新たに甦る傑作『ウエスト・サイド・
ストーリー』、来日公演の見どころに
迫る!~「ザ・ブロードウェイ・スト
ーリー」番外編

ザ・ブロードウェイ・ストーリー The Broadway Story [番外編]

新たに甦る傑作『ウエスト・サイド・ストーリー』、来日公演の見どころに迫る!
文=中島薫(音楽評論家) text by Kaoru Nakajima

 2023年の7月5日(水)に、東急シアターオーブで初日を迎える、来日公演の『ウエスト・サイド・ストーリー』(以下『WSS』/公演情報は下記参照)。その全貌が、遂に明らかになってきた。ここでは演出家へのインタビューをメインに、クリエイティブ・チームを紹介しつつ、1957年のブロードウェイ初演から66年を経た今も世界中で再演を繰り返し、胸に迫るテーマと血沸き肉躍るソング&ダンスで、観客を魅了する永遠の名作を特集しよう。

■演出はブロードウェイのベテラン、ロニー・プライス
 今夏に来日する『WSS』は、昨年2022年12月にドイツのミュンヘンで幕を開け、高い評価を得たワールド・ツアー版。演出を一新したニュー・バージョンだ。演出家はロニー・プライス。役者としてスタートし、スティーブン・ソンドハイム作詞作曲『メリリー・ウィー・ロール・アロング』の初演(1981年)に出演した。惜しくも批評が芳しくなく、公演はわずか16回で打ち切られるも、『WSS』の作詞でブロードウェイ・デビューを果たし、知的かつ緻密な作風でミュージカルを進化させ、演劇界を牽引していた巨匠から得た物は大きかった。
『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(1981年)で、主役の一人を演じたロニー・プライス(右端) Photo Courtesy of Jim Walton
 演出家に転じてからも、『カンパニー』や『スウィーニー・トッド』など、ソンドハイム作品のコンサート・バージョンを多く手がけ賞賛される。また彼は、『コーラスライン』(1975年)の作詞家エドワード・クリーバンの生涯を綴るミュージカル『クラス・アクト』(2001年)で、脚本・演出・主演を兼任。2002年には来日公演を行ったので、御記憶の方もいるだろう。

ロビンス振付を代表する、オープニングの〈プロローグ〉 (c)Johan Persson

 『WSS』を創造したのはジェローム・ロビンス(原案・振付・演出)。プライスは俳優時代に、一度だけこの天才と遭遇する機会を得た。彼は回想する。
「1980年代の終わり頃、ロビンス氏の名場面で構成されたレヴュー『ジェローム・ロビンズ・ブロードウェイ』のオーディションを受けた事があった。部屋には、彼とピアニスト、僕の3人だけ。あのロビンス氏が、僕が歌うのを瞬きもせずに見ているんだ。その集中力と、パフォーマーに対する尊敬の念には感動したよ。オーディションには落ちてしまったけどね(笑)」
マリアとトニーの出会いのシーン (c)Johan Persson
■天才たちの偉業を後世に伝える
 「いつか演出してみたいミュージカルが『WSS』だった」と語るプライス。作品との出会いと、今回来日するワールド・ツアー版に関わったきっかけを振り返る。
「僕にとって最初の『WSS』は、ロバート・ワイズ監督の映画版(1961年)だった。5、6歳の頃、リバイバル上映を観たんだ。ダンスと楽曲の迫力に圧倒されたなあ。だが演出家になって、ソンドハイム氏の作品を何作も手掛けながら、何故か『WSS』とは縁がなかった。それが今回話を頂いて、しかも『ロビンス氏の振付を忠実に再現して欲しい』とのオファーだったので喜んでお受けしたよ。僕が観たプロダクションの中には、氏の意図通りに踊っていない公演もあったからね。ロビンス氏と作曲のレナード・バーンスタイン、脚本家アーサー・ローレンツが創造した、ダンスと音楽、ストーリーが一体となった偉業に敬意を払って演出をしたつもりだ。
 スティーブン(ソンドハイム)と話をしていて、多くの才能溢れるクリエイターと仕事をした彼が、『唯一の天才』と手放しで絶賛していたのがロビンス氏だった。全く枯渇する事を知らない創作意欲には、感服あるのみだったそうだよ」

ジェッツが歌い踊る〈クール〉。最後のキメのポーズ (c)Johan Persson

 振付はフリオ・モンヘ。前述の『ジェローム・ロビンズ~』(1989年)にダンサーとして出演し、ロビンス直々に薫陶を得た才人だ。2019~20年に、IHIステージアラウンド東京で上演された、来日公演とその後の翻訳版でも采配を振るい、スティーブン・スピルバーグ監督の2021年映画版『WSS』では振付監修を務めた。プライスは、「ダンスでストーリーを語り、キャラクターの感情を描写する、ロビンス・ダンスの神髄を見事に伝えてくれた」と称える。

■真摯な演技が、人種間の軋轢をリアルに映し出す
一幕ラストで、ジェッツとシャークスの決闘をダンスで活写する〈ランブル〉 (c)Johan Persson
 1950年代後半のNYを舞台に、人種の壁を乗り越えて燃え上がるマリアとトニーの恋愛を軸に、非行少年グループのジェッツ(ポーランド系)とシャークス(プエルトリコ系)の抗争を描く『WSS』。悲劇的な結末が分かっていながら、観るたびに衝撃を覚え、今なお解決を見ない人種間の分断に慄然とさせられる一作だ。プライスは、極めてドラマ性の強いこのミュージカルを演出するに当たり、どのように作品と向き合ったのだろう。
「真実を追求する。これに尽きるよ。脚本を丁寧に読み込んで、その場面におけるキャラクターのモチベーションや感情の揺れを、深層心理に至るまで突き詰める。これが嘘のない真摯な演技に繋がると思う。特にラストの、トニーを失ったマリアのシーンは、お涙頂戴の大仰な芝居になりやすいから難しい。歌に関しても同様だ。単に豊かな声量で美しくオペラティックに歌うのではなく、歌詞の表現力が肝要なんだ。ただNYでオーディションを敢行して感心したのは、最近のミュージカル系の若いパフォーマーは、きちんとトレーニングを積んだ優秀な人材が多いという事。マリアとトニーを始め、満足の行くキャスティングが出来たね」
マリアとトニーのデュエット〈トゥナイト〉。セットが美しい。 (c)Johan Persson
■バーンスタインの人生が反映されたゴージャスな楽曲

 観るたび胸に迫る衝撃はダンスと物語のみならず、音楽も同様だ。作品前半だけでも、〈マリア〉、〈トゥナイト〉、〈アメリカ〉、〈クール〉と名曲続出。バーンスタインの濃密な楽曲に陶酔となる。最後にプライスは、彼の人となりを語りつつ、音楽の魅力を解き明かした。
「息子のアレグザンダーは40年来の友人なんだ。お父様とも何度かお目に掛かった。とにかく生きる事に貪欲で、あれ程バイタリティーに満ちた人には出会った事がなかったよ。カリスマ性を放ち、聡明で愛情深く、子供にとっては最高の父親だった。しかも情熱を注ぐのは音楽だけでなく、食や恋愛に対する欲望も半端ではない。実り多い人生を堪能した、愛すべき傑物だった。その豪放な生き方が、エキサイティングで官能的な彼の音楽に表れている。さらに素晴らしいのが、66年前に書かれたというのが信じられないほど、どの曲にもバーンスタイン氏のパッションが満ちて瑞々しい事。だからこそ、今も観客の心を高揚させるんだね」
シャークスの女性陣がパワフルに歌い踊る〈アメリカ〉 (c)Johan Persson

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