寛一郎

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【インタビュー】『雪子さんの足音』
寛一郎、“映画人”として生きる覚悟
… 父・佐藤浩市とはねたみ合う「ラ
イバルでいたい」

 名優・三國連太郎を祖父に、佐藤浩市を父に持ち、彼らと同じ映画俳優の道を歩きはじめた寛一郎。計り知れないプレッシャーがのしかかるその胸には、2人の偉大な役者の「3世」ゆえの覚悟が秘められていた…。
 映画『心が叫びたがってるんだ。』(17)で表舞台に登場して以降、順調に活動を続ける寛一郎。16年秋、『菊とギロチン』(18)で初めて映画の現場に足を踏み入れてからの3年間はあっという間で、「時間が過ぎるのが早いと感じるのは充実している証しだと思います。思い通りの演技ができなかったり、あまりの労力に面倒で疲れたりもするけれど、時間を掛けて考え、体になじませ、構築していく役作りや、本番で芝居がかみ合った瞬間には充足感を覚えます」と俳優としての日々に喜びをにじませた。
 そんな寛一郎は、あまり家族の話をしたがらない空気を漂わせており、昨年度の「第92回キネマ旬報ベスト・テン」授賞式では、ベテランアナウンサーでさえ、「お父さんのこと、一つだけ聞いてもいいですか…?」と遠慮しながら、寛一郎が新人男優賞を受賞した際の佐藤の反応を尋ねていた。
 実際、祖父や父の話を振られると、「条件反射みたいに『嫌!』と感じる」のだという。そうは言っても、「『2世』とか『3世』って言われて、ある種の偏見の中で育ってきたから今さらですけどね(笑)。それに、この仕事ができているのは、おじいちゃんやおやじのおかげでもあるので」と感謝の言葉も口にした。
 その思いは俳優としての覚悟にもつながる。「これまでも、これからも、どんなにつらいことがあっても、この世界から逃げ出すという選択肢はありません。それは、三國連太郎の孫で、佐藤浩市の息子である僕自身が、役者をやる重みを理解しているから」と力を込める。
 気になる親子仲にも触れると、誰もが通過する反抗期も無事に乗り越え、「今はおやじとの仲はいいですよ」と笑顔で答えてくれた。しかし、「“親子”と“役者”の線引きはあって、そこは守っていきたいです。家族の在り方はそれぞれですけど、僕は親に仕事の話をしている2世を見ると薄っぺらく感じてしまう」と見解を示し、「おじいちゃんとおやじのように、親子と言えどもライバルでいたい。彼らはつながっていた部分はあったけど、お互いにバチバチでねたみ合っていたところはいいなと思っていました」とうらやんだ。
 そのバチバチの局面が見られるか!?と思わず期待した、映画『雪子さんの足音』(5月8日公開)。下宿人の薫(寛一郎)に過剰に親切にする月光荘の大家・雪子(吉行和子)の欲望と闇を描いた同作に、佐藤も雪子の息子の悪友役で友情出演しているのだ。
 この一報に驚いたのはわれわれだけではなく、寛一郎も「びっくりしました。僕の方が先に出演が決まっていて、あとからおやじも出ると聞いたので…」と苦笑い。が、残念ながら共演シーンはないため、かつて三國と佐藤が『美味しんぼ』(96)など数作品で共演したように、いつか芝居合戦を見たいと願うと、「まだ絡まなくてもいいかなぁ」と本音を語りつつも、「いずれは対面することになると思うし、しなきゃいけない宿命だと思います」と言い切った。
 理想は、火花を散らして対峙(たいじ)する役だそうだが、「現実は思わぬタイミングで、親子役とか想像とは違う役になるんじゃないかな」と予想した。そして、「いろいろな感情があります。楽しみでもあり怖くもあり、嫌ではないけど良くもないし、でもいつかやりたいし、やりたいくないし…」と複雑な“子ども心”をのぞかせた。
 幼少期から映画の世界で活躍する祖父と父を見て育ち、「映画人と言われる役者」を目指す寛一郎は、長らくフィルム映画を撮り続けてきた浜野佐知監督とのタッグにもご機嫌な様子。「監督は、今回初めてデジタル撮影をされましたがフィルムの撮り方だったから、フィルム経験のない僕は疑似体験ができました。一言ずつカットを割るなど手間が掛かるけど、初体験で面白かったです」と笑みをこぼした。
 また、「1800円の映画代を払ってまで見る価値がある役者ってそんなにいないですよね。大切な休みの日に、わざわざ映画館に行って2時間も拘束されるわけだから、この人が出るなら1800円を払う価値があると思ってもらえる役者になりたい」と将来を見つめる。
 そのために、「無駄な消費をしない。テレビにたくさん出ている人を映画館でわざわざ見る必要はないから、マスメディアへの露出をできるだけ抑えることは大事」と分析し、「もちろんドラマに呼んでいただけることはありがたいですが、僕は映画に自分の価値を見出していきたい」と明確な目標を掲げた。
 挑戦したい役も目白押しだ。まだ22歳だが、落ち着いた雰囲気からワイワイとした学園ものには興味がないのかと思いきや、「学園ものや胸キュン系、高校生の役などは、学生の気持ちをまだ覚えているうちにやっておきたいです。『心が叫びたがってるんだ。』では、みんなで文化祭みたいに一緒に作品を作る感じが楽しかったし、自分の学生時代は催し物を避けていたので、今、学生生活を取り戻したい願望はあります」と吐露。「アクションやシリアスものまで、やりたいものが多すぎて、どうしよう」と子どものように声を弾ませる。
 どんな役を与えられても「根拠のない自信だけはある」と笑う寛一郎。その自信と覚悟を胸に、逃げることのできない映画人の道を突き進む…。
(取材・文・写真/錦怜那)

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