【連載】建物語り by うらら(Salle
y)第二回<高速道路から見える輝き
、西宮名塩ニュータウン>

■最初の目的地として浮かんだのがここ
■西宮名塩ニュータウン

大学生になった頃、中型バイクの免許を取った。さまざまな環境の変化が自分に起こり、鬱々とした日々を過ごしていたころの話である。

それまでは原付に乗っていたのだが、どうしても長距離移動には向かない。遠くへ逃げ出してしまいたいと思っても、せいぜい隣の隣の市くらいまでしか行けなかった。

そんな折、当時もう生産が終了していたPS250というビッグスクーターに一目惚れした。なんとシンプルで、無骨で、直線的で、そしてトロそうな見た目なんだろう。大阪府吹田市に住んでいたのだが、府内にはもう1台しか残っておらず、わざわざ泉佐野まで出向き購入した。

建築の連載で、なぜバイクの話をしているのか。それは、このバイクがなければ「建築を見にいく」ということをしなかったと思うからだ。

「好きだな」「惹かれるな」という気持ちはあったものの、実際に気になる建物を見に行くという発想がなかった。というより、なんとなく自分の行動範囲を決めつけてしまっていて、そこから出るということを想像もしなかったのである。

けれども私はバイクを手に入れた。19歳になり、家を出て、自分の力で自由に遠くへ行けるようになったのだ。

そのことに気づいたとき、まず最初の目的地として浮かんだのがここだった。

西宮名塩ニュータウンである。
兵庫県西宮市にあるこのニュータウンを初めて見たのは、まだ子どもの頃。目の前を走る中国自動車道の上からだった。地元大阪から、家族で神戸フルーツフラワーパークにでも向かう道中だったのだろうか。高速道路の脇を覆う防音壁が途切れた瞬間、突如山あいに白を基調とした住宅の群れが姿を現した。南向きの斜面いっぱいに広がる建物の集合体は、その全身で太陽の光を跳ね返し、白く、美しく輝いていた。

それ以来、中国自動車道に乗るたび「あの白いところまだ?」「白いやつのとこきたら絶対言うてや!」と親にせがみ、また陽が落ちている帰り道では家々の明りで全体がぼうっと淡く光っているのが見られて(しかもその場所は必ず渋滞するので、非常にゆっくりと見られるのだ)何度も何度も見惚れたものだった。

PS250にまたがり、西宮名塩へ向かう。高速道路では通りすぎてしまうので、下道をトコトコ走ってその場所を目指した。

もう随分と前のことになるので記憶が曖昧だが、街に入るために確か橋を渡ったような気がする。川や緑に阻まれたニュータウンの始点は、本当に突然山の中に現れた街のような、まるでここだけ切り離された別世界のような、RPGでフィールドから街に入ったときのような、そんな印象を受けた。
遠目から見ても近未来的で印象的な長い斜行エレベーターは、山の斜面に沿って作られたこの街にはなくてはならない導線なのだと思う。私はバイクでいったので上のほうまですいすい上ったが、徒歩で上がることを考えるとかなりの高低差だ。

今この文章を書きながら、あまり建物内部(斜行エレベーターや階段付近など)に入り込まなかったことを後悔している。住んでいる方への配慮としてそのようにしたのだが、写真も少なければ細部まで伝えることもできない。悔しい。非常に悔しい。

けれど細部まで見ていない自分でも感じた感動をとにかく書いていこうと思う。

斜面に沿って作られた名塩ニュータウンは、入ってみると思ったよりも巨大だった。遠目に見ていたときは階段状の建物が並んでいるのを想像していたが、中には様々な住宅が存在していた。画一的な集合住宅ではなく、まさに住宅の集合体だったのだ。
モノトーンの建物だけではなかったり。
私がこのニュータウンに住む子どもだったら、この階段は「ラスボスのいる塔」や「お姫様の部屋」「重要アイテムが祀られている神殿」などとして、日々活躍していたことだろう。
直線、直線、直線。今だったら「インスタ映え」させてしまいそうだ。
シンプルなエッシャーかよ。と思ってふとエッシャーでググったら、作品の中に遠目にみた名塩ニュータウンのような絵があった。「モンテチェーリオの要塞を描いたもの」らしい。詳しい方誰か教えてください。むちゃくちゃカッコいいんだが……!
その細〜い階段は非常階段? ワクワク感が半端ない。町全体でかくれんぼとかしたい。

