演劇祭『オルギア視聴覚室』っていうやつなんですけど、それにお互いに呼ばれて出ていて…。
渋木 なんか、あんまり経緯は覚えてないけど、気づいたら仲良くなってましたね。あれは、上京したてくらいの頃だったかな。
金子 そうそう。パブロ学級は、みんな北海道から出てきた人たちなんですよ。その後お互いに公演観に行ったり、ヒヒ丸(能登屋ヒヒ丸)くんにコンプソンズに出てもらったりして…。
渋木 今回のコラボは僕から誘ったんです。 1年くらい前かな、コンプソンズにヒヒ丸が出た時に「今度一緒にやりません?」って金子さんに言いました。絶対面白そうだと思って!
金子 でも、思っていたよりもお互いに時間が全然なくて、いざ取り掛かったらすごい難しくて。やべー!やべー!って言いながら、今に至るって感じです。
—確かに、脚本と演出を共同でやるとなると、話し合うことが無限にありますよね。具体的に、大変だと感じたのはどんなことでしたか?
金子 方向性の違う2組をどうやって“コラボ”にするかっていうスタートのところから結構大変でした。僕は、お話がないと脚本が書けないんですよ。でも、最近のパブロ学級はどっちかっていうと、お笑いの世界に舵を切りはじめているし、物語も書いたことないってきいて…。まずは、そのあたりの齟齬がありましたね。
渋木 とりあえずは、アイデアの交換みたいなものから始めて、お互いに本を書いてみたり。でも、30ページくらい進んでいたのをゼロにしたりしましたよね。ボツと採用が同じ数くらいある(笑)。
金子 渋木くんが送ってくれたの、結構ボツにしたもんね…。コラボ公演ってだけでまず互いの方向性が混在してるから、いつも以上にお話の芯を通さなきゃいけないと思ったんですよ。ピンポイントでは面白いけど、ずっと観てられるのかなとか考えて。でも、仕事が早いから、ボツ!って返しても、一瞬で新しい案をくれるんです。
渋木 ボツにされたから、あーあとか、残念とかは、全くなかった! また書けばいいやって思ってました。あと、面白くなるって思ってましたし。だって、金子さんめちゃくちゃ物知りで、普通に話聞いてるだけでも面白いんですよ。映画とかも詳しくて。
金子 アイデア出し合ってる時や演出の時にも、「あの映画のあのシーンみたいな…」とかよく言っちゃうからかな。
渋木 正直、なんの話してるか全然わかってない時あるんですけど、漠然とこんなにいろんなことに詳しい人が面白くないはずない!と。そう思ってます(笑)。
—演出についてももちろん違いが生まれますよね。その辺りはどのように稽古を進めているんですか?
金子 渋木くんの演出、おもしろいんですよ。同じシーンの人をグループ分けして、面白くする為にまず話し合わせるんです。
渋木 長い時は2時間とか話しますね。その中で、アドリブやセリフの変更がでてきてもよくて。
金子 役者さんがどういうものを持っているか、感じているかっていうことにすごく興味がある人なんです。
渋木 札幌で演劇やってた時、「パインソー」って劇団に客演で出ていたんですけど、そこの演出家の方がそうだったんです。「この○○ってギャグ、変えよう!なんか好きなやつやって」とか、「この〇〇ってセリフ、鮮度0になっちゃったからなんか考えて」とか、急に言われるんです(笑)。
金子 へぇ〜! 
渋木 開場中に、「あそこ全部変えよっか?」みたいなこともありました。対応できないと呼ばれなくなると思って必死でした。でも、それがすごい面白かったんですよね。
金子 その時の経験からだったんだ。
渋木 その人は40過ぎの方で、経験も豊富な方。僕が演劇を始める上で本当にお世話になった方で勝手に「師匠」って呼んでるんです。でも、師匠じゃなくて僕みたいな齢20そこらの奴が、いきなり開場中にそんなこと言ったら、「お前なんなんだよ」ってなって終わるじゃないですか(笑)。だから、ほどよく使わせてもらってます。でも、今回はみんな同世代だから比較的やりやすいです。これで10個違ったら終わってたんじゃない?(笑)。
金子 確かに! 同世代だからできたというのはありますね。パブロ学級のみんなは、グダグダになっても、常に足し足しでなんかやってやろう!っていう感じがあって。本当にそこは見習わなきゃっていつも思います。
“わからないこと”に一緒に取り組みたいという思いを込めて

