鈴木勝吾×池田純矢 ヘロデは「今、
彼がやらずして誰がやる?」エン*ゲ
キ#04『絶唱サロメ』インタビュー

2019年10月5日(土)より、東京・紀伊國屋ホールと大阪・サンケイホールブリーゼでエン*ゲキ #04『絶唱サロメ』が上演される。俳優の池田純矢が作・演出を手掛けるシリーズで、第4弾となる本作では松岡充が主演を務め、オスカー・ワイルドによって書かれた戯曲「サロメ」に着想を得た物語が描かれる。
唱う言葉が全て現実となる不思議な力ゆえ牢獄に幽閉されたヨカナーン(松岡)。王女・サロメ(豊原江理佳)との出会いから紡がれる妖艶で残酷な物語は原典を踏襲しつつ、「これまでにない演劇と音楽の融合」と池田が表現するように、壮大な意欲作となっている。さらにヘロデを演じるのは、4作連続のシリーズ出演となる鈴木勝吾。あるときや役者同士、またあるときは役者と脚本・演出家、何より友人同士という濃密な信頼と固い絆で結ばれた二人に、本作とシリーズの魅力を聞いた。
ーーまず、「サロメ」を題材に選ばれた理由を教えてください。
池田:妖艶さや人を惹きつける力といった物語の魅力を前々から感じていたのと、もう一つ、ストーリーの短さも理由にあります。原典通りに上演すると30分足らずで終わってしまいますが、その分、隠されている要素が多いんです。今回は新しい要素として“音楽”を加えています。ミュージカルではない、音楽劇ではないものを何かできないかということは松岡さんと出会う前から考えていました。歌を歌として登場させて、歌が活躍する物語を作りたいと。そこがぼんやりしていたのが、松岡さんとの出会いによって全貌が見えて、サロメという題材に当てはめるとピースがうまいことハマりました。脚本は1カ月ほどで書き上げたと思います。
池田純矢
ーーその台本を読まれて、いかがでしたか?
鈴木:まず、「これをどうやって舞台でやるんだろう」って思いました。
池田:(笑)
鈴木:舞台演出としてどうやるのかな、と。本番でお客さんの目にどう映るかが今からすごく楽しみです。
ーー原典である戯曲「サロメ」への印象を教えてください。
鈴木:芝居というよりは、どちらかというとオペラのイメージが強いです。純矢からもらった台本を読んで、改めて純矢にどういう話かという印象を聞いたんですが、登場人物の立ち位置や大筋はそれほど変わってはいないとのことでした。30分ほどの作品に詰まっているものをエンタメとして広げつつも、分厚さのある表現にしたいという思いを感じました。
ーー第4弾では古典作品に臨まれますが、これまでも朗読劇やSF、コメディと幅広いジャンルを表現されてきましたね。
鈴木:そうですね。個人的には“古典”という表現がすごくおもしろいな、と。最近、「人は何を持って線引きをしているのだろうか」ということをずっと考えていて。なぜ演劇のジャンルに対してカテゴライズをしたがるんだろうな、というところに興味があるんです。今回の作品で、その問いに池田純矢が一つの答えを出せるようになってくれればいいなと思います。
鈴木勝吾
ーー現時点で、演じられるヘロデに抱いている印象は?
鈴木:ものすごく寂しい人なんだろうなとは感じています。寂しいながらも生きることを望んだ人間なんだというところを表現していけたら。
池田:なるほどね。
鈴木:稽古前ということもありますが、彼に関しては語れば語るほどぼやけていく気がします。
ーー鈴木さんは本シリーズへの参加は”皆勤賞”。今回もオファーされた理由は?
池田:本人にも直接伝えたことなんですけど、ヘロデというキャラクターが出来上がった時に「これは間違いなく勝ちゃんでしょう」と同時に、「今、彼がやらずして誰がやるんだ?」と思ったんです。この物語を書くきっかけになった松岡さんと同じくらい“彼じゃなければならない”ということを強く感じました。前作までは、僕が思う鈴木勝吾の魅力というものをあえて外してきたところがあったんです。想像通りじゃない、見たことのない新しい魅力を見せるために重点的にやってきていました。今回は、誰が見ても鈴木勝吾の得意分野。尖りまくってます。
鈴木:ありがたいですね、ものすごく。
ーー今まであえて外してきた、鈴木さんらしい魅力というのは?
池田:表現が難しいんですけど、彼は役者としてどこかネジが外れているんですよ。
(左から)池田純矢、鈴木勝吾
鈴木:アハハ!
