ツユ「みんなの声が聴けて嬉しく思っ
ております」 初の“声出しライブ”
となったZepp Haneda公演をレポート

ツユ ワンマンLIVE『春時雨』

2023.3.4 Zepp Haneda(TOKYO)
晴れたと思ったらまた降りだしたり、降りだしたと思ったら止んだり。厳しい寒さがすぎ暖かい季節へと向かおうとする趣深さを感じさせる春時雨。作詞作曲・ギター担当のぷす、ボーカル担当の礼衣、ピアノ担当のmiroからなる音楽ユニットのツユが、3月4日にZepp Haneda(TOKYO)にて開催したワンマンライブ『春時雨』、その[昼の部 -晴-]の模様をお伝えする。
本公演のキービジュアルを映す円形LEDパネルが中央に設置されたステージ(ちなみにこの円形LEDパネル、日本国内のライブで使われるのは初めてのことなのだとか)。花や緑が飾られ、淡い桜色のライトに照らされたそこは、まるで穏やかな春の日のようだ。
ツユ ワンマンLIVE『春時雨』
バンドメンバーに続いてメンバーが現れると、歓喜の声が上がる。そう、ツユもやっと声出しライブが解禁されたのだ。幕開けを飾ったのは、TVアニメ『東京リベンジャーズ』聖夜決戦編のエンディングテーマとして書き下ろされ、2023年1月15日に配信リリースされた「傷つけど、愛してる。」。凜として強く美しい礼衣の歌声にまず心を掴まれ、痛みを抱え身を削りながらも走り続ける主人公の苦悩や葛藤を、あくまでポップな口当たりで、かつドラマティックに描いていく3人に目も耳も奪われてしまう。
「みなさんこんにちは、ツユです。『春時雨』[昼の部 -晴-]、楽しい時間にしましょう。よろしくお願いします!」
ロイヤルブルーのワンピースをまとう礼衣が笑顔で挨拶して「忠犬ハチ」へ。<貴方>を待ち続ける健気さ、ノスタルジックなムード、ぷすのエモーショナルなギターソロに、どうしたって涙腺が緩んでしまうではないか。そして、ステージが茜色に染まれば、オーディエンスのペンライトも同じ色に。ライブならではの一体感にも胸が熱くなる。
ツユ ワンマンLIVE『春時雨』
しなやかなmiroのピアノソロ「雨宿り」をはさみ、透明感ある礼衣の美しい歌声をはじめ切ないのになぜか清々しい「雨模様」では、ステージが青と紫のライトで照らされ紫陽花色に。いい意味でタイトル詐欺!?なジェットコースター的ナンバー「風薫る空の下」、ぷすのギターソロとmiroのピアノソロも映えた「どんな結末がお望みだい?」では、目まぐるしい曲展開に合わせライティングも鮮やかに変化。歌声で、音で、演出で、繊細な感情の揺らぎが見事に表現されていく。それがツユのライブだ。
赤裸々な心の叫び「かくれんぼっち」から、バンドメンバーがいったんはけ、真っ赤に染まったステージでぷす、礼衣、miroの3人がカオティックな化学反応を見せたのは「テリトリーバトル」。衝撃波が何度も襲ってきて、気づけば快感になっていたりする。これが中毒性というものなのだろう。
ツユ ワンマンLIVE『春時雨』
miroの愁いを帯びたピアノソロ「雨のち雨」をはさみ、ツユの“始まりの歌”である「やっぱり雨は降るんだね」では、<君>への愛おしさが尽きない礼衣の歌声も、傘に弾ける雨粒を思わせるぷすとmiroの軽やかな奏でも心地良くて、客席からクラップが自然発生。素直になれない男子の恋心が微笑ましい「雨を浴びる」にしたって、ツユのセンチメンタルな“雨”モチーフ曲には、そっと寄り添ってくれるような優しさがある。
雨上がりを告げるmiroのピアノソロ「AFTER RAIN」から、miroのピアノの旋律に礼衣が歌声を重ね、途中からぷすとバンドメンバーが加わったのは「梅雨明けの」。歌詞の通り、いくつもの傘がステージ両端に花のように咲いて泣きそうになる。
アカペラに心震えた「ナツノカゼ御来光」、躍動感の中でハイトーンを響かせた「過去に囚われている」と、礼衣の歌唱力は後半戦でも揺るがない。と思っていると、ここからのたたみかけが凄まじかった。
ツユ ワンマンLIVE『春時雨』
突然ホラー感満載、タイトルそのままに悪魔的で歌も演奏も激しく突き抜けた「デモーニッシュ」。ブルージーなギターフレーズに始まり優等生の憂鬱が漂う「ナミカレ」から、間髪入れずに続いた劣等生のもがきが苦しいくらい伝わる「くらべられっ子」。堕天使の悲哀、テクニカルな演奏にただただ釘付けとなった「泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて」。さらに、ツユにとって初めての演出となった、満たされない想いを吐き出すような礼衣のセリフ✕映像から、居場所を探し求める若者たちの絶望や破滅願望があまりにも生々しい「アンダーキッズ」へ。目を背けたくなる現実を容赦なく突きつけられ、普段はフタをしている記憶や気持ちに真っ正面から向き合ううちに、本当の自分が解き放たれていくようだ。
「1stライブ開催以来、ずっとコロナ禍でライブをしてきたから、初の声出しライブはソワソワしちゃったりもしましたけど、みんなの声が聴けて嬉しく思っております」という言葉に続けて、礼衣が「次で最後の曲です」と言うと、「えー!!」と全力で別れを惜しむオーディエンス。やっぱり、想いを声に託せるって素晴らしい。
「あの世行きのバスに乗ってさらば。」、その最後の一節<でも私は悔いて叫んで雨が降って>から始まる「終点の先があるとするならば。」で迎えた本編ラスト。<消えてしまいたい>という嘆き、極論的な思想は実のところ誰の心にも潜んでいるものだ。躊躇なく鋭くえぐるような歌声と演奏を浴びながら芽生えたのは、“それでも生きたい”という願い。ツユの生む音楽は、それを求める人にとっての救いなのだ。
ツユ ワンマンLIVE『春時雨』
アンコール1曲目は、“推し”への盲目的な愛をポップに毒っ気たっぷりに描く「いつかオトナになれるといいね。」をぷすと礼衣の2人だけで届け、<盲目><信者>をオーディエンスとテンション高くコール&レスポンス。楽曲によって随分と異なる色調に翻弄されて、それもまたツユのライブの醍醐味である。
miroを呼び込んで3人仲良くグッズ紹介をしたあとは、なんと新曲を披露。「久々に(歌詞で)<大好き>とか言った(照)」と礼衣が明かしたこの新曲は、ぷすいわく「今までで一番明るい曲」だ。
ツユ ワンマンLIVE『春時雨』
メンバー紹介では、miroが「ねこふんじゃった」や某ディスカウントショップで流れるメロディを交えた楽しいピアノソロで、ぷすがヒロイックなギターソロで沸かせて、「ロックな君とはお別れだ」へ。オーディエンスが一際大きくクラップして、ステージには花吹雪がはらはらと舞い落ちて。ギターソロも<ロックに生きたい>精神も、とことんロック。消えない劣等感も癒えない傷も、それがあるからその人らしいし、強くもなれる。思いのほか晴れやかな気持ちで、そう信じることができた。
心のままに音楽を生み、歌い、奏でるツユ。この先も前衛的で刺激的な作品を生み出していくのだろうなと期待している。
ツユ ワンマンLIVE『春時雨』

文=杉江優花 撮影=堀卓朗(ELENORE)

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