70年代〜のスカ/レゲエ界に
燦然と輝く
トロンボーン奏者
リコ・ロドリゲスの大傑作
『Man From Wareika』

優れた音楽性だけでなく、
神聖さをも感じさせる、
ラスタ精神が貫かれた傑作

鍵盤、リズム隊、そして祝祭の始まりを告げるようにリコを含むホーンセクションが次々と入っていくかたちでイントロが始まる。スカ/レゲエに特徴的な2拍目と4拍目を強い裏打ちのキメ、それを低音の効いた重厚なリズムで小気味良く決まる、実に多幸感に満ちた音楽だという印象を、初めて聴いた時は感じたものだ。同時期に出たレゲエの、例えばあのボブ・マーリーのアルバムに比べるとインスト曲が多いこともあるが、メッセージ性を感じるというよりはサウンド、アンサンブルで聴かせるのだが、とても穏やかで温かみのあるグルーヴに包まれる。

全編でリコのトロンボーンが聴ける。ふくよかというかおおらかな、それでいて官能的に響く音だ。管楽器でもトロンボーンはその特性上、サックスやトランペットほどに速いピッチでは吹けない。そのぶん、伸びやかなブロウで空間を描くような音響効果も生み出しているように思える。

高らかに“ラスタ、ファーライ!”と叫ぶゲストヴォーカルを加えた「Africa」やラップ風DJのヴォーカルで聴かせる今日で言うダンスホールスタイルのレゲエに既に取り組んでいる「free Ganja」、また『スターウォーズ』のテーマ曲をイントロに使った「Ska Wars」、ジャズ・トランペッター、リー・モーガンの代表曲、「Sidewinder」に挑んだレゲエ版「The Sidewinder」なども、そのアイデア、懐の深さに今更ながら感心する。ダブミックスのバージョンには、あのキンクスの「You Really Got Me」、ジャズのこれまたデイブ・ブルーベックの名曲「Take Five」にも挑んでいる。

バイオグラフィーの続き。リコはその腕前を買われて早くからジャマイカのジャズ/スカバンドに参加する。その頃、彼はラスタになる。ラスタ(Rastafarianism) とはボブ・マーリーに代表される、レゲエの象徴というか、1930年代にジャマイカの労働者階級、農民を中心に広がった宗教的思想に根ざしている。エチオピア帝国最後の皇帝、ハイレ・セラシエ1世を神とするアフリカ回帰運動という側面を持っている。リコは師匠のドン・ドラモンドやドラマーのカウント・オジーら同じラスタのミュージシャンらと、ワレイカ・ヒルにあるコミューンに集まり日ごとセッションを繰り返していたという。この時期の活動がリコのスカ/レゲエの飛び抜けたセンスを磨いたに違いない。

ところが、リコは仲間に渡英を告げる。1961年のことだ。皆、その無謀な計画に反対したが、リコの意思は固かった。どういう目論見があったのか分からない。ツテがあったのかどうか。ロンドンには早くからジャマイカ移民のコミュニティ(元は英国がジャマイカを統治していたことも影響)があり、渡英するジャマイカンは珍しくなかったが、まだレゲエは本国でも起こっていないし、英国においてもポピュラー音楽界にはようやくビートルズやストーンズがデビューするか、という時期だ。アメリカから伝わったブルースなどを影響源に英国版ジャグバンドとでも言うべきスキッフルが流行っていた時代だが、ジャズも人気があった。その時期に、彼が最新の音楽ともいうべき、スカを英国に持ち込んだことは後に、この地に大きな影響を及ぼすことになるが、話を続けよう。

リコがロンドンに移り住んで1年後の1962年にジャマイカは英国の植民地を脱し、独立する。それを祝う気運に乗り、スカは大きなうねりとなって人気を得る。特にキングストンの貧困層の若者(ルードボーイ)に熱狂的に支持され、ドン・ドラモンド率いるスカタライツはブレイク。海外にも出かけて公演するようになる。一方、リコはロンドンでスタジオ・ミュージシャンとして数多くの仕事をしている。1962年から1966年頃にかけて、ここでは紹介しきれないが、おびただしい数のセッションとその録音があり、Rico’s ComboやRico’s All Starsといった名義のものがリストにあるところを見ると、早くからバンド・リーダーとして活動もしていたのだろうか。1969年頃にリリースされたRico & The Rudies名義の2枚のアルバム『Blow Your Horn』『Brixton Cat』などはすでに重厚なスカ/レゲエを展開していて今聴いてもゾクッとさせられる。渡英してすぐに仕事にありついたこと、中にはジョージー・フェイムのような著名なモッズ系アーティストとの仕事も含まれているところを見ると、彼の実力はすぐに多くが知るところだったのだろう。ただ、暮らしていくのに充分な収益を得ていたとは言い難い。ペンキ屋や自動車整備工についていた時期もあったようだ。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着