そしてこの時の名塩ニュータウン探索で一番圧倒された建物がこちら。
ドーン!!! 何、お城?お城なの?なんなの?このデザインただ住むだけなら必要なくない?かっこよすぎ!!!!!!!!!

■「その廊下の形どういうこと?」
■「その凹んだ部分どうなってるの?」

取り乱してしまって申し訳ない。

遠目から見ただけでは知り得なかったこの建物の存在。直線、四角、三角、そしてバルコニーの弧。「子どものころに、積み木やレゴで作ったお城に似ている」と思った。ちなみに向かって右方向に建物は続いている。
左端に見えているのが先ほどの写真にあった部分。かなり大きなマンションである。もしかしたら前の塀だけ一続きで建物は分かれている?  どこまでが一戸なのだろうか? 建物内の導線はどうなっているのだろうか? ああなぜ私はもう少し近づいて写真を撮らなかったのだろう……もっと使える写真を撮っておいてくれよこの時の私!!!
街灯の形。この写真を見てもらうとわかるのだが、完全に雨が降ってきている。写真が少ないのは雨で早々に退散したせいでもあるのか……。
どこまでが一つの棟なのかよくわからないが、とにかくかっこいい(語彙力)。同じ形を均一に並べているのではないのにこの統一感。キュンとする……。この写真もそうなのだが、拡大してよく見てみると「その屋根なに?」「その廊下の形どういうこと?」「その凹んだ部分どうなってるの?」など、ありふれたマンションにはない不思議な造形に溢れている。意味あるの?と聞きたくなるような部分も、私の心をこんなに躍らせてくれるという部分では、間違いなく意味がある。ありがとうナシオン(このニュータウンの愛称らしい)。

ただ、これは全て10年ほど前に撮った写真なので、今は何かが変わっているかもしれない。今度大阪に帰ったら、次は電車でいってみるのもいい。斜行エレベーターのりたい。

今回このコラムを書くにあたり、名塩ニュータウンについて調べてみて初めて知ったことがある。それは、地元吹田市にあった「千里山ロイヤルマンション」と、この名塩ニュータウンが、同じ建築家によって作られたものだったこと。

「遠藤剛生」という方だ。

阪急北千里線の千里山駅から新御堂のほうへ向かって坂を下っていくと現れる不思議な形のマンションが、幼いころからずっと気になっていた。まさか、同じ人が手掛けていたとは。私の一番のツボは「遠藤剛生」にあったのか。私はただ好き好き言っていただけで、そんな基本的なことも知らなかったのだ。もちろんそれから遠藤剛生について調べ、彼が手掛けた他の建築物にたどり着き一人萌えている。この連載のおかげで、もっと建築の深みにはまっていきそうだ。

まだまだ書きたいことはあったのだが、思った以上に長くなってしまったので今回はこの辺で。どうしても住宅に偏りがちになってしまうので、次回は「名建築」と呼ばれるようなところで書いてみたいと思う。

ところで、お前は誰なんだ、と思った方もいるかもしれない。どこの小娘が好き勝手に建築がどーの住宅がどーの言ってるんだ、と。
が私である。いや、だから何をやってるやつなんだよ、と思ってくれた方は、
を見てほしい。
もやっている。
では曲も聴けるのでぜひチャンネル登録をしてほしい。

そして気になったら、ライブに足を運んでほしい(ライブ情報はオフィシャルサイトにある)。

自分の宣伝をもっとしてもいいんだよ、と言われたが、私は建築の話がしたい、建築の写真を載せたい……。

それでは、また。

Salley うらら

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