渋谷すばる、近況を語る「今、本当に
自分が楽しめていろいろと向き合えて
いるので、本当にいろいろとみんなと
一緒に作っていきたい」

映画『ひみつのなっちゃん。』(2023年1月6日(金)愛知・岐阜先行公開・13日(金)新宿ピカデリー他、全国公開)の主題歌として「ないしょダンス」を書き下ろした、渋谷すばるのオフィシャルインタビュー第二弾が到着した。

映画初脚本・初監督作品となる田中和次朗監督が完全オリジナル脚本で挑んだ『ひみつのなっちゃん。』(2023年の1月13日から全国で好評上映中)。
滝藤賢一演じるバージンは、年齢を重ね衰えを感じた自分に自信を失い、踊ることを辞めてしまったドラァグクイーン。そんなバージンの元に自身がドラァグクイーンになるキッカケとなった“なっちゃん”の突然の訃報が入るところから物語は始まる。バージンは、共通の“オネエ”仲間であるモリリン(渡部秀)、ズブ子(前野朋哉)は、お葬式に参列する為に、なっちゃんの地元である岐阜県・郡上八幡へと向かう。複雑な想いを抱えながら生きる3人の心情を赤裸々に描いたハートフルヒューマンコメディは、【自由に生きることの大切さ】を教えてくれるとても感慨深い作品だ。
前回インタビューは主題歌として書き下ろされた「ないしょダンス」について作者である渋谷すばるに話を訊いたが、今回は渋谷に自身の音楽との向き合い方について訊いてみた。
渋谷すばるにとって“タイアップ”として楽曲を作る意味とは? “純粋に渋谷すばる自身”として音楽に向き合うときとの違いを訊いた。
そして、この先の渋谷すばるとは!?
――1月11日に映画『ひみつのなっちゃん。』の主題歌として書き下ろされた「ないしょダンス」がリリースされましたが、今作も配信リリースということですよね。渋谷さんは今作に至るまでも、昨年の9月から4ヶ月連続配信リリースの第1弾として「7月5日」、10月には第2弾「ぼーにんげん」、11月には第3弾「これ」、12月には第4弾「Stir」をリリースされていますが、“配信で1曲ずつリリースする”というところへのこだわりはあるんですか?
もちろん、アルバムっていう考え方が嫌とか、そういうことではないんです。でも、なかなか今って、アルバムから聴いてみようっていう流れでもないんじゃないかな? って思ったところもあって。もっと気軽に、ふと流れて来て気になった楽曲を“あ、いいなこの曲、ちょっと聴いてみようかな”って感覚で、聴いてもらえたらいいのかなって思ったんですよね。今の便利な時代を全部肯定してる訳じゃないんだけど、いいところはどんどん使っていった方がいいんじゃないかな? って考えたんです。盤だと作るのに時間も手間もかかるから、出来立てホヤホヤをすぐにリリースするっていうタイム感じゃなかなか出せないでしょ。だから、熱の高い時期にどんどん出していってみようかなって思ったんです。これまでにやってないことでもあったので、自分にとっての一つの挑戦でもあったというか。
――アルバムはまたアルバムとしてちゃんと形にしたいという想いもあるっていうことですよね?
