L→R 坂詰克彦(Dr)、清水泰而(Ba)、増子直純(Vo)、上原子友康(Gu)

L→R 坂詰克彦(Dr)、清水泰而(Ba)、増子直純(Vo)、上原子友康(Gu)

【怒髪天】2010年における“オトナの
再定義”

昨年に結成25周年を迎えたJAPANESE R&E(リズム&演歌)バンド、怒髪天。走り続けてきたバンドだからこその説得力に満ちた新作『オトナマイト・ダンディー』には、大人になることの喜びと幸せ、そして気合いが詰まっている。最高に熱い昭和男・増子直純(Vo)に話を訊いた。
取材:金澤隆志

“オトナマイト・ダンディー”は非常に怒髪天らしい、バカバカしさとメッセージ性が絶妙なバランスで絡み合った、素晴らしいタイトルですね。

今回は『オトナノススメ』と『ド真ん中節』というシングル2曲がアルバムの核になるのが分かっていたので、“大人になることの楽しさ”がコンセプトになっているんだ。“Don’t trust over 30(ヒッピーやパンクムーブメントの頃に言われた言葉、30歳以上を信じるなの意味)”へのアンチテーゼ。若い頃はそう言うのがカッコ良いと思っていたんだ。でも、実際大人になってみるとすごく面白いし、全然子供に戻りたくない。“お父さんみたいになりたくない”と言う子供もいるけど、本当に面白いことは子供に言えないだけ(笑)。大人がつまらないんじゃなくて、それを言うヤツがつまらないだけでさ。“俺らぐらいメチャクチャやってても、なんとかなるもんだぞ”というのを見てほしいんだ。やりたいことをやって生きるのは、こんなに楽しいことなんだって。

楽曲的にもすごく充実していますよね。これまでの怒髪天からは想像できないような曲もあったり。

これまではコンセプト在りきで曲を選ぶ部分があったけど、今回はとにかく面白いものを選ぼうとなって。で、ギターの上原子(友康)が書いた30曲の中から選んでいったら、今までの俺らだったら絶対にやらなかったような曲。書いた本人でさえ“これ、本当にやっちゃうの?”と戸惑ったぐらい(笑)。そういった曲たちをどれだけ俺らのほうに引っ張ってこれるかというチャレンジでもあって。本当にバラエティーに富んでるというか…ムチャクチャ、そこがすごくいい。

その中でも「ヤケっぱち数え歌」なんてモロにハードロックというか、ヘヴィメタルで。

完全に70年代のハードロックの雰囲気だね。だから、裏コンセプトとして、外国のヤツらにも聴いてほしい。日本語に引っ張られなかったらきっと違った印象を持つと思うし。あの曲調に数え歌を乗っけるのって、たぶん俺らしかいないと思うよ(笑)。それでも成立するバカバカしさって…本当にあり得ない曲だね。

「ド真ん中節」での“ドンドドン”という擬音にしても、シンプルな響きだからこそメッセージが直球で伝わるんですよね。

結局、“歌って何だろう?”って考えた時に一番心に残っているのはシンプルな童謡であったり、『みんなのうた』のような誰もが歌えるような曲なんだよね。それに対してロックだの、パンクだのと言うのは関係ない。響きがシンプルだと幼稚に見られがちだけど、伝えたい思いが届くんであればそれでいい。別にバカに見られることに何のデメリットもないし、伝わるんであれば、どんなにみっともない格好であっても伝えたいから。『ド真ん中節』で特に誇れるのは“俺のド真ん中”という部分。あくまで“君の”ではなく“俺の”。俺は自分のことしか歌えないし、そういう俺の姿を見て、聴いた人はそれぞれの“俺”を見つけて、気持ちを奮い立たせてくれると思っている。応援歌ってそういうもんじゃない? 見ず知らずのヤツに“お前もできるぜ!”とか言われたらブン殴りたくなるよ(笑)

幼なじみとの再会を歌った「オレとオマエ」も、大人になった喜びが滲み出ている曲ですね。昭和生まれとしては、かなりグッときましたよ。

これこそ大人にならないと絶対に歌えないよね。去年、友達に10何年振りに会えて、その時のうれしい気持ちを日記のように残した曲で。俺らの青春時代は80年代だったから、その頃の音を入れたいなと思ってキーボードで入れたんだ。この音だけで甘酸っぱい気持ちになれるから不思議。曲に合う歌詞を書いて、その歌詞に合った音を見つける作業で。作曲と作詞の間で何度も行き来がある中で、世界観が定まっていくんだ。

「武蔵野流星号」の自転車をモチーフにしたラブソングもいいですね。

札幌時代から知ってるthe pillowsの山中さわお(Vo&Gu)と飲んでた時、“また怒髪天のラブソングが聴きたい”って頼まれたことがあって。それを思い出して、ちょうど自転車のイベントとのタイアップ曲ということもあったし、そういう歌詞を書いてみて。おっさんのラブソングなだけに、若気の至りでは済まないリアルさがあるよね。まぁ、結局はチャリンコで謝りに行くんだけど。

「我が逃走」というシャレでひっかけた曲があったり。

何をしていようが闘わなければならない時は必ず来るから、その前に変な勝負に出て死ぬことなんてない。昔から“逃げるが勝ち”と言うけど、それは勝負時を見極めて、逃げるべき時は逃げてもいいということなんだと思うよ。“生き長らえることこそ勝ち”ということを、ダジャレに引っかけて表現してみたんだ。

“生き長らえることこそ勝ち”というのは、まさに結成26年を迎えた怒髪天の真骨頂と言えるかもしれないですね。

これまでは売れることが絶対的な勝ちパターンだったけど、俺たちのように好きなことをこれだけ長く続けて来れたのも勝ちだと思うんだ。本当にバカだからやってこれたんだろね、こんな売れそうもない曲をずっとやってきてるんだから(笑)。しょうがないよ、これしかできないし。昔はバンドなんて早く辞めた方がいいよと言われたもんだけど、それがしまいには続けてきただけで褒められるんだからおかしいよね。拾ってきた石でも25年磨き続けていれば“これはすごい! 売ってください”と言う人も出てくるんだ。今後売れなくなったとしても、他の仕事をしてでも絶対に音楽は続けていくよ。
『オトナマイト・ダンディー』
    • 『オトナマイト・ダンディー』
    • TECI-1277
    • 2010.03.03
    • 2800円
    • 「ド真ん中節」
    • 【初回生産限定盤(DVD付)】
    • TECI-208
    • 2010.01.27
    • 1890円
怒髪天 プロフィール

ドハツテン:1984年頃に札幌で結成。88年に現在のメンバーとなり、91年にアルバム『怒髪天』でメジャーデビュー。“R&E”と称する“リズム&演歌”というまったくオリジナルな音を追求。ちなみに、ここで言う“演歌”とはスタイルとしてのそれではなく、あくまでもスピリットを指す。人生という名の巨大山脈に裸一貫で立ち向かい、気合と根性と情熱でガシガシ登る…そんな男精神を綴り、あらゆるジャンルを怒髪天のフィルターを通しギュッと圧縮した、汗臭くコクのある楽曲を生み出している。オフィシャルHP
Twitter
Facebook

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着