原点回帰の先にあるもの、自主レーベ
ル設立でmol-74が追い求めた”らしさ
”を紐解く【インタビュー】

mol-74が自主レーベル「11.7」(イチイチナナ)を設立し、第一弾となるシングル「花瓶」を発表した。髙橋涼馬が加入して、現在の4人体制がスタートした日にちである「11月7日」を冠したレーベル名は、彼らにとっての新たなスタートを意味し、冬の空気を感じさせる名曲「花瓶」のリリースに続いて、2月には冬をテーマとしたコンセプトライブ『ICERIUM』を5年ぶりに開催することは、季節感や風景を大切にするバンドの原点をもう一度見つめ直すことを意味していると言えるだろう。メンバー4人に現在の心境を語ってもらった。
――まずはそれぞれ2022年の活動を振り返っていただけますか?
坂東:僕は直近なのもあってアコースティックツアーが印象に残っていて、今回は機材がかなり増えたんです。前はカホンとシンバル一枚くらいだったんですけど、スネアとライドシンバルが増えて、スティックも4種類くらい使って、曲に対していろんなアプローチができたので、前のアコースティックツアーよりもかなりレベルアップできて、個人的に大満足のツアーでした。
髙橋:『OOORDER』は実質的に初のフルアルバムだったと思ってるんですけど、既発で出してるシングルもあったので、それも踏まえつつどうやって流れを作ればいいのかっていうのは、最初「無理やろ!」って感じで(笑)。でもみんなでストーリーを考えたり、曲順を並べ替えたりして、最終的にはちゃんと流れのあるアルバムを作れたので、それはすごく印象に残ってますね。
井上:『OOORDER』は結構ライブで盛り上がる曲が多くて、ツアーでは今までとは違うmol-74を見せられたと思います。自分のギターもいつもより攻めたフレーズが多くて、パフォーマンス的にも結構前に出たりしたので、自分的に一歩踏み出せた感覚もあって。なので、『OOORDER』のリリースツアーは一番印象に残ってますね。
武市:僕もやっぱり『OOORDER』のツアーが思い出深いです。ライブでのお客さんとの距離が、あのツアーでかなり縮まった気がする。僕はもともとライブで手が上がることが正義だとは思っていなくて、自由に楽しんでくれればいいと思ってるんですけど、でも実際たくさん手が上がったり、クラップをしてくれたり、自分たちが『OOORDER』を作ったときにイメージしていた以上のレスポンスがあったんですよね。今までのmol-74は静寂で一体感を作ってたけど、目で見てわかる一体感みたいなのはなかったので、それが感じられたのは大きくて。ツアーの初日が札幌だったんですけど、僕初めてライブ中に泣いちゃったんです。『OOORDER』はいろいろ葛藤しながら作ったアルバムだったりもしたので、それに対して想像以上のレスポンスが返ってきたことがうれしかったし、しかもファイナルの東京まで各地でその感じがあって、本当にいいツアーだったなって。
――コロナ禍による制限で一体感を感じにくい中、それが感じられたのは『OOORDER』を作り上げたからこそだったんでしょうね。その一方では困難も多くて、ツアーファイナルが武市くんのコロナ感染で一度延期になったり、体を痛めたメンバーもいたとか?
坂東:僕が腰を痛めちゃって、札幌のライブが終わった後はソファーに寝っ転がって氷を上に乗せて、みたいな感じで。その後は重たいものをメンバーに持ってもらったり、迷惑かけちゃったんですけど、何とか無事に走り切れてよかったです。
武市:トゥンさんもどこか痛めてなかったっけ?
井上:俺は今年に限らずよく痛めてるから(笑)。
――パフォーマンスで前に出たときに痛めた、とかでもなく?
井上:はい、それとは関係ないです(笑)。
――『OOORDER』は「Out Of Order」を表していて、「規律から外れる=挑戦する」という意味合いだけど、「Out Of Order」には「故障中」という意味もあるから、まさに故障しながらのツアーでもあったわけですよね。
武市:そうなっちゃったなあ(笑)。
武市和希
――でもそれを乗り越えたからこそ、達成感も大きいツアーになったんだと思います。そんな一年を経て、今日これから自主レーベルの設立を発表するわけですが(取材はメンバーが生配信でレーベル設立を発表した12月20日の日中に行われた)、設立に至る経緯を話してもらえますか?
