細田守監督が語る、高畑勲監督と高畑
作品の思い出 『高畑勲展』特別イン
タビュー

東京国立近代美術館で現在開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』。今回、本展のスペシャルトーク「細田守が語る監督『高畑勲』」に登壇した細田守監督に、直撃インタビューの機会を得た。『バケモノの子』や『未来のミライ』の細田監督が語る高畑監督の思い出、高畑作品が遺したもの、そして細田監督が本展を見て受け継いだものとは。
「絵を描くことだけが、映画を支配する方法じゃない」
ーーまずは、細田監督が思う高畑監督の“すごさ”についてお聞かせください。
一番大きいのは、「アニメーションとは何か」ということに対して最も自覚的な方だったことですね。アニメーションでしかできない表現を求めて、それを形にしてきたイノベーターだと思います。
ーー細田監督から見た高畑監督の人間性について。また、高畑監督との思い出深いエピソードがあれば教えてください。
人間性を語れるほどのお付き合いがあったわけではありません。ただ、監督をやるようになってからジブリに行った時、監督同士というのはなかなか話さないものですが、高畑監督はそういう壁のない方でした。その一方で、客観的に見た高畑監督は、権力に屈せず、嘘のない方という印象。ジブリにいて周囲に合わせなければならない場面はあったと思いますが、そんな時でも高畑監督だけは真実しか言わない、といった印象です。きっと、東映動画の頃からそうだったんだと思います。会社の事情より作品を優先できなければ、あれだけの作品はできないはずですからね。

一枚の写真の中に収まる高畑勲(左)と宮崎駿(右) 撮影:篠山紀信

ーー本展では「絵を描かない監督」としての高畑監督にもフォーカスが当たっています。あれだけ明確なイメージを持った方なのに、自分で描いてみようとは思わなかったのでしょうか。
アニメ作家というのは絵が描ければ作品を支配できると思いがちですが、絵を描くことだけが映画を支配する方法じゃないということを、きっと高畑監督は知っていたんだと思います。絵が描ける監督は、案外、自分が描けることに溺れているかもしれない。僕も本当はもっと上位の視点があるのかもしれないと思うことがありますが、おそらく、そういうところに到達できたのは高畑さんくらいなんだと思います。
「美術監督の技は、継ぐ人がいなければ失われてしまう」
ーー本展では、小田部羊一さん、近藤喜文さん、男鹿和雄さんなど、高畑監督を支えた方々にも光が当てられています。
日本のアニメーションというのは監督中心主義で作られていて、お客様には監督に対する信用で作品を選んでいただいているところもあると思います。ただ、その一方で、どの作品で誰と組んでいるかということも大きい。トークショーの中でも美術監督の椋尾篁さんについて話しましたが、監督の意思というのは周りの誰かが継ぐことはできても、美術監督の技は継ぐ人がいなければ失われてしまうものなんです。そこに問題意識があったからこそ、高畑監督は男鹿和雄さんのようなすごく緻密な技術を持っている方に、あえて『かぐや姫の物語』のようなスタイルの絵を要求して、美術にも幅があることを伝えようとしたのではないでしょうか。
展示風景
ーー高畑監督がすごいから周りの人もすごいのか、それとも高畑さんという強烈な求心力のもとにすごい方々が集まったのか。どちらだと思いますか。
そこはやはり求心力によるところが大きいと思います。高畑監督が本来持つ人間性はもちろん、テーマ設定だったりチャレンジ精神だったり。描き手が描きたい、挑戦してみたいと思うようなものを提示して、スタッフをワクワクさせる課題を与える人だったから、自然と周りに優秀な方々が集まったんだと思います。
ーー細田監督も、高畑監督の『赤毛のアン』を見てワクワクさせられたお一人ですよね。
そうですね。当時は小学6年生で性別的にも年代的にも『赤毛のアン』が好きな年代じゃないはずなんですけど、それが「モロにハマった」という(笑)。本来ならもう少し大人になって自分の気持ちを重ねて見るようなお話ですが、その物語に男子小学生を夢中にさせるというのも、高畑監督のすごさじゃないかな。

平成狸合戦ぽんぽこ (c)1994 畑事務所・Studio Ghibli・NH

ーーところで少し余談ですが、細田監督ご自身はテレビアニメのような表現にご興味はありませんか?
僕は東映動画に入って映画のセクションに放り込まれた人間なので、映画への洗脳が未だに解けないんですよ。僕が入社した次の年に『セーラームーン』が大ヒットして、その時のスタッフが当時まだ珍しかった携帯電話を片手に、肩で風を切るように会社の廊下を歩いていた(笑)。いわば「テレビをやらずんば人にあらず」みたいな感じで、彼らがとても眩しく見えたんですけど、それでも映画をやってきたんだから、やはり僕は映画の人間なんだと思います。
「アニメーションの可能性を広げる」
ーー高畑監督の生前から企画されていた本展が、結果的に回顧展ということになりました。高畑監督の生涯を総覧されて、改めてご自身の生き方に重ねて感じられるようなことはありましたか。
日本のアニメーションの歴史の中で、生涯をかけて作り切った人って高畑監督が初めてかもしれない。でも、それでも、やりたいもの全部を作るためには時間が足りなかったのではないでしょうか。ずっとやりたいと仰っていた「平家物語」も、ついに形にはならなかったわけですし。ただ、だからこそアニメーション表現の世界は奥深いと感じることもあって、ひとつ作れば新しい課題が出て、次を作ればまた新たな課題が出ての繰り返し。結局、最後に行き着くには時間が足りないんだけど、もっと見たいと思うからこそ生まれるような価値もあると思います。
ーーご自身の中では、高畑監督のどんなところを引き継いでいきたいと思いますか。
端的にいうと、アニメーションの可能性を広げていくということ。今現在のスタイルに満足しないで、もっと新しい醍醐味を増やしていきたいですね。「アニメってこういうものでしょ」ってジャンル化しがちなところを少しでも広げて、今まで表現できなかったような側面を描ければ、アニメーションへの貢献になると思います。
会場入り口
高畑監督と同じ東映動画の流れを汲み、同じく新しいアニメーションの表現に挑み続ける細田監督。本展では、映画監督・高畑勲の足跡を1,000点以上の貴重な資料で紹介し、アニメーションの革新に挑んだ高畑監督の生涯に迫っている。細田監督も感動した高畑監督の数々の足跡を見に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろう。
『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』は、東京国立近代美術館で10月6日(日)まで開催中。

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