そう。またそれはいろいろとジャケットにもこだわりを持たせたいし、盤は盤の良さもあると思っているから、本当に一つのチャレンジという意味だったという感じですね。ちょっと違ったリリースの仕方というか、アプローチの仕方というか。1曲1曲を大事に届けたかったというやり方でしたね。
――最近なかなか“シングル”という考え方がなくなって来てますからね。昔はシングルを数枚リリースした先にアルバムがあるという流れでもあったし、シングルも3曲は入ってましたからね。カップリング集なんてのも楽しみだったりしましたし。
たしかに。いろいろと時代と共に変化して来てるなって思うよね。今回4ヶ月連続配信リリースという経験を経て、いろいろと自分の中で勉強になったこともあったし、音楽の出し方とか流れとかというところでもすごく勉強になった。俺はアナログ盤で音楽を聴くのも好きやから、出来ることなら全曲をアナログで出したいくらいなんやけど、またそういうのは別の話だと思うからね。“CDが売れない”って言われている時代に、大切に聴いて貰えるようなリリースの仕方があったらいいなって今も考えてるんですよね。
――今はTikTokとかでサビ部分しか知らない曲とか、誰が歌っているのか分からない曲ってありますからね。アーティストの中には、“バズりたくない”と言ってる人も多くて。その気持ち、少し分かる気がするんです。
その気持ち、俺も少し分かる気がする。たくさんの人に聴いて貰えるという意味では嬉しいことなのかもしれないけど、作り手としては、もっと大切に聴いてもらいたいなって思うんじゃないかなって思う。聴き方は聴く人の自由ではあるんやけどね。
――そうですね。“タイアップ曲”ということについてお聞きしていきたいのですが、今回、1月11日にリリースされた「ないしょダンス」は、俳優の滝藤賢一さんが映画初主演を務める『ひみつのなっちゃん。』の主題歌として作られた楽曲だったそうですね。
はい。映画の主題歌というのは初めてだったので、お話を頂いたときはすごく嬉しかったし、ビックリしました。何を求めてもらってるのかな? って考えましたし。でも、台本を頂いて、読んで、なんか、すごく求められてる感じが分かった気がしたというか。“オネエ”仲間である“なっちゃん”の突然の死をキッカケに、バージン(滝藤賢一)、モリリン(渡部秀)、ズブ子(前野朋哉)の3人のドラァグクイーンが、お葬式に参列する為に、なっちゃんの地元である岐阜県・郡上八幡へと向かうロードムービーという、ほっこりとしたストーリー性から、軽快なロックンロールを思い付いたんです。〝生き方〟についての反骨心と、いろんな人達との関係性のあたたかさが台本を読ませて頂いたときに、すごく伝わって来たんです。シーンごとの情景が頭にハッキリと見えたのもありましたし、監督とお話しして、この映画の舞台になっている監督の故郷である郡上八幡を、監督がすごく愛しているんだなっていうことが伝わって来たことも、すごく大きくて。最後に元気になってくれる様な曲を作れたらいいなって思ったんです。
(c)映画『ひみつのなっちゃん。』
――映画の主題歌としては「ないしょダンス」が初になりますが、2021年には、JRA(日本中央競馬会)春のGI『天皇賞(春)』のタイアップソング「塊」を作詞作曲されていますよね。これは〝物語〟ではないものへのタイアップソングということだったと思いますが、そういう場合、どういう視点から広げていく感じですか?
「塊」を書かせてもらったときは、『天皇賞(春)』ということで、いろいろと資料を貰って、競馬場での景色を頭の中で想像したんです。頑張って走る馬の姿や、その馬に乗って一緒に走る騎士の想いとか、その日に勝負をかけて集まって来た人達の盛り上がってる感じとか、そこに存在する欲望とか情熱とか、広い場所や広い空や、その場の情景を頭に描いたところから広げていったんです。そんなことを想いながら書いたんです、「塊」は。今思うと、馬だったと思うんだけど、黒い塊みたいなものが、すごい勢いでぶつかり合ってる感じを頭の中でイメージしたんです。その熱を曲にしようって思ったんですよね。
――渋谷さんの中で、曲は景色と繋がりが深いんですね。
そう。全部景色があるかも。景色が浮かんで来て、そこから音が生まれていく感じかも。映像と音はセットだなぁって思う。
――歌詞もですか?
いや、歌詞はまた違う。歌詞はまた景色というより、そこにあるいろんな想いや感情を重ねていく感じというか。競馬のタイアップのときは、映画と違って、そこに台本で描かれた物語はないけど、やっぱりそこにはドラマがあるなぁと思いながら書いたかな。でも、「塊」の歌詞は形にするのがすごく難しかった記憶がありますね。
――なるほど。でも、たしかに、人生って俯瞰して見たら、壮大なドラマですもんね。よく、いろんなことがある度に〝うわっ。ドラマみたいな展開だなこれ!〟って思ったりします、自分の人生なのに他人事みたいに(笑)。良いときも悪いときも。
たしかにね(笑)。今、話してて思ったんですけど、普段曲を作るときも、いろいろと情景やそこにある景色を思い浮かべながら書くことが多いかも。すごい古い話になるけど、昔、ウォークマンで音楽聴いてた頃から、外で音楽聴くのが大好きやってん。外に行くとき音楽が無いと出掛けられない感じというか。景色と音がセットじゃないと聴けない、みたいな。風景の中で、景色を見ながらしか音楽聴けない感覚があって。電車の中で音楽を聴くのが大好きだったんですよね。BGMみたいな感覚。
――すごく分かります。新幹線に乗ってるときとか、わざわざこの景色でこの曲聴きたい! と思って、その風景に合わせて曲をスタンバイしてかけちゃったりしますよね(笑)。
そうそうそう! そんで1人で陶酔する感じ(笑)。
――それです! その感覚を、“自分MV”って呼んでいるんですけどね、私(笑)。
“自分MV”!? 何やねんそれ(笑)。
――自分がそのMVの主人公になった感じに陶酔することです(笑)。その感覚に似てるなぁと思って。
あははは。そういう感覚ね(笑)。でも、たしかに、そこで陶酔するってことは、そういう感覚なのかもしれへんよね(笑)。感情が入り込みやすいというかね。まぁ、分かるよ(笑)。でも、そんな風に思ったことはないけど(笑)。
――前に渋谷さんに、そういう感覚ないですか? って言ったら、“無いなぁ”って言ってましたもんね。そういう感覚で、印象的な映画やドラマに、勝手に主題歌付けたりしないですか? って訊いたときも、“無いなぁ”って言ってましたし。でも、“外に行くとき音楽が無いと出掛けられない感じ”って、それに近いんじゃないかな? と。その感覚とは違うんですか?
