宮本浩次 迫真の歌と分厚い演奏で観
客を魅了、カバーコンサート『ロマン
スの夜』東京・代替公演(東京ガーデ
ンシアター)の公式レポート到着

宮本浩次がカバーコンサート『ロマンスの夜』東京(代替)公演を1月16日に東京ガーデンシアターにて開催した。本記事では、同公演のオフィシャルレポートをお届けする。

精力的にソロ活動中の宮本浩次が1月16日、名曲カバーを中心としたスペシャルなコンサート『ロマンスの夜』を開催。当初、2022年11月~12月に東京と神戸の2会場4公演で予定されていたが、東京2公演が宮本の体調不良により延期となり、神戸公演終了後に代替公演として東京ガーデンシアターで催されることになったものだ。19年にソロ活動を本格スタートしてから丸4年。コロナ禍で一度はツアー全公演中止を余儀なくされながらも、21年10月~22年6月には「日本全国縦横無尽」と題した47都道府県ツアーを敢行した。一方、20年秋にリリースしたカバーアルバム『ROMANCE』が大ヒット。昭和歌謡の名曲を女性の歌に限定してカバーするという試みは、ロックバンドのフロントマンとしての顔とは別の表情を世間に知らしめ、第71回芸術選奨 文部科学大臣賞 大衆芸能部門を受賞した。本コンサートはこの『ROMANCE』の延長線上にあり、「『ロマンスの夜』の招待状として制作した」と本人が語るカバーミニアルバム『秋の日に』も昨秋発売され話題を呼んでいる。なお、本コンサートはイープラス「Streaming+」にて配信中で、2023年1月19日(木)23:59までアーカイブ視聴が可能となっている。
暗闇の中、旅を想起させる駅の雑踏のような音で開演。下手から小林武史(key)、名越由貴夫(G)、須藤優(B)、玉田豊夢(Dr)の4人に続いて宮本が登場する。大きな歓声を禁じられた客席から熱い拍手がわき起こる中、歩きながら頭を下げ、1曲目は「ジョニィへの伝言」。『ROMANCE』に収録された1970年代の大ヒット曲だ。歌いだしの一音目、宮本がやわらかく水分を含んだ歌声を発したとたんに、主人公の女性その人の声を聞いているような感覚に陥る。アンティーク感のある白い部屋のセット。全身黒で揃えたシックな5人。趣向を凝らしたオープニングから、小気味よい場面転換を経て2時間余、23曲。迫真の歌と分厚い演奏で観客を魅了した一夜となった。
「ジョニィへの伝言」から中島みゆき作詞作曲「春なのに」、松任谷由実作詞作曲「まちぶせ」と一気に3曲を歌い、「エブリバディ、今日はようこそ」と挨拶後、「会場に入った時からほんとに嬉しくて……」。ソロ活動の一つの夢だったカバーコンサート、その東京の夜を待ち望んでいたことを隠さず吐露するのが宮本らしい。
椅子に座ってギターの弾き語りで始まる宇多田ヒカルの「First Love」では、終盤気持ちが高まって立ち上がり、右手でマイクを、左手でギターを掴んで熱唱。ジャジーな「September」では思わず踊り出したくなるようなスイングする演奏に会場がグッと熱くなり、宮本自身も解放されていく。やがて手拍子をしはじめた客席が、一変「化粧」で静まり返ったのは、涙をこらえて心で泣いているかのような歌唱だったから。この緩急、女性の心情の様々な機微を、小林武史のエレガントなピアノが繋いでいく。玉田豊夢のドラムの繊細さと大胆さ、名越由貴夫のテクニカルなギターは愛情にあふれ、47都道府県を一緒にまわった信頼関係をうかがわせる。須藤優の溌溂としたプレイもハマっていてバンドの一体感は揺らぐことがない。
宮本浩次 (c)岡田貴之
第2部ではセットがシンプルに変わり、シアトリカルな照明が映えるステージに。客席が待ってましたとばかりに大きく拍手したのは「翳りゆく部屋」だった。2008年、エレファントカシマシのアルバムに収録された初のカバー曲。神々しい照明の中、渾身の歌唱に、当時の衝撃を思い出す。宮本の歌はずっと前から私たちの胸を打ってきた。それはずっと変わっていない。カバー曲を歌う時の原曲への敬意も、当事者として歌う誠実さも、全身全霊で歌う姿勢も変わっていない。歌い終えると会場は、感嘆のため息と余韻に包まれていた。宮本の歌が今、大きく広がって届いているのだと目の当たりにした瞬間だった。
