西川貴教「人と人とが結び付いて初め
て生まれるものを」~ミュージカル『
スクールオブロック』インタビュー

ジャック・ブラックが主演したロック映画の金字塔『スクール・オブ・ロック』(03年公開)を原作にしたミュージカル『スクールオブロック』が2023年8月~9月にかけて上演される。
落ちこぼれ熱血バンドマンがひょんなことから子供たちと出会い、破天荒な教育を通して爽快かつ心に響くメッセージを伝えてくれる本作。今回上演されるミュージカル版は、2015年にアンドリュー・ロイド=ウェバーのプロデュースと楽曲でブロードウェイにてミュージカル化されたもので、日本では2020年の上演中止を経て、これが日本初演となる。日本版演出・上演台本は鴻上尚史が手がける。
主人公デューイ・フィンを演じる西川貴教(柿澤勇人とのWキャスト)に話を聞いた。
人と人とが奏でることで初めて予定調和じゃないものが生まれる
ーー2020年の中止を経て、今回上演が決まっての率直な感想をお聞かせください。
やっと作品に挑むことができるっていうワクワクした気持ちと共に、2020年に出演するはずだったキャストのみんなの想いもしっかりと作品を通して届けられたらいいなという思いがあります。
西川貴教
ーーこの3年の間で、ご自身の中で作品に対する想いの変化はありましたか?
めちゃくちゃ変わった気がします。新型コロナウイルス感染症の流行はみんなに影響を与えましたが、特に大きく影響を受けたのは、高齢者の方や基礎疾患のある方以外でいえば、お子さんなんじゃないかと僕は思うんですね。中学生や高校生は、入学から卒業まで顔を全部見られないまま卒業しちゃう同級生もいると思います。これは、命と比べて尊いとか尊くないということとは別のところで、やっぱり経験の機会の喪失だったり、子供にかかっている負担って大きいと感じます。その中でこの作品は、いわゆる“生きる”とか“食べる”とか“寝る”というような基本的な生活以外のもの、音楽や芸術が人間にとっていかに大切で、人と人とが結び付く要素だったりになっているかということを描いている。それは僕自身にも再発見させてくれる作品になるんじゃないかなと思っています。ご覧いただくみなさんがそんなふうに感じていただける作品になったらいいなともすごく思っています。
ーー音楽がもたらすものはこんなにたくさんあるのかと感じさせてくれる作品ですよね。
コロナ禍に入って最初の頃は、文化や芸術が不要不急だと言われ、我々も手も足も出ない状況がしばらく続きました。震災とはまた違ったところで、我々の無力さみたいなものをまざまざと見せつけられた。ただ、今は徐々にエンターテインメントもかつての活気みたいなものを取り戻してきている。やっとみなさんが『あ、こういうことって楽しかったよね』『こういうことって大切だよね』と言ってくださる心情になってきたんだなと感じています。そんな今だからこそ、これは当たり前のことなんですけど、人はひとりで生きているわけじゃなくて、いろんな人との結びつきや巡り合わせの中で発見のようなものがあって、日々が積み重なっていく、それがいかに素晴らしいことかということを届けたい。この作品にはそういう要素がすごく詰まっていると思うので。演劇好きの方はもちろんですが、今回は幅広い方々にご覧いただきたいです。その楽しさやよろこびみたいなものは、世代も性別も関係なく感じていただけるはずですし。僕自身も、その当たり前がいかに特別かみたいなことをしっかりと稽古場から感じて、それを届けられたらと思います。
西川貴教
ーー西川さんはミュージシャンでもありますが、この作品の大きな要素である「ロック」についてはどう思われていますか?
ロックっていま音楽のひとつのジャンルとして、世界的に見ても元気がなくなってきているカテゴリーなんです。ロックのサウンドは、レコーディングひとつとっても生の楽器を使ったり、大きな音を出しますから、時代的に合わないというか。最近はPCが一台あればできる、みんなが入り込みやすい、受け入れやすいサウンドっていうものが台頭していて、ロックは“ひと世代前の音楽”というような扱いを受けることが多い気がします。でも僕は音楽って、人と人とが合わさってアンサンブル(2人以上が同時に演奏すること)することの楽しさがあると思うんです。それはダンスもそうだし舞台もそうですよね。