吉井和哉が受け継ぐ「歌謡」と「ロッ
ク」の魂とは

今回の『FaRao Music Discovery』でフィーチャーするのは吉井和哉。ソロ10周年のアニバーサリーイヤーとなった昨年には初のカバー盤『ヨシー・ファンクJr. 〜此レガ原点!!〜』をリリースするなど精力的に活動を繰り広げ、今年3月18日に4年振りとなるソロアルバム『STARLIGHT』を発表。THE YELLOW MONKEY時代の古巣でもあるTRIADレーベルに移籍し、原点から新しいスタートを切った彼のルーツを、改めて解き明かしていこう。

1966年生まれ、20代前半でバンドTHE YELLOW MONKEYを結成した。メジャーデビューは92年。東京都北区で生まれ、静岡で育ち、思春期は歌謡曲やメタルやアメリカンロックを聴いて育ったという。古今東西の音楽を聴いて貪欲に自分に取り入れる姿勢はデビュー当時からあったものだ。『月刊カドカワ』95年7月号のインタビュー記事で彼はこう語っている。
「俺って、これまで聴いてきた音楽を、すごく素直に作品に反映してると思いますよ。俺の中にはヘヴィメタもあるし、四畳半フォークもある。静岡で育った頃のアメリカンな要素も入ってる。昭和歌謡も大好きです」
この時点でも語っていた昭和歌謡への愛が結実したのが、2014年にソロとしてリリースされた先述のカバー盤だ。美空ひばりの「真赤な太陽」、ピンク・レディーの「ウォンテッド(指名手配)」、沢田研二の「おまえがパラダイス」など、昭和を彩る名曲の数々を情熱的に歌い上げている。
そして、思春期の彼に大きな影響を与えたのが70年代のグラムロックだった。代表的なアーティストは、『ジギー・スターダスト』時代のデヴィッド・ボウイ、そしてその頃の彼のサウンドを手がけていたミック・ロンソン。95年にミック・ロンソンのアルバム『プレイ・ドント・ウォーリー』が再発された際にも彼はライナーノーツを執筆し熱い思いを寄せている。この影響が初期のTHE YELLOW MONKEYの方向性にそのまま結実している。
また、チープ・トリックも大きな存在だという。2008年にチープ・トリックが来日し武道館公演を行った際には『前夜祭』企画に出演。中学生時代に憧れていたことを明かしている。ベンチャーズも中学生時代のルーツのひとつだという。
一方、メタルの影響も大きい。THE YELLOW MONKEY結成前にはジャパメタ・バンド、アーグポリスにベーシストとして在籍していた。『音楽と人』95年3月号の記事でもD'ERLANGERのヴォーカリストのkyoとの対談にて当時のことを語っているが、そのバンド時代に影響を受けていたのはモトリー・クルーの1stアルバムだったという。
さらに、たびたび彼が大きな存在として名前をあげているのが、70年代にデビューしたフォークシンガー、あがた森魚。デビュー曲「赤色エレジー」が有名だが、吉井和哉に影響を与えたのはむしろ80年代に入ってからの活動だった。特に中期のTHE YELLOW MONKEYの音楽性には、彼がデビューした後に聴いたというアルバム『永遠の遠国の歌』が強い影響を与えたという。前述のカバー盤でも、あがた森魚がヴォーカルを担当した80年代のニューウェイヴバンド、ヴァージンVSの「百合コレクション」を歌っている。
他にも、ビートルズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ルー・リード、ブライアン・アダムスなどなど、名前を挙げると切りがないほどさまざまなロックに影響を受けてきたようだ。雑誌やラジオなどのインタビューで、自らに影響を与えた名盤を語っている。10代の頃だけでなく、レディオヘッドなど現在進行形のロックにも刺激を受け続けているのも彼の大きな特徴と言っていいだろう。
では、彼が影響を与えた下の世代のミュージシャンたちにはどんな面々がいるのだろうか。2009年にはTHE YELLOW MONKEYの結成20周年を祝したトリビュートアルバム『THIS IS FOR YOU~THE YELLOW MONKEY TRIBUTE ALBUM』がリリースされている。そこに参加しているバンドが、椿屋四重奏、毛皮のマリーズ、THE BACK HORN、9mm Parabellum Ballet、黒猫チェルシーなどの面々。特に現在はソロとして活動している椿屋四重奏の中田裕二、同じく現在はthe dresscodesとして活動している(元)毛皮のマリーズの志磨遼平は、吉井和哉の持っている“色気”と“音楽マニア”な側面を両方受け継ぐ存在と言える。
また、THE BACK HORNも憧れを公言し、2013年に『風とロック芋煮会』で吉井和哉と共演を果たしお互いの曲を一緒に演奏するなど交流を深めている。9mm Parabellum Bulletも『EMI ROCKS 2012』でコラボレーションが実現。激しくも情熱的な曲調にその影響がうかがえる。
こうして影響を受けたバンドたちを見ても、“歌謡”と“ロック”というふたつのキーワードが見て取れる。そのふたつを軸に世代や国境を超えて貪欲に音楽を吸収し、それを色気ある歌というかたちでアウトプットする。それが吉井和哉というミュージシャンの真骨頂であるのだろう。

著者:柴 那典

OKMusic編集部

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