「異邦人」ではすっかりロックのライブの様相に。ステージの端から端まで何度も往復し、客席を指さし、語りかけ、シャウトする。アウトロの演奏陣の大セッションは鳥肌ものだ。そこから「ロマンス」「DESIRE -情熱-」と派手派手の照明でハードに決めていく。客席は総立ち、大きな手拍子。宮本は高揚し、シャツをはだけてボタンをバリバリと飛ばす。シャウトはやはりこの人の真骨頂だ。
驚いたのは「飾りじゃないのよ 涙は」で、神戸公演では見られなかった、女性ダンサー2人が参加。白シャツに黒スーツ、音に合わせて激しくクールなコンテンポラリーダンスを繰り広げる。圧巻だったのは曲の終盤で2人が退場する場面。左右に分かれ、一人は下手に、一人は上手に、真っすぐ進行方向を見つめ胸を張って悠々と去っていく。宮本は、2人をたたえるように両手を広げる。まるで、今夜披露した歌の主人公たち全員をたたえているかのような粋な演出だった。
宮本浩次 (c)岡田貴之
アンコールでは「恋人がサンタクロース」の歌詞を忘れ、途中で演奏を止めるハプニングが。「完全に歌詞を忘れてしまいました」「さすが俺」と言いながら、観客が口々に歌詞を教えてくれるのを制して「みんなバラバラですね」と毒づく。「歌詞見ちゃおうかなー」とお茶目な顔を見せ、「ごめんなさい」とやり直し。これも宮本らしさで、ますますアットホームな空間ごとラストに向かっていく。気付けば黒いスキニーパンツの膝が白い。全身全霊で歌い、何度も空を仰ぎ、何度もうずくまり、何度も膝をついたから。
鳴りやまない拍手に迎えられたダブルアンコールでは、この日唯一のオリジナル曲「冬の花」。魂ごと迫ってくるような歌唱に大きな拍手がわき起こる。やはりオリジナル曲は別格だ。縦横無尽ツアーのハイライトだった赤い花びらが舞う演出もファンを喜ばせた。メンバー紹介では、名越を「ギター名人」、玉田を「日本代表」、須藤を「スーパーべーシスト」、小林を「頼りになる男、司令塔」とコールし、「そしてガーデンシアターのエブリバディ!」に続けて二重丸ならぬ「ゴジュウマル!」と叫ぶ。最後の最後は沢田研二の「カサブランカ・ダンディ」。幼少のころからファンだったジュリーの曲、この日唯一の男性曲カバーだ。ダンディにちなんで律儀にジャケットを着、粋な大人の男と少年時代の宮本が邂逅する。この1曲だけでも今日来た甲斐があると思わせるほど本領発揮のパフォーマンスだった。
「これで終わりかい? 終わりでーす!」。
もっと歌いたいと言わんばかりに、まだ帰りたくない子どものように叫ぶ。小林とハグし、須藤と握手し、玉田、名越とハグした後、5人横並びで手をつなぐ、おなじみストーンズ挨拶で締める。退場するかと思うと、さっきしそびれた須藤とニコニコしながらハグ。律儀な宮本らしさ全開、満面の笑みでの終幕だった。
宮本浩次 (c)岡田貴之
要所要所で鳴っていた汽車の音は旅を想起させた。ソロ活動の旅、人生そのものも旅。今年はエレファントカシマシのデビュー35周年で、4年にわたるソロ活動は今日で一段落だ。3月に発売されるエレファントカシマシ4年半ぶりの新曲「yes. I. do」は、映画『シャイロックの子供たち』の大型タイアップ曲。3月から4月には、バンド初のアリーナツアー(東京・横浜・名古屋・大阪)という大舞台が待っている。長年ファンを魅了してきたエレファントカシマシ。大きく表現の幅が広がった宮本と、10代から変わらぬメンバーの35年の旅。4人がたどりついた「今」に出会えるステージが楽しみだ。

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