「裏『ラ・ラ・ランド』かも?」[Al
exandros]川上洋平、デイミアン・チ
ャゼルの賛否両論作『バビロン』を語
る【映画連載:ポップコーン、バター
多めで PART2】

大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回は『ラ・ラ・ランド』で知られるデイミアン・チャゼルがゴージャスでクレイジーな1920年代のハリウッドを舞台に、夢と音楽のエンターテインメントを描いた『バビロン』について語ります。
『バビロン』
──『バビロン』はどうでした?
破茶滅茶でしたね(笑)。爽快でした。アカデミー賞にノミネートされている『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』に近い振り回し感もありつつ、3時間8分ずっと遊園地にいた気分になりました。ジェットコースターというか遊園地そのもの。感想としてはね。
──過剰ですよね。
そう。でも良い過剰。ちょうど気持ち良い振り回しでした。チャゼル監督の『ラ・ラ・ランド』は誰もが好きになるような映画だったけど、『バビロン』はその裏をいくような雰囲気でしたね。夢を目指す者の悲劇と喜劇を描くという部分では通じるんだけど、悲劇の部分が強調されているところが『ラ・ラ・ランド』より好きでした。登場人物も多いけど、誰かしらには共感できて、その中でも「誰に一番近いかな」って考える楽しみがあった。目まぐるしい展開の中で、すとんと落ちる瞬間がありましたね。
──ストーリーとしては、1920年代のハリウッドを舞台に、ブラッド・ピット演じるサイレント映画の大スター、ジャック・コンラッドと、マーゴット・ロビー演じるスターを目指す新人俳優ネリーと、ディエゴ・カルバ演じる映画製作を夢見る青年マニーという3人の夢がどうなっていくか、ということが主軸なわけですけど。
僕はマニーとジャックにすごく共感しましたね。夢を目指すまだ何者でもない青年。そして苦境に立たされる世紀の大スター。この2人の描写はくるものがありましたね。でも、本当に目まぐるしいから「俺、何の映画観てるんだろう?」ってなった瞬間が何度かあった(笑)。
──トビー・マグワイアが出てきたとことか。
そう、そこらへん。あそこは一番闇の部分だよね。1920年代のハリウッドはサイレント映画が盛り上がっていて、トーキー映画に移行していく中で落ちぶれていくスターもいて。それが例えばジャックなわけですけど。現代の映画業界はそういうことの反復の上に成り立っているんだよ、というメッセージを受け取りました。夢のある華やかな世界の根底にはすごく深い闇があって。それこそこの連載の前回の話に出た『逆転のトライアングル』とウエストランドのネタが通じるって話に近いかもしれないですけど、人を楽しませたり、笑わせるには毒づくという要素が少なからず生じる。「残念ながら人間ってこんなもん。でも映画って、エンタメって素敵だよね」と語りかけてくるような映画でした。劇中でも、「映画は高尚なエンタメとは違ってポップコーンを片手に誰でも観に行ける。映画で夢を与えるのが俺たちの仕事なんだ」みたいなセリフがありましたけど、本当そうだなと思う。裏には人間の汚い部分があるのも事実だけど、それがエンタメです、という意味合いに個人的には捉えました。それは『バビロン』ってタイトルからも伝わってきますよね。
『バビロン』より
■チャゼル監督の作品の中で一番好きかもしれない
──サイレント映画は音がないので、同じ場所で同時に何作品もの撮影が並行して行われていましたけど、音がない故にカメラが映ってないところは無法地帯のような感じで。でもトーキー映画になるとそうもいかなくなります。
だから、サイレント映画は量産して稼ぐみたいなところもあったのかなと思うんですが、一方で芸術性や作家性は無視されがちなところも垣間見えて。そういうところは、今僕が生きてるエンタメ業界にも通じるなと思いました。稼ぐことと芸術性のバランスみたいなものが生む侘しさは、ジャンルは違えど『ラ・ラ・ランド』にも『セッション』にも含まれてる要素で。『バビロン』はそれをおとぎ話的な様相をまといながらも非情なまでに現実的な視点で描いていると思いました。
──史実を参考にした点でもそうですよね。
そうですね。そして、単にハリウッドの歴史を描くっていうのではなく、「エンタメとは?」「人間とは?」みたいなことも描かれてるし。昔と今とこれからの。それで、いろんなことが駆け巡るように展開されていくんですけど。予告やポスターのビジュアルから想像するとド派手な映画なんだろうなと思うかもしれないし、それはそれで合ってるんだけど、そんな単純な映画じゃないっていうか。『裏ラ・ラ・ランド』みたいな(笑)。
──確かに(笑)。
『ラ・ラ・ランド』って現代の話で、夢を目指す人たちを描いたハッピーエンドだと思うんですよ。
──そうですね。主人公のふたりは別れるけど、お互い夢はえて。
でも『バビロン』はハッピーエンドっていうかどうなんだろう……って感じじゃないですか。『バビロン』の時代が土台にあって、『ラ・ラ・ランド』みたいな世界があるということを描きたかったのかなって。だから『ラ・ラ・ランド』を改めて観ると、より面白いかもしれない。でも、『バビロン』は何せ長いんで。試写が始まる前に3時間8分って言われて隣の紳士が絶句してました(笑)。
──3時間超えは長いですよね(笑)。
ただ、個人的には3時間ぐらいの映画は好きなんですよ(笑)。でも体感としてはあっという間だった気がします。久々にかなりの満足度を得たっていうか。チャゼル監督の作品の中で一番好きかもしれない。
──川上さん、『セッション』すごく好きですけど、それよりも?