池田:俳優として何にでもまっすぐぶち当たる、突貫力は誰よりも何よりも、何をやらせても秀でている。いくら突飛な役でも、彼が体現することによって存在が可能になって無茶ができるんです。その無茶を押し通すためには、ヘロデのようなぶっとんだキャラクターがいちばん真価を発揮するのではないかと思っています。
ーー一方で、鈴木さんが感じる池田さんの魅力というのは?
鈴木:劇作家としてはもちろんものすごいんですけど、僕の場合は“友人”というのが先に立ってしまうんです。稽古場にいるときは仕事仲間として尊敬しあえる間柄なんですけどね。ふだんは行動力であったり決断力であったり、やりたいことを確実に掴み取っていく姿は同じ男として、仕事人として憧れる部分です。
ーー「演劇とは娯楽であるべきだ」がコンセプトのシリーズ。お二人にとってどんな存在ですか?
鈴木:僕は乗っかっている身でもあるのですが、純矢が走り出させた大きな屋号。その屋号のなかにある野望を……。
池田:おっ、韻を踏んできた。
鈴木:屋号のなかにある野望(笑)。そういうものをしっかり表現していきたい、彼と僕の思っているところは近い部分もありますが、表現方法が違う瞬間もたくさんある。そこを現場ですり合わせていくのがすごく楽しいので、僕にとっては健全な場所だと思っています。
ーー純粋に演劇を追求できる場?
鈴木:そうですね。彼はやりたいことが明確で、そこには一色じゃない彼の思いがいっぱい詰まっている。これまでは主演だったということもあり、僕もいっしょに背負ってやってきましたが、これからも彼を見る景色と一緒に歩みたいなと思ってはいます。とはいえ、「当てはまる役がなければ呼ばない」ということはもうずっと言われていますので(笑)
池田:でもね、最近気づいたんですよ。俺が書きたいものには、鈴木勝吾が必要なんだなって。
池田純矢
鈴木:いるんだ、どこかしらに(笑)
池田:ハマらない役なんてない! 
鈴木:(笑)。悟った?
池田:そう、今回でね。やっぱり必要なんだなって。僕がやりたいことのなかに鈴木勝吾というパーツが武器としてあるんだって。
ーー「ハマらない役がない」というのは、役者にとって最高の誉め言葉ではないでしょうか?
鈴木:演出家にこんなこと言ってもらえることなんて、ないですよ!
ーー池田さんにとって本シリーズとは、そして演劇とはどんな存在ですか?
池田:最近、よく聞かれるのが「役者をやるのか、裏方に徹すのか、どっちの道を選ぶんだ?」という質問。僕、裏方のつもりは一切ないんです。エンタメを作るにあたって裏も表もないと思っていて。俳優と同じ目線で作家として演出家としてやりますし、その視線が独特というわけでもなく、役者としての立ち位置が違うわけでもなく。デビューしてから今まで、ずっと同じスタンスでやってきたつもりです。特段何かを変えたつもりもないし、やりたいことをやりたいようにまっすぐやっている。その上で、このシリーズは陣頭になって自分の裁量で叶えられる場所。宝物でありホームではありますが、いちばん矢面に立たされる場所。特別な場所ではあるけれど、特別なことをしているわけではないという感覚です。
鈴木:「演出家として、自分が責任を取る」と純矢が言うと「本当にそのつもりなんだろうな」と感じさせてくれる。純矢が役者をやっているからこそ感じさせてくれているところもあるかもしれませんが、俺にとってはいちばん必要な関係性というものを純矢が持っているなと思います。前作で気づいたんですけど、彼が天才かはまだわからないですが、演出家としては間違いなく相当優秀な人物。一緒に作品を作りたいと思える貴重な存在で、大切な出会いだった。もう、宝だなと思っています。
鈴木勝吾
ーーお互いを心底信頼されているからこそ、あえて公演までに何かリクエストしたいことはありますか?
鈴木:えっ、それは難しい質問ですね(笑)
池田:飲みに行きたい……とはいっても、何もなくても行くもんな(笑)。この関係の特殊なところって、「演出家として作家として鈴木勝吾を信頼している」「俳優として同じ板の上に立って尊敬できる」、もう一つは「友達として好き」という三つの軸があるところ。まあ、全面的に肯定するわけじゃないけどさ。
鈴木:お互いね。
池田:しいて言うなら、飲みに行って、『絶唱サロメ』の話もしつつ、たわいもない話もしようねってことくらいですかね。
鈴木:うん。あのね、リクエストが何にもない! ほんとに一緒にいる奴って、本当に何も求めてないんですね、本質的に。まぁ、銭湯行ってそのあとご飯でも行きましょうよ。
池田:いつも通りね(笑)
(左から)池田純矢、鈴木勝吾
取材・文=潮田茗、撮影=池上夢貢

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