武市:今年の夏くらいに当時のレーベルと契約の話をする中で、メンバーと意思確認をしたときに、「このまま続けるのはどうなんだろう?」とも思ったし、だからといって、もう一度インディーズレーベルに戻るのは、挑戦してる感じがしないと思ったんですよね。だったら、自分たちでレーベルを作るのがいいんじゃないかって。
井上:当時はいろいろな感情があって、前向きな気持ちだけではなかったんですけど……ひとつだけ自分の中にあったのは、現状維持を考えるのは良くないんじゃないかっていうことで。やっぱり変化していきたいと思ったので、自分たちでアクセルを踏むというか、一歩を踏み出すきっかけとして、レーベルを作ることがいい機会になるんじゃないかなって。
――メジャーの約3年間もmol-74はずっと挑戦を続けてきて、それによってできたのが『OOORDER』だったと思うんですけど、その先でもさらに挑戦し続けることを選んだと。
髙橋:いろんなことを経験させてもらって、タイアップみたいな大きな話はメジャーならではのことだと思うんですけど……僕たちは当初から季節感とかを大事にしてきたから、それとタイアップの兼ね合いを考えることが難しくて、向き不向きで言えばあまり向いてるタイプではないのかなと思ったりもして。だったら、もう一度自分たちが大事にしていることをしっかり軸に据えて、活動をした方がいいんじゃないかなって。
坂東:もちろん、ある程度自由に好きなことをやらせてもらってきたんですけど、昔の方がより自由だったのは事実で、自分たちらしさをより押し出すことを考えると、自主でやった方がいいんじゃないかなって。
武市:タイアップとかと自分たちらしさの兼ね合いを考えながら活動をして、それで売れたらオッケーかというとそれも違うというか、「売れたらオッケー」ならそもそも僕らこの音楽性ではやってなかったと思うんですよね。周りに「よくわからない」と言われても、自分たちが美しいと思うもの、かっこいいと思うものを作って、それで勝負したいっていうのは、結成当時からずっと思っていたことで。でもいつからか、「周りがやってないことをやろう」じゃなくて、周りがやってることに追いつこうとしてる自分がいて、もしこれで結果が出たとしても、ちょっとやばいなと思ったんですよね。
坂東志洋
――自分たちの根本を見失いそうになっていた時期があったと。
武市:それによって自分たちの手元には何が残るのか、もしかしたら、バンドがなくなってしまうんじゃないかっていう、それくらいの危機感もあって、そうならないためにはどうしたらいいのか、すごく悩んだんです。でもやっぱり、まずはバンドとして何を表現したいのかが第一で、それに伴ってリリースがあり、ツアーがあるっていうのがヘルシーだと思ったんですよね。これまでに培ったものを吸収したうえで、自分たちがずっと大切にしてきた季節感や風景描写みたいなことを改めて表現できたらなって。もちろん、自主レーベルを作ったからといって、ただただ自由にやるわけではなくて、すべてが自分たち次第だからこそ、より覚悟を持って、そのうえで楽しんで活動していけたらいいなと思っています。
――1月18日に自主レーベルからの第一弾として「花瓶」がリリースされます。まさに自主レーベルに対する想いが形になったような楽曲だと感じましたが、いつごろ作って、なぜ最初のリリースにしようと思ったのでしょうか?
武市:最初に作ったのは今年の2月くらいで、家で弾き語りで曲を作ってたときに、適当にバンって鍵盤を弾いたときの響きがそのままAメロの最初の音になってるんですけど、「なんかいい響きだな」と思いながら作っていって、上に乗っかったメロディーもすごく気に入って。ちょうどその頃曲作りに悩んでいて……結構ずっと悩んでたんですけど(笑)、でもこの曲ができたときは「これはメンバーに聴かせたらいい反応がありそうだな」と思えたんですよね。で、実際にスタジオで聴かせたら、みんな「すごくいい」と言ってくれて。当時はまだ自主レーベルのこととかは考えてなかったですけど、『OOORDER』を作り終わって、次はどんな曲を作ろうかってなったときに、「やっぱり風景がちゃんと見える曲を作りたい」っていう話になって、この曲はちゃんとそのイメージも共有できたんです。
――なるほど。