『セッション』ももちろんカリスマ映画だし、僕は『セッション』からチャゼル監督のファンになったけど、『バビロン』は一番監督のパーソナルな部分が出てる気がして。15年前から構想してたっていうのも納得できるほど、全部が詰まってる感じがする。チャゼル監督はほぼ同世代なんですよね。それもあって、物事の見方や通ってきたエンタメの捉え方に共感を覚えますね。どこまでの熱意を持って夢を目指すかっていうこととか。例えば、『セッション』で主人公がカリスマ教師に対してリスペクトはしつつも歯向かっていく感じとか、なんかわかるんですよね。微妙に世代で違うじゃないですか? その対処法というか(笑)。
『バビロン』より
『バビロン』より
■輝き続けるのは大変なことだなと改めて思いました
──確かに。『バビロン』にはレッチリのフリーも出てましたね。
フリー、良い味出してましたね。今回ほぼ予備知識なく観たので、出てることにまずびっくりしました。これまでも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の2とかに出てるけど、監督がちょっとした役で起用したくなる感じ、わかるなあと。俺このポジション目指そうかな(笑)。あと、トビー・マグワイアが出てるってことも知らなくて、最後ヤベえ役で出てきたな、と。
──あの出方良かったですよね。
あとマニー役のディエゴ・カルバさんは特に良かったですね。まだ新人なのかな? メキシコシティを拠点に活動してて、今回がアメリカ映画は初みたいですけど。
──そうですよね。あと、マーゴット・ロビーも良かったですね。
完璧な配役でしたね。得意とするやつ。
──確かに。ハーレイ・クインとかがあった上でっていう。
『バビロン』の脚本を読んだ時に「この役は絶対に私がやる」って言ったみたいですけど、納得だよね。俳優さんっていろんな役ができるわけですけど、その中でも得意とする役ってやっぱりあるんだなって。自分も2回ドラマに出させてもらって、なんとなくそういうことがわかってきた感覚があって。『ラ・ラ・ランド』をリアルタイムで観た時は役者をやったことがなかったけど、今ちょうどドラマ(『夕暮れに、手をつなぐ』)が放送されているし、演じるということを経験した上で映画を観るとまた違う感想が出る(笑)。
──へえ!
