【編集Gのサブカル本棚】第22回 オ
タクの三傑~極私的サブカルインフル
エンサー~

 ネットの世界にはインフルエンサーと呼ばれる人たちがいて、なかには相当ニッチな趣味でもその分野ではよく知られた人がいるようだ。どんな人かはよく分からないけれど面白くて自分の知らない魅力的な世界を見せてくれる。そうしたサブカルインフルエンサーとも言うべき人たちはネット以前、雑誌や書籍の世界に書き手や編集者として多く存在していた。1990年代後半から2000年代のあいだ特に注目していたのが、岡田斗司夫、唐沢俊一、竹熊健太郎の3氏で、筆者にとって「オタクの三傑」とでも言うべきサブカルライターだった。

 岡田氏と唐沢氏は1958年生まれ、竹熊氏は60年生まれで3氏はほぼ同年代にあたる。それぞれの得意分野があり、同じオタク・サブカルチャーの書き手としてある時期まで交流もあった3氏は、高校生から20代頃までの筆者にとって強烈なインフルエンサーだった。岡田氏からはアニメや漫画に文脈というものがあること、唐沢氏からは古本の楽しみ方、竹熊氏からは自分史をふくめたサブカル趣味全般を教えられるなど影響をうけた。
おたくをオタクに変えた
 岡田氏はアニメ制作会社GAINAX(ガイナックス)の創設メンバー・元社長・プロデューサーで、劇場アニメ「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(※昨年10月28日に4Kリマスター版が劇場上映された)の企画成立に深く関わった人物のひとり。その経緯は自身の著書「遺書」や、島本和彦氏による実録風漫画「アオイホノオ」にくわしい。GAINAX退社後に執筆活動をはじめ、「オタク学入門」では、アニメや漫画をオタクがどのような視点で見ているのかをオタクでない人にも分かりやすく伝えた。96年の同書刊行前まで多かった「おたく」表記を「オタク」に変える流れにしたキーマンが岡田氏で、オタクに知的エリートの意味合いをもたせようとイメージアップを試みた。そのさいアニメ会社の元社長で東京大学教養学部非常勤講師という経歴は大いに作用したはずだ。
 唐沢氏と漫画家・眠田直氏による3人のユニット「オタクアミーゴス」でイベントを開催したり、NHKの「BSマンガ夜話」に出演したりするなど、「オタキング」としてオタク分野で幅広く活躍し、2007年には「レコーディング・ダイエット」というダイエット法で自ら痩せたノウハウを書いた新書「いつまでもデブと思うなよ」がベストセラーにもなった。
 岡田氏の著作のなかではマイナーなほうだが、「週刊SPA!」での連載「人生の取扱説明書」をもとにした「人生テスト」という自己啓発書も面白かった。「すべての人間は、王様・軍人・学者・職人の4つのタイプに分類できる」という考え方のもと、価値観で他人との相性や付き合い方を解説していくプロデューサーらしいユニークな発想の本だった。自己プロデュース力の高さと少々のことではへこたれないメンタルの強さで、SNS発でおこった15年のスキャンダル報道後も精力的に活動を続け、現在はYouTuberに転身してチャンネル登録者数約94.6万人(※23年1月6日時点)の人気を誇っている。
本はつくるまでが半分
 唐沢氏の仕事を短く紹介するのは難しいが、世間的にもっとも知られているのはタモリ氏が司会を務めたフジテレビのバラエティ番組「トリビアの泉~素晴らしきムダ知識~」のスーパーバイザーだろう。雑学を守備範囲に、古本、貸本ホラー漫画、猟奇文化、特撮などB級文化をテーマにした著作を精力的に執筆し、実弟の唐沢なをき氏、元妻のソルボンヌK子と共作した漫画では原作を務めている。オカルトや疑似科学の本を「トンデモ本」と呼んで批評的にツッコミながら楽しむグループ「と学会」の創設会員として積極的に寄稿もしていた(現在は退会)。サブカルチャー関連の人物の自宅本棚を写真とインタビューで紹介した著書「カルトな本棚」には竹熊氏も登場し、岡田氏とは共著の対談集「オタク論!」を2冊刊行している。
 筆者は初めて勤務した出版社が発行するアダルト雑誌で唐沢氏が連載していたコラムの編集を01年に4カ月だけ担当したことがある(入社して4号で雑誌が休刊)。きちんとお話できたのは最初の引継ぎのときだけだったが、「本はつくるまでが半分、そこから宣伝して売るまでが半分」と話されていたのをよく覚えている。岡田氏と同じように自己プロデュースに意識的で多作家だったが、07年に盗作問題が取り沙汰されてからは主な活動の場を演劇に移している。
自己プロデュースと正直さ
 竹熊氏は「編集家」という肩書きで漫画原作、執筆、編集などを手がけ、相原コージ氏との共作漫画「サルでも描けるまんが教室」、単独の著作ではインタビュー集「篦棒(べらぼう)な人々 戦後サブカルチャー偉人伝」、評論「私とハルマゲドン おたく宗教としてのオウム真理教」が代表作と言えるだろう。
 前回の本コラムで触れたとおり筆者は「サルまん」以来、竹熊氏のファンで、竹熊氏が企画した庵野秀明監督のインタビューをきっかけに「新世紀エヴァンゲリオン」を鑑賞し、アニメを意識的に観はじめるようになった。唐沢氏のコラムを担当していた出版社在籍の頃、ファンが高じて竹熊氏にある企画を相談したものの自分の力不足で形にできないまま退職したことをずっと申し訳なく思っている。
 竹熊氏は自分が好きで興味のあることを大事にして仕事をするタイプで、自身のキャリアを生かせば漫画の専門家としてやっていけそうなところを、同じことはやりたくないとあえてその方向には進まなかった。前述の「カルトの本棚」で竹熊氏は自身のことを自分史にこだわる「自分オタク」だと評していたが、その言葉どおり、自分が納得できる面白いことを追求し続けているようにみえる。
 筆者が30年以上竹熊氏のファンなのは、自身の興味の純粋な発露である著作が面白いことに加えて氏が“正直すぎる”ところにある。「サルまん」で続編漫画は失敗すると描いたのにあえて決行した禁断の続編「サルまん2.0」は失敗作だったと潔く認め、プロインタビュアーの吉田豪氏の取材では自らの離婚経験を赤裸々に語りながら、結婚していなければ都築響一氏(※「TOKYO STYLE」などで知られる写真家・編集者)のような生き方ができたかもしれないと振り返る。岡田氏や唐沢氏が好んでいたであろう自己プロデュースとは対極のスタンスだ。
 あることをきっかけに現在3氏の間では関係が途切れている部分もあるようだが、いつかお三方が一堂に会して1990~2000年代のサブカル事情を懐かしく振り返る機会があったらなと夢想することがある。(「大阪保険医雑誌」22年10月号掲載/一部改稿)

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