変わらぬ往年の笑顔と、楽しさいっぱいの演奏が織り成す、大江千里の音楽に向けた思い

変わらぬ往年の笑顔と、楽しさいっぱいの演奏が織り成す、大江千里の音楽に向けた思い

変わらぬ往年の笑顔と、楽しさいっぱ
いの演奏が織り成す、大江千里の音楽
に向けた思い

 1980年代にシングル「十人十色」でスマッシュヒットを飛ばした以降、一世を風靡した大江は、数々の代表曲を発表し続けその存在感を確かなものにしていたが、2007年の12月に自身のブログにて、ニューヨークでジャズを学ぶため日本国内での音楽活動を長期休業する旨を発表、以降拠点をニューヨークに移し、2012年にジャズ学校を卒業するとともにジャズピアニストとしてのデビューアルバム『Boys Mature Slow』を発表し、近年はジャズピアニストとして顕著な活動を続けている。
 『ブルックリンでジャズを耕す』は、2015年に大江が刊行した『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』の続編となるもの。アメリカにてジャズアーティストとして活動しているほか、自らのレコード会社「PND Records & Music Publishing」のCEOとして働く傍らで、発送管理や営業宣伝、交渉契約まですべての業務を1人でこなしている大江が、社長業とアーティスト活動の両立や、グリーンカードの取得、起業からアルバムをリリースするまで、日本での再デビューなど多岐にわたるエピソードなどを綴っている。この日はかねてからの大江のファンとおぼしき女性が多く会場を訪れ、目いっぱいの楽しさを振りまく彼のショーの楽しい雰囲気を、存分に味わった。
人懐っこい笑顔、楽しさを感じるトーク、演奏
 定刻から少し過ぎた頃に、ファンからの温かい拍手に迎えられて、大江はイベント会場に登場した。ひげをたくわえ、髪には少し白いものが混じってはいるが、その人懐っこい笑顔は今なお健在だ。最初に急な告知であったにもかかわらず、多くのファンがこの日訪れてくれたことに感謝の思いを告げながら、今回の書籍発売に至った経緯などを振り返る。
 今回の本を発行するにあたり、紙のゲラのやり取りを編集者と行うことで新たな発見をしたこと。今回執筆した書籍のビジネスという内容には、昔自分のスタッフが裏方としてやっていた仕事を思い出すようなものもあること。ビジネスの一環として行っている、自分自身でCDを購入者に送る際に行っていることなど。そんなひとつひとつのことを、彼ならではのユーモアを交えた会話で辿ることで、大江は寒空が覆う東京の、とある夜の一角をほんのり温めていた。
 そんな楽しいトークとともに、この日は4曲をピアノで披露。手始めに、ちょっぴりラグタイム風のリズムが気持ちをウキウキさせてくれる「Mischievous mouse」、ボサノバ風の新曲「bikini」、をソロピアノにて奏でた。大江のピアノは、基本的に楽しい。見ても、聴いてもそんな雰囲気を感じる。心からそう思える演奏を、彼はこの日披露した。ピアノで作り出すリズムとグルーブに、自分自身が気分を高揚させられるかのよう、そして思わず表情が笑顔になる。そんな印象が、聴く側にもそのまま伝わってくるかのようだ。
「引退はしない」音楽、そしてファンに掛ける大江の思い
 一方で大江は“人生100年”といわれている今日に、自分は引退なんてしない、と断言。「引退するくらいなら、2年くらいバケーションを取って、ちょっと肉付きをよくして、そして『bikini』を演奏しに戻ってくる」などと冗談っぽく語る。みなの笑顔がこぼれた瞬間だが、反面大江の音楽に対する情熱、強い意志を感じられたひと時でもある。
 そして昨年2017年に、100歳を目前に亡くなったジャズ・シンガー、ジョン・ヘンドリックスとの共作というバラード楽曲「Just A Little Wine」を披露。このときの彼の表情は、何かの思いにふけるような様子。静かな空気の中で、繊細ながらも雄弁に語るピアノのメロディの呼びかけに、耳を傾けているようでもある。
 そしてこの日最後に披露した曲は、ポップシンガー・大江千里としての代表曲の一つでもある「GLORY DAYS」。自身の音源のジャズ・アレンジ化も考えている大江だが、「やるからには、ただ単にジャズアレンジにしてみました、というだけでは・・・」と慎重な様子。しかしその言葉には、自身のこれまで歩んできた道のりへの思いや、今現在に作り上げようとするものへの、真摯な思いも感じられる。それらの思いは、この日ピアノ一つで奏でられた、清々しさすら感じるその響きの中で、しっかりと表されていた。
 近年は、小指の怪我にも悩まされているという大江。この日はそんな指のケアを考えてと、前説の男性がサイン時の握手を控えたい旨を告げると、会場に訪れたファンは少し寂しそうな表情を見せていた。しかし「その代わり“ハイタッチ”ならということで・・・」と言葉を続けると、会場は大きな笑いに包まれた。ファンを想う大江の心情が感じられる計らいでもある。そしてトークとライブ終了後に、ファンが持参した本に丁寧にサインを入れ、そして満面の笑みでファンとハイタッチを交わす大江。その表情には、単なるエンターテイナーというより「音楽により人生を幸せにしてもらい、その幸せを表現する1人の男」そんな姿が見えてくるようだった。
TEXT&Photo:桂伸也
セットリスト(1月20日)
01. Mischievous mouse
02. bikini(新曲)
03. Just A Little Wine
04. GLORY DAYS

アーティスト

UtaTen

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