エレクトロポップを提唱してきたMizcaを経て、2年半振りに本名での活動を再開させた光岡昌美。さまざまな音楽に触れ、経験を積んだ彼女が導き出した思いがアルバム『PAST TRUNK』には詰まっている。
取材:ジャガー
光岡昌美としての活動を再開した経緯を教えてください。
シンガーソングライター・光岡昌美の活動を一時休止して、エレクトロポップという今までやったことのないジャンルに挑戦したのがMizcaで。その活動では私は歌とダンスに専念して、新しい環境で得たものはすごいたくさんあったんですけど…同時に“自分の言葉で表現したい”って思いが募っていったんです。
以前だと、行き場を失った感情を歌詞に書くことで消化していましたよね。その思いが一気にあふれ出たと?
いや、曲自体はずっと書き溜めてましたね。内容がマイナス思考過ぎて、なかなか発表する機会に恵まれなかったものばかりなんですけど(笑)、自分としてはどうしても変えたくないものばかりだったので、『PAST TRUNK』では一度自分の好きなことをとことんやってみた感じです。なので、改めて歌詞を書くんじゃなくて、今までに私の中から出てきた曲たちをちゃんと集めてみた感覚です。
そうすると、本作『PAST TRUNK』の制作はじっくり時間をかけられたのではないですか?
そうですね。スタッフさんも前から知ってる方たちばかりだったので、楽曲制作にも積極的に絡んでいきました。イチから打合せを何回も重ねて、“この歌詞はこういうイメージだから、曲はこういう音を使いたい”とかを伝えて、上がってきた曲を聴いてイメージと違ったりしたらまたお願いしての繰り返しだったので、作曲家さんたちは大変だったと思います(笑)
歌詞ありきで、楽曲自体のイメージも具体的に出来上がっていたのですね。
部分的に歌詞を変えることもありましたけど、基本的にはそのままで曲の雰囲気を私の描く理想に近付けていく作業でした。
歌詞先行だから言葉が詰め込めれてますよね。“ここの言い回しは絶対変えたくなかったんだろうな”っていう箇所が多々ありましたよ(笑)。「Real Face」は特にそう思いました。
もともと言葉数が多いほうだし、今回は“自分の言葉で伝えたい”って思いが強かったので極力歌詞は変えたくなかったんですね。だから、“ここのメロディー…お願いします!”って。曲の構成にも縛りはなくて、1番と2番がなきゃいけないとかそういうことはまったく考えていなくて。言いたいことが1番で完結するのであれば、そこで曲が終わってもいいと思っていたので、曲の長さもバラバラなんですよ。『Real Face』は一曲中の流れも不思議な感じに仕上がっています。
1曲目「OUT of STEP」の入りから、いきなりダークな世界観が広がっていきますよね。
『OUT of STEP』は“武器”とか“鎧”という言葉を使って、これまでの音楽活動を通じて一番感じたことを最初に持ってきました。
余力のない自分をどこか俯瞰的に捉えているような歌詞が印象的でした。
生きてく上で陰の部分っていうのは絶対あると思うので、そういう陰をこのアルバムで込められたらなと思って書きました。
一曲一曲もそうですが、アルバム全体を通しても答えは歌っていないですよね。これまでは最後にはかすかな希望が見えていたように思うのですが。
今回は特に人間の心の陰をここまで歌っているのに、最後だけ希望を持たせても嘘を歌ってしまうんじゃないかなって。一曲でちゃんと物語を完結させることも大切ですけど、無理して光を与える必要もなくて。答えが見つからないなら、そのありのままを曲にすることが今の私にはとっては大事なことだと思うので。ただ、聴き手にすればモヤモヤ感が残るのかもしれませんが…
モヤモヤ感はなかったですよ(笑)。
それは良かったです。タイトルの“PAST TRUNK”は、過去の荷物をここでひと区切り付けられたらいいなと思って付けたんですけど、楽曲を並べてみたら1stアルバム『Black Diary』の時ぐらいからあった『inter face』『innocence』や比較的最近書いた『Doll』も、どっちも今現在の私に当てはまるんですよね。なので、結局核は変わってないのかなって感じました。そういう意味でも、今の私が伝わると嬉しいですね。
曲が誕生した時間差はありますけど、だからと言って懐かしいとか新しいという印象は受けませんでした。ちゃんと同じ目線で歌われているんだなと。
過去のものは心の闇を書いてる感覚なんですけど、例えば『Doll』とかは誰かに対する反抗心を歌っているので、同じ目線なんだけど対象物が違うからそれが良かったのかなと思います。
辛い瞬間の感情をぶちまけるような歌詞から、今は辛い状況を打破するために強くなろうとする葛藤に焦点が変化していますよね。歌声も力強くなっていますし。
Mizcaの活動をしたことで歌うことに余裕が持てるようになったんですね。良い意味で力を抜いて歌入れに臨めるようになったというか。だから、歌の表現にも幅が広がったので、寄り添う曲には温もりを持って、激しい曲では力強さを押し出して、よりその曲に込めた心情をストレートに表現できるようになったんじゃないかと思います。今の気持ちは、とにかく歌いたい歌を歌おうって感じなんですよね。その結果、今回はたまたまバラエティーに富んだ内容になったんですけど。今までの曲たちも大切なんですけど、楽曲制作にも関わったし、再始動第一弾作品でもあるので、これまで以上に自分の中で大事な曲たちになりました。
- 『PAST TRUNK』
- TYMR-0001
- 2012.01.11
- 3500円
ミツオカマサミ:2007年にシングル「Hana」でデビュー。透き通った優しい歌声と同世代が抱える心の葛藤をリアルに描いた歌詞が反響を呼んだ。アーティストとしての可能性を見出すべく、光岡名義での活動を一時休止したものの、11年にアルバム『PAST TRUNK』で活動を再開させた。 オフィシャルHP