だけどそこがどんどん、コロナの影響も相まって、ひとりで完結するものが主流になってきている。ただ僕もロックに魅入られて音楽を志した者ですから、人と人とが結び付いたりとか、人と人とが奏でたりすることで初めて予定調和じゃないものが生まれる、その素晴らしさっていうものがいい。このミュージカル『スクールオブロック』には、ロックのアンサンブルの楽しさがあると思っています。みんなが好き勝手やっているんだけれども、それがひとつのグルーヴを生んで、大きな流れになって、巻き込まれていく。そういう素晴らしさがこのミュージカルにはたくさんある気がするので。いきいきとした、みんなが生きている様を観ていただきたいです。
日本のあのデューイ、よかったよねと言ってもらえるように
ーーアンドリュー・ロイド=ウェバー氏の楽曲はどんな印象ですか?
ロイド=ウェバーといえば荘厳なサウンド、構築された世界というイメージがありますが、今回のいわゆるポピュラーミュージックにもしっかりと彼らしさがあるなと思います。そして楽曲そのものの良さですよね。サウンドで遊ばれていて、どこか聞き馴染みがある、あれ……これ誰かの曲じゃなかったっけ? と思わせるものがある。そういうモチーフやリファレンスも、ロイド=ウェバーのフレーバーでしっかりと舞台芸術として完成されている。改めてその引き出しの多さに感銘します。
ーーデューイはギタープレイもすごく派手ですよね。
そうそう、ほんとに(笑)。しかもこれ、映画だとデューイが使っているのは主にSGっていうギターで、ギブソンの中でも扱いやすい軽いボディの楽器なんですよ。なのになぜか舞台になるとレスポール(ギター)になっているんです。これがね、超重たい(笑)。なぜなの!? って。音色はいいんですけどね。舞台はかけはずしも多いので、大体頭打ちますよ(笑)。
西川貴教
ーー(笑)。偉大なロッカーたちのパフォーマンスも見られそうですが。
そこはリファレンスとしてはいただきますが、パロディにはせず、日本でしかないデューイになればいいなと思います。僕がやるデューイ、カッキー(柿澤勇人)がやるデューイ、だと思うので。日本のあのデューイよかったよね、と言ってもらえるような作品にできたらなと思っています。
ーーデューイは、西川さんとしてどう演じていきたいと思われていますか?
僕は学生時代も含め、なかなか馴染めない人だったので。むしろこういう人(デューイ)がいてくれたらよかったのになと思うくらいです。だから自分の中の理想像みたいなものを彼に感じています。そしてあの不器用さ。曲げられないので。こういうキャラクターは、それでも「仕方ないなぁ」と思わせるなにかが大事な気がしますし、そこは大事にできたらなと思っています。「なんだこいつは!」と思われながらも、みんなも仕方なく合わせてくれるっていうようなね。
ーーWキャストで演じる柿澤勇人さんの印象もうかがいたいです。
カッキーはこの3年の間に、舞台だけじゃなくて映像のほうでも積極的に活動されていましたよね。そういう意味ではまたすごく成長もされているでしょうから、負けないようにがんばりたいです。
ーー子供たちとの共演はどんなことを楽しみにされていますか?
2020年版のキャストのみんなとは、結果的に(映像配信された)一曲だけのアンサンブルになってしまったので短い間しか関われなかったんですけど、それでもめちゃくちゃ愛着が湧いていて。だから(今作に出演する子供たちとの)ビジュアル撮影に行くまでは、正直引きずっていたところもあったんです。でも新しい生徒たちを見て、また別の、なんと言うんでしょうね、新しいクラスの担任になった気持ちです(笑)。シャイな子もいれば、どんどん話す子もいて、12人でひとつのクラスになってね。それが2チームありますから。その2チームのカラーの違いもきっとあると思いますし、そこが楽しみです。今の関係性が、舞台を終えたときにどんなふうに変化しているのかも、すごく楽しみにしています。
ーー開幕が待ち遠しいです。
とにかく笑って、泣いて、スッキリするような作品を届けられたらなと思っているので。ぜひ幅広い世代の方に観に来ていただきたいです。

西川貴教

取材・文=中川實穗      撮影=荒川 潤

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