レトロリロン 小林私&Dannie Mayを
招いた主催イベント『朝が来るまで
vol.2』、超満員のオーディエンスを
魅了した一夜をレポート

レトロリロンpresents『朝が来るまで』vol.2

2023.2.23 Shibuya Spotify O-nest
2020年6月、シンガーソングライターとして活動していた涼音を中心に結成された4人組バンド・レトロリロン。シティポップやファンク、フォークにジャズにポストロックなど、幅広い音楽性を感じさせる楽曲が好評を博し、昨年末に開催された大型フェス『COUNTDOWN JAPAN 22/23』にも出演。現在大きな注目を集めている。そんな4人が、小林私Dannie Mayの2組を招いた主催イベント『朝が来るまで vol.2』を、2月23日にShibuya Spotify O-nestで開催した。チケット即完売となった本公演で、バンドは6月に初のワンマンツアーを行なうことも発表。着実に歩みを進めている4人の音楽に、超満員のオーディエンスが酔いしれた。
トップバッターを務めたDannie Mayは、「玄ノ歌」でライブスタート。“新感覚の極上ボーカルワークバンド”というキャッチの通り、マサ、田中タリラ、Yunoの3人は、個性の際立った三声を絡ませながら、ギラギラと怪しげに輝くダンスナンバーでフロアを激しく揺らしていく。この日のMCによると、彼らの出演が発表された時点ですでにチケット残小──つまり、彼らを目当てにチケットを購入した観客が少ない状況だったそうなのだが、オーディエンスの心を掴むスピードがとにかく早かった。
Dannie May
Dannie May
Dannie May
以前自らの主催イベントに招いたことのある小林私とのエピソードを交えたMCでもフロアを盛り上げていた彼らだが、それまでのポップでハッピーな雰囲気から一転、「If you イフユー」で、空気が震えるほどの重低音が響き渡り、一気にダウナーな空気が立ち込める。不穏さはありながらも、心の中に滑り込んでいく中毒性のあるサウンドで場内を支配し、アウトロではカオティックに音を放つ中、かすかに聴こえていたクラシック曲「クシコス・ポスト」のメロディが大きくなっていき、そのまま「適切でいたい」に流れ込んでいくという流れも見事。そこからキラーチューンの「ええじゃないか」でギアを上げ、美麗なコーラスを擁したディスコティックな「ユートピア」でフロアを凄まじい多幸感で包み込むという、イベントのトップバッターとしての役割もしっかりと果たしながら、バンドの濃い部分もしっかりと堪能させてくれる極上のステージだった。
Dannie May
続いて登場したのは小林私。アコースティックギターをセッティングした後、舞台袖に戻ることなく「今日は“ワンピース考察スレオフ会”にお越しいただきまして……」と話しだし、そのままライブが始まった。なんとも緩めな出だしだが、その空気は曲が始まった瞬間に一変する。1曲目は「線・辺・点」。アグレッシヴにギターをかき鳴らしながら、強烈ながなり声とファルセットを巧みに交えてブルージーに歌い上げると、続けて「冬、頬の綻び、浮遊する祈り」へ。アンニュイな空気が漂う中、美しいメロディを響かせる。MCでは、3年前、コロナウイルスの影響で当初予定されていたイベントが延期からの無観客公演になり、結果的にレトロリロンの涼音とのツーマンになったエピソードを話したり、スマートフォンでセットリストを確認したり、さらには「ヤマト(宅急便)の受け取り設定していいですか?」とフロアに尋ねたりと、とにかく自由奔放。しかし、ひとたび歌い始めると、その強烈なまでの歌の力にただただ圧倒させられ、ステージから一瞬たりとも目が離せない。
小林私
小林私
「花も咲かない束の間に」では、柔らかな演奏でフロアをどっぷりと浸らせていた……のだが、曲を終えた直後に「余韻が耐えられない!」と、それまでのいい雰囲気を自らぶち壊すという、オン/オフの激しすぎるステージで魅了していた。ラストは「サラダとタコメーター」。怒涛の勢いでリズミカルに言葉を畳み掛けていく圧巻の演奏で、レトロリロンにバトンを渡した。
小林私
