『レジェンド&バタフライ』ポスター

『レジェンド&バタフライ』ポスター

帰蝶は工藤静香、本能寺の変はSMAP解
散騒動、 『レジェンド&バタフライ
』は信長に重ねたキムタク一代記

キムタク演じる信長の滑稽 木村拓哉が織田信長を演じる『レジェンド&バタフライ』が1月27日より公開となった。東映の70周年記念作品ということで、監督には『るろうに剣心』シリーズの大友啓史を迎え、20億円を投じて作られた。が、大ヒット映画を作らんとするやる気とは裏腹に、初週の興行成績で1位を取ったものの、現状の売上高は5億円。元手を回収するのも危ぶまれる推移をみせている。
 本作は『レジェンド&バタフライ』というタイトルがほのめかしている通り、織田信長と綾瀬はるか演じるその妻・帰蝶のラブロマンス。が、単に史実や歴史の妙に重きをおくのではなく、木村拓哉の私生活と織田信長像を重ね合わせようとしているところに本作の白眉がある。
 本作で最初に登場する信長は、「大うつけ」の姿。帰蝶との結納式を前に、自分なりの“ワイルド”なコーディネートを配下の男衆に命ずる。
「ちょ、髪の毛はもっと遊ばせろっつーの」
「普通の帯じゃつまんねーな、もっと崩してさ」
 余念のないセルフプロデュースに心血を注いでいるものの、それが世間にはウケていない姿が描かれる。とはいえ、家来などは心のこもってない声で「いいっすね~」というほかない。やたらとオフビートにずらした気取った歌い方や、ジョニー・デップのコーディネートを全身丸パクりしていたのに、誰からも「ダサい」と言われることのなかった、裸の王様としての木村拓哉像を自嘲して演じているように見えてならない。
帰蝶に重なる工藤静香の影 そんな信長の転機となるのが、帰蝶との出会い。帰蝶の出自は直前に織田軍を壊滅させた美濃国の将軍・斎藤道三の家。結婚といえど、帰蝶にとっては斎藤家のための見張りという汚れ役程度の意味しかなかった。
 しかし(当時)童貞のキムタクは、相手の気持ちなんて考えるに及ばず一目惚れ。いかにもキムタクな俺様態度で、初夜を求める。しかし、帰蝶はこれに応えない。それどころか「お前はファッションセンスもなければ、人間としての器もない」と説教。キムタクを斎藤家の領土拡張という宿願の道具へと調教していく野望が語られる。
 信長が実際に妻の尻に敷かれていたかは定かではないが、帰蝶と信長はほぼ同い年。帰蝶のほうは、信長のまえに結婚していた経歴があったそうで、経験が豊富だったのは事実だろう。そんな史実は置いておいても、綾瀬はるか演じる帰蝶の姿には誰しも工藤静香の面影が次第に重なっていく。
 女であり、そのうえ人質同然の帰蝶に公式の軍議の場では発言権はない。が、会議が終わるなりキムタクに「そんなのは愚策ぅ!!」と詰め寄ったり。田舎者の信長に「これからは南蛮の時代だぎゃあ」と外交の重要性を説く。
 昨年末の紅白で娘のCocomiと共演したり、モデルのKoki,を映画やファッション雑誌にゴリ押したりと、まさに戦国時代的な意味での“家”の、芸能界での覇権のために心血をそそぐプロデューサーとしての工藤静香の姿を思わせる。
 この映画における信長は、帰蝶=工藤静香のアイデアを誰よりも忠実に実行できる、空っぽな“スター”でしかない。そして、まさにそこにこそ木村拓哉の、木村拓哉らしさが宿っている。
血まみれで中二病を開眼 スターとプロデューサーの関係は、愛という臨界点によって破綻する。映画中盤、お殿様とお姫様がお忍びで京都の街に遊びにゆく……という『ローマの休日』のパクリのような、甘ったるいラブロマンスが長々と描かれる。が、突如ラブコメが瓦解。京の街で「スラれた」キムタク夫妻は、彼らを追っているとスラム街に流れ着いていた。周囲を数十人の宅八郎似のホームレス軍団に囲まれてしまった。
 キモメンたちに犯されそうになった瞬間、綾瀬はるかは護身の懐刀を抜くなり首元を一閃。そして2人は、あれよあれよと数十人のホームレスを刀、斧、棍棒…あらゆる武器を使って切り捨て御免。というか、単に虐殺。少し前のシーンで、「民のため」だとか語ってたのに、そりゃないよと思うが、2人的には大層盛り上がったようで身体中血まみれのまま近くにあった廃屋にしけ込むと、ふたりははじめて身体を重ねるというか、セックスをしだすのだった。
 “血の盟約”によって結ばれた愛は、キムタクに増長しかもたらさなかった。すべてにおいて、自分より格上の綾瀬はるかを抱いたことによって、かつて綾瀬からさずかった知恵でのし上がることに成功した過去は忘れ去り、“第六天魔王”などと中二病全開の織田信長が誕生してしまうのだった。
燃えゆくキムタクの目に映るもの キムタクが織田信長を演じるのにふさわしい役者なのは、彼に「裏切り」がつきまとうという点も忘れてはならない。SMAPの解散の裏に何があったのか知る由もない。が、少なくともキムタクはジャニーズ事務所の側につき、香取・草なぎ・稲垣ら独立した元メンバーたちが地上波テレビの仕事から遠ざかっている状況を傍観していた。
 明智光秀との間に確執が生まれ本能寺の変に至る道筋に、観客たちは間違いなくSMAPのそれを想起せずにはいられないはずだ。今作でも光秀は、徳川家康と信長の会談の料理を担当していたところ、彼が出した魚の料理が腐っていたと叱責された事件が直接の契機として描かれている。創作物で何度も描かれたシーンではあるが、謀叛を起こされ寺の中で孤独に焼かれゆく寂しげな表情には、いままでにないキムタクの味が浮かび上がっている。
『トップガン・マーヴェリック』が、トム・クルーズというスターの実像が反映された傑作だと言えるのであれば、『レジェンド&バタフライ』はまさにキムタクにとっての『トップガン』であるのだ。
文/編集部写真/『レジェンド&バタフライ』ポスター

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