あぁ~、なんかそれ訊かれたことあったなぁ。でも、それとはちょっと違うねん。なんか、タイアップを頼まれてないのに、勝手に主題歌作るみたいなことやろ? それはないねんなぁ(笑)。そこはやってやれんことはないと思うけど、なんかそこはやったことないです、まだ(笑)。なんか、ちゃんと実際にお願いされないと、それはやったらアカン気がしてるのかもしれないです(笑)。うん。ちゃんとタイアップという形でお願いされないと、イタヅラにそれはしたらアカンと思ってるのかもなぁ(笑)。
――遊びで歌詞が書けないタイプということですか?
絶対書けないタイプやと思う(笑)。そんなことで書いた歌詞を世に出してはいけない! と思ってしまうんやと思います(笑)。
――真面目、ですね(笑)。
案外そうなんです、僕(笑)。そういう作り方をしてる人が悪いとは思わへんけど、自分は、なんか、量産する為にそういう作り方して作るのは、なんか後ろめたいというか、、、。でも、タイアップという与えられたテーマがあったら、そこに自分を連れて行ってあげられる気がするというか。それも嘘じゃない気がするというか。
――じゃあ、渋谷さんの楽曲や歌詞には、自発的に出てくるノンフィクションは無いってことになりますよね?
まぁ、そういうことになるのかなぁ。でも、だからタイアップって好きなのかも。自分じゃないところと、自分であるところが混在させられるから。なんか、キッカケになるというか。
――だから“楽しい”と感じるのかもしれないですね。物語を書く感覚に近いのかも。
うん。そうかもしれないですね。それを楽しめてる気がします。
――昨年の12月にリリースされた第4弾「Stir」は、今までの渋谷すばるとは少し違ったテイストの楽曲でしたよね。今までの様なストレートなロックンロールサウンドというより、少しオルタナティブ・ロックというか、ポストロックというか、少し違った質感のロックだと感じたのですが、「Stir」はタイアップというところではなくとも、少し違う方向性を意識されて作られた感じだったんですか?
「Stir」は意識的にいつもとは少し違う雰囲気の楽曲を作りたいと思って作った曲だったんです。ちょっといつもと違う方向を向いてみようかなと思ったというか。いつも曲を作るときに共通している思いとしては、ライブでやることを大前提に考えて作っているってとこなんです。全部そう。曲調が違うのは、切り取ってる場面が違うんです。ライブのこういう場面で聴かせたいなっていう、場面が違う感じというか。「Stir」は、何も考えずに体が動いてしまう様な、踊れる曲を作りたいなって思ったんです。そういう曲って、無いなぁって思って。「Stir」を去年の12月にリリースしたのは、昨年の9月から4ヶ月連続リリースの流れだったんですけど、9月の「7月5日」も10月の「ぼーにんげん」も11月の「これ」も、作った時期がツアー前で、“ツアーで何曲目にやりたいな”って考えながら作った曲だったんです。
――ライブの景色と繋がっていたということですね。
そうそう。
――昨年のツアー(『渋谷すばる LIVE TOUR 2022 二歳と1328日』(福岡サンパレスホテル&ホール(9月14日・15日)を皮切りに、ファイナルの大阪城ホール(11月5日・6日)迄全国7ヶ所14公演で開催)は、座組みが大きく変わったのも印象的でした。よりバンドサウンドになったなと感じました。
そう。去年のツアーでバンドメンバーが変わって、よりバンドっぽくなったのも変化の一つというか、むしろ、そこが1番大きい変化やと思う。自分の中でもツアーをやってるうちに、変化を感じていたというか。どんどん“こんな曲作ってみたい!”っていう想いが膨らんでいってるんです。だから、この先、どんどん変化していくと思う。リズムをすごく感じられる音になってるというか。
――ツアー『渋谷すばる LIVE TOUR 2022 二歳と1328日』で得た大きな手応え、ということですよね?
