1世紀ほど前に奏でられ、
民衆を沸かした
メンフィス・ジャグ・バンドが
今なお影響を与え続けている理由

メンフィス・ジャグ・バンド
(The Memphis Jug Band)

彼らは1927年から1934年にかけて、テネシー州メンフィスをベースに活動していたジャグバンドで、リーダーはシンガーで、ギターのほかハーモニカを演奏したウィル・シェイド(Will Shade)で、彼がほとんどの楽曲を書いている。バンドは当時としてはユニークというか、バンド名こそついているものの、活動はひとつのプロジェクトというか、ライヴ、イベント、レコーディングのたびにメンバーが召集されるしくみで、ハーモニカ、フィドル、マンドリン、バンジョー、ギターなどの楽器のほか、ウォッシュボードやカズー、ジャグ(大きな瓶)などを担当するプレイヤーが呼ばれるというふうだったらしい。資料をあたると、ここでは紹介しきれない相当な数の参加ミュージシャンの名前が出てくる。中にはメンフィス・ミニー(Memphis Minnie:ギター、ヴォーカル)のように、後にソロアーティストとして花開く人も関わっている。

臨機応変、プレイヤーを招集できるネットワークがあるおかげで、楽曲に合わせて思いつくままに編成を工夫することができたのではないか。しかも、その音楽性についても実に幅広いものを備えていたようだ。ブルースをベースにしつつ、ゴスペル風のもの、コミカルなお笑い演芸風のホウカム調のもの、じっくり歌を聴かせるバラッドなど、録音され、現存する100曲を越える音源からは、このバンドの多彩な音楽性、巧みに楽曲にまとめていったウィル・シェイドの才能が浮かび上がってくる。

この編集盤でも1時間を超えるボリュームで23曲が収録されているが、飽きさせない。私は本作以外に4枚組CDからなるボックスものを所有しているが、流しっぱなしにしてもダレることなく楽しめてしまう。ドライヴのBGMに驚くほどハマって同乗者を喜ばせたこともあるし、ノリのいいダンス曲は仕事の効率を高めてくれる。それにドタバタ喜劇風のノベルティソングには思わず声をあげて笑ってしまう。気分を上げるのにもってこいだ。

OKMusic編集部

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