大橋トリオのコラボの流儀、15周年を
超えて次のERA(時代)へたゆまず走り
続ける男の本音を訊く

デビュー15周年イヤーを颯爽と駆け抜けた大橋トリオから届いた、新年の素敵な贈り物。大橋トリオの新作『ohashiTrio collaboration best -off White-』は、これまでリリースしてきた様々なアーティストとの共演曲を選りすぐり、新曲4曲を加えた画期的なコラボベストだ。相手を光らせて自分も光る優れたプロデュース力を存分に発揮した、オリジナルアルバム以上にカラフルで華やかな全12曲。コラボ相手にJQ from Nulbarichkojikojiりりあ。、Kenta Dedachiを迎えた、新たな時代をとらえる目配りの効いた新曲の出来も素晴らしい。15周年を超えて次のERA(時代)へ、たゆまず走り続ける男の本音を訊こう。
――2022年、15周年イヤーは盛りだくさんの1年でした。
制作、ライブ、制作、ライブと、怒涛の日々が続きましたね。例年だとそこに年末年始の制作が加わって来るんで、それがないだけ、まだいいのかなとは思いますけど。でも、今は、NHKのドラマの劇伴を作ってるんですよ(※2023年1月21日(土)22時から放送予定のNHK土曜ドラマ『探偵ロマンス』の劇伴・主題歌)。
――そうなんですよね。劇伴は久々ですよね。
久々ですね。劇伴をやると、もれなく死にそうになるんですけど(笑)。うまくハマれば、早い時は早いんですけど、いつもと使う脳みそが違うんで、なかなか大変です。まあでも、今回のドラマは大正時代が舞台で、僕、大正時代が好きなんです。和洋折衷のあの空気感がすごく好きで、大阪の中之島公会堂(大阪市中央公会堂)の、豪華絢爛な感じとかね、すごくいいんですよ。生まれ変わってどの時代に行きたい?と言われたら、大正かなっていうぐらい。
――それも含めて、15周年イヤーは、いろんなことをやってきました。ベスト盤、ホールツアー、プロデュースも多かったですし、ビルボードライブもやりました。
やりましたね。まあ、大橋トリオプロジェクトが今後どうなっていくか?ということを考えると、もっと精力的にいろいろやらなきゃいけないのにな、とは思います。これは完全に自覚してますけど、自分のペースが遅いんで、もっとアグレッシヴに、たとえば1日100通のメールをさばいて、クアッドコアか何かで、いろいろ同時進行でやっていかないと、本当はいけないんだろうなと思いつつも、無理なんで。
――はい(笑)。
自分もいい歳になって、今後どうなっていくか?という時期に入ってきてるんで。いろいろ考えます。
僕はプロデューサーになりたかった人間なので、プロデューサー的な立ち位置から曲の提案をして。ちょっと鼻に付く感じの(笑)。
――そういう意味で言うと、今回みたいなコラボ作は、ライフワークになるんじゃないですか。すごくいいシリーズ。
自分から声をかけるのもそうなんですけど、声をかけてもらいたいですよね。最近だと、ウー・チンフォンという、台湾の国民的歌手の方に声をかけていただいて、コラボしました。そういうことも、もっとやってみたいですけど。
――今回の『ohashiTrio collaboration best -off White-』は、10年前のコラボアルバム『White』に入っていた曲あり、その後のコラボ作あり、そして新曲ありの全12曲。
言ったら、(上白石)萌音ちゃんの曲とか、秦(基博)くんの曲とか、何回もいろんなところで出してるんですよね。どうなんだろうな?と思いつつも、でも、萌音ちゃんの「ミルクとシュガー」に関してはもっと聴いてほしいので、あえてまた入れました。秦くんの「モンスター」も、何度目かだと思うんですけど、前回のベストに収録しなかったんですね。そのあとに秦くんと会った時に、“新しいベストです”って、“でも秦くんとの曲は入ってないんだけどね”って言って渡したのが、ちょっと心苦しくて(笑)。だから今回は入れなきゃなって。
――あはは。そんな私的な理由で。
それもあるし、コラボ的にもベストな曲の一つなので。まあでも、ベストの意味合いで言うと、全部ベストだと思うんですよ。今までコラボさせてもらったものに関しては、甲乙つけることではないから。だから、今このタイミングで聴いてもらいたい選曲という感じですかね。
>>次のページは、「大橋トリオのコラボの流儀」について、そして「2022年の漢字」について訊いています。
(JQは)最近の日本の音楽の中で一番洋楽っぽい音を作ってる人だと思うので、そのセンスにゆだねてみようと。珍しいパターンかなと思います。
――今日聞きたかったのは、大橋トリオのコラボの流儀ということなんですね。お迎えするアーティストとの関係、ジャンル、年齢、キャリアとかで、曲の作り方がそれぞれ変わってきますよね。