ーコンプソンズの前作『ノーカントリーフォーヤングメン』は映画から派生したタイトルでしたね。今回の、『シブヤから遠く離れない(シモキタ)』についてもお聞きしたいのですが…。
金子 タイトルをつけるときは、いつもありものを文字ってつけてるんです。前回はコーエン兄弟の『ノーカントリーフォーオールドメン』って原題の映画で。それが好きか嫌いかはさておき、その映画を軸に何かを突き詰めて考えられるんじゃないか、何かのとっかかりになるんじゃないかって思ってて。
渋木 逆に、僕はタイトル決めるのがすごく苦手。というか、意味を持つことをとくにやっていないから、つけようがなくて…(笑)。
金子 でも、そこでただ僕が好きな映画とか影響受けた作品のタイトルを引用したら、完全に僕主導になるじゃないですか? うまくコラボにならないんじゃないかって思って。あとは、責任を半分こしたいという気持ちも!というか、それが大きいんですけど(笑)
—金子さんは8月には岩松了さんの『アイスクリームマン』を上演された劇団「中野坂上デーモンズの憂鬱」MOHE・MAPに客演をされていましたよね。その流れもあるのかなあなんて思ったのですが。
金子 出演していたので、引っ張られた部分はあると思いますが、「わからないものを一緒に作っていく」という上でいいんじゃないかなって思ったのが正直なところです。岩松了さんの『シブヤから遠く離れて』も読みました。でも、今の自分には、まだちょっとわからなくて。でも、この“まだわからないこと”っていうことがコラボ公演を打つ上で一つの意味だったのかなって。
—なるほど。“シモキタ”というのも気になりますね。演劇の聖地でもありますし、特徴のある街です。
金子 たしかに、稽古終わりにぶらぶら歩きながら、道端でゲロ吐いてる人、泣いてるバンドマン、即興芝居してる人...とか見ながら、「こういうのを芝居にすんだよ!」みたいなことは言った気がします。タイトル決めたら、渋木くんが、「じゃあシモキタから出られないっていうのはどうですか?」って話になって。
渋木 はい。ズバリ、若者がシモキタから出られない話です! ちなみに、今回の劇場がOFF・OFFシアターなんですけど、その地下にあるカラオケを物語の舞台にしているんですよ。
金子 僕、実際カラオケでバイトしてたことがあって。外で客引きしてたら思いもよらぬ人にあったりするんですよね。そこから物語が始まるんです。
渋木 というか、実際に僕が会ったことがあるんです、客引きしてる金子さんと!
—奇しくもお二人の共有の出来事で物語が始まるわけですね。お話を聞いていると、劇団の色は全然違うけど、だからこその交点のようなものが伺えます。
金子 今は全然違うけど、時期的に似ている時期はあったと思う。僕は、「地蔵中毒」を観て、この方向では勝てないとなったんです。いや、勝てないというか、ここまでやっている人がいるなら違うことやらなきゃって。そこから“物語”に注力するようになって、ドラマがあるものを作り出したんです。パブロ学級も、演劇からお笑いライブに方向性を転向する上で似たような葛藤というか変遷期みたいなものがあったと思います。
渋木 そうですね。シティボーイズが好きだったり、共通点もかなりあります。僕は、もう信頼っていうか、金子さんやコンプソンズをめちゃくちゃ面白いって思ってるんです。それに尽きる。脚本や演出ももちろんだけど、役者としても面白い。何に基づいた演技なのか一切わからないのがまた面白い(笑)。
金子 今やっていることは別れたけど、原点は一緒な気がするんです。なのに、全然違うものになっていて、それはそれで面白いなって思います。
渋木 でも、今回パブロ学級組はめちゃくちゃ大人しいですよ。稽古中、みんなの発言を受けて、すごい考えてる顔してるんですよね。顔だけの可能性ありますけど(笑)。でも実際聞いてみたら、頑張って合わせようとしてるらしいんです。
金子 え!でも、ヒヒ丸くんとか江原くんとかめっちゃ喋るじゃん。確かに最初は、互いの出方を窺っているような、けん制してるような感じがあったけど。
渋木 多分、明治大学の頭のいい人たちとやるっていうので、気張ってるのかもしれないですね(笑)。いつももっとしゃべってるもん。思いついたこと全部口に出すくらい。
金子 逆にうちはあんまり稽古以外でコミュニケーションをとらないというか、放っておくと各々の時間に入っていく感じがあるから、ヒヒ丸くんくらい話してくれる人は頼もしかったりする。
渋木 はじめはみんな戸惑ってたけど、今は、だんだんみんな同じ方向を見てるのかなって気がします。同世代で本当によかった!(笑)

profile
【コンプソンズ】
コンプソンズ
金子鈴幸と星野花菜里が明治大学実験劇場を母体に発足。現在は細井じゅん、大宮二郎(パブロ学級にも所属)、宝保里実、つかさ、鈴木啓佑が所属。世の中で起こるありとあらゆる出来事や事件にアンテナを張り巡らせ、ノンフィクションとフィクションを織り交ぜながらの物語展開が特徴的。作品に完全に落とし込められたそれらは全て、あくまで物語であるという視線で収束を見せる。要所要所にナンセンスギャグや直近の時事ネタを猛スピードで連投、その合間に光る短いセリフの圧倒的な感性も見どころの一つ。
【パブロ学級】
パブロ学級
2017年渋木のぼる、能登屋ヒヒ丸、大宮二郎、だぶるのすけ、江原パジャマによって結成。結成当初は北海道を拠点に活動をしていたが、2018年に上京。上京後は、日替わりゲストに芸人を招いた公演や、企画ライブとして多くの芸人とコラボレートするなど、お笑い方面でも活躍を見せる。その傍ら、各々のメンバーが客演として他劇団の公演にも出演するなど、小劇場内でも活動の場を拡げている。
取材・文/丘田ミイ子  写真/岡本賢治

アーティスト

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