ブラッド・ピットのジャック・コンラッド役もすごくはまり役だと思うし。ブラッド・ピットってもちろん今も大スターですけど、僕の世代からするとまさにスターに駆けあがっていった様を目の当たりにしたわけで。
──『セブン』や『12モンキーズ』の頃ですね。
そうそう。世代的にデイミアン・チャゼルも同じような感覚で見ていたと思うんですよ。そのブラッド・ピットが歳を重ねていって、アンジェリーナ・ジョリーとの離婚問題で苦しめられ、アルコール依存に苦しめられ、親権争いで苦しめられ……でもその中で『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でアカデミー賞助演男優賞を取った。我々はスターのことをスクリーンの中だけじゃなくて外にも注目してて、彼らが上がっていくところ、落ちていくところ、そしてまた這い上がるところを見られる。ブラッド・ピットってそのどれもを味わっている人だと思うので、その彼がジャックを演じたのは大きいんじゃないかなと思います。
──なるほど。
「アカデミー賞における芸術性って何だろう?」って思うこともあって。例えばマーベルの映画や、ヒット作だけどいわゆるイケメン俳優が出てるような映画は作品賞を取らないわけじゃないですか。でも映画の興行ってそっちで成り立ってる部分もあるわけで。
──日本でいうとアニメ映画というか。
そうそう。ブラッド・ピットって最初はイケメン俳優として注目されたけど、そこに抗って『12モンキーズ』でクレイジーな役をやったりして方向転換したと思うんだけど、ずっとアカデミー賞は取れなくて。でも奮闘してきて、50代になってようやく取れた。かっこいいよね。あと、レオナルド・ディカプリオも何度もノミネートされるのに取れなくて「いじめか」って言われたりしながらも、ようやく『レヴェナント』で取って。別に賞が到達点ではないけど、僕としてはブラッド・ピットやレオナルド・ディカプリオみたいな人が取ると「本当のスターが取った」っていう風に思えて、すごく嬉しいんですよね。『バビロン』ですごく好きなシーンがあって。ジャックが雑誌にオワコンだって書かれたことに対して「どういうことだ」って言ってそれを書いた批評家に抗議をすると、「あなたが時代遅れになる理由? 理由なんてないのよ」って言われるんですけど、ぞっとしましたね(笑)。
──残酷なことに時間はどうやっても流れていくという。エンタメの性(さが)ですよね。
僕も2010年代にデビューしたのでひと昔前のバンドに成り下がろうと思えばいくらでも成り下がってしまえる。ジャックは彼なりの終着点を選んだわけですけど……でも俺はやっぱりくらいついていくぞって改めて思いましたね。でもジャックの気持ちもわかる。輝き続けるのは大変なことだなと改めて思いました。映画のチラシには「夢をつかむ覚悟はあるか」って書いてあって、映画を観る前は「なんでこんな華やかなビジュアルでこんなこと書くんだろう」って思ったんですけど、観た後じゃ全然捉え方が違ってきましたね。
『バビロン』より
■実際のブラッド・ピットはジャックとはむしろ真逆の方向に進んでいるっていうメッセージがあったのかも
──確かに。スポーツ選手だと試合の結果とかで突きつけられるんでしょうけど、役者の場合、興行成績とかはあるにせよ、時間の流れが突きつける部分は大きいですよね。
そうそう。でも、実際のブラッド・ピットは今が全盛期というぐらい大活躍してますよね。20代30代の時に『セブン』や『リバー・ランズ・スルー・イット』があって、そこから40代50代になって、今60代直前っていうタイミングでこのジャックを演じたのって、もしかしたら「実際のブラッド・ピットはジャックとはむしろ真逆の方向に進んでいるでしょ?」っていうメッセージがあったのかも。必ずしも時間の流れによってジャックみたいになるわけじゃないっていうか。だから絶妙な配役だなと思いました。
──役者としても認められ、プロデューサーとしても成功してますからね。
そうなんです。あと、これだけは言えるのは、やっぱり男前は強いんだなって思いました(笑)。
──その結論(笑)。でも確かにトム・クルーズとかもそうですもんね。
そうですよ。トム・クルーズもディカプリオもアイドル視されていた時代があったけど、未だにかっこいいし素晴らしい役者さんだなって。だって、普通の60歳の人の髪型見て真似しようってあまり思わないけど、『ブレット・トレイン』のブラッド・ピットのロン毛いいなって思いましたし(笑)。日本だと木村拓哉さんも本当にそういうところに君臨してるよね。
──木村さんも50代ですもんね。
昨日レイバンのショップに行ったんですけど、木村さんがかけてるモデル買いたくなりました(笑)。やっぱり木村さんって身に着けているものが欲しくなっちゃうんだよね。
──この前スタイリストさんが「木村拓哉さんは着てる服が売れる最後のスターだ」って言ってました。
本当そう思う。単純にかっこいいだけじゃなく言葉にならない魔法があるんだよね。それこそさっきの『バビロン』のセリフにも通じるかもしれないけど、時間が経つと理由もなく人は離れていくけど、だから好かれる理由もないんだろうなって。もうそういう星の下に生まれたという表現しかない(笑)。だから、『バビロン』を観て落ち込む人もいるかもしれない。でも、是非いろんな人に観てほしいですね。長いので観る前に絶対トイレに行ってほしいです。「3時間トイレ行かず観る覚悟はあるか」っていう(笑)。
取材・文=小松香里
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