ああ、それはそうですよね。最初は……僕はプロデューサーになりたかった人間なので、プロデューサー的な立ち位置からの曲の提案をして、“こういう曲を歌ってみてはいかがでしょうか”“もっと洋楽っぽくなりますけども”とか、ちょっと鼻に付く感じの(笑)。
――いかにも業界人的な(笑)。
それは僕の中だけのイメージですけど(笑)。そういう曲の作り方をしてましたかね。まあでも、矢野(顕子)さんとの曲に関しては、“矢野顕子の新たなピアノ名曲を僕が作りたい”という気持ちで挑みました、とか、萌音ちゃんには、チャレンジングな曲を歌ってほしい、とか。いろんな思惑がありますよね。
――二人の歌声を重ねるから、声質も細かく気にするだろうし。特に女性シンガーの場合、ウィスパー系というか、ソフトな感じのボーカルが多いですよね。
確かに、そうですね。
――それは大橋さんの、自分の声との相性で考えているんだろうなと思ったり。
BONNIE PINKだけは、パーンと開けた感じの歌の人ですけどね。ただ女性の場合、音域の差がもともとあるから、そんなに違和感は出ないんですよ、実は。誰とやっても。そもそもオクターブ違うから、そういうものとして聴けるから。でも男同士だと、その差が意外とけっこう難しくて。バランスが。
――ああー。そういうものなんですね。
新曲で歌ってもらったKenta Dedachiくんの曲は、彼の歌を録ってから、何日か経ってから自分が歌を入れるという作業だったんですけど。彼の声が天使すぎて、きれいすぎて、44年生きてきた、この薄汚れた声とのマッチングがね、本当に難しくて。
――いやいや(笑)。でもわかる気はします。
あと、この曲「long way home」には、コーラスをいっぱい入れたんですけど、彼の声はコーラスがいらないんですよ。一本だけで全然成り立つんです、不思議なことに。僕の声は、コーラスを重ねまくってなんぼみたいなところがあるので、一本だけで成り立つ声ってすごいなと思います。
――それは、何なんですかね。専門家の分析によると。
わからない(笑)。どこかの倍音なのかな。満たされているんでしょうね。
――ということは、つまり男性と合わせる時にはかなり繊細なアプローチが必要だと。
そうなんです。意外と苦労するんですよ。その差を楽しむみたいな考え方もあるんでしょうけど、僕はやっぱり、自分の声の足らない部分が気になっちゃうタイプなんで。だから、極力近づける方向にいってますね。頑張って。
――それは秦さんや(斉藤)和義さんとの曲には特に感じますね。声質を合わせているというか、どちらも歩み寄っている感じがします。そういう意味で、新曲のJQさんはどうでした?
あの曲は、一番と2番で(歌が)分かれてるので、あんまり関係なかったというか。しかも、トラックもレコーディングもミックスも彼に任せて、最後にちょっとだけ僕がドラム叩いてますけど、ほとんど任せてるので。
――この曲、JQプロデュースなんですよね。身を任せた感じですか。
そうですね。最近のJ-POPというか、日本の音楽の中で、一番洋楽っぽい音を作ってる人だなと思うので、あえてそっちに乗っかってみようと。そのセンスにゆだねてみようと。なかなか珍しいパターンかなと思います。
――いい曲ですよね。絶妙にオールドソウルなフィーリングと、今っぽいR&Bの質感とのマッチング。
曲は僕が最初に作ったんですけど、歌い上げるパターンにすると事故るから、みたいな。わかります? R&Bを日本人が下手にやると、頑張って歌うと、黒人のパワーには到底かなわない。そっちに持っていったら駄目だから、トラックはR&B仕様だけど、メロディとか歌い方は雰囲気で成り立つようなバランスを、彼は意識してくれたみたいで。それは僕もわかってる方だとは思うんですけど、彼がもうちょいうまい方向に持っていってくれて、最終的に僕が“もうちょっとこうかな”っていう感じで直して、“これいいですね”という感じになって。まあ、時間がない中でやりましたけど。
――kojikojiさんとりりあ。さんは、どういう経緯で起用したんですか。若い世代の、いわゆるSNSから音楽を発信してきたタイプのアーティストですよね。
kojikojiは、レーベルが一緒なんです。曲提供の依頼をいただいて、その流れで、じゃあこっちもフィーチャリングお願いしますと。りりあ。は、たまたま関係性として、近いところにいる子だったんですよ。最初にそこから声をかけてもらって、わりと話が早かったというか。
――いい声ですよね。
りりあ。も天使です。不思議な歌声なんですよ。出だしからビブラートがかかってて、なんでそんなのできるの?って。TikTokに上げる時に、エフェクトをかけてるのかなと思ってたら、『ミュージックステーション』で生歌唱した時にも、まんま、あの声だったんで、“この子はすごいわ”と。だから大橋トリオっぽい歌というか、リズム系のほうを歌ってみたら絶対いけるだろうなって思ったんですね。リズム感がいいはずの歌い方をしてるから。
――最初に話した、プロデュース心を動かされるパターンですね。