そして、いよいよこの日の主役であるレトロリロンが登場。涼音、miri、飯沼一暁、永山タイキの4人が1曲目に選んだのは「Restart?」。強烈なまでに躍動するアンサンブルに、フロアからたくさんの手が挙がる。そこから「Don't stop」「エスケープ」を畳み掛け、グルーヴィーなサウンドでオーディエンスの身体を終始強く揺さぶっていた。MCでは、「無事にこの日を迎えられたことにほっとしています」と、笑顔で話す涼音。この日出演してくれた2組のステージを振り返りつつ、今日この場に集まってくれたオーディエンスに感謝を述べると、「Slow Time Lover」へ。爪弾かれるアコースティックギターの音色と、柔らかなコーラスが絡み合い、チルな空気がフロアを包み込んだ。
レトロリロン
たとえば街で、もしくはサブスクのプレイリストでレトロリロンの楽曲を耳にしたとき、多くの人がその洗練されたサウンドに心を奪われるだろう。しかし、そこに綴られている言葉に目を向けてみると、また違う印象を持つのが彼らの音楽だ。「Slow Time Lover」から続けて披露された「それでも生きていたい」であれば、都会の夜を感じさせるクールな空気をまといながらも、その歌い出しは〈才能ないなら辞めちまえ〉である。なんとも強烈な出だしだが、そんな無慈悲にかけられる言葉を蹴散らすように、4人の演奏は徐々に熱を帯びていく。間奏で差し込まれるタイキの激しいドラムや、スラップを織り交ぜた飯沼のベースもインパクト抜群で、歌詞にもある〈心の火を燃やし続けている〉かのよう。miriの流麗かつドラマティックなソロからなだれ込んだ「きれいなもの」も、その音像には焦燥があり、どん底でのたうちまわりながらも、諦められない夢や憧れを追いかけ続ける姿を描いている。
レトロリロン
乱暴に言ってしまうと、とても泥臭い。それがレトロリロンであり、涼音が書く歌詞だ。聴いてくれた人を、あるいは自分自身を鼓舞するように、ときに力強く、ときに優しく、彼は歌をフロアに投げかけていく。なかでも強く胸を打たれたのが、美しいアコースティックギターのアルペジオから始まった「深夜6時」だった。失意、後悔、苛立ちといったネガティヴな感情に苛まれ、眠れない夜を過ごしているのに、素知らぬ顔で昇ってくる朝日を憂いながらも、それでもその眩い光が、少しだけ気持ちを軽くしてくれるような、なんだかちょっとだけ世界が美しく、悪くないものに見えてくるような──。そんな温かさに満ちていた。途中、込み上げてくる思いに言葉を詰まらせながらも歌を届けていた涼音は、曲を終えた後「なんか、グワーッと来て、ポカーンって感じになったなぁ……」と、感慨深そうに話していた。
レトロリロン
涼音「僕らは結局、ないものねだりなんですよ。あんなふうに歌えるようになりたい、あんな曲が書けるようになりたいっていつも思うけど、でも、今日この日を選んで、僕らを観てくれる人がいる限り、やめちゃいけないというか、やめられないなと思って。これから先も、この4人でしっかりと地べたを踏んで、這いつくばって頑張っていきますので、また遊びに来てください」
レトロリロン
本編のラストナンバーとして届けられたのは「ひとつ」。どれだけ努力をしても報われない人生を、〈くだらねえや〉と嘆きたくなるときもあるけれど、それでも自分の理想や情熱を信じて生きていく。そんな決意が一音一音からひしひしと伝わってくるドラマティックなエンディングとなった。アンコールでは、和気藹々とトークを繰り広げた後、「Life(Special ver.)」へ。メンバー全員が楽しそうに、そして何よりも名残惜しそうに音を重ねていくと、アウトロで「もう1周いこう!」と涼音が叫ぶ。そこから飯沼、miri、タイキの順でソロ回しを繰り広げた後、ラストに涼音がソウルフルなフェイクを響かせて、大盛況の自主企画を締め括った。
レトロリロン
前述の通り、レトロリロンは初のワンマンツアーを開催することをこの日発表。6月11日(日)に渋谷Spotify O-nest、6月17日(土)に大阪LIVE SQUARE 2nd LINEで行なわれることになっている。ここからさらに飛躍していく4人の音楽を、ぜひ多くの人達に、全身で味わっていただきたい。

文=山口哲生 撮影=スエヨシリョウタ

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