そうそう。今のメンバーと一緒にツアーしてみて、自分的にも手応えをすごく感じたし、お客さんの反応というか、ノリが変化したのを感じたんです。一緒に音を楽しんでくれてる感覚というか、ライブという空間を楽しんでくれてる感じというか。もっともっと、今まで以上に、ライブという非日常を一緒に作れる感じがしたんです。もっとそういう空間を作りたいって思ったというか。なんていうのかな、本当に“もっといける!”って思わせてくれたというか。もっと特別な場所に出来そうだなって思えたのもあって。
――具体的にはどんな風に変化していきそうですか? 「Stir」みたいな曲も増えそうです?
うん。もっと踊れる曲も作りたいと思っているし、もっと激しい曲も多くなりそう。でも、逆にピアノ1本だけで聴かせる曲も歌いたいなって思っていたりもするし。
――去年のツアーでは各パート(ギター、ベース、ドラム、鍵盤)それぞれとのセッションもありましたよね。
そう。そこもすごくいい刺激になったんです。バンドでもこんな魅せ方も出来るんだなって。本当に前回のツアーを経験したことで、いろんな発想が広がっていってるんです。いろいろ遊べそうだなって思ったんですよね。ただただ届けるだけじゃなくて、みんなと楽しめる空間にしたいなって。
――ライブがすごく変化していきそうですね。
ですね。自分もすごく楽しみなんです。
――すごく良いことですね。今後の活動においても少し具体的にお話を訊かせてもらいたいのですが。
まず、4月にファンクラブライブがあるんですけど、そこでは通常のライブより、もっとコアに楽しませたいなって思って企んでいることもあるんです。これからは、もっと通常のライブと住み分けしたライブをしていけたらいいなと思っていて。通常のツアーではやらないことをやっていこうかなと。きっと喜んでもらえるんじゃないかなと思ってるんですよね。
――通常のライブツアーでのライブと『babu会 vol.2』(2023年4月16日(日)東京・Zepp Hanedaからスタートする『babu会 vol.2』ファンクラブライブツアー)は、全く違ったライブになるということですか?
そうですね。通常のライブは、ファンクラブのみなさんも楽しめるのはもちろんなんですが、純粋にロックンロールが好きだったり、音楽が好きだったりする人達とも共有出来る音楽を楽しみつつ、バンドサウンドありのままの“渋谷すばる”を楽しんでもらえるライブにしたいと思っていますし、『babu会 vol.2』も音楽を楽しんでもらいたいというのは同じではあるんですけど、通常のライブよりももっとレクリエーション要素をふんだんに詰め込んだ、遊びに来る感覚のライブにしていきたいと思っているんですよね。ずっと渋谷すばるを応援してくれてるみんなを、とにかく笑顔にしたいし、“楽しかった~。また来たいな”って思ってもらえるような、ライブを作っていきたいと思っているんです。今回の『babu会 vol.2』も、そう思ってもらえるように、いろいろと企んでいるので、是非、遊びに来てもらえたら嬉しいです。
――渋谷さんの中で今、タイアップも含め、“楽しませたい”っていう気持ちがとても大きくなっているのを感じますね。
本当にそうですね。いろいろやりたいなって思ってます。絶対に楽しいと思う! 今、本当に自分が楽しめていろいろと向き合えているので、本当にいろいろとみんなと一緒に作っていきたいんです。今回、この一連のインタビューの最後にも、映画『ひみつのなっちゃん。』がくれた出逢いの一つでもあるんですけど、田中監督、滝藤賢一さんに続いて、ドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジータさんと対談をさせて頂いたんです。そこでも本当に素敵なお話が出来たんです。なんていうか、自分が今までに触れたことがなかった感覚というか。田中監督も滝藤さんも、お話しさせて頂いた後も、じわっと自分の中にいろいろと染み込む感じの感覚があったんですけど、ドリアンさんとの対談も、なんか、言葉に出来ないすごく大切な気持ちを貰えた感じがしたんです。そんな時間も、みんなと共有出来たら嬉しいなと思っていますので、是非、楽しみにしていて貰えたらと思います。
取材・文=武市尚子
撮影=西村彩子
ヘアメイク=矢内浩美

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