SHE’Sと管弦楽団による過去イチの"
シンクロ"──LINE CUBE SHIBUYAの2
日目を観た

SHE’ S Sinfonia "Chronicle"#3 2023.3.21. LINE CUBE SHIBUYA
「以上11名で本日はSHE'S、やっていきますのでよろしくお願いします」
ライブ序盤、メンバー紹介の後に告げられた言葉が、ライブが進むにつれてどんどん実感を増してきた。この管弦楽団を伴ったライブシリーズ『Sinfonia "Chronicle"』=シンクロは今回で3回目。初めてストリングスを取り入れた草月ホールでのワンマンも含め、全てを観てきた立場から言えることとして、これまでで最も特別な感じがしなかった。いやいや、特別な日であることは間違いないのだが、普段とは装いを変えてお送りしています、というよりは、新たに足されたストリングスやホーンの音はまるで元から鳴っていたようであり、いつものライブにも彼らがいたんじゃないか?というような錯覚を覚えるほどに、SHE’ Sの体現する音世界に寄り添っていたのである。
LINE CUBE SHIBUYA、2デイズの2日目。名古屋と大阪でも行われた今回の"シンクロ"における、事実上のツアーファイナル。開演を告げるブザーの後、弦楽器がチューニングを合わせる音が響き、暗転したステージから流れ出したのは、公演タイトルを冠したファンファーレの如く勇ましく楽しげなインストナンバーだ。ステージ上には立体的なセットが組まれていて、本来のステージ高より一段上がったところに井上竜馬(Vo/Pf)、服部栞汰(Gt)、広瀬臣吾(Ba)、もう一段上がったところに木村雅人(Dr)が構える。その両脇にストリングスカルテットと、ホーン隊(サックス、トランペット、トロンボーンの3名が)広がった、ちょうど竜馬を要とした扇型のフォーメーションだ。フロント3人の立ち位置から一段下がった、最もお客さんと近い位置にはお立ち台が設けられていて、竜馬がハンドマイクで歌う際や栞汰がギターソロを決めるときにはそこが効果的に使用されていた。
歓喜のクラップと共に駆け出した「Blue Thermal」から、間髪入れずに「Higher」を。さらには端正ながら迫力十分な臣吾の8ビートが引っ張る「追い風」へ。観客たちの溜め込んできたワクワク感をさらに数段加速させるような立ち上がりだ。セットの段差部分や、天井から吊るされたディスプレイには、曲ごとのイメージに合ったモチーフが投影される仕組みで、視覚面からもライブの盛り上がりに拍車をかける。幾筋もの光線を浴びたキムのパーカッシヴなドラムからスタートしたのは「Masquerade」。栞汰がアコギに持ち替え、竜馬はリズムやノリを全身で表しながらの演奏と伸びやかな歌声に、ライブならではの遊びを交えた自在なパフォーマンスで場内を巻き込んでいく。
USポップス成分を堪能できたのは「C.K.C.S.」と「日曜日の観覧車」。清涼感あふれる栞汰のギターを筆頭に抜けの良いサウンドが爽やかな「海岸の煌めき」。このあたりのちょっと懐かしい曲たちは、彼らのルーツの幅広さとそれを取り込むセンスを知らしめると同時に、「やっぱり良い曲書くよなぁ」と再確認させてくれる。そして、そこから一気に会場の空気を塗り替えた「Set a Fire」の美メロエモっぷりも最高。炎のモチーフに照らされながら、幽玄の音空間から次第にスパークしていくサウンド、鬼気迫るボーカル。思わず息を詰めて聴き入るところへ、無機質なシーケンスと有機的なストリングスの双方を纏って鳴らされる「Clock」が来た。繰り返しになるが、本当にSHE’ Sの音楽は幅広く、良い曲が揃っている。