武市:当時は「花言葉」っていう仮タイトルで、自分たち的には自信があったんですけど、でもリリースするタイミングがなかったんですよね。で、そこから時が流れて、自主レーベルを作ることに決めて、2月に「ICERIUM」をやる計画を立てて、そこに向けて最初の全国流通盤の『越冬のマーチ』をサブスクで解禁することにして、ひさびさに聴いてみたんです。そうしたら、つたないんだけど、でもいい作品だなと思って、その後に「花言葉」を半年ぶりくらいに聴いてみたら、「めっちゃいいじゃん」って一人で思ったんですよね。で、それと同じくらいのタイミングで髙橋と「自主レーベルの一作目どうする?」っていう話になったときに、髙橋が「『花言葉』やりません?」って言ってきて、「すげえ」ってなって(笑)。
髙橋:自主レーベルの第一弾だから、それを踏まえて新しい曲を作ることもアリだとは思ったんですけど、「花言葉」以外にもリリースできてなかった曲が山のようにあったんですよ。それを改めて聴いてる中で、「花言葉」はまだ1コーラスしかなかったんですけど、今の自分たちでこの曲の続きを作ったら、すごくいいものになるんじゃないかと思って。
mol-74
――『越冬のマーチ』には「赤い頬」が収録されていて、mol-74が風景とか景色を意識して曲を作るようになったきっかけの一曲だったと思うんですけど、その作品を聴き直したうえで「花言葉」がいい曲だと思えたっていうのは、「花言葉」……というか、今はもう「花瓶」ですけど(笑)、「花瓶」もやっぱり風景が見える曲で、自分たちの原点を見つめ直すような一曲だったということかなと。
武市:そうですね。やっぱりそういう曲が好きだし、昔からそこが自分たちの軸だったので。風景描写や季節感があって、そのうえで各々の演奏や僕の歌がある。その軸がぶれちゃうと、おかしなことになっちゃうと思うんです。もちろん、『OOORDER』を作って得たものは本当に大きくて、2人(井上と髙橋)が曲を作ってくれて、そこに歌詞を乗せるっていうのは初めての経験で、それによって見えた景色や表現方法もありました。そういったものも踏まえたうえで、もう一回自分たちの軸に戻ることによって、バンドをさらにビルドアップできるんじゃないかと思ったんです。
――いわゆる螺旋階段的な感じですよね。一周回って、原点回帰したように見えて、もう一段階上のところにいるっていう。坂東くんは「花瓶」という曲をどう捉えていますか?
坂東:もともと1コーラスだけのときは打ち込みで終わってて、武市はその後に生ドラムが来るイメージだったみたいなんですけど、自分的にはそのイメージが湧かなかったんですよね。なので、最後まで打ち込みでいくことに決めていました。打ち込みではパソコンで好き放題できるけど、前まではライブで自分が叩けるイメージの範囲で作ってたんです。でも今回は曲がよくなるなら自分が叩けるかどうかは一回置いておいて、とにかく自分が気持ちいいと思うフレーズを入れて。なので、すごくチャレンジでもあったんですけど、仕上がりに対してはすごく満足してます。
――間違いなく、ビートに関してはかなり挑戦の一曲ですよね。井上くんはどうですか?
井上:原点回帰の感覚はすごくあります。最初に「ライブで前に出るようになった」っていう話をして、それもパフォーマンスのひとつとしてすごく楽しいんですけど、やっぱりこの手のタイプの曲がもともと好きなんですよね(笑)。
――ギターが前に出るというよりも、後ろで背景を作るタイプの曲というか。
井上:そうですね。だから、すごく素直に作ってはいるんですけど、ほとんど打ち込みで完成されてるので、自分がそれをどう彩るかはすごく考えました。それを「楽しい」と思えたのは、やっぱり『OOORDER』を作ったからだと思います。さっきの螺旋階段の話の通り、アッパーな曲を作ったり、自分で曲を作ったりして、そのうえでもう一度こういう曲と向き合うと、新たな見方ができるようになったなって。
――プリズマイザー的なボーカルエフェクト含め、音像にもかなりこだわってますよね。
髙橋:僕がそういうの大好きなので(笑)。もともと生ピアノで録るっていう話もあったんですけど、サウンドはいろいろ細かく調整したくて、鍵盤も7種類くらいレイヤーして、展開によって変えたり、細かいFXの音を入れたりもして。そこにがっつり耳が行くわけではないと思うけど、でもそれがあるかないかで曲を聴いたときの満足度が大きく変わる、そういう部分にすごくこだわりました。

髙橋涼馬

――『OOORDER』でいうと「鱗」が髙橋くんの曲だったし、やはりサウンドメイクへのこだわりは人一倍強いですよね。
武市:mol-74の頭脳なので(笑)。
――今回ミックスは南石聡巳さんに依頼したそうですね。
髙橋:神様でした。
――どんなところが?
