『Never For Ever』/Kate Bush

『Never For Ever』/Kate Bush

ケイト・ブッシュの革新性が示された
傑作『魔物語』の色褪せない魅力

今後を期待させる『Aerial』以降の
マイペースな活動ぶり

 どうやらケイト・ブッシュが音楽活動を再開するらしい、というニュースを耳にしたのは2002年頃のことだったろうか。どこから聞こえてきたのか、自宅のスタジオを改装して最新の機材を揃えてウォーミングアップをしているという、噂の真贋を確かめるほどもないたったそれっぽちのニュースだったが、廃人にでもなっていなければ、そろそろそういうことがあってもいい頃だと思ったものだった。実際にはその噂は本当だったらしく、そのころからアルバム『Aerial』のレコーディングは始まっていたらしい。だが、アルバムは一向にリリースされず、やはり噂は噂でしかなかったのかとファンは落胆の日々を過ごしたものだった。“空気(大気)の~”という意味を持つアルバム『Aerial』のリリースが現実のものとなったのは2005年11月のことだった。初の2枚組、1時間20分というヴォリュームはそれだけ時間をかけて制作され、息子アルバートのことを歌った曲もあるなど、没にできないだけの曲が溜まったということだったのかもしれない。ディスク1は“A Sea of Honey”、ディスク2は“A Sky of Honey”と題され、ひとつのコンセプト作になっている。内容はかつての彼女のアルバムとは微妙に趣きが異なったものだったが、家族とともに穏やかな日々の中で暮らしているらしい彼女の“今の時間軸”を示すように、どの曲も5分、それ以上の長さを伴ったものが多く、ゆったりした曲調が多いことも印象的だった。劇的に、そしてエキセントリックな部分はなくなったけれど、彼女らしい部分はしっかり継承されており、重厚に構築されたサウンドに乗って歌う表現力豊かな歌唱は以前よりうまさを感じさせる。アルバムは長いブランクをものともせず、全英3位を獲得し、先行シングルとして出た「King of the mountain」も英チャート4位のヒットとなり、健在ぶりを見せつけた。そう、アメリカや日本でのチャートはそれほどでもなかったが、ヨーロッパ圏では軒並みトップ10入りしており、いかに欧州での根強い人気を保っているかを示す結果になった。
 以降はかいつまんで紹介しておく。アルバム『Aerial』以降、また6年のブランクを置いてケイトはかつての自作『The Sensual World』('89)と『The Red Shoes』('93)をセルフカバーするかたちで、『Directors Cut』('11)をリリース。どういう意図があったのか分からないが、単なるリマスタリング作業などではなく、完全に再録となっているところがこの人らしい。これも堂々英チャート2位を獲得。また、同年には新作『50 Words For Snow(邦題:雪のための50の言葉)』('11)がリリースされている。
 というわけで、最後のアルバムが出てからでもそろそろ4年が経っている。きっと、自宅のスタジオで、時間と、以前ほどにはミュージックビジネスの制約に縛られることなく、新作へ向けての録音が続けられているのだろうと思う。現在56歳、この人のことだからまだまだ驚くような傑作をものにするに違いない。

著者:片山明

OKMusic編集部

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