中盤には「Beautiful Bird」をアコースティック編成で披露した。優しく少しほろ苦い中低音からファルセットまで、竜馬の歌の表情をより近い距離で感じられる、ステージ最下段に降りてのパフォーマンス。近年は弾き語りライブの経験も積んでいるだけあって、聴かせる力がぐっと増している。ステージ最上部のスクリーンを活かした、天窓から陽光が差し込むかのような演出もいい。「Not Enough」は原曲と同様のアコギサウンド&フィンガースナップというミニマムな編成にホーンが加わったアレンジで。元の位置へと戻りピアノインストから繋いだ「Letter」からは「Be Here」、「Chained」とバラード楽曲が続くセクションでも、美しい泣きメロと静けさの中にある抑揚、徐々に熱を帯びていく演奏の機微でもしっかりと客席の耳目を掴んで離さない。
先ほどまでのドラマティックな光景が幻であったかのようなMCタイム。もはや口火を切ったのがキムという時点で、「あ、これは緩いヤツだ」とオーディエンスも理解して受け入れ準備が整うようになってきている気がする。この日はざっくり言うと、竜馬が山形空港の愛称を正式名称だと勘違いしていたことが発覚する、というだけのくだりだったのだが、ちゃんと面白かったです。
スイッチを入れ直しての「Raided」は、クールな質感と肉体性を持った演奏の応酬が中毒性たっぷりで、スクリーンへリリックを投射しながらのアクト。クライマックスへの狼煙をあげた初期からのキラーチューン「Un-science」、コーラス部では客席からも力強い声が上がる。そう、これこれ。間髪を入れずに竜馬が高音のフェイクを入れながら冒頭のフレーズを弾き語り、華やかで包容力のある、SHE’ S流のゴスペルナンバー「Grow Old With Me」が眩い光の中で鳴り渡った。観客席からのこの日一番の歌声が導いたのは「Dance With Me」。竜馬が客席通路へと降りて行く。こういうシーンも、ようやく帰ってきた。
「ほんま、生き返るわ。ライブは」
好きを共有することと、それができる場所の素晴らしさと得難さ、そして感謝を口にした竜馬は、「人はいなくなっても音楽は消えない」「その時の表情のままで生き続けるんやと思います」「音楽という名のお守りが光り続けますように」と、ラストナンバー「Amulet」を披露した。言葉の背景にどんな事実や想いがあったかは想像できなくはないが、ここでは書かない。いずれにせよ、音楽を通してSHE’ Sが伝え続けている真理が確かにそこにはあった。情感がピークを極めるラスサビで、スクリーンにエンドロールとライブタイトルが映し出さるという、劇的な終幕。
アンコールではアルバム収録の新曲「Happy Ending」が披露された。親密な相手に語りかけるようでも、独白のようでもある、エバーグリーンな響きを持った切なくあたたかなラブソングが、今日という日の余韻をじっくりと我々に刻んでいく。最後はとびきりのテンションで投下した「Over You」。新たな約束(およそ2ヶ月後にリリースされるニューアルバムに伴うツアーも告知された)を確かめ合うように、「元気で!また会いましょう!」、そう言ってライブを締め括った。
初期の曲も、久々の曲も近作の曲も、明るい曲もアップテンポな曲もバラードもあった。それらを、曲ごとに編成を変えつつも"11人のバンド"として、元々そうであったかのように鳴らしきっていた。なぜか。公演数が多かったことによる習熟度の高さだけではない気がする。元々、井上竜馬の脳内で生まれ、4人が形にしていくSHE’ Sの音楽は、スタンダードなバンドサウンドのみでは再現しきれるものではなかった。だからこそ、彼らは今より活動規模の小さい段階から意欲的にこの『シンクロ』へと取り組んできた。そして今、各々の技量やアレンジ力の向上により、いよいよバンドが目指してきた姿に追いついてきたことで、このスペシャルな編成と今まで以上にシンクロした、ということではないだろうか。だとすると、この日に願望として語っていた『シンクロ』での全国ツアー実現にも期待が膨らむ。それは決して夢物語ではないはずだ。

取材・文=風間大洋 撮影=MASANORI FUJIKAWA

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着