髙橋:……優しい(笑)。
――バンドの頭脳の発言とは思えないなあ(笑)。でも正直ちょっと意外だったんですよね。南石さんはどちらかというとバンドサウンドのイメージが強かったので。
髙橋:そうですよね。でもいざ作業が始まったら、質感がものすごくよくて、圧倒されちゃいました。「冬のこの時間帯で、このくらいの日差しで」みたいな抽象的な景色を伝えたときに、思い浮かべるのは人それぞれ違って、それが面白いときもあれば、方向性がバラバラになっちゃうこともあると思うんです。南石さんはそこもちゃんとくみ取ってくれて、曲の空気感もすごく意識してくださって。
――mol-74にとってそこは一番大事なところですよね。
武市:ミックスかマスタリングのときに、「もうちょっと冬の空気をまとったような感じで」みたいなことを南石さんに伝えて、返ってきたら、確かに澄んだ空気感に、白い息が見えるような感じになってて、ちゃんと伝わってるんだなって。
井上:自分たちが大切にしていることをすごくわかろうとしてくれて、ちゃんと理解してくれたので、それはすごくうれしかったですね。
――歌詞には直接冬を連想させるワードが出てくるわけじゃないけど、楽曲全体から冬の空気感が伝わってくるし、景色や時間を積み重ねていくことの尊さと儚さを同時に感じさせる歌詞は、やはりmol-74ならではのものだと感じました。
武市:「花が咲いて、枯れる」っていう歌詞だから、やっぱり自分の中では冬っぽいイメージだったんですよね。直接「雪」とか「マフラー」みたいな言葉が出てくるわけじゃないけど、メンバー全員のサウンドでその空気感をちゃんと表現できたんじゃないかと思います。
井上雄斗
――〈ばらの花言葉を咲かせて〉という印象的なフレーズはどこから生まれたのでしょうか?
武市:急に出てきました。サビを弾き語ってるときにパッと出てきて、花言葉を咲かせたり枯らせたりするっていう表現は誰もしてないと思うから、これはすごくいいなって。もともと僕は歌詞に対して「響きでよくない?」みたいな感じだったんですけど、2020年の冬くらいに当時のスタッフの人に「もっと歌詞を大事にした方がいいんじゃないか」というような助言を貰って、相当悩んだ時期があって。何か上手く言わないと、共感を得ないと、誰も言ってないことを言わないと、みたいなこととずっと戦ってたんです。でも〈ばらの花言葉を咲かせて〉は、自分的にスッと入ってきたし、なおかつ誰もしてない表現だと思ったんですよね。
――もともと武市くんの中ではどんな風景が見えていたんですか?
武市:最初に曲ができたときの情景は、ほぼほぼ夜に近い夕方に、何もない部屋で一人男の人がスマホを見ていて、まだ消せてない昔付き合ってた恋人との写真なのか、そういうものを見返してるっていう。一サビで急に声だけになるのは、フッと放り出された感覚になるというか、何もない広い部屋にいる今と、いろんなことがあった昔の思い出と、そのコントラストを表現したかったんです。あと今回今一度自分たちの持ち味を見つめ直したいと思ったときに、やっぱり僕の声は人の背中を押すタイプの声ではないと思ったんですよね。僕は自分の声がすごく好きというわけではないんですけど、でもこの声をいいと言ってくれる人たちがいるから、「じゃあ、この声をどういう方向で使えばいいのか」って考ええると、やっぱり切なさとか、喪失感とか、そういう表現がしっくりくると思ったんです。
髙橋:武市さんが作詞において色々と試行錯誤していく中で、レトリックな方にフォーカスし過ぎているように見えてた時期もあったんです。でも「花瓶」はスッと入ってきて、じんわり染みわたるような言葉選びをしていて、やっぱりこれがいい形なんじゃないかと思いました。
――自主レーベルを設立して、冬の空気を感じさせる曲を出して、冬をテーマにしたコンセプトライブ『ICERIUM』を開催するというのは、mol-74が何を大切にしたいのかということを、活動そのものでメッセージとして表しているような、そんな印象も受けます。
武市:『ICERIUM』はずっとやってなくて、いつかまたやりたいと思ってたんですけど、もともと髙橋が加入して初めての自主企画が『ICERIUM』だったんです。なので、加入日を冠した「11.7」というレーベルを立ち上げて、『ICERIUM』がすぐできるっていうのも、すごくいいなと思ってます。いろんなことを一回整理したくて、曲作りから離れてた時期もあったんですけど、これからまた曲を作って、その曲を連れてまたツアーにも行きたいし、2023年で結成13年目なんですけど、今の自分たちが一番かっこいいと思っているので、ここからまた飛躍していけるような年にしたいと思っています。

取材・文=金子厚武 撮影=大橋祐希
mol-74

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