【前島麻由 インタビュー】
悲しい気持ちを
一番いい鮮度のまま歌に残したい
“自分の首を自分で絞める天才だな”
ってちょっと思ったりします(笑)
歌うたびに曲に込めたリアルな感情が蘇ってくると辛くないですか?
辛いです。時々“自分の首を自分で絞める天才だな”ってちょっと思ったりもします(笑)。でも、消化できないって段階で、それを思い出すにしても、思い出さないようにするにしても、自分の中にあるわけじゃないですか。自分の中にあるのであれば…しかも、それが自分という人間を作り上げているものであるなら、ちゃんと憶えておいたほうがいいと思うタイプの人間なんです。負の感情にも特有のパワーがあるというか。
今回、複数の作家と共作されていますが、どんなこだわりがありましたか?
とにかく分かりやすくがモットーでした。私の引き出しにはシンプルとキャッチーしかないんです(笑)。作りながら申し訳ないと思ったのは、私が歌ったメロディーにおしゃれなコードを付けてくれるんですけど、私、それが駄目で。“普通でいいです”って(笑)。シンプルなコード進行で成り立っている曲が好きなんです。作りながら“私って本当に分かりやすい”って再確認できて面白かったです(笑)。
最近、多くのアーティストがおしゃれなコードを使いがちなのに(笑)。前島さんは意識されていないかもしれないけど、やっぱり一石を投じる存在になるんじゃないかな。
投じちゃいますか(笑)。
ハイとロウを大胆に行き来しながらいろいろな表情の歌を歌っていますが、ヴォーカリストしてはどんなことを意識しましたか?
自然に歌ったものをそのままかたちにしただけなんです。MYTH & ROID時代はいろいろ考えて試行錯誤したんですけど、今回は本当に自由に多種多様な曲調の曲を歌ったので。共作した作家さんたちからも“こういうふうに歌ったほうがいい”みたいなことも言われなかったから、聴いている側もいい感じだと思っているんだと思って、遠慮せずに伸び伸びと歌いました(笑)。
本当に作りたいものを作ったのですね。
私は真面目というか、しっかり考えたいタイプなんですよ。だから、作品をひとつ作るにしても、どういうものが喜んでもらえるのかって考えてしまうんです。今回も英詞と日本詞を混ぜたほうがいいのかなとかいろいろ考えたんですよ。そういう意味では商業的に考えてしまうんですけど、出来上がったものは全然商業的じゃない(笑)。でも、それで良かったと思います。こういう作品を作らせてくれた周りのみなさんに感謝ですね。
それだけ正直な作品ということですね。
感情の鮮度を大事にしている分、正直さは一番大事だと思います。商業的に考えるあまり歌詞の内容をオブラートに包んでしまうと、歌った時に涙が出てこなくなるので。商業的な面ではいいものができたけど、自分的にはいいと思えないと思いながら歌わなくちゃいけなくなるし。商業的なことを考えることも必要なことだし、そういうことをまったくしたくないわけじゃないんですけど、欲を言えば、自分に正直に作るのが一番。そういう意味では正直なものが作れて、感情の鮮度が保たれていて良かったと思います。
そういう作品こそが聴く人に刺さるんじゃないでしょうか?
私もそれを信じたいです。私が悲しさを正直にかたちにすればするほど、聴く人の中の感情を引っ張り出せる。私と同じ悲しさを思い出さなくても全然いいんです。私の歌を聴いて、その人の中で該当した感情が引っ張り出せればいい。そのために必要なのが正直さと感情の鮮度だと思うんですよ。悲しい曲を歌っているからって、聴く人に同じように悲しい想いをしてほしいわけではないんです。もちろん、それができたら素敵ですけど、一番大事なのは純粋に曲を楽しんでもらうこと。英詞で意味が伝わらない分、メロディーを純粋に楽しんでほしいというのはあります。そこは母国語ではない言葉で歌うことの良さだと思うので、好きに聴いてもらうのが大前提ですね。極端なことを言えば、明るい曲調の曲が多いので、私がすごく悲しいことを歌っているのを聴いて楽しくなってもらってもいい。その上で、どんなことを歌っているのか知りたい人がいたら意訳を読んでもらえたら嬉しいですね。
さて、今後はどんなふうに活動をしていこうと考えているのでしょうか?
今までは配信した2曲しかなかったので、みなさんに直接曲を届けられる機会がなかったんですけど、今回で10曲になったからライヴで直接届けられる機会を作っていけたらいいなというのが、まずひとつあります。消化できない悲しい想いを歌に残してまで忘れないようにして、歌う度にその悲しみが蘇ってきて、本当に悲しいと思いながら歌っていることが、自分の個人制作だけで終わってしまったら何の意味もない。第三者が存在して初めて“この悲しみの鮮度を保ち続けた甲斐があった”“ずっと怒っていて良かった”と思えるので、そういう意味ではきちんとみなさんに直接届けられるライヴができるようになりたいです。もちろん楽曲制作も続けていきますよ。“この悲しみも残したい”という負の感情貯蓄が常に増え続けているので(笑)。どんどんかたちにしていきたいと思っています。
取材:山口智男