高畑淳子が広岡浅子を演じる『土佐堀
川 近代ニッポン-女性を花咲かせた
女 広岡浅子の生涯』稽古場リポート

明治の女性実業家として活躍した広岡浅子の激動の生涯を描く舞台『土佐堀川 近代ニッポン-女性を花咲かせた女 広岡浅子の生涯』(主演・高畑淳子、演出・田村孝裕)がまもなく10月4日に東京・日比谷のシアタークリエで初演を迎える。たゆまぬバイタリティーで奔走した浅子をほうふつとさせる高畑を中心に、当時の人間群像が生き生きと創り上げられていく稽古場の模様をリポートする。
舞台『土佐堀川 近代ニッポン-女性を花咲かせた女 広岡浅子の生涯』は、NHKの連続テレビ小説「あさが来た」の原案にもなった古川智映子の「小説 土佐堀川」を原作に舞台化したもの。江戸時代末期に豪商、三井家に次女として生まれた浅子が、嫁ぎ先の両替商の商売が時代の大転換に乗れずに倒産しそうになっても、炭鉱経営で家業を立て直し、その後も銀行設立、日本初の女子大学校の創設、生命保険会社の設立などに奔走する姿を描く。
『土佐堀川 近代ニッポン-女性を花咲かせた女 広岡浅子の生涯』稽古場
この日は急きょ、第1幕、第2幕の通し稽古となったが、出演の俳優たちは着々と準備を整え、稽古の開始を今か今かと待つ。その姿勢はこれまでの稽古の充実ぶりを物語っている。
冒頭から活気にあふれる大阪の町や浅子が嫁いだ両替屋加島屋の描写。夫、信五郎(赤井英和)の弟で番頭の正秋(田山涼成)がどうやら外で恥をかいてきたようで、すごい剣幕で戻ってきた。浅子は振袖のそでを振り回して大股で米市場を歩き回っているらしく、ありがたくないあだ名も頂戴している有様。浅子を演じる高畑は、ドタバタの展開に持ち込みながらも、浅子の物言いの強烈さと鋼のような意志を見せつける。遊び人だが人物の器の大きさを見せる信五郎、浅子に付き従う忠実な小藤(南野陽子)、古い商売の仕方に固執する正秋など、主要な人物のキャラクターを鮮やかに印象付けていく。
『土佐堀川 近代ニッポン-女性を花咲かせた女 広岡浅子の生涯』稽古場
浅子が凄みを見せるのは、窮地に追い込まれた時だ。労咳(肺結核)は乗り越えたものの体調が戻り切っていない体で炭鉱経営に乗り出した浅子が、「おなごの下では働けん」と掘り出しに応じてくれない炭鉱夫たちに直談判。なおも渋る男たちに浅子はピストルを向ける。あ然とする男たちと違って、浅子は自分に銃口を向けて死ぬ覚悟を見せ、相手に渡して「撃って」と座り込みを決め込む。覚悟の深さが違うのだ。荒くれ男たちに一歩も引かない浅子の一世一代の見せ場はまさに高畑の独壇場だ。度胸満点の心意気あふれる口舌と、きりりと結んだ顔。迷いのない動き。それとは正反対に、すべてが終わったときの止まらない体の震えに至るまで、人間くさい浅子の造型が冴えている。
浅子は夢と理想の人。そんな浅子を堪能できるのが尊敬する五代友厚(葛山信吾)との初対面シーン。二人はぎこちないやり取りの中で、心の中にある原風景を語り合う。上辺だけでなく、心の一番深いところで結びついていくことが手に取るように伝わる名シーンだ。
『土佐堀川 近代ニッポン-女性を花咲かせた女 広岡浅子の生涯』稽古場
そんな浅子でも、娘の亀子(三倉茉奈)とはなかなか折り合えない。「偉大すぎる親を持った」亀子の戸惑いを全身で表そうとする三倉の体当たりの演技を、高畑はしっかりと受け止めている。そして小藤を演じた南野の柔らかくたおやかな演技が印象的だ。それは「人に尽くす」ことに徹する小藤そのものの姿へとつながっていく。
信五郎の父を演じる小松政夫が円熟の芸で爆笑を誘えば、お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎が要所要所でつくりこんだ軽妙なずっこけアクションを披露して場を和ませる。赤井や田山のリアクションの中に潜ませた小ネタもほほえましい。関西が舞台だけに、喜劇としてのベースもきっちりとあり、一代記にありがちな絶対的なヒーロー視や人情過多の描き方には頼っていない。まだまだたくさんの直しを入れていくことが予想されるが、演出の田村のバランス感覚がなんともうまく作用しているここまでの出来上がりだ。出演はほかに紫とも、篠田光亮、越智静香、芋洗坂係長、武岡淳一ら。

『土佐堀川 近代ニッポン-女性を花咲かせた女 広岡浅子の生涯』稽古場

取材・文/エンタメ批評家・阪清和
公演情報

『土佐堀川 近代ニッポン―女性を花咲かせた女 広岡浅子の生涯』

■原作:古川智映子「小説 土佐堀川」(潮出版社 刊)
■脚本:小池倫代
■演出:田村孝裕
■出演:
高畑淳子、赤井英和、田山涼成、小松政夫、葛山信吾、南野陽子
芋洗坂係長、越智静香、武岡淳一、矢部太郎、篠田光亮、紫とも、三倉茉奈 ほか

■日程・会場:
10月 4日(水)~28日(土)シアタークリエ【東京】
11月 1日(水)~5日(日)サンケイホールブリーゼ【大阪】
11月 7日(火)新川文化ホール【富山】
11月15日(水)呉市文化ホール【広島】
11月17日(金)東海市芸術劇場 大ホール【愛知】
11月20日(月)宝山ホール(鹿児島県文化センター)【鹿児島】
11月23日(木・祝)北九州芸術劇場 大ホール【福岡】
12月 2日(土)トークネットホール仙台(仙台市民会館)【宮城】

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