そうです。
――kojikojiちゃんも同じスタンスですか。
kojikojiは、彼女のスタイルに面白みを感じましたね。ふわふわしてるんだけども、ヒップホップをやってたりとか、そういうところ。まず曲提供の時に、普通のきれいなメロディの曲を歌わせてみたんですよ。そしたら本人も、意外とそういうのも好きみたいで、気に入ってくれて、じゃあ今度はバリエーションとして、リズムっぽい曲をやってみようかということで、ヒップホップというベーシックがあるのを知ってるから、“ちょっとラップやってみようか?”と。自分は全然わからないから、歌を録ったあとに持ち帰って、ラップパートを作ってみてって言ったら、録って送ってきてくれて、それがもう“わかってらっしゃる!”という感じだったので。そのあと、僕が彼女のタイミングに完全に合わせたラップを、初めてやりました。人生初。ふざけてやる以外、初めてです。
――あれ、かっこいいです。すごく。
大橋トリオの中では、ラップは相反するものというイメージがあったけれども、kojikojiの声だったらたぶん有りなんだろうと。そのセンスをわかってくれてるし、僕もわかるし、わかったことをちゃんと出してきてくれるんだろうなという確信があったからやってみて。そうしたら“こういうのだったらいいね”というものになりました。この曲に関しては、トラックは全部、神谷(洵平)に任せたんです。デモはちゃんとしたものを作って、信頼のおける神谷に投げたんですけど。まあ、いろんなところを行ったり来たりしてましたね。
――そうですか(笑)。
任せるって言ってるのに、確認で何回送ってくるんだよって(笑)。“そっちじゃなくて”という修正は何回もしましたけど。
――コラボって、設計図を綿密に書いたとしても、想像を超えてくることも多々あるでしょうし。どの曲も、1曲ごとにドラマがあるんだろうなと思いながら聴いてました。
ありますよ。それはもう。
――語弊があるかもしれないですけど、コラボ曲のアレンジは、ほかの曲よりも力が入ってるものが多い気もして。
それはやっぱり、そうですよ。相手の方への敬意というか、1曲1曲ちゃんと向き合わせてもらってるから、それはそうしてます。
――萌音ちゃんの曲を作ってる時に、すごい力が入ったという話も、前にしてもらいました。
ドラム録音だけで10日間かけましたからね。音にこだわりすぎて、というのもあるし、ドラム叩くのが楽しすぎて、というのもありましたけど。今回も、JQの曲の最後のほうと、りりあ。の曲と、Dedachiくんの曲は、僕が叩いてます。
――ちなみに、撮影で持ってもらったあのオブジェは、CDジャケットにも映ってますが。
各コラボ相手の方のイメージですね。一個は自分で。
――1+12=13。なるほど。
どれがどれかというのは、CDのジャケットの裏を見れば、曲の順番に並んでます。
――そして『off White』というタイトルが付いてます。
前作が『White』だったから。完全に冗談なんですけど、“オフホワイトはまずいです”という人が誰もいなかったので(笑)。ライブの時にも確認したんですけどね。国際フォーラムの時じゃなかったっけな。“『off White』にしたんですけど、どうですか?”ってMCで。そしたら反応がよくわかんなかったから、そのままGOしちゃいました。ただのシャレです。
――2023年は、1月の『ohashiTrio collaboration best -off White-』発売記念スペシャル上映会&トークショーから始まりますね。全国5ヵ所の映画館にて。
ドキュメンタリーの映像を撮ってくれていて、過去に2本あるんですよ。それぞれ映画館で上映会とトークショーというイベントをやっていたので、その第三弾の映像があるらしいです。僕は見てないですけど。
――そして6月、7月にはホールツアー。これはもう15周年という冠が取れて、次への一歩になりますか。
そうですね。でも僕自身、15周年にそんなに思い入れはなかったというか。でもまあ、こうやって盛り上げてくれることは良かったと思います。
――楽しい1年でした。最後におまけの質問で、たまたま今日、清水寺が「今年の漢字」を発表していたので聞いてみます。大橋さんの2022年の漢字は?
なんだろうな? 二文字だったら「十五」なんですけど、一文字だったら……パっと出てくるのは「走」しかない。走り抜けたという意味で、それしか出てこないです。あと「耐」とか。
――ああー。なるほど。
やっぱりね、まだコロナの影響は全然あるし。まあでも、例年にも増して、走った感がありますね。耐えながら。
――それは2023年も変わらないかも?
2023年はもうちょっと、地に足つけていきたいなという願望も含めつつの、「走」にしておきましょうかね。

取材・文=宮本英夫 撮影=森好弘

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